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兵舎内殺人事件 4
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少し時間を巻き戻すが…、一兵がアイダ兵士殺しの真犯人がサトシであると解き明かした時に時間を巻き戻すが、一兵は膝から崩れ落ちたサトシを尻目(しりめ)に、ジミー警務隊長に対しては「あとはよろしく…」と頼むと現場である兵舎をあとにした。
兵舎の外ではまだ野次馬が列をなしており、一兵はやはり現場である兵舎内まで辿(たど)り着いた時と同様、兵舎の外に辿(たど)り着くまで野次馬を掻(か)き分けたものである。
ともあれこうして兵舎の外に出た一兵はそこでお世話係のシオリと再会した。シオリの隣には新聞記者のアケミの姿がまだあり、アケミは新聞記者として当然、一兵に取材を試みた。
「事件はどんな展開です?被害者は?被疑者は?」
アケミは矢継(やつ)ぎ早(ばや)に尋ねた。が、一兵はそれに対してダンマリを決め込んだ。
「悪いが話せない。プレス…、警察からの発表を待ってくれ」
一兵もまた警察官としての職業柄、そう答えた。いや、ここは異世界、一兵が奉職していた警視庁、その警視庁が管轄する首都東京ではないのだから、アケミにだけそっと耳打ちしても問題ないかも知れなかった。
案の定、アケミの友人でもあるシオリが、
「ここは異世界なんだから…」
アケミにだけ耳打ちしたって問題ないでしょ…、一兵にそう示唆(しさ)したものである。
成程(なるほど)、確かにそうかも知れない。しかし一兵の体に染みついた警察官としての習性がそれを控(ひか)えさせた。
「悪い…、駄目(だめ)なんだ…」
一兵がそう答えると、「イッペイさん」と背後からジミー警務隊長の声がした。それで一兵はジミー警務隊長の方へと振り向いた。ジミー警務隊長の後ろにはタテとジュンの姿もあった。
「イッペイさん…、流石(さすが)ですね…」
ジミー警務隊長は唐突(とうとつ)にそう褒(ほ)めたので、一兵はてっきり指紋の技術のことを褒(ほ)められたのかと思ったが、しかし違った。
「捜査情報を軽々しく新聞記者に打ち明けないとは…」
ジミー警務隊長はどうやら今の一兵とアケミ、そしてシオリとのやりとりを目にしていたらしい。
「いえ…、職業病のようなものでして…」
「それでこそ警察官ですよ。いや、異世界でも警察官が一部の記者に捜査情報を軽々しくリークする輩(やから)が多いものでして…」
ジミー警務隊長はそう言うと、アケミを睨(にら)んだ。どうやらアケミもその一部の記者の一人なのかも知れなかった。尤(もっと)も、それは警察にとっては好ましくないという意味であり、新聞記者としては優秀の証(あかし)と言えた。
ともあれ警察官が一部の記者とつかがっているのは何も異世界に限らない。一兵がいた日本の警察も似たり寄ったり、いや、それ以上にひどいと言えるかも知れなかった。記者が現場の刑事を居酒屋でたらふく呑ませて捜査情報を聞き出すなど珍しい話ではなかったからだ。いや、腐るほどある。
「ところで…」
一兵は話題を変えるかのようにそう切り出すと、「捜査の行方は…」と目で尋ねた。それに対してジミー警務隊長もサトシが犯行を自供したこを目でもって答えたので、一兵も頷(うなず)いた。
「イッペイさん…、あなたはやはり警察官として相応(ふさわ)しい…」
タテは一兵が頷(うなず)くのを見て取ると、そう口を挟(はさ)んだ。
「それはどうも…」
「それもシモンの技術を活用した捜査官としてこの異世界で働いて欲しい…」
タテのその言葉は一兵としても元より望むところであった。
「ありがとうございます」
「ですがそのためにはまず、イッペイさんのそのシモンの技術が捜査に役立つことを裁判所に納得させる必要があります…」
ジミー警務隊長がそう告げた。異世界にも裁判所があったのかと、一兵は妙な感心をしたものである。
ともあれジミー警務隊長の言うことは尤(もっと)もであった。指紋の技術がまだない、つまりは指紋が捜査に役立つという概念がまだないこの異世界において、指紋を捜査に役立てるには裁判所を納得させる必要があった。
「裁判所を納得させなければ、この先、指紋が一致したからと言って、それで裁判所が逮捕令状なり捜索令状なりを発布してくれないから、ですね?」
一兵が確かめるように尋ねると、ジミー警務隊長も頷(うなず)いた。
「分かりました。つまり裁判所でもまた、指紋の実演をしてみせれば良いのですね?」
一兵がやはり確かめるように尋ねるとジミー警務隊長もまたしても頷(うなず)いた。
「それでは早速(さっそく)、裁判所に…」
一兵は善は急げとばかりそう言うと、ジミー警務隊長は苦笑しつつ頭を振った。
「いえいえ…、段取りがありますから、今すぐに、というわけにはいきませんよ…」
確かにジミー警務隊長の言う通りであった。
「それでは私は…」
そう尋ねる一兵に対してタテが冗談めかして答えた。
「引き続き、シオリとのデートを楽しんで下さい」
