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第六話
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「サリウスの誕生日パーティー楽しかったな」
ケラケラと笑いながら帰りの馬車でパーティーの感想を言うジーク。
「次にサリウスに会うのは多分剣闘試合だな」
「剣闘試合って何?」
「リリアは知らないのか、年に一度開催されるイベントで武にたけた国の代表同士が出場して一番を決めるんだ。これに優勝した者は武人としての名前が一気に広がるから各国で行われる予選会もかなりの盛り上がりを見せる。本戦では各国の王様や王子も見に来るくらい盛大にやるんだ。今年はスペード王国が本戦開催予定地だったかな」
「そんなんだ。ダイヤ王国でも予選会やるの?」
「ああ、ヴォルも出る。あいつはかなり腕が立つから本戦出場も狙えるはずだ。絶対にめんどくさいって言うだろうが」
馬車の中で和気藹々とジークと会話しているリリア、それと同時刻ユリ・ジョーカーは黒いフードのついたローブを着て街中にある裏道に姿を消す。ユリが入っていたのは一見隠れ家的な酒場だった。酒場のマスターは椅子に座ったユリに注文を聞く。
「何になさいますか?」
「血のように濃いワイン」
「それでしたらこちらにどうぞ」
マスターはユリを店の壁まで案内する。マスターが壁につけられているボタンを押すと壁が動き地下に続く階段が出てくる。ユリは階段を下りていくとそこには赤ワインと二つのグラスが置いてある机一つと椅子が二つあるだけの小さな部屋に続いていた。一つの椅子には既に誰かが座っている。
「初めましてユリ・ジョーカーさん。貴方のことは調べてあるから自己紹介はしなくていいですよ。用件だけ聞きましょうか」
座っていたのは特徴のない普通の男だった。どこにでもいそうな雰囲気をまとっておりこの男が噂に聞く凄腕の呪術死とは信じられなかった。
「その前に一つ聞かせて。あなたが裏で活躍する呪い専門家呪術師ザパルで間違いないの?」
「ええ、その通りですよ。ザパルっていう名前は本名ではないですけどね」
「そう。ならあなたに依頼したいことがあるの」
「未来の王女様からの依頼とは光栄ですね」
「からかわないで頂戴、ある人物に呪いをかけて欲しいの。名前はリリア・ジョーカー、今はダイヤ王国で暮らしている」
「…実の姉に手をかけるのですか?」
「なに出来ないの?報酬は望む金額出すわよ」
「なるほど…分かりました、その依頼受けましょう。使う呪いもこの世で私一人しかできない特別なものを使わせて頂きます」
「ありがとう。これは前払い金、残りは呪いをかけた後ね」
用件を済ましたユリは足早にその場を立ち去る。こんなところを誰かに見られたらリリア暗殺の前に自分の身が危ないからだ。一人残ったザパルは赤ワインをグラスに注ぎながら一人つぶやく。
「あれはダメだな」
ダイヤ王国王都にて毎年行われる剣闘試合の予選会で王都はかなりの盛り上がりを見せていた。剣闘試合というだけあって試合が行われるのは闘技場になっており明確なルールも存在する。大まかなルールとして挙げられるのは三つ。一つ目は相手の殺害を禁ずる。二つ目は使用するのは木製の武器のみとする。三つ目、原則として試合の終了は相手の気絶もしくは戦闘続行不可能、降参宣言とする。
リリアはジークと共に闘技場のVIPルームで試合を観戦していた。というのもヴォルがこの予選会に出場しているからだ。二人はサービスとしてここのスタッフさんからもらったジュースを片手にヴォルの応援をしている。
「また勝った!」
ヴォルの対戦相手は利き手に一撃を貰い戦闘続行が難しい状況になったため降参を宣言しヴォルが勝利しこれで決勝に進出した。
「あいつは本気を出せば強いが決勝に行くといつも少し手を抜いて負けてしまう。僕も最初のうちは本気を出せって言っていたがもう諦めてしまった」
