DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第五十五話

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──そして、帰還の日がやってきた。

とはいえ、おっさんたちにとっては、
「ちょっとそこまで」感覚のご近所転移リゾートである。

だが、王様一行にとっては話が違う。
この街と王都の間には、
険しい山々、荒れ狂う大河、底の見えない谷──
まるでアトラクション盛りだくさんの大冒険が広がっている。

……そうだっけか?
おっさんは眉をひそめて記憶をたぐるが、
そのへんの旅の記憶は、正直あやふやである。

で、思いついた。

「ホビットたちに頼んだらいいんでねぇべか?
   あいつら、ストーンウッドっていう特殊な石材で、
   橋でもなんでも作っちまうしよ。
   俺がやるより、絶対早ぇべ?」

もちろん、おっさんは長期間拘束されて街道づくりなんぞする気は、毛ほどもない。
人任せである。

実際、あちらの街でも今は多種族の流入で建築ラッシュが続いているが、それもいずれは落ち着くはず。

もし石工の親方さえ捕まえられれば──
山をくり抜いてトンネルを掘るも良し、
谷に立派な橋をかけるも良し。あの職人たちにとっては、そんなの朝飯前だ。

──いや、実際のところ、巨大な重機を出しておっさん自身が工事をした方が早い気もする。

……だが、今の彼の心はもう、ここにはない。

今、気になっているのは──
自宅の地下室の、その先にある空間だった。

ブーカは、テティス先生に習って魔法の紋様の刻み方を覚えたようで、
王都に帰ってからは義体職人として復帰するようであるが、

身体を欠損して困っている人々を、王国に見極めてもらうことにしたようだ。

正確に言えば騎士団に、だが。
そこの厳しい審査を通った、犯罪歴などのない人には義手や義足を格安で売り、
サイズは誰にでも合うので量産出来るということで話が纏まったようだ。

おっさんは、ギャンブルには全然詳しく無いのだが、
最低限のルールや投票券の買い方などを曖昧な知識で
宰相さんに教えた。

「なるほど…優勝者だけを予想するのではなく、
二着や三着までもを絡めるわけですか。
剣闘などとはまた違い興味深いですね」

ワイドだとか三連単だとか色々な買い方があるらしいが、かつて職人仲間が喋っていたのを聞いていただけの、浅~い知識しかないおっさんは丸投げすることにした。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

そして景色は変わり、王都へと転移したおっさんバスは、そのまま王城へと走り、国王の一団を送り届ける。

「パステルよ、達者で過ごすのだぞ──
 公爵、娘を宜しく頼む。
 孫の顔を楽しみに待っておるぞ。」

ポッと顔を赤らめた王女は、
「そ…そんなことわかりませんわ…!」
と、そそくさとバスに乗り込んでしまった。

「んでは、何か困った事があれば、コレに連絡してくんちぇ」

まるで金貸しみたいなセリフと共に、
余っていたプリペイド式携帯を一台、王様に渡しておく。

そしてバスは走り去り──残された国王と宰相。

「なんとも……豪快な男だったな。」

「あの方は自身を異世界人などと言っておりましたが……」

王宮のどんな古文書を漁ったところで、
『異世界』などという言葉は出てこない。
だが、そんな虚言を言っている様にも見えない。

「さて、執務に戻るか──
   ……ビュッフェが恋しいのう。」

バカンスロスというのだろうか?
いまいち現実に向き合いたく無い虚脱感を肩に乗せ、この国のトップは仕事へと向かうのであった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ダークエルフのテティスは、全く変化がわからないが、おっさんもトゥエラも大いにリゾートを楽しんだ為、やや小麦色に日焼けしていた。

一方、リリやパステル達は、
相変わらず磁器のような澄んだ美白を保っている。
なにか秘策があるのだろうか?

