DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
240 / 279
第九章

第二十九話

しおりを挟む
「みなさーん、丸太が届きましたよ~」

まるで「パンが焼けましたよ」くらいの軽さで、変身組の三人を呼ぶリリ。
断崖の手前で空っぽにしか見えない大袋を広げると──
中には、隙間なくビッシリと詰まった太い丸太が現れた。

「トゥーもパーちんもリー姐も~
お疲れちゃーん☆彡 こっからはあーしの独壇場みたいな?冷蔵庫にナタピDEココオカ餡蜜あんみつ入れといたし?ソレ食ってチルってろ的な?」

甘さだけは保証された謎のギャルスイーツをこしらえたテティスは、
何十トンあるのかも分からない大袋をフヨフヨと浮かせて、崖の先の空中へと歩み出す。

手を頭上にかざすと、丸太が一本ずつ引き出され──
トゥエラの彫った空間溝にパコリと嵌まる。

「これが魔抜け魔力0のチビの仕事とかさ~
……ダークエルフとドワーフがズッ友友好的になれるワケねーっつーのも、納得だよね~」

ぶつぶつ文句を言いながらも、テティスの頭上には夥しい数の丸太が空を埋め尽くす。
指先3本でペン回しのように丸太をクルクルと操り、
太さや形を見極めては、根元と先端を交互に──ポスン、ポスン──と溝に落とし込んでいく。

この時点では丸太同士の間に隙間が空き、アスレチックのような橋に過ぎない。
だが、それで十分。
あとは王国の事業として、丸太の上に石畳を敷くなり何なりすれば、立派な街道になる。

もともと強靱な縄で吊り橋をかけるくらいしか方法がなかったこの渓谷工事。
今や、おっさんが重機でガタポコ走ってもびくともしない強度を誇る。

──こうして、トゥエラ曰く「明日に駆ける希望の道」が、対岸までつながったのだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

その頃、おっさんは──
先ほどチェーンソーで切り出した丸太からこぼれた木屑を集め、ドラム缶ほどの燻製器に火を入れていた。
鉄網の上には肉や魚、ソーセージがずらりと吊るされ、白い煙に包まれていく。

人間の作った一般的な刃物では枝一本払うこともできない、鋼鉄のような樹海の大木。
不思議なことに、おっさんの道具ではサクサクと切れるのだが──その木屑から立ちのぼる香りもまた格別だった。

「な、なんという芳醇さ……! これが豚──いや、オークの肉だと言うのか!?」

セリオン王国の巨大な首都を護る騎士団、その中でも最強と謳われる総隊長・オレーツエ氏。
屈強な男の彼でさえ、おっさんの料理と焼酎の前では、目尻を下げて幸せそうに笑うしかない。

時刻はまだ昼。
平和な王都とはいえ、窃盗や交通事故など、日常の小さな事件まで防ぎきることはできない。
街中では今も、巡回に勤しむ騎士や兵士たちがいる。

だが──
物見のために異様なほど高く造られた騎士団本部の屋上では、そんな世間の喧騒とは無縁の大宴会が繰り広げられていた。

「ブーカ氏よい! 呑んでっけ!? やけに大人しいんでねえの!?」

巨人族は、とにかくメシも酒も量が桁外れだ。
そのため普段は、薄めた安酒や、量の獲れる巨大魚などを食材にする者が多い。

だが、おっさんのように豊富な調味料魔石や、創意工夫を凝らさなければ──
どうしてもパサパサで旨味の乏しい、物足りないメシになってしまう。

今日振る舞われたのは、王宮の美人料理長ですら涎を垂らす、ドラゴンの極上部位。
それが畳ほどの大きさでステーキに焼かれ、まるで落ち葉のように高く積まれている。

草を積む農耕用フォークを手渡せば、それをブッ刺して豪快に喰らう騎士たち。
その喧噪から少し離れた場所で、ブーカはしみじみとドラム缶ジョッキを傾けていた。

「……旦那かい。──こんないい酒をありがとうよ」

いつもの窓を破るような声量が身を潜め、
何やら物思いに耽っている渋イケメン。

悪く言えば、魚くらい顔の整っていないおっさんは、そんなブーカを見て──

『きっとクソを気張っても絵になるんだっぺな』

……などと下世話な妄想をしていた。

「珍しく元気ねぇんでねぇの?なんかあったのけ?」

無遠慮に、鋼鉄の膝をペシンと叩き、隣に胡座をかいて座る。
見上げれば、ちょっとした大仏くらいの迫力がある彼が、ボソボソと語り出した。

「今日はよ…旦那の見事すぎる手先の技術を見ちまってよ……あのスケッチだけでも凄えと思ったのに、そこから発展した造形を刻んでいただろう?」

そう言いながら、自分のぶっとい指を見つめ、

「俺も旦那くれぇのサイズになれりゃ──もっと細けぇ細工も出来るのかなぁ…なんてよ。
巨人だからってこんな言い訳してんじゃ…まだまだなんだろうがな」

などと言っていた。

ふーむとおっさんは腕を組み、考える。
まぁ、あんな手で装飾品の荒型まで作れる時点で相当なもんなんだが、たしかにコイツが人間サイズになったなら、どんな仕事をするのだろう……と、ワクワクしてきてしまった。

たしか──パステル達がなんか女王にそんなアイテムを貰っていたような…?