笑いながら話すジークはとても楽しそうだった。リリアもなんだかつられて笑顔になる。しかしそんなリリアの顔色が段々と悪くなっていることにジークは気づかなかった。
ヴォルの決勝戦が始まり試合は終盤に差し掛かっていた。相手の実力もなかなかのものだがヴォルが手を抜いて同等くらいだった。ヴォルはいつも通りわざと隙をみせて一撃を食らい負けようとしていた。そろそろ潮時かと思い負けに行こうとすると主であるジークの叫び声が聞こえる。
「リリア!!!どうした、しっかりしろ!!!!」
ヴォルはVIP席に視線を向ける。それを狙って対戦相手が攻撃してきたが対戦相手の意識はそこで途切れ気づいた時には医務室にいた。ヴォルは決勝戦が終わるとすぐにジークの元に駆けつける。そこでヴォルは意識を失い過呼吸を続けるリリアと必死に呼びかけるジークを見た。
「先生、リリアに何があったんですか?」
「おそらく呪いをかけられたのでしょう、しかもかなり高度な。私自身もこんな呪いは見たことが無い。現状で私が出来ることは何もありません」
申し訳なさそうに頭を下げる医師にお礼を言った後ジークにヴォルは報告をする。
「今回の剣闘試合予選において一名身元不明のスタッフが紛れ込んでいました。そのスタッフはVIP席の配膳担当をしていたらしくおそらくはその時に」
「犯人は見つけたのか?」
「はい。すでに拘束し尋問を開始しております」
「裏で指示した者がいるはずだ。それを吐かせろ」
「それがこちらの質問にかなり積極的に答えているようで首謀者もすでに明かしています」
「誰だ。誰がこんなことをしたんだ」
「リリア様の妹、ユリ・ジョーカーだと」
「……ふぅ、もしこれで僕がユリ・ジョーカーを殺した場合どうなると思う」
「スペード王国との戦争は避けられないかと」
ジークは少し考えるようなそぶりをしてヴォルを見つめる。
「ヴォル、剣闘試合本戦手を抜くことを断じて禁ずる。全力を出せ」
「かしこまりました」
ヴォルはこの時ほど真剣な顔のジークを見たことが無かった。
ケラケラと笑いながら帰りの馬車でパーティーの感想を言うジーク。
「次にサリウスに会うのは多分剣闘試合だな」
「剣闘試合って何?」
「リリアは知らないのか、年に一度開催されるイベントで武にたけた国の代表同士が出場して一番を決めるんだ。これに優勝した者は武人としての名前が一気に広がるから各国で行われる予選会もかなりの盛り上がりを見せる。本戦では各国の王様や王子も見に来るくらい盛大にやるんだ。今年はスペード王国が本戦開催予定地だったかな」
「そんなんだ。ダイヤ王国でも予選会やるの?」
「ああ、ヴォルも出る。あいつはかなり腕が立つから本戦出場も狙えるはずだ。絶対にめんどくさいって言うだろうが」
馬車の中で和気藹々とジークと会話しているリリア、それと同時刻ユリ・ジョーカーは黒いフードのついたローブを着て街中にある裏道に姿を消す。ユリが入っていたのは一見隠れ家的な酒場だった。酒場のマスターは椅子に座ったユリに注文を聞く。
「何になさいますか?」
「血のように濃いワイン」
「それでしたらこちらにどうぞ」
マスターはユリを店の壁まで案内する。マスターが壁につけられているボタンを押すと壁が動き地下に続く階段が出てくる。ユリは階段を下りていくとそこには赤ワインと二つのグラスが置いてある机一つと椅子が二つあるだけの小さな部屋に続いていた。一つの椅子には既に誰かが座っている。
「初めましてユリ・ジョーカーさん。貴方のことは調べてあるから自己紹介はしなくていいですよ。用件だけ聞きましょうか」
座っていたのは特徴のない普通の男だった。どこにでもいそうな雰囲気をまとっておりこの男が噂に聞く凄腕の呪術死とは信じられなかった。
「その前に一つ聞かせて。あなたが裏で活躍する呪い専門家呪術師ザパルで間違いないの?」
「ええ、その通りですよ。ザパルっていう名前は本名ではないですけどね」
