DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
272 / 279
第九章

第六十一話

しおりを挟む
至福の時間はあっという間に過ぎ去り、悲しそうな顔で重箱の隅を箸でつつくトゥエラ。
おっさんが半分ほど余したものを差し出してやると、
彼女は天にでも昇るように舞い踊った。

「ほんでよ、テティス先生とパステル王女に
   相談があるんだけんども」

おっさんは、娘たちの作った橋を見学しに行ったこと、その下に化け物ウナギがいたことを話した。

「あれを捌いて食えれば、
   一生分のウナギになるんでねぇか?」と。

──その時、テティスの携帯が震え、彼女はなにやら話し出す。

「あ、ちょ待って──うん?あそーなの?ふーん……  
   パーパ?今マーマ達からコーミーCall Meきたんだけど?  
   そのウナギさ、猫達と同じ系のヤツらしいんよ?」

なんと驚いたことに、渓谷で見たあの化け物ウナギは──

【悪意】を浄化していた白猫のみーちゃん、
【負の想い】を抱え込んでいたワリ太郎と同じく、  
この世の根源を司る精霊的な生き物だという。

つまり──ぶった斬って食うわけにはいかない。

思い出されるのは、ダークエルフの神殿の女神像たちが告げていた依頼の言葉。

『殺さずに、上手いこと調整するのじゃ』

要は、疲れさせてグッタリさせれば大人しくなるのではないか。
だとすれば──あの計画はてきめんに効くはずだ。

「前によ、
   フレコン通して橋に使う丸太を送ったっぺよ?
 アレと似たようなこと、魔法で出来ねぇもんだべか?」

おっさんは、橋を渡った先で山脈に突き当たったことを明かす。
そして──あんな岩を砕いて渓谷を穿つほどのウナギなら、トンネルだって掘れるのではないかと、テティスやパステル、それからリリも交えて相談を始めた。

一方その頃のトゥエラは……口の周りをタレでベトベトにしたまま、宙をふわふわ漂いながら気持ちよさそうに眠っていた。

いくら岩を砕けるとはいえ、闇雲に掘らせて良いものではない。
最短距離で、かつ高低差も考慮しながら向こう側に抜けなければ意味がないのだ。

「それでしたら……わたくしが誘導できるかもしれませんわ」

パステルが手を挙げて説明を始める。
なんでも──各地に散らばる妖精たちを“経由点”にすることで、彼女たちはかなりの距離をワープできるようになったそうだ。
だが、妖精がいない場所──つまり魔力が薄い地域には飛べないのだという。

そこでリリが、テーブルの上に一枚の紙をスッと差し出した。
ただの紙のはずなのに、そこには立体的に盛り上がった山脈の全貌が浮かび上がっている。

「……ジオラマみてぇだな。
 んで、こっち方向が港町方面け?」

指でなぞってみると、確かにただの紙であるらしく、スルリと山脈の中を手が抜けていった。

「そうですね。直線距離にすると──
   南南東に向け53.85Kmキロメートルとなります。
   坑道内の浸水を考慮するなら……
   この中心付近を頂点として、約100Mメートル程高く設定すべきかと」

そうなると──問題は魔力だ。
橋側から港町側まで、まっすぐ貫くような“道”を示せるだけの魔力が必要になる。

「そこはあーしの出番じゃね? アレっしょ?
 妖精ちんが迷子になんないよーに、ビームぶっぱすりゃいいんでしょ?☆彡」

そう、最初からテティスに頼めば、山を撃ち抜く魔法で一発解決……できるかもしれないのだ。
だが、それでは衝撃が強すぎて山ごと崩落──
大惨事になりかねないのだ。

そこで彼女は考えた。
拳ほどの小さな穴を、山の端から端まで正確に撃ち抜くのだという。

その細い穴へ、パステルが妖精を導き入れることができれば──

異世界初の『ウナギシールドマシン』が、ついに導入できるというわけだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

そして翌日──
リリの運転するミニクーパーに乗り込んだ五人は、ピクニック気分で出かけていた。

転移を使えば山脈の現場まで一瞬で行けるのだが、音楽をかけながらのドライブが楽しいらしく、この案は即却下された。

スーパーウーハーなど積んでいるはずもない車内に──
ズン!ドン!ズン!ドン!と重低音が鳴り響く。

「……これ、この世界の歌なんだっぺよ?」

そうパステルに尋ねてみたが、返ってきた答えは意外だった。

「はい、王国の礼拝堂などで流す讃美歌ですわ」

……どの辺に祈りの要素があるのか、サッパリ判らない。

「パーパ!? ぃノってるぅぅぅぅぅ!?」

テティスは車内で、髪を振り乱ヘッドバンキングし、壊れたように騒いでいる。
……あまり頸椎首の骨には良くなさそうな気がするが、
なんでも、こないだ与えた原付、ベスパの座席下──
ヘルメットを仕舞うスペースを覗いたら、未使用のカセットテープが一本見つかったのだという。

