DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第五十二話

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テティスは、機嫌良くパステルの元へ向かい、何やら苦戦している焼肉の状況を眺めた。

「マジか……パーちん、まさかの一枚づつ焼いてんの?
   そっちのやつとか、もー冷めてね?」

手元を見れば、皿によそったライスの上に焼き上がった肉が並べられている。
が、まだ全体の四割ほどしか乗せられておらず、パステルは額に汗しながら困惑していた。

「お、オジサマ勇者様なら、あっという間に
   お作りくださいますのに……とても難しいのですわ」

見かねたテティスは、溜息を一つ吐き、鉄板の上に加熱結界魔法ホットプレートを施す。
そしてトングを持ち、次々に肉を並べてゆく。

「あぁ…テティス!そんなにしてしまわれましたら…
   お肉が…お肉が──焦げてしまわれますわ!」

一枚の肉ですら、野球の審判のような目つきで真剣に焼いていたパステルは、突然、ランナーが10人同時にベースに滑り込んできたような焦りを感じて、アワアワとパニック状態に陥った。

しかし、そこはさすがテティスの魔法。
若干の丸みを帯びた結界鉄板は、180℃に固定されており、余分な油を外周へと流し、その外周部は保温程度の熱さになっている為、肉をキープしておいても焦げる事はないのだ。

「ほれほれ~☆彡 パーちんどんどん食っていーし?
   そのうちトゥーも来るから、まだまだ焼くし?」

テティスも、切ったり炒めたりとなるとおぼつかないのだが、ただ肉を焼くだけならば、魔法を使えば楽勝だった。

「……パーパ今頃何してんのかね?」

肉汁滴る味噌漬けホルモンをクッチャクッチャと噛みながら、テティスがポツリと呟いた。

「きっと、リリさんと仲良く、
   ドライブでもなされているのでしょうね?」

トゥティパの3人は、おっさんが本当に大好きだった。
顔や体型は、35点程度の中年であるにも関わらず、その優しさと愛情はテティス達の心に届いていた。

「つかさー、パーちんも長命種ハーフフェアリーなったじゃん?
   妖精の羽根とか生えたし?あーしもトゥーも?
   いつまで生きんのかはしんねーけど?
   ……パーパ居なくなっちゃったらさぁ……
  ツマンネーよね……きっとさ……」

おっさんとリリは、人間である。よほど健康に気を使って生きたとしても、その寿命が100年を超える事は、まずあるまい。

変わってテティスとトゥエラは、既に何百年生きているのかも定かではない上に、
パステルに至っては、まだ気がついていない話なのだが、妖精女王の血が他の王族よりも濃く、先祖返りを起こしかけている状態なのであった。

オジサマ勇者様は──
  死んでしまわれるのですか……?」

そのような未来は、考えたこともなかったパステルは、テティスの話を聞いてハッとなった。

自分がこのまま歳を取らずに、老いたおっさんだけが、痩せ細って死んでゆく。
そんな光景を頭の中で想像してしまい、心が寒くなって、とても悲しかった。

「パーパとかさ?魔力ゼロじゃん?濃い魔素が体に流れてればさー、何百年もいけそうなのに?」

王宮に勤める宮廷魔導師などは、テティスから見れば児戯のような魔力しか無いとはいえ、100歳を超えるくらいの人間もざらにいる。

しかし、稀にいる一切の魔法を使えない人間の平均的な寿命は、60歳前後だと言われている。

おっさんはそもそも地球人であり、魔法などない世界からこの異世界に訪れた為、腰袋のチートについては説明がつかないが、魔力はないのである。

しかし──二人は気がついていなかった。

日本の工事現場で、運悪く死亡したおっさんが、
突然、白猫みーちゃんの気まぐれにより転生させられて──
落とされた場所が、一般人であれば体が木っ端微塵になる程の濃密な魔素が漂う場所。

深淵の森樹海」だった事を。

その森に流れる川の水魔素の奔流を飲み、
その森に現れる魔物の肉を食い、命を繋いできた。

そんな暮らしを数年過ごしたおっさんの体は、
内臓、骨、血液から、髪の毛の一本に至るまで…
まるで──牛乳をかけて一時間程放置したコーンフレークみたいに、
魔素がヒタヒタに染み込んでいるのだった。

