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ガーニー官房長官、逮捕さる
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その日の夕方、アヴェガー内閣の司法大臣・カッツが指揮権発動を発表、これでカジノ贈収賄事件は潰れた…、かに見えた。
「確かに、これで私は…、最高検察庁長官たる私はその命令に…、司法大臣より発せられた指揮権発動に従わねばなりません…」
それが指揮権発動を受けて、ワセダ女史が一兵に放った言葉であった。
「それって…」
「ええ。指揮権発動はあくまで、最高検察庁長官に対してのみ有効…」
「それじゃあ…、個々の捜査員まで縛るものではない、と?」
一兵が期待を込めてそう尋ねると、ワセダ女史は頷いた。
「無論、管理責任は問われるでしょうけどね…」
ワセダ女史は苦笑しながらそう付け加えた。
確かにその通りであった。司法大臣が最高検察庁長官に対して指揮権発動…、捜査を止めろとの命令を下した以上、最高検察庁長官に対しては個々の捜査員…、個々の検事の動きをも縛ることが期待される。
だがその期待に…、司法大臣の期待に背く格好で個々の検事が勝手に動いた…、捜査を遂げたとなれば、なるほど管理責任は免れないであろう。
「でもそれじゃあ…」
辞職は免れないのではないか…、一兵がそう示唆すると、ワセダ女史もそうと気付いて頷いてみせた。
「いや、それでは…」
捜査を遂げたためにワセダ女史を辞めさせることにでもなれば、寝覚めが悪いというものである。
「気にしなくていいわ。どうせ私は今年、停年なのだから…」
ワセダ女史はそう言って一兵の背中を、いや、全捜査員の背中を押したのであった。
それから一兵たち捜査員の動きは早かった。
まずこれまでの捜査資料を疎明資料としてまとめ、これをもってガーニー官房長官への逮捕状請求のための資料とし、ワセダ女史自ら、裁判所へと乗り込んだのであった。
但し、乗り込んだ先はチヨダ地裁ではない。アヴェガー内閣のことである。公務員人事の元締めとも言うべきガーニーの手は恐らく、地裁にまで伸びているに違いなかった。裁判所の人事もまた、官房長官の職掌だからだ。
そこでワセダ女史が乗り込んだのは地裁ではなく簡裁、チヨダ簡易裁判所であった。簡易裁判所の裁判官は出世レースから完全に外れた者たちばかり、つまりは今さら出世など関係ないとばかり、現政権に忖度する裁判官は誰一人としておらず、その上、逮捕状発付も簡易裁判所の職掌であった。
案の定、ワセダ女史からの逮捕状請求に対して、令状係の裁判官は被疑者指名がガーニー官房長官だと知るや、さすがに驚いたものの、それでも疎明資料がバッチリ揃えられている以上、政権に忖度する必要なしとばかり、ガーニー官房長官に対する逮捕状…、斡旋収賄容疑での逮捕状が発付された。
ワセダ女史はガーニー官房長官への逮捕状が発付されるや、直ちにガーニー官房長官が住まうチヨダ議員宿舎へと向かった。
ガーニー官房長官が住まう議員宿舎は異世界警察省より派遣されている警官隊がガッチリ警備しており、ゆえにワセダ女史を乗せた馬車が到着するや、直ちに警戒姿勢を取った。
そんな中、ワセダ女史は馬車から降りると、警官隊へとゆっくりと歩み寄り、そして今しがた、簡易裁判所より発付されたばかりの逮捕状を警官隊にかかげてみせた。警官隊もこれには驚きを隠せない様子であった。それはそうだろう。何しろ警護対象者に対して逮捕状が発付されたのだから、これで驚かない者はいないだろう。
ともあれ、その逮捕状が決して偽物なのでないことは、警官隊にしてもすぐに分かり、そうである以上、ワセダ女史を通さないわけにはいかなかった。ここでワセダ女史を通さなければ、警官隊の方が公務執行妨害容疑となるからだ。
警官隊は警戒姿勢を解くと、ワセダ女史を議員宿舎の中へと通した。
ワセダ女史は議員宿舎の中へと入ると、その足でガーニー官房長官が入居する部屋へとまっすぐと向かった。するとその部屋の前でも警官が、それもSP(セキュリティポリス)が警戒していた。もっとも、すでに警官隊より無線連絡が入っていたようで、顔色を青褪めさせながらワセダ女史のためにドアを開けてくれた。
「失礼いたします…」
ワセダ女史はまずはそう挨拶の言葉を口にしてから靴を脱ぐと、部屋の中へと上がり、そのまま奥へと足を伸ばした。
すると既に覚悟を決めていたらしいガーニー官房長官の姿がそこにはあった。ガーニー官房長官の真後ろにもやはりSP(セキュリティポリス)が立哨していたものの、しかし、ワセダ女史を制する気配はなかった。
「ガーニー官房長官でございますね?」
ワセダ女史は立ったまま、ソファに身を沈めるガーニー官房長官に対してそう話しかけた。
「いかにも」
「先生に少々、お訊ねしたいことがありまして、最高検までご足労願えませんか?」
ワセダ女史は柔らかな口調でそう頼んだ。いや、かえって迫力があった。
それに対してガーニー官房長官はと言うとゆっくりと立ち上がるや、
「こんなことをして、ただで済むと思うなよ?」
