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奥右筆組頭の佐藤又八郎豊昌と吉松次左衛門正弘の二人は北町奉行の初鹿野信興を清水家老へと棚上げしようとする側用人の本多忠籌を援護射撃する。
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「弾正大弼…、やけに桑原伊豫や根岸肥前を庇うかのよう見受けられるが…、翻って初鹿野河内に対しては突き放すかのような姿勢が見受けられ、されば何故に初鹿野河内に対する姿勢と桑原伊豫及び根岸肥前に対する姿勢とがそれ程までに違うのだ…」
高久はまずはそう軽い「ジャブ」を繰り出した上で、
「されば初鹿野河内を清水家老へと棚上げせし方がそこもとにとっては都合が良いからか?桑原伊豫や、或いは根岸肥前を棚上げせしよりも…」
そう「爆弾」を投下したのであった。
すると忠籌は今の高久の言葉が余程に「急所」を突いていたのか、つまりは「図星」であったらしく、顔を歪めさせた。
するとそこで「書記係」とも言うべき奥右筆組頭の佐藤又八郎豊昌と吉松次左衛門正弘の二人が筆を止めるや同時に文机から顔を上げ、
「あっいやっ、暫く」
これまた同時に声を上げた。
それに対して老中首座の松平定信が、「控えぃっ」と一喝した。
何にしろ定信は常日頃、奥右筆のことを、
「単なる物書き…」
そう称して憚らず、それゆえそのような「物書き」もとい奥右筆に過ぎない佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人が政務に、それも人事案件に口出しするなど、定信にとっては到底、我慢のならぬところであり、一喝したのであった。例え、佐藤又八郎と吉松次左衛門が奥右筆の筆頭たる組頭であったとしてもだ。
だが、忠籌にしてみれば当然と言うべきか、
「援軍…」
その瞳にはそう映り、
「いや、奥右筆組頭の意見も聴くべきであろう」
忠籌は定信にそう反論するや、将軍・家斉の方へと体を向けるや、
「それで宜しゅうござりまするな?」
目でそう問いかけ、それに対して家斉も忠籌のその「アイコンタクト」に頷いてみせることで諒承を与えたので、忠籌は己の意見を聞き入れてくれた家斉に感謝の意味を込めて平伏した後、頭を上げるや今度は文机に向かう佐藤又八郎と吉松次左衛門の方へと体を向けて、二人に発言を促した。
それに対して佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人は忠籌に対して同時に会釈した後、まずは組頭としての「年次」が上である佐藤又八郎が口火を切った。
「されば申し上げまする…、公事方勘定奉行の根岸肥前は今は丁度、棄捐令の法案の策定を担い、しかも大詰の段階にて…」
佐藤又八郎がそう告げるや、これにはさしもの定信も渋面となった。何しろ棄捐令は、
「定信肝煎りの…」
法案、それも目玉政策であったからだ。
その目玉政策とも言うべき棄捐令の策定に根岸鎮衛も関わっており、確かにその鎮衛を動かすわけにはゆかなかった。
財政を担う勝手掛の若年寄である京極高久もそれは承知しており、「それなれば…」と大目付の桑原盛員を清水家老へと「棚上げ」してはと、そう口を挟もうとした。何しろ桑原盛員は棄捐令の策定には関わっていなかったからだ。
するともう一人の奥右筆組頭の吉松次左衛門がそうと察して、
「されば桑原伊豫は道中奉行を兼務せし大目付なれば、その桑原伊豫を清水家老へと棚上げ致しましては、畏れ多くも上様の御威光にも…」
根岸鎮衛に替えて桑原盛員を清水家老へと棚上げしようとする高久を封ずるかのようにそう告げ、すると今度は高久が渋面となった。
桑原盛員は今、吉松次左衛門が指摘した通り、大目付として道中奉行をも兼務しており、この道中奉行を兼務していた。
この道中奉行とは街道の維持や管理、訴訟を担い、公事方勘定奉行と共に勤めるのが常であり、実際、現在は桑原盛員と根岸鎮衛が各々、道中奉行を兼務していた。
そして大目付の場合、この道中奉行を兼務している者こそ大目付の筆頭であり、即ち、桑原盛員が大目付の筆頭というわけだ。
その桑原盛員を、
「事もあろうに…」
大目付のそれも道中奉行を兼務する筆頭という顕職から清水家老へと「棚上げ」しては、桑原盛員を大目付の筆頭に取立てた将軍・家斉の権威にも瑕がつきかねず、吉松次左衛門はその点を捉えて、
「畏れ多くも上様の御威光にも…」
そう匂わせたのであり、それに対して高久もそうと察して、流石に将軍・家斉の権威に瑕をつけるのはまずいと、それゆえ渋面となったのだ。
一方、高久とは正反対に忠籌は内心、大いに頷いた。いや、実際に頷いてみせた。
佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人は忠籌を正に「援護射撃」したわけだから、忠籌が頷くのも当然であった。
