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ニホン担当局、タテとジュンの聞き取り調査
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一兵の元に訪れた担当官はタテとジュンと名乗った。タテが聴取を、ジュンがメモをという役割分担であり、刑事を髣髴(ほうふつ)とさせた。
「私はタテ、でこれがジュン…」
タテはそう自己紹介すると、ジュンのこともそう紹介し、「ジュンです」とジュンもタテに倣(なら)って自己紹介した。どうやらタテの方が偉いらしい。聴取を行うのがタテであることからしてもそれは察せられた。教育係が聴取を担当し、生徒がそれをメモする…、これも刑事のそれも聞き込みのセオリーであった。
「私は一兵…、琢木一兵と申します…」
一兵は完全に身を起こすと、自己紹介した。
「それにしても日本語がお上手ですね…」
一兵はタテとジュンもやはり女…、世話を焼いてくれるらしいシオリと同様、言語変換の呪文をかけられたかとそう判断した。するとタテもそうと察したのか、
「最近、異世界に転生されてくるニホン人が特に増えましてね…、それでニホン担当局が設けられたんですよ…」
日本語が流暢(りゅうちょう)な理由を説明してくれた。それにしてもニホン担当局とは…。
「まるで外務省か、いや、法務省か…」
一兵はふとそんな感想を漏らした。するとやはりタテが答えてくれた。
「異世界への入国審査という点では法務省の入国管理局に近いものがあります」
タテの口から「入国管理局」という言葉が聞かれて一兵は心底、驚いた。
「良くご存知で…」
それは一兵の偽らざる感想であった。
「ニホン担当局に配属された以上、予備知識としてその程度は…」
成程(なるほど)、省庁についてもその組織についてある程度、勉強しているということか。それなら俺の身元についても理解が早いかも知れない…、一兵はそう思うと躊躇(ちゅうちょ)なく身分を明かした。
「私は警視庁本部の鑑識課指紋、現場指紋係の主任を拝命しております…」
一兵がそう身分を明かすと、二人はやっぱりといった顔付きとなった。
「やはり、というか当然、警視庁はご存知ですよね…」
「ニホンの首都、トウキョウを掌(つかさど)る警察本部ですね?」
タテが正解を口にした。
「正しく、そこの鑑識で指紋を担当しております。いや、していたと言うべきか…」
「シモン…、さきほどもゲンジョウシモンという単語がでてきましたが、具体的には…」
どうやら指紋については把握(はあく)していなかったようだ。そこで一兵は指紋について講義することにした。
即(すなわ)ち、指紋とは人間の十指に刻まれている紋様のことで、
「終生不変」
「万人不同」
であることを説明した。
「まぁ…、異世界の者にまで指紋があるかどうか…」
それは一兵にも分からなかった。
「それでそのシモンが捜査に役立つわけですか?」
タテが先回りして尋ねた。
「ええ。例えば事件の凶器と思われる者に指紋を残してしまったら、その指紋からホシ…、犯人に迫れます。で、現場指紋とはその事件現場に一番乗りして、指紋が付着…、犯人が触ったと思しきところを類推して、そこから指紋を採取するのが仕事です」
一兵はその仕事に誇りを持っており、胸を張って答えた。
「そうですか。それにしても仕事を持っておられるとは…」
タテはしみじみそう呟(つぶや)いた。
「仕事を持っているのが何か?」
一兵はわけが分からずに尋ねた。
「いえね、転生してくる者、それもニホン人の多くが無職、ニホンの世界ではニートと呼ばれる方々ばかりでしてねぇ…、しかも、ここ異世界に転生したのをこれ幸いと、兵士になったり、あるいはパン職人になったりと、急に本気を出されるものですから、おかげで現地住民が職にあぶれる事態となりましてねぇ…、こんなことなら現世で本気を出してもらいたいものですよ…」
タテは思わずそんな愚痴(ぐち)をコボした。
「それはそれはお気の毒に…」
一兵は他人事な調子でそう慰(なぐさ)めた。
「まぁ、ですがタクボクさんの場合は鑑識というお仕事ですから、異世界の住民が職にあぶれることもないでしょう」
「それはどういう…」
「ここ異世界では…、異世界に転生してきた者は何らかの職に就くことが条件です」
「労働が義務だと…」
「ええ。現世で無職の方はまぁ、好きな仕事を、で、仕事をされていた方はその仕事を…」
「私なら鑑識、指紋採取が仕事になると…」
「ええ。ですが今、お話をうかがった限り、シモンの捜査という仕事は異世界ではまだありませんので…」
成程(なるほど)…、それで異世界の現地住民の仕事を脅(おびや)かすことがないというわけか。
だが待てよ…、と一兵は思った。
「果たして異世界の者にまで指紋があるかどうか…」
それは一兵にも分からなかった。仮に異世界の人間に指紋が存在しなければ、指紋捜査は不可能である。
「我々にはシモンはないと?」
タテは尋ねた。