それを女神像に差し出したところ、ありがたくも録音してくれたらしい。

タイトルは──

『BEST⭐︎OF⭐︎GLR18 マジアゲ讃歌ORIA』。

おっさんはキリシタンではないし、讃美歌と言われても、年末にテレビで流れる第九くらいしか聞いたことがない、大工のおっさんだ。

王都の教会を建て直した時でさえ、装飾をどうしたら良いのか分からずに、七福神っぽいものを柱に刻み込んだりしたくらいだ。

あとはサイゼリアに描かれている腹のでた赤子の天使くらいしか知らん。

そうこうしているうちに、新幹線よりも速いミニクーパーは目的地へと辿り着いた。

──もっとも、山脈の手前ではなく、舗装された丸太橋のかかる渓谷である。

車から降り、ぐぐっと背伸びをして身体をほぐす。
皆の腰に落下防止器具でも付けてやろうかと一瞬考えたが……
その横で、空をスイスイ泳いでいるトゥエラを見て、バカバカしくなり、やめることにした。

谷底が覗ける辺りまで橋を進み、しばらく観察を続けると──

渓谷の岩肌に岩感……ではなく違和感を感じた。

雨も降るだろうし、濁流の水飛沫もかかるというのに、草の一本、苔のひと房すら見当たらず、なんというか……ニスでも塗ったように、岩肌に艶があったのだ。

おっさんは試しに、お玉に掬ったスープカレーを、谷底に向かって振ってみた。

望遠鏡を覗いて行方を見守ると、ベチャッと岩にくっついた──

かと思いきや、まるでコーティングされた車のように、カレーはスルリと流れて……

──ドッパァァァァン!

と、谷底の闇から現れたウナギの八つ首が、一斉にカレーを舐め取った。

「うっわ…えっぐ……あーしやっぱウナギにはならねーわ……食べる側でOK牧場?」

──そして今日の目的地、山脈へと向かいたいのだが。
橋の上を歩いてみると、アスファルト舗装されて滑らかにはなったものの、やはりガードレールがない橋は、落下の恐れもあっておっかない。

おっさんは、その辺をユラユラと蝶を追いかけるように宙を泳いでいたトゥエラに声をかける。

「おーい、トゥエラ! ちょっといいけ?」

フヨフヨと降りてきた彼女に、充電式インパクトドライバーを見せて尋ねた。

「ここによ、こういうボルトを沢山つけたいんだけんど……これで宙に穴、開けれんだっぺか?」

まるで一休さんの「屏風の虎を連れてこい」みたいな話である。
だが彼女は首をかしげつつも──

「んー……こう?」

と、受け取った工具でいとも簡単に空中を穿ち、親指ほどの太さのボルトをねじ込んでみせた。

「ほらね!」

得意げに、そのボルトへぶら下がってプラプラ揺れるトゥエラ。

「……いや、できんのかよ」

おっさんは思わず素でツッコむのであった。

腰袋の中には、かつての道路工事の際に発注し、監督と問屋間のミスで長さや数量を間違えまくったガードレールが沢山入っている。

こうなったからには、全員作業である。

まずパステルが首飾りのチェーンを操り、長さ五メートルほどあるガードレールを風船のようにふわりと宙に浮かせる。

おっさんとテティスが両端に手を添え、丁度いい高さにあてがう。
その間に──空を泳ぐ人魚スタイルのトゥエラが、裏側の支柱穴へインパクトドライバーを突き立て、ドリルで穴を開けてはボルトを打ち込んでいく。

橋の袂では、リリがレーザー墨出し機を据え付け、トランシーバーを片手に冷静に指示を飛ばしていた。

『はい、そこから二ミリ上げてください──
 もう少し手前に三センチ……そう、そこ…今です』

ギュルルルルル……ズボッ! クルクルクル……

やがて、滑らかな舗装道路の脇に、まるで当然のようにガードレールが整然と並んでいった。

それは、宙に浮く橋にふさわしい、不思議で頼もしい景観となっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...