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第八章
第三十二話
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男二人に、年齢の見えない美女が一人。
氷の揺れる音と、
壁にかかった薄暗いランタンしかない空間で、
ぽつりぽつりと語り合いながら酒を傾けていた。
「ふ~ん、元々は上司ってことけ」
咥え煙草の似合う酒場の女主人は、セーブルに昔、護衛騎士の基礎を叩き込んだ。
──訳ではなく、もっと裏の特殊な任務の為の訓練をつけていたそうだ。
彼が幼少の頃から飲まされていた、ギリギリ死なない程度の毒も、彼女が調合していたんだとか……
彼女自身も凄腕の密偵であり、他国の王族の愛人になって潜入していただとか、
映画の中の話のような昔語りを聞かされた。
「──恨み言を言うわけじゃないけれど…
貴方のおかげで大変だったのよ…」
シェリー、と名乗ったその女性が、おっさんに愚痴をこぼし始めた。
もうかれこれ数時間、なんのツマミも出てこないこの酒場で、三人は酒を飲み続けていた。
酒だけは…作っている素振りもないのに、何処からともなくシェリーの手に現れ、提供される。
何かあったべか?と聞いてみると──
おっさんが以前ここ王都で冒険者活動をしていた頃の話…
多数の貴族が誘拐され、法外な身代金を毟り取られたり、
嬲られた挙句殺されたりした事件が多発していたそうだ。
偶々おっさんがその盗賊達のアジトを発見してしまい、救出と討伐をしてしまった。
だが…それだけならば、暗躍する黒幕までは届くことは無かったのだが……
王都という巨大な都市の地上と下水道を完全に網羅する地図を書き上げてしまった人物がおり、
それを元に犯罪の起きやすいエリアを調べてゆくと…徐々に範囲は絞られていったそうだ。
まぁ、それを作ったのもおっさんなのだが……
その上で、とある小さな教会の女神像が、
ある日突然、闇組織の犯した罪状や人物名、さらには裏にいる貴族の名前などを…
ペラペラと喋り出した為……
王都に巣食っていたいた犯罪者ギルドのような組織が全て壊滅することになったそうだ。
ほぼ全て、おっさんのせいである。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
シェリーは、セーブルと同じで、王家直属の手駒であったのだが──
美貌もあり、潜入や諜報活動が得意であった為、犯罪者ギルドのような場所にも情報収集のために、出入りしていたそうだ。
ある時、突然囲まれた王国騎士団の精鋭に殺されそうになってしまい、投獄された。
「姉さんが…死罪になったという噂を聞いた時は…
頭が……真っ白になりました。
王から事の真相を聞くまでは、生きた心地が…しませんでした。」
セーブルは…よほどシェリーに惚れこんでいるのか、
女上司の無事を喜んでいた。
顔が赤いのは…酒のせいだけではあるまい。
地下牢にぶち込まれたあと、全てを知る国王の配慮により、「死罪になった。」という演劇が行われ、
今ではこんな路地裏でひっそりと酒場を営んでいるのだとか……
「なんだかわからないけんども…悪りがったなぁ…」
全く心当たりのないおっさんではあるが、
こうゆう場合の対処法は心得ている。
「キッチン、貸してくれっけ?」
のそのそと動きだして、美味いラーメンでも食わせて機嫌を直してもらおう、と鍋に湯を沸かし始めるのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「何このゲレンデ?マジで?ヤバくね?パーちんのパーパハゲすぎじゃね?K点超えてるっしょ?」
「ブニブニしてるねー!おとーさんよりお腹出てるんだねー!カエルさんみたいだねー!」
「い…いけません皆さん!ふ…不敬…ふ……ぐ…ぷぶ…アフゥゥゥン……」
「お父様、お久しぶりでございますわ」
王宮の、パーティーや食後などにくつろぐために設けられた…サロン。
豪華なソファーや、平民の生涯をかけても、それの台座すら買えそうもない装飾品が飾られた大きな部屋は、
──混沌とした空気に包まれていた。
この部屋にいるのは、おっさんが娘と呼ぶ少女達と、
冒険者ギルドの受付嬢、それから第一王女。
そして……目線と顎の動きだけで人の処刑の指示すらできる、この王国の支配者。
周りには、顔も見えない全身鎧で固めた、
ズラリと並ぶ騎士達。
引き攣った顔で、場違いで無礼すぎるテティスとトゥエラに殺意を向ける貴族達。
「ふははははははは!このように面白いのか!