セーブルやシェリーは……炎天下に居ても影を自在に纏えるようで、日焼けや夏バテなどとは無縁なようだ。

王都には特に用のないおっさん達は、
数日ぶりとなるホビットの街の我が家へと帰ってきた。

「旅行もええけんども、やっぱうちさがいっちゃん落ち着くっぺな~」

おっさんは旅行あるあるをため息と共に吐き出して、玄関を潜りリビングのソファーに沈む。

「旦那様、お疲れ様でした。
   たったの数日でこの国の経済を数百年は
   進歩させましたね、流石でございます。」

と、リリが労ってくれて熱いお茶を淹れてくれた。

テティスとトゥエラは──よほど旅行が楽しかったのか、部屋の内装テーマをタブレットで弄り、海と砂浜と青空に変えている。
大黒柱は巨大な椰子の木に変わり、
その周りの螺旋階段は、わたあめのような雲になった。

サマーベッドを広げて寝転ぶ娘達。
手にはトロピカルなドリンク。
波の音と、カモメの鳴き声まで響き、

──全く家に帰ってきた気がしない。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

煙草を一服して、ようやく気持ちを落ち着けたおっさんは、
ふぅっと息を吐いて、立ち上がった。

本当は──玄関から地下に直行したかったのだ。
でもリゾート帰りに即酒造場なんて行ったら、
ぜったいテティスたちに笑われるに決まってる。

「ちょいと大人の余裕ってやつを見せとかんとな……」

そんな見栄を胸に、ソファでダラッと時間を潰していたのである。

 

階段を降りて、ひんやりした地下空間に足を踏み入れると──
そこには、ビートル君の集合体が、何故かメイド服を着て給仕みたいな格好で椅子にちょこんと座り、本を読んでいた。

おっさんは思わず声をかける。

「留守番どーもね。……退屈でなかったけ?」

すると、

『オ・カ・エ・リ・ナ・サ・イ、ゴシュジン──
ジョウリュウ、ハジマッテマス。ヨ』

……しゃ、喋った……!?
いつの間にそんな芸当を!?と思う間もなく、

ビートル君はニコッと──まるでそう見えるように──笑って、
酒造室の扉をスス…と開けてくれた。

いや、そもそも目も口もない、
玉虫サイズの昆虫の集合体なのだ。
笑顔のはずがない……はずなのに。

でも、そう見えたのだから、もう仕方ない。

 

胸を高鳴らせながら、おっさんは扉をくぐった。
まるで少年に戻ったような気分で、
白蛇蒸留機の前へと──そして、そこで立ち止まる。



「……うおぉ……あんちゅーだっぺ何という事でしょう……」

蒸留機の蛇は、
いつの間にか“八つの頭”を持つ神々しい化け物へと姿を変えていた。

ひとつ、またひとつ……
滑らかな白金プラチナの胴体がトグロを巻き、艶やかにうねる。
伸びて、絡んで、時に空を仰ぐように首を振る。

──まるで、生きているかのように。

よく観察してみると──
八つの蛇の首は、根元で一本の太い胴にまとまっていた。

その胴は、隣にある発酵鍋へと管のようなものが繋がっていて、
そこから流れ出たばかりの、
まだ“酒の赤ちゃん”みたいなとろりとした液体が、
静かに流れ込んでいる。

蛇の身体は、その赤子のような酒を包み込むように揺れ、
まるで子守歌でも歌うかのようにゆったりとうねる。

そして──

内部でわずかに熱を帯びているのか、
液体がじんわり温まり、白く薄い蒸気が立ちのぼる。

その蒸気は、八つの蛇の頭の方へと導かれ、
艶めかしく揺れる首筋を伝って、
するすると上昇していった。

まるで、機械というより、何かの生き物が呼吸しているようだった。

八つに分かれた首で蒸留する──
その意味や仕組みは、おっさんにはまるでわからない。

ただ、どうやら首ごとに蒸留のペースが微妙に違っているようで、
それぞれの器官に液体がチャポンと溜まるタイミングもバラバラだ。

満ちた液体は、滑るように運ばれていく。
向かった先は、隣にそびえる──
まるでプロパンガスの何十倍もありそうな、銀色の巨大タンク。

そして──

ふと背後に目をやると、
すでに木樽に詰められ、
ひんやりとした空気の中で眠っている酒たちの姿があった。

あの一樽一樽の中に、
この白蛇の首から垂れてきた雫が詰まっているのかと思うと……
なんとも言えない、誇らしいような、じれったいような気持ちになる。

 

「楽しみなんだけんどもなぁ……
 こっから最低でも、数ヶ月は寝かせねぇと飲めねぇんだっぺ……」

ぽつりと漏れたため息が、

蒸気の余韻と一緒にゆらりと舞い上がった。

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