罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月

文字の大きさ
9 / 11

2話 真実

しおりを挟む
「グルマ家を潰してください」


 この一言が何を意味するのか、それを理解していないベルゾルではなかった。
 レレイナにはまだ復讐心があること。
 メイドとして近づいたのも復讐に利用するため。
 ただ一番可能性があった人間がベルゾルだっただけ。


 そんなことは言われなくても分かっている。
 分かっているが、君を失いたくはない。


 ベルゾルの瞳から光は消え、純粋な心に影が差した。


「分かった。その代わり願いを叶えた後は君は僕の物だ」

「身も心もベルゾル様に捧げることを誓いましょう」


◇◇


 時は戻り、グルマ家の隠し部屋。
 ベルゾルがつけた火により、積まれた紙の山は一瞬のうちに黒焦げと化す。
 

 バーファーはなんとか火の手を消そうとする。
 しかし火の手は強く何をしても消えない。


 ベルゾルは四苦八苦しているバーファーはを他所に隠し部屋を後にし、屋敷中に火をつけて回った。
 屋敷は火の海と化し、バーファーは執事に止められるまでひたすら権利書だったものをかき集めていた。
 しかし燃えカスとなった権利書に拘束力などあるわけはない。
 屋敷から非難し、木にもたれかかるバーファーは酷くやつれていた。


「終わりだ。もうグルマ家は終わりだ」

「旦那様、お気を確かに」

「これが正気でいられると思うのか。権利書は燃え、民から強引に奪った土地は使えなくなった。もしこのまま無理やり街道を作れば内乱は避けられんだろう。しかも莫大な金を浪費しておいて何も得られなかったのだ。グルマ家は王族の顔に泥を塗った。ただでは済まない。明日にでも私の死刑が宣告されるだろう」


 自分の将来に先が無いことを実感し、項垂れるバーファー。
 その原因となったベルゾルは姿を消し、残ったのは何故こんなことを起こしたのかという疑問だけだった。


「そのことなのですが、お耳に入れたいことがございます。先日塔へ派遣した衛兵についてです」

「派遣した衛兵が実は元バルメロ家直属の護衛隊長、その息子だった話か。確かに驚いたがそれがどうしたのだ?」


 塔の調査を任された見習い衛兵はバルメロ家とつながりがあった。
 しかしその事実自体は数か月前より把握している事。
 今更掘り下げることでもない。


「実はその男の目撃情報が手に入りまして。何でも美しい女性と共に行動していたとか」

「まさか」


 その言葉を聞き、バーファーの中で全てが繋がった。
 圧倒的な容姿、平民とは思えない素養そのどれもが彼女の正体を物語る。
 ベルゾルはあのメイドにたぶらかされ乱心したのだ。


「にわかには信じられませんが、まず間違いなくレナがバルメロ家の令嬢、レレイナでしょう。先程確認したところレナの行方が分からなくなっております。塔に隔離され5年、どのように生きていたのか見当もつきませんが」

「バルメロ家の教育は随分甘かったと聞く。一度姿を見た時、あの娘は驚くほどに肥えていた。その蓄えで何とか生き延びたのだろう」

「まさか。そんな馬鹿な話がございますでしょうか?」

「人の復讐心は時に国を潰す。あり得ない話ではない。しかし、そこまで恨んでいた家の息子と共になることなど私なら命を捨てでも拒否するがな」


 バーファーは文字通り何もかもを失ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

新妻よりも幼馴染の居候を優先するって、嘗めてます?

章槻雅希
恋愛
よくある幼馴染の居候令嬢とそれに甘い夫、それに悩む新妻のオムニバス。 何事にも幼馴染を優先する夫にブチ切れた妻は反撃する。 パターンA:そもそも婚約が成り立たなくなる パターンB:幼馴染居候ざまぁ、旦那は改心して一応ハッピーエンド パターンC:旦那ざまぁ、幼馴染居候改心で女性陣ハッピーエンド なお、反撃前の幼馴染エピソードはこれまでに読んだ複数の他作者様方の作品に影響を受けたテンプレ的展開となっています。※パターンBは他作者様の作品にあまりに似ているため修正しました。 数々の幼馴染居候の話を読んで、イラついて書いてしまった。2時間クオリティ。 面白いんですけどね! 面白いから幼馴染や夫にイライラしてしまうわけだし! ざまぁが待ちきれないので書いてしまいました(;^_^A 『小説家になろう』『アルファポリス』『pixiv』に重複投稿。

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

試した心算などなかった

章槻雅希
恋愛
拙作『試し行為なんて、馬鹿ですか』の元婚約者サイド。 試し行為をした結果、延々と後悔するだけの話で、最後まで自分が悪かったと気づくことはありません。 ネタだしから書き上げるまでに間が空いたので今更感ありますが、勿体ない精神で書き上げて投稿。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

リリー・フラレンシア男爵令嬢について

碧井 汐桜香
恋愛
王太子と出会ったピンク髪の男爵令嬢のお話

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

処理中です...