かの者の家族達は!」
ギャルと幼女にディスられまくった一国の王は、大爆笑であった。
「──この客人達はな、公爵の家族だ。皆のもの、
勘違いをするでないぞ?飛ぶ首はどちらか、考えなくともわかるであろう?」
一瞬で張り詰めるサロン。
貴族というのは階級制であり、その最下位の地位である男爵であっても、
無礼な平民の首を刎ねる権限くらいは持っている。
王も寛ぐ、この部屋に居られる上級貴族の彼らは……
庶民からすれば、神や災害にも近しい存在である。
「パステリアーナよ、公爵は来ないのか?」
王冠をテーブルに置いて、いわゆる残念なサンタクロースみたいな風体の父親は、
発育も良く、輝くブロンドを靡かせる娘に声をかけた。
「きっと…勇者様はセー君とお酒を飲んでおりますわ!
あの方は…ご自身の立場など気にも留めておりませんし、
きっと今日も金貨の一枚も持っておりませんわ!」
一つも誉めていないのに、なぜか慈愛の表情でおっさんを想うパステル。
国王はため息を一つつき、
王都の膿を排除したことへの感謝、
その力を飼い慣らせぬ未知の力への畏怖、
そして──娘の心を奪われた父の嫉妬を、
強めの酒と共に、ゆっくりと腹へと収め、
静かにサロンを後にするのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
薄暗く雰囲気のある狭い酒場で、
血の繋がらない姉と弟が、近況やお互いの夢を囁きあっている。
その奥の部屋で味噌ラーメンを作っているおっさんがいた。
呑んだ後に食って一番美味いと思えるラーメンである。
ニンニクとネギがたっぷり乗った仕上げの味噌ネギラーメン、もどきである。
勿論あの、赤くて辛いトッピングも、小皿に拵えた。
先程までの姉弟のムードは、立ち込めるニンニク臭と味噌スープの湯気に汚染され…
三人は無言で麺を啜るしかなかった。
腹もくちたおっさんは、若いもんの邪魔になってもいかんと思い、
「んだば…帰って寝っかんよ、明日迎えに来ればいいべ?」
と席から立ち上がるが、
「あの…親方…私も…」
「……帰っちゃうんだ…」
と、煮え切らない二人がモジモジしているので、
「だったら、一緒に行って呑み直すけ?」
と声をかける。
──おっさんはイマイチ酔えていないのだった。
シェリーの出す酒は、味も見栄えも申し分ないのだが……
恐らく、4%程度の酒精。
女子供が喜ぶ酒であった。
…いや子供は…アレだろうが……
そしてもう一つ、醸造機に入れたとうもろこしがどうなっているのか、
ムードある小さなこの酒場での語らいの間も、
後頭部でずっとチラチラと気になっていたのだ。
それに、もし万が一のことがあったとしても…
おっさんの造った皆の個室は、宙に浮き完全防音、防振だ。
ニンニク臭い二人がニャンニャン暴れようとも、
おっさんに迷惑はかからない。
なので、二人の手を取り自宅へと飛ぶのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
玄関先に帰ってきたおっさんは、二人をちょいと外に待たせて先に中に入り、
<<<<<部屋のテーマを変更する>>>>>
二人を招き入れ、とりあえずソファーに座らせる。
おっさんは進捗を確認しに地下へと降りる。
呆気に取られるシェリーと、その手を支えるセーブル。
二人が見上げた景色は……
地平線まで続きそうな雪景色。
天まで届きそうな大樹氷。
透き通った満天に輝く星空。
螺旋階段はオーロラのような揺めきで、
ノリで星形に作ってしまったセーブルの部屋が、いい感じに青く瞬いていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
若い頃から、ラブホの内装もさんざん手掛けたおっさんは、知っているのだ。
赤やピンクにどぎつく飾り立てるよりも、
涼やかな青や、寒さを感じる内装の方が人気が出るのだ。
──その方が、暖め合えるからな──
地下に降りてみると、人型に合体したビートル君が、床に寝転んで本を読んでいた。
彼らは知識欲が凄くて、おっさんの愛用していた料理のレシピ本を舐め回すように眺めていた為、
面白がったおっさんは、手持ちのありったけの本を地下室に積み上げてやったのだ。
勿論、蒸留所ではないほうにだが。
建築関係の参考書から、
テティスが喜びそうなギャル雑誌、
参考書、ラノベ、週刊誌、エ●本……
それらを、虫モードになった彼らは、
落ちた菓子にたかるアリのように……
一心不乱に読んでいたのだろう。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「ビートル君よい、酒は出来たんけ?」
と聞いてみると、ダルそうに体を起こし、
一本のシンプルな酒瓶を出してくれた。
