39 / 279
第三章
第二話
しおりを挟む
朝の光が樹海の眠気を覚ます時刻…
数ミリの狂いもなく、水平に伐採された超巨木の幹。
面積は…
直径4~50メートル?
相撲の土俵…の10倍ほどであろうか?
そこにポツンと置かれた簡易式テント。
そのタープが揺れ、むさ苦しい五十路手前のおっさんが姿を現す。
「さむ!…やっぱこんな高いと気温も低いのかぁ」
なにやらぶつぶつぼやきながら、
コンロに炭を起こし、朝食を作り出す。
「今朝はやっぱあれの気分だよな~」
加齢からか近年は重い食事も控え気味で胃薬が常備薬になるような体たらくなおっさんだが…
今日は幾分調子がいいのか、パスタを茹でソースを作っていた。
「どうせ絶対美味いんだろ?この卵」
先日、鶏から貰った巨大卵を小分けした袋を取り出しボールに開けると、濃厚すぎる黄身がボールの底にどろっと溜まる。
このままじゃ重すぎる──
俺は迷わず、牛乳をひとまわし。
「…濃厚は罪だが、中和は愛だな」、粉末魔石を加えてインパクトに取り付けた撹拌機で白身ごと混ぜる。
火の通ったフライパンで厚めに切った、燻製蛇肉を炒め、
鍋の湯が沸いたのでパスタも茹でる。
ベーコンがカリカリになったら発酵魔石を加えパスタの茹で汁も少し入れる。
硬めに茹で上がったパスタに卵とベーコンを加え弱火で絡める。
仕上げに粗挽き粉末魔石を降り完成!
おっさんの腹の音を目覚ましに娘達が起きて来る。
朝から高いテンションできゃいきゃいと喧しい娘達に、ハチミツ入り紅茶を飲ませ、パスタを食わせる。
俺は一人前の半分ほど食ったが…
やはり重かったので、コーヒーで紛らわし煙草に逃げる。
俺の余りまで取り合って食べてた二人は、
満足したのか、遠くを見つめていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
重たい腹を撫でながら…
俺は製図台とパソコンを構え図面を描き出した。
「今度は仮住まいじゃないし少しはこだわってみるか…」
特に考慮する点は、高所による寒暖差と飛ばされそうな強風。
それから巨木自体も揺れるのでそれに適応した免震。
娘達も成長してゆくのかもしれない(数百歳らしいが?)のでプライバシーの保護。
あとは真西や真南の強すぎる日差しを建物配置の向きでカバー…?
などなど熟考を重ねて出来上がった図面が…
──出来上がった──
どーん!
材料はいくらでもある。
一本一本の反り具合や太さ、色味なども考慮しつつ
使用箇所におおまかに振り分けて置いていく。
まずは建物よりも一回り大きく仮設足場を組む。
一般的には、建物の下を支えるコンクリートの基礎を打つのだが…
この幹の上はトゥエラの斧も刃が立たない硬さなので(俺の道具では普通に切れるが)、
広いウッドデッキとそれを支える土台を直接幹に取り付ける。
デッキは家より広い(仮設足場目一杯)のでその上に建てる家は、ぐるりと外を一周できる仕様だ。
いよいよ外壁の組み上げだ。
いつもの巨木を伐採するチェーンソーとはだいぶ異質な、先が剣のように細く加工作業に向いている刃にブレードごと交換し加工に入る。
樹木は下が太く先が細い。
その習性を利用し、元と先が交互になるように組む。
簡単に説明すると、建物を上から見て、 口 という漢字の書き順通りに、丸太を置いてゆくのだ。
細い方の丸太の半分ほどを丸く抉り、太い方もピッタリ合うように合わせる。
大まかな加工はチェーンソーで
その後持ち手が1メートルほどあるノミ(刃は丸い)で寸分どころの精度ではなく削る。
鳥のさえずりも、娘たちの声も、今は聞こえない。
木目を見つめ、重力と湿度を読み、ただ刃先を進める。
一厘の誤差もなく。
【一寸=33ミリ 一分=3.03ミリ 一厘=0.303ミリ】
もし上空から撮影していたなら…俺は建物の外周を丸太を担いで時計回りにぐるぐる回っているだろう。
丸太と丸太を合体させる、
その前に特殊免震気密パッキンを挟み重ねる。
ここに釘やビスは必要ない。
組み込めば、もう外れないからだ。
手間がかかるのは、窓や出入り口をつける場所。
アルミサッシも召喚できるが…無粋である。
細い丸太を半分に割った材料で木枠を作り、
だが、性能は保持したいので真空四重重ガラスを嵌め込む。
ガラスを入れる際、窓枠の溝に捨てシーリングを忘れない。防水と気密の為だ。
そして最後に上側の窓枠を嵌めれば、百年曇らない窓の完成だ…
などと思っていると、後ろからテティスがトテトテと近づき、ガラスに小さな手を当て何か呟く。
「vjつえls」
一瞬で真っ白に曇るガラス
「うぉ?」
「カーテンがわりになる魔法 だってさー」
トゥエラが言う。
数ミリの狂いもなく、水平に伐採された超巨木の幹。
面積は…
直径4~50メートル?
