DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第二十八話

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ガサゴソと音を立て、リリは車のトランクに積んだフレコンバッグを漁る。
中から、大きな姿見の鏡を取り出し、三人の前にそっと置いた。

「うわー! うっわーー! トゥエラ大っきくなってる~~~!!」
驚きつつも喜び、ピョンピョンと飛び回るトゥエラ。
手には通学用の鞄が握られており、チャックの隙間から白猫のみーちゃんが顔を出していた。

「黒! あーし、黒!! 確かにダークエルフの面影ドロンしてんけど!?
誰コイツ!? マジウケるんですケド~ww」

──テティスからダークエルフ成分を抜き取っても、ギャルはギャルであった。
金髪というより色が抜けきったブリーチ髪が風に揺れ、
紅く怪しげな瞳は日本人のような黒目に。
彼女にとって、普段の青い肌こそナチュラルであり、
今の小麦色は異様に黒く見えているようだった。

「こ、これが……わ、私ですの? あぁ!
お顔に……シミが!? 御母様とお揃いの髪色も──」

──美の塊のようだったパステルからフェアリーの成分を抜き取ると、
それはもはや劣化としか言いようのない変化を齎すのであった。

「皆さん、身体に不調や違和感はないのですか?」
リリが近づき、珍しい生き物でも見るようにジロジロと観察する。

一通り身体を動かしてみたところ、多少の感覚のズレはあるようだ。
だが一番大きな変化をしたトゥエラは、すでに馴染んだのか、
キャッキャとはしゃぎながら飛び回っていた。
もしここが日本なら──女子高生の姿で幼女のようにはしゃぐイタイ娘である。

休憩になったのかどうかはともかく、四人は再び車に乗り込み、再出発。
街を出る前にギルドへ立ち寄り、依頼表をざっと眺めて適当に受諾してきたため、
数枚の紙がリリの手元にある。

「ルート的に、この順番ですね──まずはここから南西へ進んだ先の……渓谷、ですね」

一枚目の依頼書に書かれていた内容は、
【街道の新設に伴う調査】である。

テティスの重力緩リニアチルい和魔法エモーたーによって、どんな悪路も最高級セダンの乗り心地へ──それでいて時速は400㌖を超えていた。

馬車であれば何日かかるかも判らない道のりを、
懐かしのJ-Popアルバムを一枚聴き終える程の時間で走破してしまったのだった。

「焦げて~る~♪ 私~た~ちは~超~いいね~~♪」

すっかり覚えてしまったおっさんのベストテープを、上機嫌に口ずさむテティス。
目的地に辿り着き、車を降りた四人の前に広がった光景は──ただただ雄大だった。

そこには、突然に終わりを告げた大地。
覗き込めば吸い込まれてしまいそうな濁流が轟々と渦を巻き、
遥か向こうには港町方面へと続く、切り立った絶壁の大地が霞んで見えていた。



「此方から向こう岸に渡れるようになさりませんと、王都からラッキーアイランドには向かえないということですわね……あんれまぁ~」

格式と礼節と優雅さを兼ね備えた、パステルのお姫様口調──の最後に、不意を突いて出たど田舎娘のような発言。

ギョッとする二人と、「あんれ~!まぁ~!」と真似をしだすトゥエラ。

「ナニ…?パーちん今の?ウケ狙ったワケ!?」
「まさか──変身によって、口調もそちらに引っ張られているのでは…?」

ハッとして口を押さえたパステルだが、弁解しようとした言葉は酷いものであった。

「あんちゅー…ことですわ!わだすの…この様な言葉を言うつもりでは……あーもすーもねー!…でございますわ……」

それっきり口を閉ざして赤面してしまったパステルに、
普段ならば身長的に届くわけもないトゥエラが、肩をポンポンと叩き──

「パーるぅ、クヨクヨすんなって!キミらしくないよ!キミにはキミの──輝く個性があるんだよ!胸を張って進もうじゃないか!」

どうやらこちらは…運動部のマネージャー的な、活発な女子の魂が憑依してきたようであった。

元々、脳を通さずに気持ちだけで喋っていたトゥエラは、自分の口調が変わってもさして驚くこともなかった。

もうこの掛け合いだけで、テティスの腹筋は断裂の危機を迎えていた。

「ヒッ…ヒィ~…ヒッヒィ~~マジ許して!?腹ちぎれちゃうってっば!!トゥーあんた…!誰目線だっつーのソレ!?」

過呼吸になりそうなテティスの背中を、優しくさすって落ち着きを促すリリ。

ギャルはギャルになっただけなので、口調も態度もほとんど変わらない。
ただし、どうやら笑いのツボが異様に浅くなってしまったらしく、地面をバシバシ叩いては笑い転げている。