中身は、水の様に透明。
だが…光に当てるとちゃんと、アルコール特有の揺らめく紋様が見える。
「ありがとうな、また素材みっけたら頼むな」
と礼を言って、階段を……そっと登る。
万が一……だ。
アレがアレだった場合には、おっさんはどっかに転移して寝床を確保せねばならないからだ。
幸いなことに──まだ、おっぱじまっている事はなく…
出来たばかりの酒瓶を彼らに見せて、グラスや氷を用意した。
「草食系とかいうやつなのけ?」
氷の揺れる音と、
壁にかかった薄暗いランタンしかない空間で、
ぽつりぽつりと語り合いながら酒を傾けていた。
「ふ~ん、元々は上司ってことけ」
咥え煙草の似合う酒場の女主人は、セーブルに昔、護衛騎士の基礎を叩き込んだ。
──訳ではなく、もっと裏の特殊な任務の為の訓練をつけていたそうだ。
彼が幼少の頃から飲まされていた、ギリギリ死なない程度の毒も、彼女が調合していたんだとか……
彼女自身も凄腕の密偵であり、他国の王族の愛人になって潜入していただとか、
映画の中の話のような昔語りを聞かされた。
「──恨み言を言うわけじゃないけれど…
貴方のおかげで大変だったのよ…」
シェリー、と名乗ったその女性が、おっさんに愚痴をこぼし始めた。
もうかれこれ数時間、なんのツマミも出てこないこの酒場で、三人は酒を飲み続けていた。
酒だけは…作っている素振りもないのに、何処からともなくシェリーの手に現れ、提供される。
何かあったべか?と聞いてみると──
おっさんが以前ここ王都で冒険者活動をしていた頃の話…
多数の貴族が誘拐され、法外な身代金を毟り取られたり、
嬲られた挙句殺されたりした事件が多発していたそうだ。
偶々おっさんがその盗賊達のアジトを発見してしまい、救出と討伐をしてしまった。
だが…それだけならば、暗躍する黒幕までは届くことは無かったのだが……
王都という巨大な都市の地上と下水道を完全に網羅する地図を書き上げてしまった人物がおり、
それを元に犯罪の起きやすいエリアを調べてゆくと…徐々に範囲は絞られていったそうだ。
まぁ、それを作ったのもおっさんなのだが……
その上で、とある小さな教会の女神像が、
ある日突然、闇組織の犯した罪状や人物名、さらには裏にいる貴族の名前などを…
ペラペラと喋り出した為……
王都に巣食っていたいた犯罪者ギルドのような組織が全て壊滅することになったそうだ。
ほぼ全て、おっさんのせいである。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
シェリーは、セーブルと同じで、王家直属の手駒であったのだが──
美貌もあり、潜入や諜報活動が得意であった為、犯罪者ギルドのような場所にも情報収集のために、出入りしていたそうだ。
ある時、突然囲まれた王国騎士団の精鋭に殺されそうになってしまい、投獄された。
「姉さんが…死罪になったという噂を聞いた時は…
頭が……真っ白になりました。
王から事の真相を聞くまでは、生きた心地が…しませんでした。」
セーブルは…よほどシェリーに惚れこんでいるのか、
女上司の無事を喜んでいた。
顔が赤いのは…酒のせいだけではあるまい。
地下牢にぶち込まれたあと、全てを知る国王の配慮により、「死罪になった。」という演劇が行われ、
今ではこんな路地裏でひっそりと酒場を営んでいるのだとか……
「なんだかわからないけんども…悪りがったなぁ…」
全く心当たりのないおっさんではあるが、
こうゆう場合の対処法は心得ている。
「キッチン、貸してくれっけ?」
のそのそと動きだして、美味いラーメンでも食わせて機嫌を直してもらおう、と鍋に湯を沸かし始めるのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「何このゲレンデ?マジで?ヤバくね?パーちんのパーパハゲすぎじゃね?K点超えてるっしょ?」
「ブニブニしてるねー!おとーさんよりお腹出てるんだねー!カエルさんみたいだねー!」
「い…いけません皆さん!ふ…不敬…ふ……ぐ…ぷぶ…アフゥゥゥン……」
「お父様、お久しぶりでございますわ」
王宮の、パーティーや食後などにくつろぐために設けられた…サロン。
豪華なソファーや、平民の生涯をかけても、それの台座すら買えそうもない装飾品が飾られた大きな部屋は、
──混沌とした空気に包まれていた。
この部屋にいるのは、おっさんが娘と呼ぶ少女達と、
冒険者ギルドの受付嬢、それから第一王女。
そして……目線と顎の動きだけで人の処刑の指示すらできる、この王国の支配者。
周りには、顔も見えない全身鎧で固めた、
ズラリと並ぶ騎士達。
引き攣った顔で、場違いで無礼すぎるテティスとトゥエラに殺意を向ける貴族達。
「ふははははははは!このように面白いのか!
