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第一章
第八話
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トゥエラの手斧は、ナマクラ…ではないのだが、
この森の木が硬すぎるのか?
刃先がガタガタに欠けていた。
斧というか、刃がギザギザでノコギリだ。
綺麗に研ぎ直すと、一回り小さくなってしまうが…このままでは使い物にならないし仕方がない。
おっさんは地上に、ドシーンと重量物を出す。
全自動刃物研ぎ機 「研げる君」だ。
円盤状のダイヤモンド砥石が回転し、
固定した刃物は左右に動き、
焼きつかないように注水される。
とは言え斧は半月みたいに丸いので、
微調整は手動になるが…
「ウイィィンウイィィン」と
刃こぼれを消してゆき、
数度交換された砥石で刃を付けて。
最後はとっておきの天然砥石。
擦ると緑色の粘土汁が滑り、
仕上がった斧は、鏡の様に光る。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
手渡しやると目を輝かせ、我が家の基礎に一刀。
また欠けたようだ。
泣きそうな顔がおもろいので、
以前仕事で行った、南米の密林の奥地で原住民の使う橋の架け替えや、
洗濯や漁に使う護岸の整備などの工事現場で支給された、
大振りの刃物
マチェットナイフを取り出し、トゥエラにくれてやる。
あの現場は、恐ろしかった。
作業員が集合して行う朝礼、のちのミーティング。
KY活動。題目は、足元のワニと頭上のヘビに注意、である。
どんな現場だ。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
基礎は斬らないように、と言い聞かせておっさんは散歩に出る。
犬もヘビも鳥もまだ肉は残っているが、
新たなるグルメを求めて森を彷徨う。
ぴょこぴょこと後ろをトゥエラが付いて来る。
こんな森に一人で生きている時点で、
普通の幼女のはずはないのだが…
おっさんはどこか既視感のある幼い娘を眺めていると…
思い出した。
ずいぶん昔にハマって何年もプレイしていた、
パソコンのMMOゲーム。
あれに出てきた種族、ドワーフに似ているのだ。
性別が選べて、男性を選ぶと普通のジジイなのに、女性を選ぶと幼女になる。
おかしなゲームだった。
般若巨木を切り倒したせいか分からないが、
道ゆく樹木達がおっさんを避けるような気がする。
以前は草刈機やチェーンソーを振り回しながら歩いていたのに、
今は随分と歩きやすい。
「川とかないんけ?」
と呟くと、巨木がズザザザと動き出し、道を作る。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
肉もいいけど魚もな~
と期待しながら道を進めば、チョロチョロと水の流れる渓流が見えてきた。
それまでは草と土と、躓きそうになる根が這い回る地面だったが、
この辺りは砂利と、大きな岩と…綺麗な清流。
生き物の気配もある。
おっさんは釣竿と仕掛けを取り出す。
以前、海岸の侵食を防ぐため、テトラポットを延々と積み上げ、ヘッドランドと呼ばれる
人工的潮流調整護岸を造っていた工事の時、
晩飯のオカズを昼休みに釣っていた時の道具だ。
ブヨブヨしたミミズのようなルアーを針先に刺し、ひょいと投げてみる。
全体的には浅そうな川だが、所々深みもある。
川面に浮かせて、流される虫の演技を始めると──
ガバァっと水面が弾け、
…岩が食い付いた。
「あんなもん食える訳あんめー」
とがっかりしつつもリールを巻くと、
しっかり抵抗し泳ぎ周りたまに水面に跳ねる。
楽しくなったおっさんはファイトし、
なんとか岸近くまで寄せて来る。
すると一閃、
トゥエラがマチェットナイフで岩を突き刺した。
高々と持ち上げ、ドヤ顔の幼女。
尊い。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
ゴツゴツした黒い岩石にしか見えないそれは、
だがこの大きさで本当に岩石なら、釣り糸で上がる訳もなく。
刺さった傷口から血を流しビタビタ暴れた後、動かなくなった。
おっさんは包丁をだし突っついてみるが、
やはり岩のようで刃先が危ない。
充電式グラインダーに切り替え、
ギュイィィィィィィンと、コンクリートも切れるダイヤモンドカッターが岩を削り斬る。
粉塵を上げ、頭を落とし腹をそーっと割くと…
「こりゃしゃけけ?」
オレンジ色の綺麗な身が現れ、そこからは楽に包丁も入る。
三枚に降ろし川でよく洗い、刺身に切り分ける。
本来イクラが入っているであろう筋子には細かい魔石がギッシリと詰まり、
一つ摘んで噛んでみると、濃厚な醤油だった。
酢飯はないが、丼にご飯を盛りサーモンを山盛りにのせ、上から魔石をプチプチ潰せば…
「とろサーモン丼食ってくんちぇ」
トゥエラに渡してやる。
目がイクラみたいに輝いている幼女。
箸は無理そうなのでスプーンをやると、ほっぺを膨らませながら、夢中でサーモンをかきこんでいる。
「慌てなさんな、喉つっぱねっど」
と水を飲ませる。
気分のいいおっさんは、
氷でキンキンに冷やしたジョッキに、焼酎をドボドボと。
川のせせらぎをBGMに、刺身をひと切れ、つまむ。
舌の上で溶けるたびに、旨みがじわっと染みてくる
冷えた酒で流し込んで、また一切れ。
「新鮮でんめーこと……」
一頻り休んだのち、釣りを再開し、
日の暮れるころには、頭の中に大漁旗を掲げながら、
トゥエラと共に凱旋するのだった。
この森の木が硬すぎるのか?
