DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第四話

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冒険者組女性陣を風呂に送り出したおっさんは、
冷凍庫からジョッキを取り出し、
ギンギンに冷やした焼酎大五郎を注ぎ、一口煽る。

氷すら入っていない酒精25度。
いわゆる、「キー」という呑みかたである。
冷凍庫に入れた焼酎は凍らない。

──ただ、トロリと濃さを増す。

すると背後から、静かな声が届く。

「──私にも、少々分けて頂けますか?」

振り返れば、すでに寝巻き姿のセーブルが立っていた。

「呑みっしぇ呑みっしぇ。ジョッキならまだあるべ」

と笑ってグラスを差し出すおっさんに──
セーブルはふるふると首を振り、こう言った。

「……その材質では、溶けてしまうので」

そう言って、両手を器のように差し出した。

その掌には、いつの間に採ったのか──
例のカエルの酸毒が、ぼんやりと湯気を立てている。

「おめ……正気か?」

さすがに、どん引くおっさん。

だがセーブルは、にこりと微笑むだけだった。

仕方なく、酒をその掌に注いでやると──

ジュワァァッ……!

硫化水素のような鼻にツンとくる蒸気が立ちのぼり、
その湯気ごと、彼はぐいっと喉に流し込んだ。

「……ん。悪くないですね」

平然とした顔で、まるで常温水でも飲んだようにそう言った。

おっさんは──言葉も出なかった。

心臓にピリッと来て良い。
などと、常軌を疑う食レポをするセーブル。

聞いてみれば、訓練と称し幼い頃から少量の毒を常食して来たのだとか…
何処かの暗殺家の漫画で読んだような話を聞いてしまった。

他にも、睡眠薬だろうが惚れ薬だろうが、
何をどれ程飲んでも効かない、どころか…
美味い毒と不味い毒がある。などと、
酒飲みの会話のノリで語ってくれた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

風呂から出てきた女性陣──
髪先からは甘いシャンプーの香り、
湯上がりで火照った肌に、タオルを巻いた肩。

そんな彼女たちに──

トゥエラには、冷えたジュースを。
テティスとリリ、そしてパステルには、
山脈ゴブリンの血サイゼリヤの赤ワインをグラスに注いで振る舞った。

「……乾杯、ですわね?」

パステルが照れたようにグラスを掲げると、
リリも「試飲の記録に」とクールに口をつけ、
テティスは「うっま!まじ勝ち酒~!」とご機嫌である。

その姿を見て、おっさんは──

「……いかん……枯れかけた身体でも、これは妙な気分になるなぁ……」

火照って上気した頬。濡れた髪先。
異世界の姫と魔女たちが、浴衣姿でワイングラスを傾けるという
この地味にエグい光景──

さすがに、直視できなかった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

──そろそろだっぺか?

おっさんは徐に立ち上がり、カエル肉の進捗状況を確認しに行く。

60℃の湯は、長期間浸ければ火傷してしまうが、一瞬ならどうということはない。
袖を捲ったおっさんはザブリと腕を突っ込んで、密封袋を何個か取り出す。

が……

なんじょしたこれは一体もんだっぺどうゆう事だ?」

肉が消えているのだ。

いや、正確には消えていない。
袋に確かな重さもある。
だが…見えないのだ。

ワインとジュースと毒入り酒で盛り上がる若人達を横目に、台所に立つおっさん。

悩んでいても仕方がないし、エアコンも動いているが賑やかな熱気も立ちこめる。
冷たいオカズが良いだろう。と、
ボウルに氷水を張って、袋を浸してみる。

すると…
なんと言うんだっけ?こうゆうのは…
エイリアンじゃなくて…プ…プデレター?

モヤモヤと肉の輪郭が見え始めた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

おっさんは調理人特権、
誰にも咎められない「味見」を、堂々と行使した。

指でつまみ上げた一切れ──
透明なそれを、口に放り込む。

モチャ…モチャ…モチャ……

なんだ、この食感は。
フグ刺しのような? レバ刺しのような?
それとも──もっと未知の何かか。

とにかく、とんでもなく美味いのは間違いなかった。

まずは──
ごま油+すり下ろしニンニク。
そこに、薄くスライスした玉ねぎを添えて──

パクッ。

「……っぉぉぉ……酒が足りん。」

次──
味ぽん+柚子の皮をひとかけ。

「……焼酎から冷酒へ。
ノーカラーチェンジだっぺ……」

グラスを置きながら、ふと気配を感じる。

次の瞬間──

「おとーさん?」

頬をぷっくり膨らませて睨んでくる、トゥエラ。
腕を組み、胸をそらして仁王立ちのテティス。
メガネをずらし、冷たい光をたたえた視線で睨むリリ。
その三人をオロオロ見つめる、パステル。

……囲まれていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

あ、味見だっぺよ…
と狼狽えながらも誤魔化しつつ、
雅な絵皿九谷焼を腰袋から取り出す。

美しい五彩が施された、Lサイズのピザを乗せても余る程大きい器だ。

これは…能登半島の災害の記憶。

それの復旧に、大工として派遣され、
重機すら搬入出来ない被災地で、人力で瓦礫を運び、仮設住宅を建てた。
悲惨な記憶だった。

だが、おっさんの第一陣としての仕事が終わり、
東北へと帰還する日…
娘も孫も失った老婆が、
泣きながら、ありがとうと押し付けて来たのが、
この皿だった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

それを、流水で丁寧に洗い流し、
おっさんは菜箸を手に取った。

ひと呼吸。

いまいちボヤけて見えにくくなってきたのを自覚して、
腰袋から老眼鏡を取り出す。
慣れた手つきで耳にかけ──視界が一変する。

「……よし」

九谷焼の中心から、円を描くように──
半身ずつ肉片を重ねて並べていく。

まるでフグ刺しのような薄造り。
職人の集中力が、空気をすっと張りつめさせる。

やがて完成した一皿を、静かに居間のテーブルへと運ぶ。

──と、すでに全員集合していた。



誰に呼ばれたわけでもないのに、
娘たちも、パステルも、リリもセーブルも。
それぞれに飲み物を手にしながら、
いつのまにか「ただの晩ごはん」じゃない空気を感じ取っていた。

「とりあえず、一皿目だ」

おっさんは、そう言いながら、
小ぶりの霧吹きを取り出す。

中身は──ニンニク醤油。

しゅっ、しゅっ、とやさしく散布すると──

大輪の花びらが、皿の上にふわりと浮かび上がった。

肉が“透明”だったからこそ起こる、視覚の魔法。

誰もが、言葉を失う。
見たこともない──けれど、なぜか懐かしさすら覚えるような、美しさだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

「これはな、こうやって食うんだぞ」
と、実演してやる。
皿を真上から時計に見立てて、
二時間分程を箸で掬い取り、口へ。

「んめぇぞ~じゃんじゃん食わっせ!」

と、次の段取りをしに台所へ引っ込む。

数秒後…

悲鳴にも似た、喝采が上がった。

そこから、おっさんは大忙しだった。

なにせ──

誰一人、米を要求しないのだ。

刺身一皿、絵皿に広がる“花”は、
出すそばから秒で消える。

だが──
この美しい皿は一枚しかない。

洗う。並べる。味付け。運ぶ。

これを、何往復したことか。

普通の白皿で出せば、きっと“味”は落ちない。
でも……この料理を、それで出す気にはなれなかった。

──この皿だけが、この晩餐にふさわしかったのだ。


たぶん、年齢的にも今はもうあの地に生きてはいない。

でも──

皿を拭きながら、おっさんは静かに思う。

「……あんがとな。娘や孫たちによろしくな」
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