DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第五十五話

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翌朝になると、リリの熱もすっかり下がり、元気を取り戻していた。
気を落ち着かせるために、遅くまで看病していたこともあり──おっさんが目を覚ました頃には、もう陽が高く昇っていた。

娘たちはとっくに出掛けたらしく、今回は置き手紙も見当たらない。

トーストを焼き、甘苦いママレードジャムを塗って二人で食べる。
コーヒーはリリの方が淹れるのが上手なので、任せることにした。

「海ん中に棲んでても、ゴブリンっちゃぁ便利なもんなんだなぁ」

本当に、爪の先から血液まで──棄てるところがほとんどないのがゴブリンだ。

一般的な森や草原にいる緑色のヤツから、いつだか登った岩山にいた灰色のヤツ、そして今回の深海に棲む、生っ白いウーパールーパーみたいなゴブリンまで。

他にも変わった環境へ行けば、新種に巡り会えるのだろうか……。
それくらいが、おっさんがわざわざ冒険に出るための原動力になっている。

このほろ苦いジャムにしたって、そうだ。
勇者の兜ドラクエ4みたいなエラっぽい耳が、ディスペンパックのようにパキッと割れて、中からジャムが出てくる。

……こんな不思議な生物、他にいるだろうか?

「リリは今日は、なんか予定あんのけ?」

向かいに座る奥さんに何気なく聞いてみると、今朝はなんだかお洒落に縁なしメガネをかけていたリリが、にっこりと微笑みながら答える。

「旦那様にくっついて歩くのが、私の今日の予定です」

そんなことを言うものだから、おっさんは一瞬むず痒くなる。
自分もこれといった用事はないのだが、朝から酒を飲んでダラダラしているだけでは、リリも退屈するだろう。

「そういえば──あの子達が先日以来で架けた橋、とても立派なのですよ? もし良ければ見てあげてくださいね」

リリがそう教えてくれた。
あれか──丸太が欲しいと電話がかかってきて、実験的にやってみたフレコン間のテレポートが上手くいったときの案件だな。

「街道を作ってるんだっけか? 王様の指示で」

パステルの親父おやっさんを港町に招待してリゾート施設で優待してから、王都からあそこまでの道を整備するという大事業を国が発起したそうで……。

地図は見てないが、途中には谷やらデカい山やらが結構あるらしく、現実的な土木作業で開通するには、何年かかるか分からない計画らしい。

その第一関門となる深くて幅の広い渓谷の調査依頼を受けたトゥティパの三人は、頼まれてもいないのに丸太橋をかけ、向こう岸まで渡れるようにしてしまったんだとか。

「そりゃぁ見に行って、褒めてやらなきゃいかんなぁ」

そう言うと、リリはにっこりと優しい笑顔を浮かべて──

「運転は私がしますので、隣で飲まれてても大丈夫ですよ」

と、おっさんを甘やかすのだった。

王都に移動して、冒険者ギルドに立ち寄ってみる。

リリは「一応、ギルマスに顔を出してきます」と言って奥へと入っていった。

おっさんは、壁一面に掛けられた依頼掲示板をぼんやりと眺める。
商人の馬車の護衛、薬草やキノコ類の採取、魔物の討伐、素材の入手──相変わらず、仕事には困らないほど依頼がずらりと並んでいた。

長年達成されていない依頼票は、紙が日に焼けたように黄ばんで、掲示板の隅に追いやられている。

その中には「謎の遺跡の最深部までの調査」や「古地図に示されたお宝の発見」「暗号文章の解読」など……。
どう考えても「専門業者いねぇのか?」と思いたくなるような依頼まで貼られていた。

今日はただのドライブの予定だし、仕事を請け負うつもりはない。
だが……何か食ったことのない旨そうな魔物や植物の情報でも転がってはいないだろうか、とつい探してしまうのだった。

なんせ依頼票が多すぎて、紙同士が半分くらい重なり合っている場所もある。
わざわざ脚立を置いて登ってまで見るのは面倒だ……そう思っていた矢先、おっさんの目に「…リンの討伐」という紙の端が飛び込んできた。

