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家出少女④

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「んー……」

 昼下がり。見れば見るほど何もない先輩の部屋で僕は一人、自分の置かれた状況について考えていた。

 結局、起きてからここまで、僕は先輩の家から一歩も外に出ていない。理由はそれだけではないが、ひとつには外に出る必要がなかったからだ。

 昨日の夜、僕が食べなかったパンは、そのままキッチンに残されていた。あのとき先輩が言っていたように冷蔵庫には牛乳が入っていたから、そのふたつでとりあえずお腹は満たすことができた。

 あと、外に出る用事があるとすれば服だ。

 昨日『5歳若返ってゲームを続ける』を選択したとき、運営の配慮からか服装も合わせて小さいサイズにしてもらえたが、予備の服までは用意してくれなかった。だから僕が着ることができる服は、今着ているこれだけなのだ。

 思春期の女子としては、この一着をずっと着続けているのはさすがに恥ずかしい。少なくとも下着は何枚か欲しい。

 けれどもここにたどり着くまでの交通費でなけなしのお金は使い切ってしまったし、先輩にもらった千円でまともな服は買えない。

 ……そういうわけで、着の身着のままで逃げだしてきた家出少女らしく、こうして昨日と同じ服でいるしかないのである。

「はぁ……それにしても……」

 再び先輩の部屋を見回して、本当に何もない部屋だと思った。

 テレビでもあればそれを観て過ごすこともできるのだけれど、それもないのでは手持ち無沙汰な時間を持て余してしまう。

 お金はなくたって外に出れば――そう思って、だがやはり僕はこの何もない部屋の中にとどまることを選ぶ。

『不要の外出は控えてほしい。理由はわかっていると思う』

 法律に背いて子供を匿っている者としてあまりにも正当なその言いつけを守るためだ。

「けど、先輩って……」

 昨夜の一連のやりとりを経て、僕の中で先輩の評価は180度変わった。

 我ながら現金だと思うのだけれど、やさしく紳士的に扱ってもらったことで先輩のことを見直してしまったのだ。

 もちろん男としての先輩を女子として好きになったわけではない。だが僕は二度と先輩のことをキモデブだのロリコンだのといった軽蔑的なあだ名で呼ぶことはできないし、実際、もうキモいとも思わない。

 そればかりか人間として……いや、男として尊敬すべき部分が先輩には多々あるように思えてくる。

 まず何より、僕のように素性の知れない子供を何の見返りも求めずに匿ってくれたのが尊い。

 現時点でどうかはわからないが、SNSでやり取りしていた時点で先輩は僕のことを男の子だと思っていたのだ。はっきりそう確信していたかどうかまではわからない。だがいきさつを考えれば、逆に僕が女の子であるという確信も先輩は持っていなかったはずなのである。

 つまり、先輩は性別不詳の子供を、その子が困っているからというただそれだけの理由で、自分が破滅する危険を省みず匿ってみせたのだ。

 これはもう『惚れてまうやろー!』といったレベルの男気である。

 次に、僕を家に入れたあと根ほり葉ほり聞かずに放っておいてくれたこと。これがまた尊い。

 年端もいかない子供がDVを臭わせて駆け込んできたのだから、普通は色々と聞きたいことがあるはずである。

 それなのに先輩は僕に何も、名前すら聞かずに放っておいてくれた。

 僕は実際にDVで逃げてきたわけではないが、仮に僕が本当にそれ系の事情で逃げてきた子供だったとしたら、昨夜の先輩の対応はどれほどありがたかったことだろう。

 あのぶっきらぼうな物言いも、そんな先輩のやさしさの裏返しと見ることができる。

 そして最後に、もし先輩が昨夜の段階で僕のことを女の子だと見抜いていた場合、手を出さずにガマンしたことが何より尊い。

 ロリコンの先輩にとって、このロリ美少女とひとつ屋根の下に何もせず一夜を過ごすことが、どれほどの精神力を要するものであったかは想像するに余りある。

 ……いや、そもそも先輩は本当にロリコンなのだろうかという疑問さえわいてくる。

 ロリコンだの変態性欲者だのと、先輩はその手の悪意ある噂に事欠かなかったわけだけれど、その噂が本当かどうかなんて誰も気にしなかった。

 先輩を嫌う誰かが何の根拠もなく流していた噂かも知れないのだ。

 逆に昨夜の出来事を客観的にみれば、先輩はロリコンではなく健常な性嗜好の持ち主であるか、あるいはロリコンであっても『YES!ロリータ NO!タッチ』を地でゆく変態紳士であるという結論が導き出される。

