現場指紋係主任は転生先の異世界でも指紋捜査官として活躍します

ご隠居

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転生した一兵のお世話係としてシオリがつく

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 異世界に迷い込んだのか…、一兵がそう大声を上げると、近付いて来た女は一兵にはわけの分からぬ…、少なくとも英語ではない、それこそ異界の言葉で何か呟(つぶや)くと、引き返してしまった。一兵は女の後姿を見送った。やはりドアも…、それどころかこの建物全体がログハウスであった。

 それから暫(しばら)く経ってから再び女が、これまた異世界らしく魔法使いのような男を連れて来ると、半身を起こしてそれを出迎えた一兵に対して何やら呪文を唱えた。そしてそれからその男は女に対しても同様に呪文を唱えた。

「あなたはニホンジンですね?」

 女の言葉が漸(ようや)く通じた。

「ええ、いかにも日本人ですが…」

 妙なことを尋ねるものだと、一兵はそう思った。すると女もそうと察したのか、

「様々な人種の方が…、それも特にニホンジンが転生して参りまして…」

 一兵の疑問に答えてくれた。

「それにしても私がよく、日本人だと分かりましたね…」

「ええ。今の呪文ですが、あなたの脳内の言語中枢分野に入り込み、その結果、あなたがニホン語を話す人種だと判明したためにニホンジンだと…」

 そんな能力がこの男にあったとは、一兵は魔法使いのような男をしげしげと見入った。男は能面であり、一兵は女の方に視線を戻した。

「ちなみにバイリンガルの場合は…」

 一兵はそう尋ねてからバイリンガルの意味が分かるか、疑問に思ったが、幸いにも女には通じた。

「その方にとっての母語で話しかけます」

「そんなことも可能なのか?」

「ええ。もっとも母語では嫌だと言うかたもおられますから、その場合にはその方の望む言語で話しかけます」

「あなたは…、どうやら異世界の人のようですが、日本語がお上手ですね…」

 一兵は正直にそう褒めた。すると女は微笑を浮かべ、

「今の言語変換の呪文で…、私にかけられたその呪文で日本語が話せるようになっただけですわ」

 そう答えた。

「それはどういう…」

 一兵がさらに尋ねると女は説明してくれた。つまりはこういうことであった。魔法使いの男が一兵の脳内の言語中枢分野に入り込み、そして一兵が日本人だと分かるや、女にも…、異世界の女の言語中枢分野にも入り込み、日本語への通訳能力を植え込んだらしい。

「そんなことができるなんて…、いや、やっぱり異世界だ…」

 一兵はしみじみそう呟(つぶや)いた。

「間もなく担当官が参ります」

 女の声が一兵の感慨を打ち破った。

「担当官?」

「ええ。ニホン人担当の担当官ですわ。聞き取り調査を行います」

「聞き取り調査…」

「ええ。どうしてあなたの身元やどうして異世界に転生したのか…」

「脳内に入れる能力があるのなら、私の身元ぐらい簡単に特定できるのでは?」

 一兵は真面目に尋ねたつもりだが、女にはジョークと聞こえたらしく微苦笑を浮かべた。

「いくらなんでもそれは無理ですわ」

「そうですか…、ああ、ところであなたは…」

「私はシオリと申します。これからあなたのお世話係を致します」

「お世話係?何のお世話を…」

「これからあなたが異世界で生きていくに当たってのお世話ですわ」

 シオリがそう答えると、一兵はさらにどんなお世話だと質問を重ねようとしたが、しかし、それは叶わなかった。シオリが口にした担当官なるやはり魔法使いらしき男たちが…、二人組が姿を見せたからであった。いや、担当官だと一兵に名乗ったわけではなかったが、それでも勘で分かった。
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