DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第七章

第二十五話

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いつもの時間早朝に目を覚ましたおっさん。
皆はまだ寝ているようだ。
そっと戸を開け、朝の空気を吸いに外へ出る。

デッキに立ち、下を見下ろせば……
そこは断崖絶壁の山肌。
もしここから落ちれば、
ふもとまで一気に帰れるかもしれないが、
骨の一本も残らないだろう。

──だが、登っている時にはそうは感じなかった。
絶壁とはいえ、ゴブリンたちも暮らしていた場所。
登山道こそ無いが、
ただ「ひたすら大岩を登る」
それを繰り返してきただけなのだ。

──
しかし、ここから先は──また毛色が変わるようだった。
岩肌には変わりないが、生物の気配がほとんど感じられない。

草の一本すら生えておらず、
見上げた先の岩肌は、白っぽく霞んでいる。
おそらく霜か、あるいは凍結しているのかもしれない。

スパイクシューズなら各サイズ揃えてあるし、
落下防止のための安全装備だって万全だ。
高所作業のプロ中のプロ。
誰一人、怪我をさせずに下山させる自信はある。

──だが、始祖……ねぇ……

リリから説明は受けたが、正直なところ、よく分からない。
おっさんの頭に浮かぶのは、
昔読んだラノベに出てきた“ドラキュラの先祖”とか、
そんなイメージばかりだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

冷たい水で手顔を洗い、
朝食の準備だ。
といっても朝は簡単に…

フライパントゥエラの斧に、ベーコンを並べ卵を破り落とす。
半熟くらいに火が入ったら、昨日の戦利品、
味の素をパラパラと、あと醤油を少々。

パンは焼きたてが、フレコンに保管してあるので、
人数分+数枚出し、
ベーコンエッグを乗せれば完成。

トゥエラは、起床後、秒で食事に入れるのだが、
テティスとリリは時間がかかる。

プレハブの中に置いた洗面台でメイクに気合いが入っている。だそうだ。
トゥエラがモチャモチャとパンを齧りながら教えてくれた。

洋服も変わり、笑顔の二人が現れる。

「おお、朝からオシャレ番長じゃん」とおっさんが茶化すと、
テティスが「うるさ~⭐︎」とウィンクし、
リリは「身だしなみは日々の戦闘ですから」と微笑む。

「劣化厳禁」のフレコンから、出来立てトーストを出してやり、コーヒーも配る。

トゥエラはミロが気に入ったらしい。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ここから先は寒くなるし、防寒着とかの方がいいんじゃ?とおっさんが聞くが、
ファッションを捨てては生きられぬらしい。
せめて滑落防止のスパイクシューズを…と見せるが、
テティスが…

くるりと回って、片手を高く突き上げる。

「こ~すればぁ~、も~まんたいっしょ~★彡 」

キラキラと魔法陣が広がり、シュウウン!と音を立てて山に伸びる。

轟音とともに、岩肌がメリメリと形を変え……

まるで「天に続く階段」のような石段が、遥か山頂へと現れる。

「あ…あんちゅーだっぺ…何という事でしょう

アンカー、ハンマードリル、ハーネス安全帯。
様々な道具を、想定して用意していたおっさんは、
膝をついて崩れ落ちた。

リリが背中をさすって励ましてくれる。
トゥエラはキャッキャと跳ね回る。

それから、しぶしぶプレハブや風呂トイレなどを片付け、
更地になった仮設デッキ。
「じゃあいくべか」
と、石段に足を踏み出せば…

グゴゴ…と歪に歪み始め、
ゆっくりと動き出した。

「エスカレーターけ!」

ついデカい声が出てしまった。

グオングオンと石段全体が動き、
家族全員を運んでくれる。
しかも…だ。
しばらく経ってから気がついたのだが、
風がないし暖かい。
まるでデパートの中にいる様だ。

──
途轍もない魔法を行使し続けるテティスだが、
心配して顔を覗き込むと、「ふふん」と余裕の表情。
ホテルで買い込んだ、“おとな用安心パッド”のおかげらしい。
リリも「これは……異世界革命です」と絶賛していた。

……ちなみに、おっさんも似たようなものを使っている。
たま~に、チョロっとすることもある。年齢ってやつだ。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

のんびりとした登山(?)は続く。
トゥエラは少し先に登り、逆向きに歩き…
「おりれなーい♪」
などと遊んでいる。

快適な屋内施設のようだとは言ったが、
以前登った火山程ではないにしろ、
まぁまぁな山だ。

山頂までは当分かかるだろう。

周りを見れば、岩肌はやはり凍りつき、氷柱も垂れている。

もし通常の登山であったなら、
何日掛かるかわからないし、相当な苦行だったであろう。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

山頂が近づくにつれ、天候が急変してきた。
空は墨を流したように曇り、やがて白い粒が舞い始める。

最初はただの雪だと思っていた。
遠くから見れば、
「あぁ、上の方は雪あるんだな」くらいにしか思えなかった。

だが──
この高さに来てみれば、様子がまるで違う。

風はうねるように吹き荒れ、凍てつく粒子を巻き上げている。
手摺りの外の視界は白く閉ざされ、バチバチと大粒の氷塊が叩きつける。

「これ……ホワイトアウトってやつけ……」

エスカレーター状の岩階段の中は、テティスの魔法結界で守られており、
水滴ひとつ、風ひとつ、感じない。

しかし──
おっさんはそっと、結界の外へと手を伸ばしてみた。

「ちめて!!」

一瞬で感覚がなくなり、慌てて引っ込める。

「下手すりゃ、指ごと凍るど……」

これが本来の、この山の厳しさなのだ。
魔法の力に頼らねば、登頂など到底叶わなかっただろう。

そして、そんな極限環境において──

登っているのは、どう見ても雪山登山パーティではなかった。



テティスはミニ丈のスカートに、へそ出しのモコモコアウター。
寒さなんてどこ吹く風、ノリノリで石段の手すりに乗ってポーズを決めている。

「寒い? 余裕っしょ~⭐︎ マジ神アゲ~↑↑」
と、岩壁にまた魔法をかけては、道をどんどん整備していく。

リリはピンヒールにタイトスカート、
真面目なキャリアウーマンスタイルのまま、
結界越しに視界をスキャンし、データを解析中。
小型端末のような何かから、時折「ピーヒョロロ~」という機械音が漏れている。

トゥエラはうさ耳の着ぐるみ姿で、退屈なのかDDRダンスを披露している。

そして──
おっさんは、ガチの作業服姿。

登山用スパイクブーツに、ニッカポッカ、膝当てにハーネスまで装備し、
工具満載の腰袋をぶら下げていた。
だが、いまやその努力も──魔法のエスカレーターには敵わない。

「……装備、意味あったんけ……」
やさぐれて、焼酎ミニ五郎に手をかける。



空はまだ吹雪いている。
見上げた山頂は霞んで見えないが、確かに近づいている。

この異様なパーティが向かう先に、
いったい“何”が待っているのか──

それは、まだ誰も知らなかった。
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