3 / 43
入試のあの子
③
しおりを挟むそれからの日々は飛ぶように過ぎていった。
これまでの勉強漬けの日々の反動からしばらくダラダラとして過ごし、そうしている間に卒業式も終わっていた。
そしていつの間にやら、運命の分かれ道。合格発表の日がやってきたのである。
大学のホームページを立ち上げ、特設された合格発表のサイトを開く。松雲はと言えば、ドキドキするので康介が先に見てください、とか何とか言って違う部屋で待機している。確かに、一人で見る方が自分のタイミングで見られるから良いのだけれど。
康介は震えそうになる指を何とか動かして、合格者の受験番号が書かれたPDFファイルを開いた。ずらりと並んだ数字を辿り、自分の番号を探し出す。
心臓がばくばくと音を立てる。喉がカラカラに乾いている。見たいような、見たくないような。期待と恐怖とが入り混じった複雑な気持ちで指を動かしてゆく。
やがて受験番号と上二桁が一致する行に辿り着いた。ごくりと唾を飲み込み、恐るおそる画面をスクロールして。
見つけた、自分の番号。
信じられない気持ちで手元の受験票を確認するも、そこに示された番号は紛れもなく画面にある。
何度もなんども確認して、ようやくじわじわと実感が湧いてくる。
受かった。本当に、受かったのだ。
康介は思わずはぁっと大きく息を吐いた。身体中から力が抜けていく。
「こ、康介? どうでしたか?」
待ちきれなくなって隣の部屋から出てきた松雲が、襖の隙間から顔を覗かせている。普段は飄々としているくせに、珍しく眉毛を下げて不安そうな表情を浮かべている。おかしい気持ちになりながら、康介はぐっと親指を立てて見せた。
すると松雲は、さっきの康介と同じようにふにゃりと力の抜けた笑顔になった。よかった、よかったと呟きながら、着物の袂を振り回してぴょこぴょこと飛び跳ねる。
「良かった、本当に良かった。よく頑張りましたね、康介」
何度もなんども繰り返しそう告げながら、松雲は康介の肩を叩いた。
「さ、明日からはまた忙しくなりますからね」
「え、なんで」
「決まっているでしょう、引っ越しの準備ですよ。新居を決めて家具を揃えて、あっ、入学の手続きなんかもしなくちゃいけませんね」
指折り数えていた松雲は、でも、と言ってくるりと振り返った。
「今日のところはまずお祝いをしましょう!いっぱいご馳走を用意しなくちゃね」
「うん、ありがと」
足取り軽く松雲が部屋から出て行くと、康介はもう一度スマホの画面に視線を落とした。あの綺麗な黒髪の彼の番号を確かめるためである。
彼は康介の前の席に座っていたのだから、受験番号も康介の一つ前だろう。
康介は祈るような気持ちで、自分の番号の一つ上の番号を確認した。
果たしてそこに、彼の番号はあった。
よかった。よかった。
ぐっと息が詰まる。喜びが熱となって身体中を駆けめぐる。ついさっき、自分の受験番号を確かめたときと同じくらい嬉しい。思わず顔がにやけてしまう。
これで、また会える。
二人が合格した大学は国立なので、よほどのことがない限り彼もこの大学に進学してくるはずだ。
また会える。今度はちゃんと言葉を交わしたい。仲良くなりたい。もっとたくさん、彼を知りたい。
こんな熱烈な気持ちははじめてだった。
松雲からも友人からも、淡々としていると評されることが多い康介は、自分のなかに生まれた鮮烈な感情が新鮮だった。なんとなく面映ゆい気持ちになり、ひとり苦笑する。
四月の入学式が楽しみで楽しみで仕方ない。
まあその前に、松雲の言う通り下宿するアパートを探したり手続きをしたりと、やらなければならない煩雑なことは山積みなのだけれど。それでも、四月を迎えるため、新しい生活を迎えるためだと思えば全然苦じゃないどころか、むしろ楽しいことのように思えてくる。
康介はキラキラとした目を窓の方へと向けた。外では春を迎えたばかりの澄んだ青空が輝いている。
0
あなたにおすすめの小説
恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで
中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。
かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。
監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。
だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。
「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」
「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」
生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし…
しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…?
冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。
そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。
──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。
堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
竹本義兄弟の両片思い
佐倉海斗
BL
高校一年の春、母親が再婚をした。義父には2歳上の引きこもりがちな連れ子の義兄がいた。初対面ではつれない態度だった義兄だった。最初は苦手意識があったのに、先輩に目を付けられて暴行されている時に助けられてから、苦手意識が変わっていった。それにより、少しずつ、関係が変わっていく。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる