いじめられっ子は転生先で上級大名として遊んで暮らしたい。

ご隠居

文字の大きさ
41 / 48

忠隣(ただちか)はみつおの度を越した低姿勢ぶりについて家康と秀忠に相談を持ちかけるも、家康はみつおの好きにさせてやることに。

しおりを挟む
 みつおの低姿勢ぶりに忠為(ただため)は元より、家中(かちゅう)の皆が困惑した。もっと尊大に振舞う…、いや、振舞ってくれるものだと信じて疑わなかったからだ。

 それが案に相違して、みつおが低姿勢ぶりをアピールしたので家中(かちゅう)は皆、困惑したわけだが、それでも家臣や女中たちはみつおの低姿勢ぶりに次第に…、それも早くもその日のうちに慣れると同時に、大いに歓迎した。

 それとは正反対に忠為(ただため)はみつおの低姿勢ぶりに、家康と秀忠までが侮(あなど)られるのではないかと、未だにその危惧(きぐ)を拭(ぬぐ)えず、頭領とも言うべき忠隣(ただちか)に相談した。

「まぁ、叔父上(おじうえ)の気持ちも分からぬではないが…」

 忠隣(ただちか)と忠為(ただため)は同い年…、57歳であったが、忠為(ただため)は忠隣(ただちか)の父、忠世(ただよ)の弟であるために、同い年とは言え、忠隣(ただちか)は忠為(ただため)のことを、「叔父上(おじうえ)」と呼んで立てていた。

 ともあれ忠隣(ただちか)はまずは叔父(おじ)・忠為(ただため)の懸念に理解を示しつつも、

「なれど、尊大に振舞いすぎて周囲の者に仇(あだ)なすようであれば懸念(けねん)するのも尤(もっと)もではあるものの、なれどみつお様、いや、秀頼(ひでより)君(ぎみ)はそれとは正反対にあくまで低姿勢に過ぎると申すものにて別段、仇(あだ)なすわけでもあるまいて…」

 みつおの低姿勢を擁護(ようご)した。

「いえ、畏(おそ)れ多くも大御所様や上様の権威に仇(あだ)なす恐れこれあり…」

「それは…、杞憂(きゆう)ではござるまいか?」

「いや…」

 忠為(ただため)は黙り込んだ。頭領たる忠隣(ただちか)がみつおの低姿勢に理解を示している以上、これに異を唱えるのは例え、己が頭領の叔父(おじ)だとしても、

「控えねば…」

 との自制心が働いたからだ。そんな忠為(ただため)の姿勢を見せつけられては忠隣(ただちか)も完全には杞憂(きゆう)だと…、みつおが周囲に対して低姿勢だからと言って、それで家康や秀忠の権威に傷がつくものかと懐疑的であったが、しかし、杞憂(きゆう)だと切り捨てることができなかった。いや、実際、忠隣(ただちか)は叔父(おじ)・忠為(ただため)の杞憂(きゆう)…、それも取り越し苦労に過ぎないとの思いであったが、それでも忠為(ただため)が己のことを頭領として立ててくれる以上、

「己の叔父(おじ)の顔を立ててやらねば…」

 忠隣(ただちか)はそう思うと、

「まぁ、一応、これより登城して大御所様と上様に事の次第を告げ、それとなく秀頼(ひでより)君(ぎみ)に訓戒(くんか)の一つでも与えてくれるよう、掛け合ってみましょうぞ…」

 忠為(ただため)にそう応えてみせ、忠為(ただため)は少しだけ安堵(あんど)した様子を見せた。

 実際、忠隣(ただちか)はそれから再び、江戸城に登城し、大御所・家康と将軍・秀忠に拝謁(はいえつ)し、事の次第を告げたのであった。

「左様か…、みつおがのう…」

 真っ先に反応したのは秀忠であった。とりわけ、みつおが大事な愛娘である千姫と夫婦関係を続けるつもりがないと知り、安堵(あんど)している様子であった。いや、みつおからは既にその言質(げんち)を得ていたものの、しかしこうして改めて忠隣(ただちか)を通じて、みつおの本心が聞かれたことで秀忠は漸(ようや)くに、みつおの言葉に嘘偽りはなかったのだと、思い知らされた。