「そう。ならあなたに依頼したいことがあるの」
「未来の王女様からの依頼とは光栄ですね」
「からかわないで頂戴、ある人物に呪いをかけて欲しいの。名前はリリア・ジョーカー、今はダイヤ王国で暮らしている」
「…実の姉に手をかけるのですか?」
「なに出来ないの?報酬は望む金額出すわよ」
「なるほど…分かりました、その依頼受けましょう。使う呪いもこの世で私一人しかできない特別なものを使わせて頂きます」
「ありがとう。これは前払い金、残りは呪いをかけた後ね」
用件を済ましたユリは足早にその場を立ち去る。こんなところを誰かに見られたらリリア暗殺の前に自分の身が危ないからだ。一人残ったザパルは赤ワインをグラスに注ぎながら一人つぶやく。
「あれはダメだな」
ダイヤ王国王都にて毎年行われる剣闘試合の予選会で王都はかなりの盛り上がりを見せていた。剣闘試合というだけあって試合が行われるのは闘技場になっており明確なルールも存在する。大まかなルールとして挙げられるのは三つ。一つ目は相手の殺害を禁ずる。二つ目は使用するのは木製の武器のみとする。三つ目、原則として試合の終了は相手の気絶もしくは戦闘続行不可能、降参宣言とする。
リリアはジークと共に闘技場のVIPルームで試合を観戦していた。というのもヴォルがこの予選会に出場しているからだ。二人はサービスとしてここのスタッフさんからもらったジュースを片手にヴォルの応援をしている。
「また勝った!」
ヴォルの対戦相手は利き手に一撃を貰い戦闘続行が難しい状況になったため降参を宣言しヴォルが勝利しこれで決勝に進出した。
「あいつは本気を出せば強いが決勝に行くといつも少し手を抜いて負けてしまう。僕も最初のうちは本気を出せって言っていたがもう諦めてしまった」
笑いながら話すジークはとても楽しそうだった。リリアもなんだかつられて笑顔になる。しかしそんなリリアの顔色が段々と悪くなっていることにジークは気づかなかった。
ヴォルの決勝戦が始まり試合は終盤に差し掛かっていた。相手の実力もなかなかのものだがヴォルが手を抜いて同等くらいだった。ヴォルはいつも通りわざと隙をみせて一撃を食らい負けようとしていた。そろそろ潮時かと思い負けに行こうとすると主であるジークの叫び声が聞こえる。
「リリア!!!どうした、しっかりしろ!!!!」
ヴォルはVIP席に視線を向ける。それを狙って対戦相手が攻撃してきたが対戦相手の意識はそこで途切れ気づいた時には医務室にいた。ヴォルは決勝戦が終わるとすぐにジークの元に駆けつける。そこでヴォルは意識を失い過呼吸を続けるリリアと必死に呼びかけるジークを見た。
「先生、リリアに何があったんですか?」
「おそらく呪いをかけられたのでしょう、しかもかなり高度な。私自身もこんな呪いは見たことが無い。現状で私が出来ることは何もありません」
申し訳なさそうに頭を下げる医師にお礼を言った後ジークにヴォルは報告をする。
「今回の剣闘試合予選において一名身元不明のスタッフが紛れ込んでいました。そのスタッフはVIP席の配膳担当をしていたらしくおそらくはその時に」
「犯人は見つけたのか?」
「はい。すでに拘束し尋問を開始しております」
「裏で指示した者がいるはずだ。それを吐かせろ」
「それがこちらの質問にかなり積極的に答えているようで首謀者もすでに明かしています」
「誰だ。誰がこんなことをしたんだ」
「リリア様の妹、ユリ・ジョーカーだと」
「……ふぅ、もしこれで僕がユリ・ジョーカーを殺した場合どうなると思う」
「スペード王国との戦争は避けられないかと」
ジークは少し考えるようなそぶりをしてヴォルを見つめる。
「ヴォル、剣闘試合本戦手を抜くことを断じて禁ずる。全力を出せ」
「かしこまりました」
ヴォルはこの時ほど真剣な顔のジークを見たことが無かった。
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