「えー、皆さん。一応これは依頼で来ているんですからね。漫才はほどほどにして、調査と打開策を考えましょう」

最年長のリリが三人をたしなめると、ようやく笑いも収まり、落ち着きを取り戻す。

パステルは、発言の前に口の中で何やらゴニョゴニョと言葉を反復しているようだった。

「よーするにさ~、あっちの崖まで橋とか道とか作りたいってことなんでしょ? パーパに頼めば、楽しょーでやってくれそ~だけど!?」

本日は、魔力迸尿意がゲッダンするスカジャン風チャイナドレスは装着していないため、極限魔法は控えたいテティス。
──それに、最近はおっさんが転移スキルを便利に使いこなしており、街道整備のような自分に直接関係のない工事には、きっと気乗りしないだろうということも理解していた。

「ボクがそらを彫って溝を作るよ! そして──父上から丸太をもらって嵌め込めば、きっと!明日に駆ける希望の道になるさ!」

対岸を指差して胸を張るトゥエラは、もう運動部というより……誇張されたミュージカルの男装演者のようであった。

「そ、それでは……わ、わた……あちきがトゥエラんこと吊っとくけん! あの、あの……安心してやっておくんなまし!」

首飾りから鎖を展開し、揺らめかせながらトゥエラを無重力状態にフワリと浮かせるパステル。
その口はもう、有名なウサギのぬいぐるみのように✖で閉じられていた。

リリはメガネをクイッと上げ、書類魔法を展開。
目標地点までの高低差、最短経路、風の影響、安全性を瞬時に算出し、トゥエラの手綱を取った。

つまり──パステルの背中を抱き寄せ、王族のスキルをハッキング。
まるで操り人形のように動かしつつも、自由奔放なトゥエラの意思を阻害しない絶妙な加減である。

対岸までの538メートル、何もない空中に丸太を受けるためのU字型の溝を彫り、再び戻ってくるまでに要した時間は、わずか30分。

ちなみに、この間まったく出番のなかったテティスは、退屈しのぎに曲をいくつか歌い上げていた──その間に全工程が終わってしまったのだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

チャチャチャチャンチシャレてナーンボ
ャチャーチャチャチャでしょーナーンボ
ンチャチャチャーでしょー

ピンセットで指輪をつまみ、片手に握った精密ルーターで「チュイーン! チュイーン!」と歯医者のような音を立てながら作業するおっさん。

そこへ一本の電話が鳴った。

道具を置き、老眼鏡を外し、マスクも取る。
気づけば全身、金属片の粉塵まみれであった。

「──もしもし? なんじょしたっぺか? ……うん? ……ふむふむ? ──そうけー、丸太けー」

リリからの電話で、的確な指示を懇請されたおっさんは、しばし考える。

「──あれけ? そっちに使ってねぇ余ったフレコン、あったっけか?」

『あーはい。車を仕舞う用以外の予備を一枚いただいておりますが?』

「んだば、それの備考欄に──マジックでデカく、こう書いといてくんちぇ」

そう告げると、おっさんは電話を切った。

おっさんは、新しいフレコンを一枚取り出し、床に広げた。
余白に大きくAと書き殴り、備考欄には、太マジックで『保管共有A⇄B』と書き込む。

そしてリリの指示どおりに、腰袋から手頃な太さの丸太をどんどん取り出し、長さをきっちり四メートルに切り揃えて──「A」と書かれた袋へ放り込んでいく。

最初は不思議そうな顔をしていたブーカも、すぐに状況を理解して手伝い始めた。
気づけば──ちょっとした山林なら丸坊主になりそうなほどの丸太が、次々と袋の口へ消えていく。

「こんなもんだっぺか? 足りなければまた電話くっぺよね」

騎士団の訓練所の隅には、チェーンソーで削った木屑が山のように散らばっている。
一体何の現場かといえば──ただの丸太カット作業だ。

「今日のところはこんなもんで勘弁してやって、一杯やっぺか? ブーカ氏よ」

おっさんは箒と塵取りでゴミを片付け、道具と加工途中の指輪もきちんとしまい込む。
ブーカに聞けば、この騎士団本部には眺めのいい屋上があるという。

せっかくだからと、汗まみれで訓練をしていた大勢の騎士たちにも声をかけ、バーベキューパーティーを開催することになった。
たまたま居合わせた近衛騎士団総隊長(普段は王城詰めのイケメン)まで誘い、おっさんはブーカに抱えてもらって階段を上がる。

屋上からは、王都の街並みが一望できた。
バーベキューグリルをあちこちに設置し、生ビールサーバーや焼酎もスタンバイ。
豪快に肉や魚介を焼き始めると、総隊長まで一緒になって酒をあおりだす。

……忘れがちだが、おっさんはこの国で二番目の権威を持つ『公爵』である。
こんな突発騒ぎも、誰一人として咎める者はいなかった。
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