いや、当然と言えば、佐藤又八郎と吉松次左衛門が忠籌を「援護射撃」したことこそ、
「当然」
と言うべきであろう。
何しろ忠籌は常日頃、奥右筆組頭である佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人を手懐けていたからだ。
高久はまずはそう軽い「ジャブ」を繰り出した上で、
「されば初鹿野河内を清水家老へと棚上げせし方がそこもとにとっては都合が良いからか?桑原伊豫や、或いは根岸肥前を棚上げせしよりも…」
そう「爆弾」を投下したのであった。
すると忠籌は今の高久の言葉が余程に「急所」を突いていたのか、つまりは「図星」であったらしく、顔を歪めさせた。
するとそこで「書記係」とも言うべき奥右筆組頭の佐藤又八郎豊昌と吉松次左衛門正弘の二人が筆を止めるや同時に文机から顔を上げ、
「あっいやっ、暫く」
これまた同時に声を上げた。
それに対して老中首座の松平定信が、「控えぃっ」と一喝した。
何にしろ定信は常日頃、奥右筆のことを、
「単なる物書き…」
そう称して憚らず、それゆえそのような「物書き」もとい奥右筆に過ぎない佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人が政務に、それも人事案件に口出しするなど、定信にとっては到底、我慢のならぬところであり、一喝したのであった。例え、佐藤又八郎と吉松次左衛門が奥右筆の筆頭たる組頭であったとしてもだ。
だが、忠籌にしてみれば当然と言うべきか、
「援軍…」
その瞳にはそう映り、
「いや、奥右筆組頭の意見も聴くべきであろう」
忠籌は定信にそう反論するや、将軍・家斉の方へと体を向けるや、
「それで宜しゅうござりまするな?」
目でそう問いかけ、それに対して家斉も忠籌のその「アイコンタクト」に頷いてみせることで諒承を与えたので、忠籌は己の意見を聞き入れてくれた家斉に感謝の意味を込めて平伏した後、頭を上げるや今度は文机に向かう佐藤又八郎と吉松次左衛門の方へと体を向けて、二人に発言を促した。
それに対して佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人は忠籌に対して同時に会釈した後、まずは組頭としての「年次」が上である佐藤又八郎が口火を切った。
「されば申し上げまする…、公事方勘定奉行の根岸肥前は今は丁度、棄捐令の法案の策定を担い、しかも大詰の段階にて…」
佐藤又八郎がそう告げるや、これにはさしもの定信も渋面となった。何しろ棄捐令は、
「定信肝煎りの…」
法案、それも目玉政策であったからだ。
その目玉政策とも言うべき棄捐令の策定に根岸鎮衛も関わっており、確かにその鎮衛を動かすわけにはゆかなかった。
財政を担う勝手掛の若年寄である京極高久もそれは承知しており、「それなれば…」と大目付の桑原盛員を清水家老へと「棚上げ」してはと、そう口を挟もうとした。何しろ桑原盛員は棄捐令の策定には関わっていなかったからだ。
するともう一人の奥右筆組頭の吉松次左衛門がそうと察して、
「されば桑原伊豫は道中奉行を兼務せし大目付なれば、その桑原伊豫を清水家老へと棚上げ致しましては、畏れ多くも上様の御威光にも…」
根岸鎮衛に替えて桑原盛員を清水家老へと棚上げしようとする高久を封ずるかのようにそう告げ、すると今度は高久が渋面となった。
桑原盛員は今、吉松次左衛門が指摘した通り、大目付として道中奉行をも兼務しており、この道中奉行を兼務していた。
この道中奉行とは街道の維持や管理、訴訟を担い、公事方勘定奉行と共に勤めるのが常であり、実際、現在は桑原盛員と根岸鎮衛が各々、道中奉行を兼務していた。
そして大目付の場合、この道中奉行を兼務している者こそ大目付の筆頭であり、即ち、桑原盛員が大目付の筆頭というわけだ。
その桑原盛員を、
「事もあろうに…」
大目付のそれも道中奉行を兼務する筆頭という顕職から清水家老へと「棚上げ」しては、桑原盛員を大目付の筆頭に取立てた将軍・家斉の権威にも瑕がつきかねず、吉松次左衛門はその点を捉えて、
「畏れ多くも上様の御威光にも…」
そう匂わせたのであり、それに対して高久もそうと察して、流石に将軍・家斉の権威に瑕をつけるのはまずいと、それゆえ渋面となったのだ。
一方、高久とは正反対に忠籌は内心、大いに頷いた。いや、実際に頷いてみせた。
佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人は忠籌を正に「援護射撃」したわけだから、忠籌が頷くのも当然であった。
いや、当然と言えば、佐藤又八郎と吉松次左衛門が忠籌を「援護射撃」したことこそ、
「当然」
と言うべきであろう。
何しろ忠籌は常日頃、奥右筆組頭である佐藤又八郎と吉松次左衛門の二人を手懐けていたからだ。
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