DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第三話

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気候的にいくと今は六月くらいなのか、
かなり汗ばむ日もあれば、
冷たい雨が降って寒い日もある。

日没はかなり遅く、おっさんのアル中タイマーがアラームを鳴らしても…
まだ太陽は沈む気配がない。

大工体験も切り上げて、2人ともシャワーで汗を流し、
夕飯の支度をどうしようかと考えていた頃…

娘達とリリとパステルが帰ってきた。

玄関のドアが開いて、
「ただいま~!」
と元気な声が響く。

トゥエラが一番に飛び込んできて、
おっさんの腰にダイブ。

「かえる! ぬるぬるのやつつかまえたー!」

「ぬるぬるのやつ……?」

顔をしかめるおっさんに、
後ろから続いたテティスが叫ぶ。

「マジやばいから! きもいし! でも味はガチでエグいらしいよ~」

パステルは、少し気恥ずかしそうに──

「……なんだか、街の食材調達って、意外と過酷なのですわね」

と笑った。

最後に現れたリリが、
お馴染みの魔法書類を手にして、

「調理法は低温処理限定です。要注意です」

と真顔。

冒険者ギルドで借りたという、リアカーの様な台車に積まれた、
何故か鎖でグルグルに巻かれた物体に目をやると…
おっさんの4人分くらいの体積のあるカエルだった。

鎖が苦しいのか、「ゲコォ…」と呻くカエルと目が合う。
まったく違うのだが、なぜか鏡を見た様な感覚に陥り、
目を逸らした。

鎖の隙間から、とめどなく透明の粘液がこぼれ落ち、
地面に生えた雑草を溶かしてゆく。
とても、手で触る勇気は出ない。

「これ…どうやって捌くんだ…?」

落ちていた枝でつついてみても、ジュウ…と煙をあげる様子を見て途方に暮れる。

すると、後ろから──
風呂上がりのセーブルが、タオルを肩にかけてやって来た。

「ほぉ……」

目の前の毒ガエルを一瞥し、息を吐くようにそう呟く。

「これは……立派な毒ガエルですね。
 宮廷でも、滅多にお目にかかれませんよ」

まるで日常の一幕かのように話すその様子に、皆が目を丸くした。

「……おめぇ、詳しいのか?」

「ええ。王国の“毒と抗毒講習”では、教材に使われることもありますので」

どんな講習だよそれ……とおっさんが顔をしかめる横で、
セーブルは鎖に巻かれた巨体をじっくりと観察していた。

「この種は、外敵に捕食されないように──
 常に皮膚から“酸性の毒液”を分泌しています。
 しかもこれ、死んでしまうと体内に毒が回り、
 可食部までダメになってしまう」

「……じゃあ、どうすりゃいいんだ?」

「簡単です。
 気絶させればよいのです。」

にこりと笑って、セーブルはタオルで首をぬぐう。

──簡単って、なぁ……

その目の前には、
粘液まみれのカエルが「ゲコッ」と呻いているのだった。

すると背後から声が上がる。

「寝かせればいいってワケ? そんなら、
あーしの魔法でいけんジャン?」

テティスが胸を張るが──

「いえ、寝ても酸は止まりません。
必要なのは“睡眠”ではなく、“意識の刈り取り”です」

セーブルが静かに言いながら、
ゆっくりと毒ガエルに近づいていった。

「おい、ちょっと待て! 素手で触るんでねぇ!」

おっさんが慌てて止めようとするも、
当の本人はどこ吹く風で──
平然と毒ガエルの“首らしきあたり”をそっと撫で始めた。

ジュワァァ……ッ!

焦げるような酸の匂いが立ち上る。
肌が焼けるような音に、おっさんは思わず声を荒げる。

「バカ! やめろって! 皮膚が溶けるぞ!!」

だが、セーブルは涼しい顔のまま、こう答えた。

「ご心配なく。私に毒は効きませんので」

さらりと、まるで自分が“毒無効スキル”でも持っているかのように。
いや、たぶん……本当に持っているのだろう。

そのまま首の筋を辿り──
ピンポイントで頸動脈を探り当てると、
人差し指と親指でキュッと締め上げた。

数秒。

カエルの全身がビクリと痙攣し──

「ゲ……コ……」

低く呻いたかと思うと、
粘液をぽたぽた垂らしながら、その場にグッタリと崩れ落ちた。

おっさんはその一部始終を見て、思わず呟いた。

「……こええな、やっぱ影の騎士ってのはよ……」

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

湧き出ていた粘液は、気絶と同時にピタリと止まった。
それを見届けたセーブルが軽く頷き、後ろへ下がる。

「今です。水を──」

「任せな!」

おっさんがホース代わりにバケツを掴み、
ずばしゃーんと何杯もの水をぶっかける。

ジュウッと音を立てながら、
地面にこぼれていた酸が洗い流され、
肌を刺すような刺激臭もやがて薄れていく。

──そして、カエルの体表は静かになった。

「よし……これで触っても問題ねぇな」

おっさんは腰袋から革手袋を引っ張り出し、手早く装着。
そのまま魔物の腹部に手を当てて──
ゴクリ、と喉を鳴らす。

「……さて。ここからは、おれの出番だ」

魔物の解体と調理──
それはおっさんが
“異世界に来て一番最初に覚えた仕事”だった。

腹の皮を裂く位置。
骨と筋の流れ。
腐りやすい内臓の処理と、可食部の見極め。

全部、身体が勝手に覚えている。

「セーブル。抑えといてくれ。暴れはしねぇだろうが、万が一がある」

「了解です」

セーブルが片手でカエルの顎を押さえると、
おっさんはナイフを抜き──

シュルシュルッと、寸分の無駄もない手付きで、腹部を開いていく。

「うぉ……すげぇ……」

後ろで娘たちが興味津々に見守る中、
まるで芸術のように手早く、美しく、
巨大カエルの“食材化”が進められていった。

食えない部位は、ほとんどない──
ただし、焼いても煮ても、
すべて溶け落ちるという厄介な性質を持つ。
しかも冷蔵保存も不可。
時間が経てば、ドロリと溶けて“毒の粘液”に還ってしまうという、
繊細すぎるグルメ食材だった。

「めんどくせぇが……こいつぁ、面白ぇな」

おっさんは、黙々と作業に取り掛かる。

包丁の切っ先が、ぬるりとした表皮を裂く。
分厚く透き通るその筋肉は、驚くほど柔らかいのに、刃を吸い込むような弾力があった。

──これは、刺身サイズに切り分けるのが正解だ。

そう判断したおっさんは、
ひたすら薄く、細く、均一に肉を切り分けていく。

切った端から、密封袋ジップロックに詰めていくのは、異世界でも変わらぬ現代知識のなせる業。

庭には、でっかい産業廃棄物用袋フレコンバッグが広げられ、
その中にテティスが魔法でお湯を注ぎ入れる。

「60度、きっちり頼むぞー」

「任せなさーい!マジ職人かよってくらい安定させたる~!」

お湯がたまると、おっさんは温度計を差し込み、しばらく真剣な顔でにらめっこ。
やがて──

「よし、60ぴったり。……保温っと」

手元の油性ペンで、袋の側面にでかでかと『保温』と書き殴る。
書き込まれた文字がふわっと光り、内部の温度を固定する。

──これで何時間置いても、袋の中の湯は冷めない。

そこに、肉の入った袋たちを全部放り込んで……

「とりあえず、2時間。酒でも飲んで待つかね」

おっさんは腰を下ろし、空を見上げた。
太陽は、まだ沈む気配を見せていない。
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