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先生の家に泊まる①
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「おい! 早く逃げろ!」
荒々しくドアを開けるなり、おじさんは大声で怒鳴った。
「……え?」
いつも通りおじさんとのセックスに備えてシャワーを浴び、ショーツに脚を通していた僕はそのままの姿勢で固まった。
そんな僕の肩に、靴も脱がず部屋の中に入ってきたおじさんが両手をかける。だがそれはいつものように僕の身体を強引にベッドへ引っ張っていくためではなかった。
「女房にバレた! おまえを殺すって言って包丁持ってここに乗り込んでくる!」
「そんな!」
青天の霹靂もいいところだった。
おじさんに奥さんがいたことも初耳だったが、それ以上にいつの間にか自分が不倫相手にされていたことにびっくりだった。
正直、おじさんの家庭のことなど僕の知ったことではない。けれども奥さんが包丁を持って僕を殺しに来るということなら話は違ってくる。
「こいつは餞別にくれてやる!」
「え!?」
ようやく制服を着終わった僕に、おじさんは何枚かのお札を握らせた。そしてベッドの横に転がっていた鞄を押しつけ、そのまま玄関まで押し出すようにして僕をドアの外へ追い出した。
「――いいか!? おまえはもうしばらくここに戻ってくるな!」
「……」
履きかけのローファーのかかとを踏み、くしゃくしゃのお札を握りしめて僕は呆然と立ち尽くした。
けれどもすぐ、包丁を持った奥さんが迫っているという事実を思い出し、大急ぎで靴を履いて僕は駆け出した。
* * *
「はぁ……」
――翌日、誰もいない放課後の教室で僕は溜息をついていた。
おじさんに部屋を追い出されたあと、仕方なくネカフェで一夜を過ごした。
別れ際におじさんに握らされた万札は二十一枚で、それはちょうど僕が払えずにおじさんの愛人となることを受け入れた滞納家賃と同じ額だった。
それはとりもなおさず、このゲームを購入するために僕が支払った対価でもある。……この二十一万という金額に何か因縁のようなものでもあるのだろうか。
「……どうしようかなあ」
問題は今夜どこに泊まるかだった。あの部屋を追い出された今、僕には寝泊まりする場所がないのだ。
しばらく戻るなというおじさんの言葉を聞くまでもなく、殺意に満ちた奥さんが待ち構えているかも知れないあの部屋に戻るのは危険すぎる。
またネカフェに泊まるという選択肢もあるが、女子高生がネカフェに何泊もするのはハードルが高い。かといってホテルに泊まれば二十一万などすぐ使い果たしてしまう……。
「……神待ち、かなあ」
……やはりそれしかないのだろうか。
神待ち掲示板――言わずと知れた家出少女と神とをつなぐ裏掲示板だ。神はたいていモテないおっさんだが、寝る場所と食事は用意してくれる。
……ただ、かなりの高確率で性的なコミュニケーションを要求されるというデメリットはあるけれども。
「……ヤられるんだろうなあ」
神であるおっさんとマックで面接し、腰に手をまわされてその家へ連れ込まれる自分の姿を想像して――悔しいことに僕がいだいたのは恐怖ではなく欲情だった。
……はじめて会ったばかりの男に仕方なく身体を開くというシチュエーションに、お腹の奥が物欲しそうにきゅんきゅんと疼きはじめるのを感じる。
……最低だった。おじさんと爛れた愛人関係を続けた半月余りの間に、僕の身体は男の欲望を悦んで受け入れる雌犬のそれにつくり変えられてしまった……。
「――お、なんだマコト。まだ帰ってなかったのか?」
「え……あ、先生」
おもむろにドアを開け教室に入ってきた先生に、僕は思わず顔をあげた。
窓から射し込んでくるあかあかとした夕日を受け、先生は「仕方がないな」というように少し困った笑みを浮かべた。
「もうすぐ施錠時間だぞ。マコトが帰ってくれないと、先生は学校に泊まることになる」
「あ……すみません。すぐ帰ります」
担任の先生はクラスの女子を苗字ではなく名前で呼ぶのだ。
それがまたこのイケメン教師に親しみをいだかせる要因になっているのだが、このときばかりは男のときと変わらない本名で呼ばれたことで、どこか先生から突き放されたような気持ちになってしまった。
「……どうかしたのか?」
「……っ!」
先生の脇をすり抜けようとして、腕をつかまれた。
痛くないようにあくまでやさしく腕をつかむ先生の手は、けれども僕を教室から出ていかせようとしない。
「悩みごとがあるなら先生に言えって、いつも言ってるだろ?」
思わず顔を向ける僕に、先生はそう言って破顔して見せた。
夕日に満たされる教室に先生の白い歯がキラリと輝き、僕は思わずきゅんとしてしまった。
「……実は今夜、寝るところがなくて」
思わず言ってしまった。一瞬、先生は驚いた顔をし、だがすぐにやさしい笑顔に戻って「そうか」と言った。
「事情は、先生にも話せないのか?」
先生の言葉に、僕は無言でうなずいた。
「だったら、今夜は先生の家に泊まるか?」
――――――――――――――――――
1.先生の家に泊めてください。
2.そんなことできません。