 どちらにしても、あれほどの悪評を立てられるいわれはないのである。

 まとめると、僕が転がり込んだこの家のあるじは、ロリっ子とみれば盛りのついた犬のように襲いかかってくる身勝手でコミュ障の犯罪者予備軍ではなく、不器用だが義侠心に富み繊細な心配りすら忘れない稀に見る高潔な人物ということになる。

「ほんとにあの先輩と同じ人なのかな……って、待てよ?」

 そう考えて――今さらだがこの仮想現実世界になぜの人物であるはずの先輩がいるのだろうという疑問に突き当たった。

 フルダイブ型VRシステムをベースにしているとはいえ、ここはあくまでゲームの中である。そのゲームの中にリアル世界の住人である先輩がフツーに生活しているというのはいったいどういうことなのだろう……。

「リアルを……トレースしてる?」

 可能性として真っ先に浮かんでくるのはそれだ。この仮想現実世界がリアルをトレースしたものだとすれば、先輩がこのゲーム内にいることの説明はつく。

 ただそうなると、どこまで忠実に現実の世界をトレースしたものかということが問題になってくる。それがとりもなおさずさっきの先輩に関する疑問の答えだ。

 パーソナリティーまで厳密にトレースしているのであれば、僕が昨日見ていた先輩はあちらの先輩と同一人物ということになる。

 けれどもフレームだけトレースして細部はAIまかせということであれば、昨日のあの人は僕が知っている先輩とは別人物ということに……。

「……まあいいや。そんなの考えたって仕方ない」

 メタな問題に入りかけた頭をぽかぽかと叩いて僕は考えを切り替えた。

 そう……そんなことはどうだっていい。さしあたって僕が考えなければいけないのは、もっと別のことだ。

「……これからどうしよう」

 今、僕が考えなければいけないこと……それはここからの僕の身の振りだった。

 もっと具体的に言えば、このまま先輩の家にやっかいになり続けるか、それともここを出て別の神を探すかということだ。

 ――僕がここに来たのは、女としての自分を先輩に滅茶苦茶にしてもらいたかったからだ。

 キモデブと呼んで嫌悪していた先輩に無理やり処女を奪われることで、先生への恋心を殺してもらおうと思ったのだ。

 だが、その枠組みは前提からして崩れてしまった。僕の中で先輩が『キモいロリコンの犯罪者予備軍』から『ブサイクだけど人間としては格好いい人』に変わってしまったからだ。

 今の僕なら先輩に奪われてもきっとそれほどの嫌悪を感じない。

 むしろ一宿一飯の恩に報いるため、もし先輩が望むのならセックスでもなんでも受け入れるべきだと考える自分さえいるのだ。

「そう……そうだよ」

 思えば先輩は最大限の誠意をもって僕に接してくれた。その見返りに僕がなにを返せたというのだろう?

