DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第二十六話

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その夜──

おっさんは、うなされていた。

【………ろ…………きろ…………起きろ!】

「ゔ……?」

驚いて身体を起こすと、少々飲みすぎたせいか、頭がズキズキと痛む。
横を見れば──リリは静かに眠っている。

照明は消され、カーテンも閉められた室内。
ふつうならば手元すら見えないほどの暗闇だ。

だが、不思議なことに──おっさんの目の前には、ぼんやりと明るい草原が広がっていた。

【汝に問わねばならぬ──此方へ来い──】

返事をする間もなく、光が視界いっぱいに広がる。
一瞬、身体が浮き上がったような感覚と同時に、耳の奥がキンと鳴った。

次に気づいた時、おっさんは……
跳び回る無数の妖精たちに囲まれていた。

【何故に──妾の妖力を纏っておる?】

────??

起き抜けのおっさんは、これが夢なのか現実なのかも判らない。
そのとき──腰袋がゴソゴソと動き出し、中にしまっていた試作のリングが、ふわりと宙に浮かび上がった。

夢ではなさそうだ。
痛む頭をさすりながら辺りを見回すと、視界の果てまで続く草原が広がっている。

言っては悪いが──
妖精なんてものは、一匹だけ巡り会えば幻想的で美しく思えるかもしれない。
だが、こうも群れると話は別だ。

……まるで養蜂場。
気色が悪くなるほどの羽根の生えた人形キン肉マン消しゴムみたいな少女たちが、トグロを巻くように、おっさんを取り囲んでいた。

【これか……汝───これを、どこで見つけた?】

フヨフヨと宙に浮かぶリングを、愛おしむように両手で包み込みながら、
一際大きな妖精女王が、おっさんを鋭く睨みつけた。

「何をそんなに怒ってんだか……よう分かんねぇんだけんどもな」

ため息交じりに頭をかきながら、おっさんは語り始める。
亡霊王子との戦い、海賊船の底で見つけた南京錠──
そして、パステルそっくりの人形のことを。

『パス……テリアーナ……我が娘……
歪んだ……愛……
──そうか……汝を疑った……謝ろう』

女王は、宙に浮かべた小さな指輪を見つめたまま、低く呟く。
その瞳には、リングを通して視た“過去”の全てが映っていた。

それによれば──
生まれた瞬間から国家間の取り決めでパステルの婚約者となった、隣国の第一王子。
将来は王位を継ぐはずだった男が……

愛しすぎ、執着しすぎたがゆえの愚行だった。
王子はパステルの髪の毛、汗、涙──さらには……人には決して見せぬものまでをも、長年かけてこっそりと採集していた。
そして、自国の呪術師まがいの術者を雇い、溶かした金属にそれらを練り込み、
ついには王女の魂を模した“複製”を創り上げたのだという。

「……っ」
聞いただけで、背筋に冷たいものが走るおっさん。

だが蛮行はそこで終わらなかった。
女王の言によれば、その特殊な金属──妖精金属フェイヴァリウム──
それはまるで、妖精女王自身の血を練り込んだ、禁忌の鉄であった。

王子はそのフェイヴァリウムを用いて、
パステリアーナダッチワイフを造り上げてしまったのだ。

『穢らわしい──が、それもまた人の業。
それよりも……これ程までに強い妾の匂いがするとは……
──あの娘だったのか?』

なんだかブツブツ言いながら、おっさんの視界からは、草原も妖精も、まるで黒い水に沈むように闇へと溶け、
気づけば、真夜中の自室が戻ってきていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

変な時間に起こされたおっさんは、もう一度寝る気にもなれず……
ボリボリと頭をかきながら布団を出た。

リビングに行き、コーヒーを淹れて一服。
外を見ても、まだ夜明けの気配はない。

「──指輪、け……」

なんとなくスケッチブックを取り出し、
尖らせた鉛筆で、カリカリと絵を描き始める。

トゥエラは──やけにみーちゃんと仲が良いな。
猫……ネコか。
思いつきで猫をモチーフにしたデザインを描いてみる。

そうしていると、どこからともなく本物のみーちゃんがやって来て、
机の端に座り、尻尾で鉛筆の先をちょいちょいとつつく。
さらに紙の端をかじり始めたので、
「おめぇはモデルじゃなくて破壊神だな……」とため息。