「いや、それは分かりません。試してみないことには…」
「試すとは?」
タテの問いに対して一兵は説明するよりも実演してみせることにした。
「私はタテ、でこれがジュン…」
タテはそう自己紹介すると、ジュンのこともそう紹介し、「ジュンです」とジュンもタテに倣(なら)って自己紹介した。どうやらタテの方が偉いらしい。聴取を行うのがタテであることからしてもそれは察せられた。教育係が聴取を担当し、生徒がそれをメモする…、これも刑事のそれも聞き込みのセオリーであった。
「私は一兵…、琢木一兵と申します…」
一兵は完全に身を起こすと、自己紹介した。
「それにしても日本語がお上手ですね…」
一兵はタテとジュンもやはり女…、世話を焼いてくれるらしいシオリと同様、言語変換の呪文をかけられたかとそう判断した。するとタテもそうと察したのか、
「最近、異世界に転生されてくるニホン人が特に増えましてね…、それでニホン担当局が設けられたんですよ…」
日本語が流暢(りゅうちょう)な理由を説明してくれた。それにしてもニホン担当局とは…。
「まるで外務省か、いや、法務省か…」
一兵はふとそんな感想を漏らした。するとやはりタテが答えてくれた。
「異世界への入国審査という点では法務省の入国管理局に近いものがあります」
タテの口から「入国管理局」という言葉が聞かれて一兵は心底、驚いた。
「良くご存知で…」
それは一兵の偽らざる感想であった。
「ニホン担当局に配属された以上、予備知識としてその程度は…」
成程(なるほど)、省庁についてもその組織についてある程度、勉強しているということか。それなら俺の身元についても理解が早いかも知れない…、一兵はそう思うと躊躇(ちゅうちょ)なく身分を明かした。
「私は警視庁本部の鑑識課指紋、現場指紋係の主任を拝命しております…」
一兵がそう身分を明かすと、二人はやっぱりといった顔付きとなった。
「やはり、というか当然、警視庁はご存知ですよね…」
「ニホンの首都、トウキョウを掌(つかさど)る警察本部ですね?」
タテが正解を口にした。
「正しく、そこの鑑識で指紋を担当しております。いや、していたと言うべきか…」
「シモン…、さきほどもゲンジョウシモンという単語がでてきましたが、具体的には…」
どうやら指紋については把握(はあく)していなかったようだ。そこで一兵は指紋について講義することにした。
即(すなわ)ち、指紋とは人間の十指に刻まれている紋様のことで、
「終生不変」
「万人不同」
であることを説明した。
「まぁ…、異世界の者にまで指紋があるかどうか…」
それは一兵にも分からなかった。
「それでそのシモンが捜査に役立つわけですか?」
タテが先回りして尋ねた。
「ええ。例えば事件の凶器と思われる者に指紋を残してしまったら、その指紋からホシ…、犯人に迫れます。で、現場指紋とはその事件現場に一番乗りして、指紋が付着…、犯人が触ったと思しきところを類推して、そこから指紋を採取するのが仕事です」
一兵はその仕事に誇りを持っており、胸を張って答えた。
「そうですか。それにしても仕事を持っておられるとは…」
タテはしみじみそう呟(つぶや)いた。
「仕事を持っているのが何か?」
一兵はわけが分からずに尋ねた。
「いえね、転生してくる者、それもニホン人の多くが無職、ニホンの世界ではニートと呼ばれる方々ばかりでしてねぇ…、しかも、ここ異世界に転生したのをこれ幸いと、兵士になったり、あるいはパン職人になったりと、急に本気を出されるものですから、おかげで現地住民が職にあぶれる事態となりましてねぇ…、こんなことなら現世で本気を出してもらいたいものですよ…」
タテは思わずそんな愚痴(ぐち)をコボした。
「それはそれはお気の毒に…」
一兵は他人事な調子でそう慰(なぐさ)めた。
「まぁ、ですがタクボクさんの場合は鑑識というお仕事ですから、異世界の住民が職にあぶれることもないでしょう」
「それはどういう…」
「ここ異世界では…、異世界に転生してきた者は何らかの職に就くことが条件です」
「労働が義務だと…」
「ええ。現世で無職の方はまぁ、好きな仕事を、で、仕事をされていた方はその仕事を…」
「私なら鑑識、指紋採取が仕事になると…」
「ええ。ですが今、お話をうかがった限り、シモンの捜査という仕事は異世界ではまだありませんので…」
成程(なるほど)…、それで異世界の現地住民の仕事を脅(おびや)かすことがないというわけか。
だが待てよ…、と一兵は思った。
「果たして異世界の者にまで指紋があるかどうか…」
それは一兵にも分からなかった。仮に異世界の人間に指紋が存在しなければ、指紋捜査は不可能である。
「我々にはシモンはないと?」
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「いや、それは分かりません。試してみないことには…」
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