「妖精っちゃー…魔力とやらの多いとこに住んでんだよな…?」

ソレ以前に魔力が何なのかもよくわかっていないおっさん。
臭いわけでも、色がある訳でもないべした…

「魔力だって?──あのお方は魔法の剣を扱う最強の魔導騎士だぜ?」

と、ブーカが指差した方を見れば──
燻製機に齧り付いて、燻したたくあんをパリポリと砕きながら酒を嗜む男がいた。
なんだか、オーラ?というのかガソリンを入れた時に見えるモヤモヤとした空気のようなものが、彼の周りに漂っていた。

おっさんはトコトコと近寄って、声をかける。

「オレーツエ氏、だっけか?あんたは魔力だかが多いんけ?」

恐れ多くも近衛総隊長。いったい誰がこんなフランクに話しかけれるというのか?大臣達でさえ言葉には気を使う、そんな男の肩をポンポンと叩くおっさん。

「ん…?公爵殿か、この燻った漬物は絶品であるな…酒が止まらんぞ」

機嫌良く酔って見えるが、実のところ一分3㍉の隙もない。

「で……魔力だと?──俺は、生まれつき漲っていたらしいが、それがどうした?」

騎士という、誉高い品のある要職に似合わない、どちらかというと、サムライ……人斬りのような鋭い眼光。そんな男に対しておっさんは──

ペシペシ、ポンポン、「いねぇのけ?」などとブツブツいいながら、総隊長の背中や頭を軽くはたいて回った。

機嫌良く呑んでいた周りの騎士達が、ビクリと体を硬らす。──がそんな中、

「妖精よおい、ちょっと出てきてくんちぇ~頼みがあんだっけ~」

と、オレーツエにではなく、その周りのモヤモヤに話しかける。
すると────

ボフン!と顕現する妖艶な美女。
妖精女王、その人が現れた。

騒然とする周囲。
だが、一番驚いているのはオレーツエであった。

自分の頭のてっぺんから、羽根の生えた女が飛び出してきたのだ。
反射的に剣へと手が伸びかけるが──

「なんじゃ……おっさんか。妾は寝ておったのじゃ。
 此奴の魔力は皮膚がピリピリして心地よいのじゃ」

まるで総隊長を低周波治療器か何かのように扱う、無遠慮な人外。
おっさん以上に礼儀知らずである。

「こ、公爵? これは一体……?」

燻りがっこの欠片を口から落とし、呆然と頭上を見上げるオレーツエ。

「あー、驚かせたなら悪りかったね。このご婦人はよ、この国の最初の国王の嫁さんらしいんだっけ」

──初代王妃──!!?

辺りが一気にパニックに包まれる中、おっさんは平然と続ける。

「お休みんとこ申し訳ながったね。まぁ俺もこないだ起こされたからおあいこっちゅーことで。
 そんでよ、巨人っちゃー、この前の指輪で縮めることは出来るのけ?」

狼狽える総隊長を置き去りにして話は進む。

「巨人とな……? あぁ、ちいと体のデカい人間のことか。
 ヤツらは隔世遺伝じゃろう? 異種族というほど濃い血は流れておらんが……一時的にそれを隠す程度ならば──」

チャリン、と銀貨50円玉ほどのメダルが、おっさんの足元へ転がった。

──それを服にでも忍ばせておけ──

そう言い残すと、妖精女王はモヤモヤとした煙となり、ランプの魔人のように総隊長のつむじへ戻っていった。

「手間ぁかけさせて悪りかったね。これでも呑んでがっせ」

おっさんは、自作蒸留所の中でも希少な琥珀色の焼酎を、オレーツエのグラスに注いだ。

「半信半疑だったが……まさか俺の脳天に住んでいるとはな……妖精か。
 王に報告せねばなるまいか……」

総隊長は酒をグイッと一気に飲み干し、「美味かった、感謝する」とだけ告げて、屋上を後にした。

──後には爽やかな秋風が吹き抜けるのみであった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...