成程(なるほど)、デートか…、確かに野郎と美女の異世界の町の散策となればデートと言えなくもなかった。
「ええ、そうします」
一兵も冗談めかしてそう答えると、引き続き、シオリの案内で異世界の町を散策することになった。尚(なお)、アケミは引き続き、留まりジミー警務隊長から事件の詳細について聞き出そうと試みていた。
兵舎の外ではまだ野次馬が列をなしており、一兵はやはり現場である兵舎内まで辿(たど)り着いた時と同様、兵舎の外に辿(たど)り着くまで野次馬を掻(か)き分けたものである。
ともあれこうして兵舎の外に出た一兵はそこでお世話係のシオリと再会した。シオリの隣には新聞記者のアケミの姿がまだあり、アケミは新聞記者として当然、一兵に取材を試みた。
「事件はどんな展開です?被害者は?被疑者は?」
アケミは矢継(やつ)ぎ早(ばや)に尋ねた。が、一兵はそれに対してダンマリを決め込んだ。
「悪いが話せない。プレス…、警察からの発表を待ってくれ」
一兵もまた警察官としての職業柄、そう答えた。いや、ここは異世界、一兵が奉職していた警視庁、その警視庁が管轄する首都東京ではないのだから、アケミにだけそっと耳打ちしても問題ないかも知れなかった。
案の定、アケミの友人でもあるシオリが、
「ここは異世界なんだから…」
アケミにだけ耳打ちしたって問題ないでしょ…、一兵にそう示唆(しさ)したものである。
成程(なるほど)、確かにそうかも知れない。しかし一兵の体に染みついた警察官としての習性がそれを控(ひか)えさせた。
「悪い…、駄目(だめ)なんだ…」
一兵がそう答えると、「イッペイさん」と背後からジミー警務隊長の声がした。それで一兵はジミー警務隊長の方へと振り向いた。ジミー警務隊長の後ろにはタテとジュンの姿もあった。
「イッペイさん…、流石(さすが)ですね…」
ジミー警務隊長は唐突(とうとつ)にそう褒(ほ)めたので、一兵はてっきり指紋の技術のことを褒(ほ)められたのかと思ったが、しかし違った。
「捜査情報を軽々しく新聞記者に打ち明けないとは…」
ジミー警務隊長はどうやら今の一兵とアケミ、そしてシオリとのやりとりを目にしていたらしい。
「いえ…、職業病のようなものでして…」
「それでこそ警察官ですよ。いや、異世界でも警察官が一部の記者に捜査情報を軽々しくリークする輩(やから)が多いものでして…」
ジミー警務隊長はそう言うと、アケミを睨(にら)んだ。どうやらアケミもその一部の記者の一人なのかも知れなかった。尤(もっと)も、それは警察にとっては好ましくないという意味であり、新聞記者としては優秀の証(あかし)と言えた。
ともあれ警察官が一部の記者とつかがっているのは何も異世界に限らない。一兵がいた日本の警察も似たり寄ったり、いや、それ以上にひどいと言えるかも知れなかった。記者が現場の刑事を居酒屋でたらふく呑ませて捜査情報を聞き出すなど珍しい話ではなかったからだ。いや、腐るほどある。
「ところで…」
一兵は話題を変えるかのようにそう切り出すと、「捜査の行方は…」と目で尋ねた。それに対してジミー警務隊長もサトシが犯行を自供したこを目でもって答えたので、一兵も頷(うなず)いた。
「イッペイさん…、あなたはやはり警察官として相応(ふさわ)しい…」
タテは一兵が頷(うなず)くのを見て取ると、そう口を挟(はさ)んだ。
「それはどうも…」
「それもシモンの技術を活用した捜査官としてこの異世界で働いて欲しい…」
タテのその言葉は一兵としても元より望むところであった。
「ありがとうございます」
「ですがそのためにはまず、イッペイさんのそのシモンの技術が捜査に役立つことを裁判所に納得させる必要があります…」
ジミー警務隊長がそう告げた。異世界にも裁判所があったのかと、一兵は妙な感心をしたものである。
ともあれジミー警務隊長の言うことは尤(もっと)もであった。指紋の技術がまだない、つまりは指紋が捜査に役立つという概念がまだないこの異世界において、指紋を捜査に役立てるには裁判所を納得させる必要があった。
「裁判所を納得させなければ、この先、指紋が一致したからと言って、それで裁判所が逮捕令状なり捜索令状なりを発布してくれないから、ですね?」
一兵が確かめるように尋ねると、ジミー警務隊長も頷(うなず)いた。
「分かりました。つまり裁判所でもまた、指紋の実演をしてみせれば良いのですね?」
一兵がやはり確かめるように尋ねるとジミー警務隊長もまたしても頷(うなず)いた。
「それでは早速(さっそく)、裁判所に…」
一兵は善は急げとばかりそう言うと、ジミー警務隊長は苦笑しつつ頭を振った。
「いえいえ…、段取りがありますから、今すぐに、というわけにはいきませんよ…」
確かにジミー警務隊長の言う通りであった。
「それでは私は…」
そう尋ねる一兵に対してタテが冗談めかして答えた。
「引き続き、シオリとのデートを楽しんで下さい」
成程(なるほど)、デートか…、確かに野郎と美女の異世界の町の散策となればデートと言えなくもなかった。
「ええ、そうします」
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