次の瞬間、秒で脚立を設置。天辺まで駆け上がり、その紙を引っぺがすと──

「リヴァーイアサンの討伐」

そう書かれていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

リリの運転する車の助手席に揺られながら──
おっさんの目は遠くを眺めていた。

未知のゴブリンかと思って飛びついた依頼書は……
聞いたこともない生物、リヴァーイアサンだった。

『なんだ違うのけ』と思い、票を掲示板に戻そうとした、その時──。

掲示板を囲んでいた屈強な冒険者達、そして美人や妖艶な女性冒険者達までもが、どよめきを上げて脚立の上のおっさんを見上げていたのだ。

「流石はキングス冒険者様だ……あんな化け物の討伐依頼を単独で受けるなんて!」
「一瞬の迷いもなく票を取ったぞ! なんて凄い人なんだ!」
「素敵だわ……ぜひご一緒して、その勇姿を目に焼き付けたいわ!」

「あふぁぁ~~……だ、旦那様……」

そんなに騒がれる中で──
右手に握った依頼票を、元に戻す勇気は、おっさんにはなかった。

「さすがは旦那様ですね。あんなに見づらい依頼票の中から、堕ちかけていた依頼を一瞬で見極めるとは……」

『堕ちる』とは、冒険者業界の用語で「未解決案件になる」という意味らしい。
掲示板の端で黄色く焼けていた紙のことだな。

しかも偶然が重なり──その魔物の生息地は、これから見物に行く予定だった渓谷の谷底を流れる川だという。
どうやら、そいつが暴れ回るせいで淡水魚が食い尽くされてしまうらしい。

「リヴァイアゴブリンだったら、気が乗ったんだがなぁ……」

いもしない龍型ゴブリンを妄想しながら、ため息をつくおっさんであった。

ミニクーパーはブンブンと唸り声を上げながら、野山を駆け抜けていく。

途中、アスパラガスアースオーガの採れる畑も紹介してもらった。

どういう仕組みなのか分からないが、この車にはテティスの術式とやらが組み込まれていて、
たまに魔力バッテリーをチャージするだけで、車内拡張やらリニア走行やら──様々な違法改造じみた爆走が可能になるのだという。

『Mrs.チーズドリアンミスチズ』のベストアルバムが流れ終わる頃には、前方に丸太橋の掛かる大きな谷が姿を現した。

車を降りて眺めたその風景は、とても現実とは思えなかった。
崖の向こう岸まで、ぴったりと平らに並んだ丸太の列。

ゲームでさえ、今どきのものならリアル感を出すために垂れ下がったり揺れたりするだろうに……。

これでは、まるで大昔の超配管工スーパーマリオ兄弟ブラザーズのステージのようだ。

トゥエラが彫ったのだろう丸太の受け口も、ただの空中にあり、まったく見えない。

不気味にただ宙に浮かぶ、切り揃った大木──それしか言いようがなかった。

──しかしこのままでは、車で走るにしてもガタポコしすぎる。
リリのクーパーはちょっと浮いて走れるから問題ないかもしれないが、普通の馬車じゃ骨が折れるレベルだろう。

そこでおっさんは、リリにミニクーパーを仕舞ってもらい──代わりにアスファルトフィニッシャーを腰袋から取り出した。

橋の幅が2メートルと決まっていて、向こう岸まで一直線ならば……。
生コン車でコンクリートを流しながら進むよりも、この方が早い。

リリに運転を頼み、丸太と丸太の隙間を埋め、さらに天面にも厚さ10㌢ほど盛るように『合剤』を流し込みながら、橋を舗装していった。

リリがしばらく進んだのを見計らって──
おっさんはさらに腰袋から召喚した重量物、ロードローラーに乗り込み、ゆっくりとリリの後を追った。

左右両端は、トゥエラの空中彫り加工のおかげで型枠代わりになっており、谷底にアスファルトがはみ出して落ちることもない。

ガードレールが無いのが気がかりではあるが……。

やがて──

『龍の棲む渓谷に架ける道』が完成した。



「ふふ、旦那様?これが二人での初めての共同作業になりますね?」

リリがそういって微笑み、工事用ヘルメットを外して手に抱えたので──

「ケーキ入刀じゃなくて、道路新設で悪りかったなぁ」

と、自分のヘルメットを持ち、リリの持つやつに軽く八回ぶつける。

「──愛してるっぺよ」


おっさんに寄り添い頬を染める受付嬢に、涼しげな秋風が吹きかけた。
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