 ……なにも返せていない。逮捕のリスクを負ってまで匿ってくれた先輩に、僕は何も返せていないのだ。

 ましてこのまま僕がこの家にとどまり続けることは、先輩にとってそのリスクがずっと続くことを意味する。

 このロリ美少女の処女バージンをモノにできるくらいのメリットがなければとても見合わない。先輩にばかり貧乏くじを引かせるわけにはいかないのだ。

 先輩は誠意をもって接してくれた。誠意には誠意でこたえなければならない。

「……よし」

 僕は決意を固めた。

 今夜、先輩が僕に手を出してくるかどうかによって、今後の身の振りを決めることにしたのだ。

 昨夜と同じように今夜も先輩が僕に手を出してこなかったとしたら、先輩はまったくの善意から僕を匿ってくれていたということになる。

 そんな聖人のような人にこれ以上迷惑はかけられない。明日の朝、先輩にお礼を言って僕はこの家を出てゆく。

 逆に今夜、先輩が僕に手を出してくるようなら、僕は逆らわず、先輩の欲望に身を委ねればいい。

 それで先輩はリスクに見合ったものを手にすることができる。……それにもともとそうなる予定の物語シナリオだったのだ。

「……」

 ……ここでこんな決心をしても、いざそのときになれば僕はまた怯えるのだろう。

 また昨日のように涙を流し、ぎりぎりになって先輩を拒む気持ちになってしまうかも知れない。

 けれど、そうなっても抵抗だけはするまいと僕は心に誓った。


【ボクにできることならなんでもします。お願いします。どうかボクをかくまってください】


 昨日、先輩に送ったSNSのメッセージを読み返して、僕は決意を新たにした。

 先輩は誠意をもって接してくれた。誠意には誠意でこたえなければならない。

 この身ひとつ以外なにも持っていない僕にとって、先輩に差し出せるものは僕自身しかないのだ。

* * *

「おかえりなさい!」

「……」

 玄関に駆けてきて出迎える僕に、先輩はさすがに驚いた顔をした。

 先輩は何も言わずに靴を脱ぎはじめる。予想した通りの反応だったので、靴を脱ぎ終わり中へ入ってこようとする先輩に、僕はもう一度おなじ言葉をかけた。

「おかえりなさい!」

「……ただいま」

 ムスッとした小さな声で、先輩は挨拶を返してきた。その反応に満足し、僕は先輩のあとについて部屋の中へ入った。

 それから僕たちは、先輩が買ってきてくれたコンビニ弁当を一緒に食べた。

 最初、先輩は僕に弁当を渡すだけ渡し、自分は机で食べようとしたが、僕が強くお願いし続けると根負けしたように一緒に食べることに同意してくれた。

 といってもテーブルなどないから、先輩はあぐらをかき、僕は女の子座りで二人とも床に座って食べる奇妙な夕飯だった。

「……名前は?」

「え?」

「おまえの名前だよ。いつまでも名無しじゃ不便でしょうがない」

「その……マコト」

「……同じ名前のやつがいたな」

「え?」

「職場に同じ名前のやつがいた。ちょっと前にいなくなっちまったけど」

 先輩の口から飛び出してきた話に、僕は思わずドキッとした。

 男だった僕がこの仮想現実世界にいた……先輩の言っていることはそういうことなのだろうか。

「……どんな人だったんですか、その人」

「可もなく不可もなくってやつだよ。成績も職場での存在感も」

 弁当をかっこみながらそう言う先輩の言葉に、僕は内心に苦笑した。研究室での僕は、確かにそんなポジションだったからだ。

「なんでいなくなっちゃったの?」

「そんなの俺が知るか。いきなり職場に来なくなったんだよ」

 やはりそうだったのだ。男だった僕がこの町に……。そんな僕の感慨は、先輩の次の一言によってかき消された。

「ずいぶん捜してもみたんだけどな」

「え……」

「下宿とか実家とか。けど、どこももぬけの殻だった。……ったく、どこ行っちまったんだか」

 先輩が僕を捜してくれていた――はじめてそのことを知り、胸の奥にあたたかいものが広がってゆくのを感じた。

 やっぱりこの人はいい人だ。そう思って僕も先輩に倣って弁当をかっこんで食べた。

「その人、ボクに似てた?」

「……ん?」

「おんなじ名前だから。ボクに似てるかと思って」

「名前は同じでも、そいつは男だぞ」

「ボクだって男の子だよ?」

 そう言って、僕はからかうように上目遣いで先輩を見た。

 先輩は一瞬面食らったような顔をし、だがすぐに元の仏頂面に戻って「そうだったな」と言った。

「おまえには全然似てなかったよ」

「そうなの?」

「ああ。全然似てなかった」

 そのあと先輩は黙ってしまい、弁当を食べ終わるまで何も喋らなかった。



「それ、昨日のままだろ」