刃先がガタガタに欠けていた。
斧というか、刃がギザギザでノコギリだ。
綺麗に研ぎ直すと、一回り小さくなってしまうが…このままでは使い物にならないし仕方がない。
おっさんは地上に、ドシーンと重量物を出す。
全自動刃物研ぎ機 「研げる君」だ。
円盤状のダイヤモンド砥石が回転し、
固定した刃物は左右に動き、
焼きつかないように注水される。
とは言え斧は半月みたいに丸いので、
微調整は手動になるが…
「ウイィィンウイィィン」と
刃こぼれを消してゆき、
数度交換された砥石で刃を付けて。
最後はとっておきの天然砥石。
擦ると緑色の粘土汁が滑り、
仕上がった斧は、鏡の様に光る。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
手渡しやると目を輝かせ、我が家の基礎に一刀。
また欠けたようだ。
泣きそうな顔がおもろいので、
以前仕事で行った、南米の密林の奥地で原住民の使う橋の架け替えや、
洗濯や漁に使う護岸の整備などの工事現場で支給された、
大振りの刃物
マチェットナイフを取り出し、トゥエラにくれてやる。
あの現場は、恐ろしかった。
作業員が集合して行う朝礼、のちのミーティング。
KY活動。題目は、足元のワニと頭上のヘビに注意、である。
どんな現場だ。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
基礎は斬らないように、と言い聞かせておっさんは散歩に出る。
犬もヘビも鳥もまだ肉は残っているが、
新たなるグルメを求めて森を彷徨う。
ぴょこぴょこと後ろをトゥエラが付いて来る。
こんな森に一人で生きている時点で、
普通の幼女のはずはないのだが…
おっさんはどこか既視感のある幼い娘を眺めていると…
思い出した。
ずいぶん昔にハマって何年もプレイしていた、
パソコンのMMOゲーム。
あれに出てきた種族、ドワーフに似ているのだ。
性別が選べて、男性を選ぶと普通のジジイなのに、女性を選ぶと幼女になる。
おかしなゲームだった。
般若巨木を切り倒したせいか分からないが、
道ゆく樹木達がおっさんを避けるような気がする。
以前は草刈機やチェーンソーを振り回しながら歩いていたのに、
今は随分と歩きやすい。
「川とかないんけ?」
と呟くと、巨木がズザザザと動き出し、道を作る。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
肉もいいけど魚もな~
と期待しながら道を進めば、チョロチョロと水の流れる渓流が見えてきた。
それまでは草と土と、躓きそうになる根が這い回る地面だったが、
この辺りは砂利と、大きな岩と…綺麗な清流。
生き物の気配もある。
おっさんは釣竿と仕掛けを取り出す。
以前、海岸の侵食を防ぐため、テトラポットを延々と積み上げ、ヘッドランドと呼ばれる
人工的潮流調整護岸を造っていた工事の時、
晩飯のオカズを昼休みに釣っていた時の道具だ。
ブヨブヨしたミミズのようなルアーを針先に刺し、ひょいと投げてみる。
全体的には浅そうな川だが、所々深みもある。
川面に浮かせて、流される虫の演技を始めると──
ガバァっと水面が弾け、
…岩が食い付いた。
「あんなもん食える訳あんめー」
とがっかりしつつもリールを巻くと、
しっかり抵抗し泳ぎ周りたまに水面に跳ねる。
楽しくなったおっさんはファイトし、
なんとか岸近くまで寄せて来る。
すると一閃、
トゥエラがマチェットナイフで岩を突き刺した。
高々と持ち上げ、ドヤ顔の幼女。
尊い。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
ゴツゴツした黒い岩石にしか見えないそれは、
だがこの大きさで本当に岩石なら、釣り糸で上がる訳もなく。
刺さった傷口から血を流しビタビタ暴れた後、動かなくなった。
おっさんは包丁をだし突っついてみるが、
やはり岩のようで刃先が危ない。
充電式グラインダーに切り替え、
ギュイィィィィィィンと、コンクリートも切れるダイヤモンドカッターが岩を削り斬る。
粉塵を上げ、頭を落とし腹をそーっと割くと…
「こりゃしゃけけ?」
オレンジ色の綺麗な身が現れ、そこからは楽に包丁も入る。
三枚に降ろし川でよく洗い、刺身に切り分ける。
本来イクラが入っているであろう筋子には細かい魔石がギッシリと詰まり、
一つ摘んで噛んでみると、濃厚な醤油だった。
酢飯はないが、丼にご飯を盛りサーモンを山盛りにのせ、上から魔石をプチプチ潰せば…
「とろサーモン丼食ってくんちぇ」
トゥエラに渡してやる。
目がイクラみたいに輝いている幼女。
箸は無理そうなのでスプーンをやると、ほっぺを膨らませながら、夢中でサーモンをかきこんでいる。
「慌てなさんな、喉つっぱねっど」
と水を飲ませる。
気分のいいおっさんは、
氷でキンキンに冷やしたジョッキに、焼酎をドボドボと。
川のせせらぎをBGMに、刺身をひと切れ、つまむ。
舌の上で溶けるたびに、旨みがじわっと染みてくる
冷えた酒で流し込んで、また一切れ。
「新鮮でんめーこと……」
一頻り休んだのち、釣りを再開し、
日の暮れるころには、頭の中に大漁旗を掲げながら、
トゥエラと共に凱旋するのだった。
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