DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第五十六話

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白蛇のうごめく蒸留と、静かに寝かされた樽をぼんやりと眺めていたおっさん。

それをツマミに、焼酎大五郎で一杯やりながら静かに見守るつもりだったのだが──

派手で、布面積の少ないギャルの足音と共に、空気が一変する。

「パ~パw どーせ『まだ呑めない…』とかイジけてたんでしょ~?☆彡」

ぐっ……図星。──将棋で言えば王手だ。

「ま、まぁその……どんなもんかと思ってよ。
  ほら、経過観察というか……」

苦し紛れの言い訳を並べるおっさんに、
テティスはニマ~っと悪い笑みを浮かべながら、
首をかしげて顔を覗き込んできた。

「そんなアル中のパーパに~? 
  あーしの、と~っておきの~?☆」

選挙権バブ~?あーし降臨魔法産まれた瞬間18歳?──やったるっしょ★彡!」

テティスの指先が、くるりと一回転。

その瞬間、選ばれし一本の樽が──
ラメラメのモヤと、謎のハート型エフェクトに包み込まれる。

ピキ……ミシミシ……

空間が軋むような音を立てて、
樽のまわりだけが、確かに“違う時間”へと突入していた。

 

──信じられない事だが、何度も驚かされてきたテティスの魔法である。
おそらく、ある一部分の時空を圧縮し、
“樽の時間”だけを加速させているのだろう。

「おぉ……これが……選挙権……民意のチカラ……」

おっさんは思わずつぶやいてしまったが、
それが何のチカラなのかは、本人にもよく分かっていない。

 

だが──

あの魔法が、万が一でも自分の身体に向けられたら?

一瞬で老衰まっしぐら。
死ぬどころか、白骨になる未来が見えた気がして、
おっさんの背筋には、ほんのりと冷たい汗が流れたのだった。

しばらくして霧が晴れてくると──
そこにあったのは、さっきまでとは明らかに雰囲気の違う酒樽だった。

色合いは、まるでコールタールを塗ったような、深黒い飴色。 
金属のたがにはサビが浮かび、アンティーク感が漂う。

棚から浮かされ、フヨフヨと宙を漂い、酒造場の外のテーブルの上に運ばれた。

おっさんはもう、何も疑うことはない。

樽の天面に、腰袋から出したドリルで穴を開ける。
木屑が酒の中に混じらないよう、慎重に──
直径32ミリの小さな穴をくり抜き、
そこに水道用の真鍮製蛇口を取り付けた。

樽を横倒しにして、氷を入れたグラスを構え、コックを捻る。


──チョロチョロ──トットットット……

小気味のいい音を立てて、何とも綺麗な琥珀色の液体が注がれる。

キュッとコックを閉め、まず……観る。

これが──あの化け猫に生えたキビから出来た酒か。

電灯に照らすと、ゆらゆらと流動する液体の中のせせらぎ。

これは恐らく、樽の内側をバーナーで焦がしたやつなのだろう。
見た目はウイスキーそっくりで、香りは……

「いーからww早く飲めしwww」

テティスに笑われた。

口をつけてみる。よく冷えたロックのウイスキー。

甘い香りと共に喉を焼き抜ける圧倒的な酒精──

「うめぇ…」

それ以外何も言えない。

──だが、強すぎる。

昔飲んだ、市販の五十度のウイスキーよりも強いかも知れない。

そこで、腰袋から炭酸水を出して注いでみる。
シュワシュワを気泡が立ち登り、
色味を鮮やかに明るくしてくれる。

グイッと一口いくと──最高のバランスになっていた。

グラスをヒョイっととっかさ奪われ、テティスも味見する。

「ん~~❤︎ヤバいっしょコレ!?飲みやすすぎ~!」

──この酒は、くくれないのだ。
ウイスキーだとか、焼酎だとか……

そのどちらでも無く、全てがある。

「テティス、ありがとうな。
   これさ上に持ってってみんなで呑むけ」

よく洗って乾かせた焼酎の空きボトルに、樽の中身を注ぎ込み、ビートル君にもお礼を言って、リビングへと戻る。

「おーい、あのキビから出来た酒、飲んでみてくんちぇ~」

まだ午前中だというのに、テーブルにグラスを並べて氷で満たす。
水や炭酸水も用意して、各々好きな濃さで作らせる。

「んでは、まだ朝なんだけんども…港町も上手くいったし、
  みんなして無事に帰ってこれた祝いだ、
  乾杯すっぺ!」

「「「「「「乾杯~~~~~!!」」」」」」

トゥエラも飲んでみたいなどと言うので、
甘いミルクの上にチョロっとだけ垂らしてやった。

「んー、ちょっと苦いけど、おいちいねー!」

と、ご機嫌なトゥエラに、

「これは凄いですね……あのドワーフの国で試飲したものよりも旨いのでは?」

セーブルが嬉しい評価をしてくれて、

「はぁ…華やかな香りで美味しいですわ~」

「これが、18年も寝かされたお酒なのですか…」

「凄い…これでカクテル作りたいわ…」

女性陣にも好評だった。

「パーパ?たぶんコレさ~寝かせてないヤツも美味いんじゃね?」

テティスが気になることを言う。

おっさんはダッシュで地下へ行き、真新しい樽からも透明な酒を注ぎ、戻って来る。

今度はジョッキに氷を入れ、半分水で割る。

カラリと混ぜてグイッと煽れば──

「あぁぁ~……こりゃ、超五郎だっぺよ~」

ツマミや軽食を適当に並べて、今日はもう、
何もしないと決めたおっさん。

あぁ、親方にも飲ませてやりてぇが……今度でいいか。
麦わら帽子を被り、球体の自室が輝く擬似的な熱射に目を細め──

「太陽がいっぱいだっぺ……」

名画のワンシーンをぼんやりと思い出しながら、
麦わら帽子のつばをクイッと下げて、
おっさんは昼下がりの光の中に、溶けていくのであった。
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