 一方、家康はと言うと、特に面白くもなさそうな顔であった。いや、これは…、如何(いか)にも関心がないような顔をしている時の家康は実際には頭をフル回転させている時であった。つまりは擬態(ぎたい)であり、忠隣(ただちか)にはそれが手に取るように分かった。

「して、忠隣(ただちか)は如何(いか)に思うておるのだ?」

 家康が尋ねた。

「まぁ…、それがしと致しましては忠為(ただため)が杞憂(きゆう)に過ぎぬと思うておりまするが、なれどこうして忠為(ただため)より懸念(けねん)を耳に致しましたる上はこれを捨て置くわけにもゆかず…」

「うむ…、それで一応、我らに相談を持ちかけたというわけだな?」

 家康にそう問われた忠隣(ただちか)は、「御意(ぎょい)」と答えた。

「まぁ、みつおが好きにさせれば良いではないか…」

 秀忠はそう答えた。愛娘の千姫と夫婦関係を続ける意思がないと、改めてみつおの本心を知ると、秀忠にはもう、それだけで充分であり、そうである以上、みつおがどう振舞おうとも…、まして周囲に低姿勢で振舞いたいのであれば、みつおの勝手にさせてやれとの思いから、秀忠は些(いささ)か投げやりとも思える口調で答えたのであった。

「うむ…、秀忠が申す通りぞ…、みつおが好きにさせてやれば良かろう…」

 意外にも家康も秀忠の意見に賛同したので、忠隣(ただちか)としてはこれ以上、みつおの低姿勢ぶりについて異議申し立てをするわけにもゆかず、「ははっ」と平伏(へいふく)するとその場より退(さ)がった。

 忠隣(ただちか)が退(さ)がった後、家康は謀臣(ぼうしん)・正信を呼び寄せ、正信に対してみつおの低姿勢ぶりを語って聞かせた。

「みつおがそのように…」

 さしもの正信もみつおの低姿勢ぶりには驚いた様子であった。

「左様…、いや、みつおは案外、使えるやも知れぬな…」

 家康はそう呟(つぶや)いた。

「徳川家の安泰(あんたい)に資する、と?」

 正信は即座に家康の意図を汲み取り、そう尋ねた。それに対して家康は頷いてみせた。

「あの、それは一体…」

 唯一、秀忠には分からなかったらしく、家康と正信、双方に対して意図を尋ねた。

「分からぬか…、みつお、いや、秀頼がそこまで…、徳川家の直参(じきさん)、果てはその陪臣(ばいしん)、いや、女中などの下郎に至るまで低姿勢とあらば、他の諸大名にしてもいよいよもって我が徳川家に忠誠を誓わねばと…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえそこまで徳川家に服従している上は当家もそれ以上に徳川家に服従せねばと、そう思わせるに充分であろうが…」

 家康が嚙んで含めるように説明したことで、秀忠もそれで漸(ようや)くに意図を飲み込めた。

「なるほど…、いや、それでは…、みつおをこれからも秀頼として遇するおつもりで?」

 秀忠は恐る恐る尋ねた。それも無理もない。何しろそれは、

「みつおに、これからも愛娘の千姫と夫婦関係を続けさせるおつもりで?」

 そう尋ねていたからだ。家康もそうと察して、「その通りぞ」と答えた上で、

「そうである以上、千姫とは夫婦(めおと)を続けさせる」

 ご丁寧にもそう付け加え、秀忠を呆然(ぼうぜん)とさせた。

 家康はそんな愚息(ぐそく)・秀忠を尻目(しりめ)にさらに続けた。

「しかも、みつおめ、いや、秀頼は大名にはなりたくない、遊んで暮らしたいとも申しておったわ…、その通りにさせてやればこれまた好都合というものよ…、いや、無論、十万石程度の捨扶持(すてぶち)は与えてやるつもりだがのう…」

 家康が謎かけするようにそう言うと、正信も流石(さすが)の眼力でもってこれに応じた

「いかさま…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえ十万石の捨扶持(すてぶち)に甘んじられた…、となれば他の諸大名にしても減封(げんぽう)されても文句は言えまい、いや、御家を存続できるだけでもありがたいと思わねばと、そう思わせるに充分というわけでござりまするな?」

「その通りぞ…」

 家康は口元を緩(ゆる)め、正信もそれに応じる中、唯一(ゆいいつ)、秀忠は未だに茫然(ぼうぜん)自失(じしつ)の体(てい)であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...