向き合ったワセダ女史に対してそう凄んでみせたものの、しかし、悲しいほどに迫力はなかった。
「先生、もう指揮権発動なんて古臭いやり方は通用しませんよ」
ワセダ女史はそう告げると、ガーニー官房長官を促した。
「確かに、これで私は…、最高検察庁長官たる私はその命令に…、司法大臣より発せられた指揮権発動に従わねばなりません…」
それが指揮権発動を受けて、ワセダ女史が一兵に放った言葉であった。
「それって…」
「ええ。指揮権発動はあくまで、最高検察庁長官に対してのみ有効…」
「それじゃあ…、個々の捜査員まで縛るものではない、と?」
一兵が期待を込めてそう尋ねると、ワセダ女史は頷いた。
「無論、管理責任は問われるでしょうけどね…」
ワセダ女史は苦笑しながらそう付け加えた。
確かにその通りであった。司法大臣が最高検察庁長官に対して指揮権発動…、捜査を止めろとの命令を下した以上、最高検察庁長官に対しては個々の捜査員…、個々の検事の動きをも縛ることが期待される。
だがその期待に…、司法大臣の期待に背く格好で個々の検事が勝手に動いた…、捜査を遂げたとなれば、なるほど管理責任は免れないであろう。
「でもそれじゃあ…」
辞職は免れないのではないか…、一兵がそう示唆すると、ワセダ女史もそうと気付いて頷いてみせた。
「いや、それでは…」
捜査を遂げたためにワセダ女史を辞めさせることにでもなれば、寝覚めが悪いというものである。
「気にしなくていいわ。どうせ私は今年、停年なのだから…」
ワセダ女史はそう言って一兵の背中を、いや、全捜査員の背中を押したのであった。
それから一兵たち捜査員の動きは早かった。
まずこれまでの捜査資料を疎明資料としてまとめ、これをもってガーニー官房長官への逮捕状請求のための資料とし、ワセダ女史自ら、裁判所へと乗り込んだのであった。
但し、乗り込んだ先はチヨダ地裁ではない。アヴェガー内閣のことである。公務員人事の元締めとも言うべきガーニーの手は恐らく、地裁にまで伸びているに違いなかった。裁判所の人事もまた、官房長官の職掌だからだ。
そこでワセダ女史が乗り込んだのは地裁ではなく簡裁、チヨダ簡易裁判所であった。簡易裁判所の裁判官は出世レースから完全に外れた者たちばかり、つまりは今さら出世など関係ないとばかり、現政権に忖度する裁判官は誰一人としておらず、その上、逮捕状発付も簡易裁判所の職掌であった。
案の定、ワセダ女史からの逮捕状請求に対して、令状係の裁判官は被疑者指名がガーニー官房長官だと知るや、さすがに驚いたものの、それでも疎明資料がバッチリ揃えられている以上、政権に忖度する必要なしとばかり、ガーニー官房長官に対する逮捕状…、斡旋収賄容疑での逮捕状が発付された。
ワセダ女史はガーニー官房長官への逮捕状が発付されるや、直ちにガーニー官房長官が住まうチヨダ議員宿舎へと向かった。
ガーニー官房長官が住まう議員宿舎は異世界警察省より派遣されている警官隊がガッチリ警備しており、ゆえにワセダ女史を乗せた馬車が到着するや、直ちに警戒姿勢を取った。
そんな中、ワセダ女史は馬車から降りると、警官隊へとゆっくりと歩み寄り、そして今しがた、簡易裁判所より発付されたばかりの逮捕状を警官隊にかかげてみせた。警官隊もこれには驚きを隠せない様子であった。それはそうだろう。何しろ警護対象者に対して逮捕状が発付されたのだから、これで驚かない者はいないだろう。
ともあれ、その逮捕状が決して偽物なのでないことは、警官隊にしてもすぐに分かり、そうである以上、ワセダ女史を通さないわけにはいかなかった。ここでワセダ女史を通さなければ、警官隊の方が公務執行妨害容疑となるからだ。
警官隊は警戒姿勢を解くと、ワセダ女史を議員宿舎の中へと通した。
ワセダ女史は議員宿舎の中へと入ると、その足でガーニー官房長官が入居する部屋へとまっすぐと向かった。するとその部屋の前でも警官が、それもSP(セキュリティポリス)が警戒していた。もっとも、すでに警官隊より無線連絡が入っていたようで、顔色を青褪めさせながらワセダ女史のためにドアを開けてくれた。
「失礼いたします…」
ワセダ女史はまずはそう挨拶の言葉を口にしてから靴を脱ぐと、部屋の中へと上がり、そのまま奥へと足を伸ばした。
すると既に覚悟を決めていたらしいガーニー官房長官の姿がそこにはあった。ガーニー官房長官の真後ろにもやはりSP(セキュリティポリス)が立哨していたものの、しかし、ワセダ女史を制する気配はなかった。
「ガーニー官房長官でございますね?」
ワセダ女史は立ったまま、ソファに身を沈めるガーニー官房長官に対してそう話しかけた。
「いかにも」
「先生に少々、お訊ねしたいことがありまして、最高検までご足労願えませんか?」
ワセダ女史は柔らかな口調でそう頼んだ。いや、かえって迫力があった。
それに対してガーニー官房長官はと言うとゆっくりと立ち上がるや、
「こんなことをして、ただで済むと思うなよ?」
向き合ったワセダ女史に対してそう凄んでみせたものの、しかし、悲しいほどに迫力はなかった。
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