相撲の土俵…の10倍ほどであろうか?
そこにポツンと置かれた簡易式テント。
そのタープが揺れ、むさ苦しい五十路手前のおっさんが姿を現す。
「さむ!…やっぱこんな高いと気温も低いのかぁ」
なにやらぶつぶつぼやきながら、
コンロに炭を起こし、朝食を作り出す。
「今朝はやっぱあれの気分だよな~」
加齢からか近年は重い食事も控え気味で胃薬が常備薬になるような体たらくなおっさんだが…
今日は幾分調子がいいのか、パスタを茹でソースを作っていた。
「どうせ絶対美味いんだろ?この卵」
先日、鶏から貰った巨大卵を小分けした袋を取り出しボールに開けると、濃厚すぎる黄身がボールの底にどろっと溜まる。
このままじゃ重すぎる──
俺は迷わず、牛乳をひとまわし。
「…濃厚は罪だが、中和は愛だな」、粉末魔石を加えてインパクトに取り付けた撹拌機で白身ごと混ぜる。
火の通ったフライパンで厚めに切った、燻製蛇肉を炒め、
鍋の湯が沸いたのでパスタも茹でる。
ベーコンがカリカリになったら発酵魔石を加えパスタの茹で汁も少し入れる。
硬めに茹で上がったパスタに卵とベーコンを加え弱火で絡める。
仕上げに粗挽き粉末魔石を降り完成!
おっさんの腹の音を目覚ましに娘達が起きて来る。
朝から高いテンションできゃいきゃいと喧しい娘達に、ハチミツ入り紅茶を飲ませ、パスタを食わせる。
俺は一人前の半分ほど食ったが…
やはり重かったので、コーヒーで紛らわし煙草に逃げる。
俺の余りまで取り合って食べてた二人は、
満足したのか、遠くを見つめていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
重たい腹を撫でながら…
俺は製図台とパソコンを構え図面を描き出した。
「今度は仮住まいじゃないし少しはこだわってみるか…」
特に考慮する点は、高所による寒暖差と飛ばされそうな強風。
それから巨木自体も揺れるのでそれに適応した免震。
娘達も成長してゆくのかもしれない(数百歳らしいが?)のでプライバシーの保護。
あとは真西や真南の強すぎる日差しを建物配置の向きでカバー…?
などなど熟考を重ねて出来上がった図面が…
──出来上がった──
どーん!
材料はいくらでもある。
一本一本の反り具合や太さ、色味なども考慮しつつ
使用箇所におおまかに振り分けて置いていく。
まずは建物よりも一回り大きく仮設足場を組む。
一般的には、建物の下を支えるコンクリートの基礎を打つのだが…
この幹の上はトゥエラの斧も刃が立たない硬さなので(俺の道具では普通に切れるが)、
広いウッドデッキとそれを支える土台を直接幹に取り付ける。
デッキは家より広い(仮設足場目一杯)のでその上に建てる家は、ぐるりと外を一周できる仕様だ。
いよいよ外壁の組み上げだ。
いつもの巨木を伐採するチェーンソーとはだいぶ異質な、先が剣のように細く加工作業に向いている刃にブレードごと交換し加工に入る。
樹木は下が太く先が細い。
その習性を利用し、元と先が交互になるように組む。
簡単に説明すると、建物を上から見て、 口 という漢字の書き順通りに、丸太を置いてゆくのだ。
細い方の丸太の半分ほどを丸く抉り、太い方もピッタリ合うように合わせる。
大まかな加工はチェーンソーで
その後持ち手が1メートルほどあるノミ(刃は丸い)で寸分どころの精度ではなく削る。
鳥のさえずりも、娘たちの声も、今は聞こえない。
木目を見つめ、重力と湿度を読み、ただ刃先を進める。
一厘の誤差もなく。
【一寸=33ミリ 一分=3.03ミリ 一厘=0.303ミリ】
もし上空から撮影していたなら…俺は建物の外周を丸太を担いで時計回りにぐるぐる回っているだろう。
丸太と丸太を合体させる、
その前に特殊免震気密パッキンを挟み重ねる。
ここに釘やビスは必要ない。
組み込めば、もう外れないからだ。
手間がかかるのは、窓や出入り口をつける場所。
アルミサッシも召喚できるが…無粋である。
細い丸太を半分に割った材料で木枠を作り、
だが、性能は保持したいので真空四重重ガラスを嵌め込む。
ガラスを入れる際、窓枠の溝に捨てシーリングを忘れない。防水と気密の為だ。
そして最後に上側の窓枠を嵌めれば、百年曇らない窓の完成だ…
などと思っていると、後ろからテティスがトテトテと近づき、ガラスに小さな手を当て何か呟く。
「vjつえls」
一瞬で真っ白に曇るガラス
「うぉ?」
「カーテンがわりになる魔法 だってさー」
トゥエラが言う。
56
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる