DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
119 / 279
第七章

第四話

しおりを挟む
一安心したおっさんは、まず家族を部屋の中へと促し、最後に自分が入って扉をそっと閉じた。

次の瞬間──

「……っと」

腰袋から静音モード付きのインパクトドライバーを抜き出し、
シュィィィィン……と音もなく、扉の四隅にビスをガッチリ打ち込んでいく。

「よし、これで外からは開かねえべ」

魔法も結界もないが、現場の知恵とツールだけで
要塞化するその手際に、ちょっとした安心感が宿る。

おっさんは腰を落ち着けながら、クーラーバッグからジュースと片手サイズのブリトーを取り出して配る。

具はチーズとソーセージ。
子どもたちにも扱いやすく、片手でつまめる“現場メシ”だ。

あとは……焼酎をひと口。
「ふぅ~……」

闇と静寂に包まれた地下の一室。
けれどそこに、小さな団欒が生まれていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ひと息ついたおっさんは、ヘルメットのライトを調整しながら、
足元の階段をじっくりと観察した。

──この階段だけ、何かがおかしい。

建物全体は、はっきり言って脆い。
柱も壁もヒビだらけで、よく見りゃ月明かりが漏れてくる穴まで開いている。
ちょっとした地震が来りゃ、簡単に崩れそうな代物だ。

なのに、この階段だ。

まるで一流の左官屋がコテでピシッと仕上げた土間のように、
一切の凹凸もない滑らかさ。
だが素材は土でも石でもない。

墓石のような天然石かと思えば、
触れても、冷たさすら感じない。

──温度を感じない。
まるで“質量”すら、こちら側の常識とは違っているかのようだ。

「……いくけ?」

そう言って後ろを振り返り、
おっさんは一歩、階段に足をかけた。

キュッ、と靴底が吸い付くような感触。

先ほどまでいた神殿(らしきもの)の床部分が、頭上に見える。
周囲にはかろうじて石造りの基礎……のような構造も確認できた。

だが──数段、十数段と降りた頃。

明らかに“何か”が変わった。

背後を振り返ると──
もう、さっきまで見えていた天井も、基礎も、どこにもなかった。

光はヘルメットにある。
けれど、その光が“何にも反射しない”。

辺り一面、真っ暗な“空間”。

壁も、天井も、床すら……“ない”。

おっさんは、知らず、足を止めていた。

ただ、黒の中に浮かぶ階段だけが──
淡く、鈍く、ずっと、下へ下へと続いている。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

いつだったか登った、
砂漠の中にそびえていた“アホみたいな塔”。

あれをふと思い出したが──
この足元の階段だけは、
明らかに別モノだった。

文明が違う? そんなレベルじゃない。
そもそも“作り”が根本的におかしい。

足元には、だいたい“畳一枚分”ほどの真っ黒な踏み面。

仮に“石段”と呼ぶとして──

それらは完全に独立して、空中に浮いていた。

大きくゆったりとした螺旋を描くその足場は、
普通に考えれば、中央に柱があるとか、
外壁から張り出してるとか、
何かしらの“支持構造”があるものだ。

だが──この階段には、支えがない。

まるでゲームのような空中足場スーパーマリオ

ジャンプして乗った瞬間に落ちてもおかしくない、

おっさんは、一段降りるごとに
腰袋から取り出した角材でコンコンと突いたりしていたが……

「……バカらし」

途中でアホくさくなって、やめた。



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

頼りない頭の照明だけで奈落へ……

というか…

「一人増えてんでねーの?」

先頭のおっさん。
それに引っ付くトゥエラ。
すぐ後ろに続く、テティスとリリ。

その隙間に紛れ込んだ…幼女。

「誰だ?おめ」

と顔を覗き尋ねるが、
薄ら青い顔に銀の髪…

やけに見覚えのある…

テティス?

後方のダークエルフを見れば、
どんなご馳走を食べても、
薄目で無表情キャラを貫こうと努力を続けている彼女が、

目を見開き狼狽していた。

「な…なんでわたし…?」



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

テティスそっくりの幼女は、意識があるのかないのか──
ただ無表情に、本人の前に立っていた。

よく分からないが、幽霊という感じではない。
肩に触れてみると、ちゃんと質量がある。
幻でもなさそうだ。

「まぁ……どっちも、めんごいからいいんでねーの?」

おっさんは分からないことは棚に上げ、とりあえず階段を降り始めた。

すると──

まるでコピーされたように、テティスとまったく同じ動作で歩き出すミニテティス。

トゥエラは面白がって、後ろから構うが、
何の反応も示さない。
テティスがそちらを見ると、ミニテティスも同じようにトゥエラを振り返る。

この階段、いや、この空間そのものが、
ダークエルフ──テティスに何かしら関係している。
それだけは間違いないようだった。

そして、ふと気づく。

……どれくらいの時間が経ったのだろう?

何時間、何十時間、降り続けている気がするのに──

腹も減らなければ、喉も渇かない。
誰一人、座って休憩することもなく。
会話すらない。

まるで……“時間が動いていない”ような──

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

おっさんは、ふと思い立ち──
降りてきたばかりの黒い石段を駆け上がってみた。

すると──

十数段ほど登ったところで、あっさりと、
先ほど休憩していたあの部屋に戻ってしまった。

「……あんちゅーだっぺ何てこった……ほんずねぇどうしょもねぇ

現実味のない現象に、頭を抱える。

だが考えても埒が明かない。
家族を呼び戻し、一旦休むことにした。

チビテティスも、当然のように着いてくる。

部屋に戻ると、中央にどかりと円座を組み、
食事の支度を始める。
大きめの土鍋をカセットコンロの上に置き、
昆布と水をあたためながら、切った具材を順に投入。

こんな妙な状況の時こそ──
ピリ辛の、キムチ鍋だ。

我が家は、小柄なトゥエラですら、
唐辛子もワサビもそこそこいける口。
絹ごし豆腐をどっさり入れ、
炒めた豚バラでコッテリ感を出す。
野菜もキノコもたっぷりだ。

ご飯もよそい、四人分──
いや、チビテティスも含めて五人分、
きちんと並べてやる。

「くわっせ。ちっと辛れーけんどもな」

ぐつぐつ煮立つ鍋を囲み、
いつも通りのにぎやかな食卓風景。

……のはずだった。

おっさんが、
酒をすすりながらその様子を見守っていると──

チビテティスが、テティスとまったく同じ動きで、
鍋を口に運び──
ふいに、ぼわっと光を放った。

それはまるで、無数の蛍の群れのようだった。

光の粒となったチビテティスは、ふわふわと宙を舞い、
やがてテティスのまわりをくるくると纏い──

そして、静かに吸い込まれるようにして、消えた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

チビテティスが光の粒になって消えてからも、しばらくの間、誰も言葉を発せなかった。

何が起きたのか──説明できる者など、誰一人としていない。

だが一人だけ、まるで“最初から分かっていた”かのように、いつも通りの仕草で手を動かしている者がいた。

テティスだ。

見えていなかったのか?
それとも……あえて、何も言わなかったのか。

彼女は静かに取り皿を手にし、
キムチを一枚、箸でそっと取り上げると──

それで豚バラ肉をくるりと巻き、
キノコと野菜をそっと添え、
まるで料理番組の実演のように丁寧に、それを口元へ運ぶ。

「……」

おっさんが、呆気に取られたまま、何も言えずにいると──

テティスは、ごく自然な声色で、
まるで一つの工程を終えたかのように、ぽつりと呟いた。


「あ~し、思い出しちゃったっぽい。てかここ、うちの実家じゃね?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...