※いずれか一方を言葉にして下さい。
――――――――――――――――――
荒々しくドアを開けるなり、おじさんは大声で怒鳴った。
「……え?」
いつも通りおじさんとのセックスに備えてシャワーを浴び、ショーツに脚を通していた僕はそのままの姿勢で固まった。
そんな僕の肩に、靴も脱がず部屋の中に入ってきたおじさんが両手をかける。だがそれはいつものように僕の身体を強引にベッドへ引っ張っていくためではなかった。
「女房にバレた! おまえを殺すって言って包丁持ってここに乗り込んでくる!」
「そんな!」
青天の霹靂もいいところだった。
おじさんに奥さんがいたことも初耳だったが、それ以上にいつの間にか自分が不倫相手にされていたことにびっくりだった。
正直、おじさんの家庭のことなど僕の知ったことではない。けれども奥さんが包丁を持って僕を殺しに来るということなら話は違ってくる。
「こいつは餞別にくれてやる!」
「え!?」
ようやく制服を着終わった僕に、おじさんは何枚かのお札を握らせた。そしてベッドの横に転がっていた鞄を押しつけ、そのまま玄関まで押し出すようにして僕をドアの外へ追い出した。
「――いいか!? おまえはもうしばらくここに戻ってくるな!」
「……」
履きかけのローファーのかかとを踏み、くしゃくしゃのお札を握りしめて僕は呆然と立ち尽くした。
けれどもすぐ、包丁を持った奥さんが迫っているという事実を思い出し、大急ぎで靴を履いて僕は駆け出した。
* * *
「はぁ……」
――翌日、誰もいない放課後の教室で僕は溜息をついていた。
おじさんに部屋を追い出されたあと、仕方なくネカフェで一夜を過ごした。
別れ際におじさんに握らされた万札は二十一枚で、それはちょうど僕が払えずにおじさんの愛人となることを受け入れた滞納家賃と同じ額だった。
それはとりもなおさず、このゲームを購入するために僕が支払った対価でもある。……この二十一万という金額に何か因縁のようなものでもあるのだろうか。
「……どうしようかなあ」
問題は今夜どこに泊まるかだった。あの部屋を追い出された今、僕には寝泊まりする場所がないのだ。
しばらく戻るなというおじさんの言葉を聞くまでもなく、殺意に満ちた奥さんが待ち構えているかも知れないあの部屋に戻るのは危険すぎる。
またネカフェに泊まるという選択肢もあるが、女子高生がネカフェに何泊もするのはハードルが高い。かといってホテルに泊まれば二十一万などすぐ使い果たしてしまう……。
「……神待ち、かなあ」
……やはりそれしかないのだろうか。
神待ち掲示板――言わずと知れた家出少女と神とをつなぐ裏掲示板だ。神はたいていモテないおっさんだが、寝る場所と食事は用意してくれる。
……ただ、かなりの高確率で性的なコミュニケーションを要求されるというデメリットはあるけれども。
「……ヤられるんだろうなあ」
神であるおっさんとマックで面接し、腰に手をまわされてその家へ連れ込まれる自分の姿を想像して――悔しいことに僕がいだいたのは恐怖ではなく欲情だった。
……はじめて会ったばかりの男に仕方なく身体を開くというシチュエーションに、お腹の奥が物欲しそうにきゅんきゅんと疼きはじめるのを感じる。
……最低だった。おじさんと爛れた愛人関係を続けた半月余りの間に、僕の身体は男の欲望を悦んで受け入れる雌犬のそれにつくり変えられてしまった……。
「――お、なんだマコト。まだ帰ってなかったのか?」
「え……あ、先生」
おもむろにドアを開け教室に入ってきた先生に、僕は思わず顔をあげた。
窓から射し込んでくるあかあかとした夕日を受け、先生は「仕方がないな」というように少し困った笑みを浮かべた。
「もうすぐ施錠時間だぞ。マコトが帰ってくれないと、先生は学校に泊まることになる」
「あ……すみません。すぐ帰ります」
担任の先生はクラスの女子を苗字ではなく名前で呼ぶのだ。
それがまたこのイケメン教師に親しみをいだかせる要因になっているのだが、このときばかりは男のときと変わらない本名で呼ばれたことで、どこか先生から突き放されたような気持ちになってしまった。
「……どうかしたのか?」
「……っ!」
先生の脇をすり抜けようとして、腕をつかまれた。
痛くないようにあくまでやさしく腕をつかむ先生の手は、けれども僕を教室から出ていかせようとしない。
「悩みごとがあるなら先生に言えって、いつも言ってるだろ?」
思わず顔を向ける僕に、先生はそう言って破顔して見せた。
夕日に満たされる教室に先生の白い歯がキラリと輝き、僕は思わずきゅんとしてしまった。
「……実は今夜、寝るところがなくて」
思わず言ってしまった。一瞬、先生は驚いた顔をし、だがすぐにやさしい笑顔に戻って「そうか」と言った。
「事情は、先生にも話せないのか?」
先生の言葉に、僕は無言でうなずいた。
「だったら、今夜は先生の家に泊まるか?」
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1.先生の家に泊めてください。
2.そんなことできません。
※いずれか一方を言葉にして下さい。
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