装飾品には興味がないおっさんだが、
ただ「形を考える」という作業は建築にも通じるものがあり、
描くほどにだんだん楽しくなってくる。

パステルは王女様だし……豪華で派手なほうがいいか?
テティスは──肌が濃いから、色のない石のほうが映えるかもしれねぇな。
リリは────

そんな中、ふと「普段はシンプルな指輪が、魔力を込めると豪華に変わる」
という案を思いつき、別のページに走り書きする。
普段使いと特別な日の両方に対応できる、そんな形だ。

そうやって、やったこともない指輪のデザインを描いては、
「……こりゃねぇな」とバツ印をつけて消していく。

彼女らの顔を思い浮かべながら、いくつものラフ画を描き上げていくうち──
窓から朝日が差し込み始めていた。



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

皆で朝メシを食ったあと、予定を聞いてみると──
チーム『トゥティパ』にリリを加えて、今日は冒険に出かけるらしい。

まぁ、リリの運転があれば移動も楽だし、危険も少ないだろう。そう思って、

「晩メシまでには戻ってこーよ」

と、朝からテンション高めの一行を見送った。

おっさんはトラックに乗り込み、ブーカの元へ向かう。
今朝描いたスケッチを見せて、
場合によっちゃ自分も製作に関わるつもりだ。

車を停め、騎士団の訓練所に上がれば──
今日も激しい模擬戦が繰り広げられていた。

しばらく眺めていると、昨日のセーブルたちの姿が脳裏に浮かぶ。
おっさん自身、剣なんぞ竹刀以外は振ったことがないが……
もしこの集団の中にあいつらが混ざったら──

……まぁ、騎士たちは全滅だべな。

苦笑いを浮かべつつ、ブーカの作業台へと歩み寄った。

「グハハハハハ! こりゃあすげぇ!!
アンタがこの絵ぇ描いたのか!?」

おっさんはイラストと、昨日計った皆の指のサイズを見せて相談を切り出す。

「あの、サイズが勝手に変わる魔法あっぺよ?
あれ使って、変形する指輪っちゃー作れねぇべか?」

冒険に出ることもある娘たちのため──
普段はカマボコ型のシンプルなリング、
お洒落の時は手を飾る豪華な指輪。
その二つを自在に切り替えられないものか、と考えたのだ。

いつもテティスの魔法を見ていると、
「できねぇことなんざ無ぇだろ」と思えてしまうおっさんは、
正直にブーカへ打ち明けた。

「そんなもん、さほど難しいことじゃねぇ!!
アンタやチビの嬢ちゃんみてぇに魔力が全くねぇ人間も、たまにいるだろ!!
そういうヤツの義体を作るときはな──『合図』を決めておくんだ!!」

──米軍の戦闘機が真上を通過したような声量。
もはや騒音ではなく衝撃波だ。
おっさんは思わずよろめくが、なんとか踏ん張って態勢を保った。
……耳栓をつけてきて本当に良かった、と心底思う。

「そんなことより、この意匠デザインだ!!
俺ぁ、自分でも手先は器用だと思っちゃいるが……
こんな複雑で精密な絵は見たことがねぇ!!

いつだったか、立派な貴族の家に義手を造りに行ったがな──
そこの奥様の指輪だって、ゴツい宝石をドンと埋め込んであるだけだったぜ!!」

そもそも──
おっさんの手首くらいの太さがある、あんな指で……
たった1センチほどの金属の輪を作れること自体がおかしいのだが。

おっさんは腰袋に手を突っ込み、ニヤリと笑って──ドサリ、と箱を出す。
階段状に開いたその道具箱には、超精密ルーターや様々な刃先が整然と収まっていた。

相手が木なら、おっさんはノミや彫刻刀ひとつで、
仏像でも観音様でも彫ってみせる。
だが、今回の相手は──妖精金属フェイヴァリウムという謎の超合金だ。
使う道具も厳選せねばならない。

今回持ち出したこの道具は、かつておっさんが請け負った仕事、
日本の名城の屋根に鎮座する──鯱鉾しゃちほこのレプリカを造ったときに使用したものだった。

「ブーカよい、とりあえず指輪の荒型を作ってみてくれっけ?」

そうお願いすると、

「グガハハハハハ!!アンタも大した職人の眼をしてやがる!!
待ってろ!!変形紋様を中に練り込んで、大体の形にまでは整えてやる!!」

こうして──傍に焼酎を置き、巨人とおっさんのコラボレーションによるアクセサリー造りが始まったのだった。
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