だが、異世界人特有の魔素を練る臓器が、おっさんには備わっていない為、テティスの魔視ガン見でも察知出来ていないのだ。

そんな出口の見えない話を、二人がしていると、トゥエラが帰ってきた。

「もー!またふつーの石だったよー!ぷーん!」

目が皿になる程吟味して選んだ、迷彩柄の貝は──どうやらRレアランクの黄色い石トパーズだったようだ。

──トゥティパの海底合宿は、まだ続くのであった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

おっさんの気遣いで、新婚旅行をプレゼントされた、セーブルとシェリー。

二人は今、どういう訳か──本気でスケートをしていた。

事の始まりは今朝、おっさんに連れられて港町へとワープした時に戻る。

広すぎない、カップル用のスイートルームを予約してやり、支配人室の机の上で輝く、サンちゃんダンジョンコアに挨拶を済ませて、最近の営業状況を聞いていた。

【毎日すごく楽しいよ──沢山のお客さんが──
   ──とっても喜んで僕の中を楽しんでいるよ】

外観からは想像できないが、現在の宿泊客は1,500人を超えるそうだ。

それにより力をつけたダンジョンリゾートホテルは、海竜ラッキー君を中心に広がる、ラッキーアイランドと呼ばれる、巨大プールや水着で楽しめる温泉施設、ウォータースライダーにスケートリンクまでもを含む、デッキ部分を自らの支配下に置き、プールや温泉が混雑しすぎないように、鏡面世界サーバー選択という概念を実装したそうだ。

⭐︎団体客の為の貸しLarge切りParty宴会場Server
⭐︎カップル専用の愛の育Explodeつ泉Server
⭐︎ファミリー客向きの 賑やかFamily遊園地Server、と客層を分散でき、更には──
♡出会いを求めた紳士淑女の為の、
運命のDestiny駆け引きServerなどという、時間軸が夜に固定された空間も存在するらしい。

施設自体はコンパクトなものの、この仕組みのお陰で、何万人の来場者が訪れても問題はない。

そんな話をサンちゃんから聞き、さらにスケート競技も大盛況だと教えられた。

おっさんがにわかな知識で提案した、国営ギャンブルの 滑競KAKKEI
これが爆発的な人気を集めているそうで、当初はこのアイランドの従業員であるファイアーダンサーズが、ショーの一環として競い合っていたのだが……。

それを見た観客の中から、冒険者や漁師、魔法使いに騎士、拳闘士など様々な体力自慢の者たちが次々に名乗りを上げた。
最初はハプニング続きだったものの、ルールや配当も整備され──今では女性選手も加わり、A級・B級とランク分けも進み、本格的なレースが行われている。

そして、このレースの恐ろしいところは……。
実力だけでは勝てない、様々なギミックを「運」と「勘」で使いこなさなければならない点だ。

突然加速するダッシュパネル。
ランダム方向に吹き飛ばされる罠パネル。
さらにはジャンプ台や、スケボー用のレールのような仕掛けまであり、ただのタイム勝負ではない。
スピードに加え、観客を沸かせるトリック点を稼がなければ勝利できないのだ。

それを聞いたおっさんが──いらぬ事を口走ってしまった。

「そりゃ~面白そうだな~。
 セーブル達が競ったらどっちが速いんだべか?」

後ろでニコニコと聞いていた新婚の二人の……
目に炎が灯ってしまった。

おっさんは案内だけしたらば、さっさと帰ってリリにメシを作る予定だったのだが──

急遽決まってしまったエキシビジョンマッチ。
全身鎧で身を隠した、謎の騎士VS妖艶なくの一。

これには観客席が爆発して、飛ぶように氷券賭け札が売れた。

勝負の行方は熾烈を極めた。

まず、その速度は普段の滑競選手たちの三倍。まるでF1マシンのようだ。
常識ならば曲がり切れるはずもない速度で突入したコーナーバンクにて──
セーブルは槍斧ハルバードを氷面に突き立て、無理やり直角カーブのように体ごと捻じ曲げて抜けていく。
一方のシェリーは爆破ギミックに合わせて撒菱マキビシを投げ込み、炸裂弾のような閃光を巻き起こして観客をどよめかせた。

互いに本気でぶつかり合っているというのに、何故かジャンプ台では二人同時に舞い上がり──氷上に影を重ね、息ぴったりのフィギュアダンスを披露する。
観客席からは歓声と悲鳴が入り交じり、「仲良しかよ!」と叫ぶ声すら飛んだ。

そして遂にゴールの瞬間──

僅かに速かったのは、妖艶なくの一。

写真魔法写るんです判定の結果は、『愛の差』だった。

勝負の終わったスケートリンクは、まるで合戦の跡地だった。

氷は削れ、バンクはヒビ割れ、ジャンプ台は崩壊していた。

施設支配人に見つかったおっさんが、補修工事を手伝わされたのは、仕方のない話であった。
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