かの者の家族達は!」
ギャルと幼女にディスられまくった一国の王は、大爆笑であった。
「──この客人達はな、公爵の家族だ。皆のもの、
勘違いをするでないぞ?飛ぶ首はどちらか、考えなくともわかるであろう?」
一瞬で張り詰めるサロン。
貴族というのは階級制であり、その最下位の地位である男爵であっても、
無礼な平民の首を刎ねる権限くらいは持っている。
王も寛ぐ、この部屋に居られる上級貴族の彼らは……
庶民からすれば、神や災害にも近しい存在である。
「パステリアーナよ、公爵は来ないのか?」
王冠をテーブルに置いて、いわゆる残念なサンタクロースみたいな風体の父親は、
発育も良く、輝くブロンドを靡かせる娘に声をかけた。
「きっと…勇者様はセー君とお酒を飲んでおりますわ!
あの方は…ご自身の立場など気にも留めておりませんし、
きっと今日も金貨の一枚も持っておりませんわ!」
一つも誉めていないのに、なぜか慈愛の表情でおっさんを想うパステル。
国王はため息を一つつき、
王都の膿を排除したことへの感謝、
その力を飼い慣らせぬ未知の力への畏怖、
そして──娘の心を奪われた父の嫉妬を、
強めの酒と共に、ゆっくりと腹へと収め、
静かにサロンを後にするのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
薄暗く雰囲気のある狭い酒場で、
血の繋がらない姉と弟が、近況やお互いの夢を囁きあっている。
その奥の部屋で味噌ラーメンを作っているおっさんがいた。
呑んだ後に食って一番美味いと思えるラーメンである。
ニンニクとネギがたっぷり乗った仕上げの味噌ネギラーメン、もどきである。
勿論あの、赤くて辛いトッピングも、小皿に拵えた。
先程までの姉弟のムードは、立ち込めるニンニク臭と味噌スープの湯気に汚染され…
三人は無言で麺を啜るしかなかった。
腹もくちたおっさんは、若いもんの邪魔になってもいかんと思い、
「んだば…帰って寝っかんよ、明日迎えに来ればいいべ?」
と席から立ち上がるが、
「あの…親方…私も…」
「……帰っちゃうんだ…」
と、煮え切らない二人がモジモジしているので、
「だったら、一緒に行って呑み直すけ?」
と声をかける。
──おっさんはイマイチ酔えていないのだった。
シェリーの出す酒は、味も見栄えも申し分ないのだが……
恐らく、4%程度の酒精。
女子供が喜ぶ酒であった。
…いや子供は…アレだろうが……
そしてもう一つ、醸造機に入れたとうもろこしがどうなっているのか、
ムードある小さなこの酒場での語らいの間も、
後頭部でずっとチラチラと気になっていたのだ。
それに、もし万が一のことがあったとしても…
おっさんの造った皆の個室は、宙に浮き完全防音、防振だ。
ニンニク臭い二人がニャンニャン暴れようとも、
おっさんに迷惑はかからない。
なので、二人の手を取り自宅へと飛ぶのであった。
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玄関先に帰ってきたおっさんは、二人をちょいと外に待たせて先に中に入り、
<<<<<部屋のテーマを変更する>>>>>
二人を招き入れ、とりあえずソファーに座らせる。
おっさんは進捗を確認しに地下へと降りる。
呆気に取られるシェリーと、その手を支えるセーブル。
二人が見上げた景色は……
地平線まで続きそうな雪景色。
天まで届きそうな大樹氷。
透き通った満天に輝く星空。
螺旋階段はオーロラのような揺めきで、
ノリで星形に作ってしまったセーブルの部屋が、いい感じに青く瞬いていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
若い頃から、ラブホの内装もさんざん手掛けたおっさんは、知っているのだ。
赤やピンクにどぎつく飾り立てるよりも、
涼やかな青や、寒さを感じる内装の方が人気が出るのだ。
──その方が、暖め合えるからな──
地下に降りてみると、人型に合体したビートル君が、床に寝転んで本を読んでいた。
彼らは知識欲が凄くて、おっさんの愛用していた料理のレシピ本を舐め回すように眺めていた為、
面白がったおっさんは、手持ちのありったけの本を地下室に積み上げてやったのだ。
勿論、蒸留所ではないほうにだが。
建築関係の参考書から、
テティスが喜びそうなギャル雑誌、
参考書、ラノベ、週刊誌、エ●本……
それらを、虫モードになった彼らは、
落ちた菓子にたかるアリのように……
一心不乱に読んでいたのだろう。
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「ビートル君よい、酒は出来たんけ?」
と聞いてみると、ダルそうに体を起こし、
一本のシンプルな酒瓶を出してくれた。
中身は、水の様に透明。
だが…光に当てるとちゃんと、アルコール特有の揺らめく紋様が見える。
「ありがとうな、また素材みっけたら頼むな」
と礼を言って、階段を……そっと登る。
万が一……だ。
アレがアレだった場合には、おっさんはどっかに転移して寝床を確保せねばならないからだ。
幸いなことに──まだ、おっぱじまっている事はなく…
出来たばかりの酒瓶を彼らに見せて、グラスや氷を用意した。
「草食系とかいうやつなのけ?」
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