 再び先輩が口を開いたのは、僕がシャワーを浴びようとユニットバスに入りかけたときだった。

「え?」

「服だよ。昨日着てたやつそのままだろ。昼間洗濯しなかったのか?」

「……してないです」

「着替え、持ってないのか?」
 
「……持ってないです」

「仕方ないな。待ってろ」

 先輩はそう言って玄関の側にまわり、クロゼットの中をごそごそとやったあと、また部屋に戻ってきた。

「これ、着ろ」

「え? お兄さんの服?」

「他に誰の服があるんだよ」

「でも……サイズが合わないんじゃ……」

 ドラム缶のような体型の先輩を見つめながら、先輩が気分を害さないように言葉を選んだ。

 けれども先輩はそんなのは折りこみ済みだといったように「痩せてたときのやつだ」と言った。

「え?」

「俺がまだ痩せてたときのやつだ。それでも大きいだろうけどな」

「……」

「今夜おまえが寝てる間に洗濯しといてやる。そうすりゃ明日も着られるだろ」

「あ……はい。ありがとうございます」

 なるほどそういうことかと、僕は先輩が差し出すその服を受け取った。

 何も考えてないように見えて、こんなところにまで気配りを忘れない……やっぱりこの人はいい人だと思った。

 けれどもその服を抱えて洗面所に入り、どんな服だろうかと広げてみたところで、あまりにもあんまりなそのに僕はドン引きしてしまった。

「うわぁ……」

 男物の上下一揃い……上の開襟シャツはまあいいとして、下はなんとトランクスだったのだ。

 まがりなりにも女子にこれを履けといういうのはいくらなんでも……。そう思って、僕は今もって自分が女の子であることを先輩にカミングアウトしていなかったことに気づいた。

「ひょっとして先輩、まだボクのこと男の子だと思ってるのかな……」

 開襟シャツにトランクス……部屋に転がり込んできた小学生の男の子に貸し与えるとすれば、たしかにそれほどひどいチョイスでもない。

 さっき一緒に弁当を食べていたときの様子では、先輩はもうとっくに僕が女の子であることに気づいていると思ったのだけれど、そうでもなかったのだろうか……。

 なんとなく釈然としないものを感じながら僕は服を脱ぎ、シャワーを浴びるためユニットバスの折り戸を開けた。



「……シャワーいただきました」

 シャワーを浴び終わり、先輩から借りた服を着て部屋に戻った僕は、ある理由でまったく落ち着かなかった。

 先輩の言う通り、服はぶかぶかだった。

 開襟シャツは胸元がV字に切り込んだカジュアルなもので、痩せていた頃とはいえ先輩がこんな服を着ていたとはとても信じられない。

 何より襟口が大きく開きすぎているうえにぶかぶかなものだから、上から覗き込めばブラジャーをつけていないおっぱいがモロに見えてしまう。

 だがそれ以上に問題なのがトランクスだった。

 これも先輩には似つかわしくない派手な柄のトランクスだが、さすがに腰回りに無理があったようで、どうにかおしりに留まっていてくれるものの少しでも早足に歩けばずり落ちてきてしまう。

 こんなところで女の子の下半身を露出すれば、先輩がロリコンでなくても襲われてしまうだろう。

 だから僕は早々にブランケットをかぶることにした。ブランケットをかぶってしまえばシャツの胸元が開いていても、トランクスがずり落ちてきても問題ないのだ。

「あの……今日はボク、どこで寝ればいいですか?」

 先輩は昨日と同じように机に向かい、ノートパソコンのキーボードを叩いていた。

 僕の質問に先輩はこちらに背中を向けたまま、いかにも面倒くさそうに「昨日と同じでいいよ」と言った。

「え?」

「昨日と同じようにベッドで寝ていい」

「お兄さんは……今夜も徹夜ですか?」

「……そんな毎日徹夜できるかよ。職場から寝袋持ってきたから、俺はそれで寝る」

 見れば先輩の机の横には、昨日はなかったシュラフの袋が立てかけられていた。

 たしかに寒い季節ではないし、寝袋で寝ても風邪をひくことはないだろう。でも……。

「お兄さん、寝袋を床に敷いて寝るの?」

「……そうだけど?」

「背中が痛くてよく眠れないんじゃない? 昨日も徹夜したみたいだし……」

 そう言ったのは、僕なりの気遣いだった。

 僕を家に置いてくれていることが先輩の負担になっているのはわかっている。だから、その負担を少しでも軽くしたかった。

 そんな僕の言葉に、先輩はやおらこちらに顔を向けて言った。

「だったら、俺もベッドでおまえと一緒に寝ていいか?」

「……」

 一瞬、僕は返答に詰まった。先輩はどこか責めるような目で、じっと僕を見ていた。

「……ボクは、それでもいいよ」

 何度かためらったあと、僕はそんな返事を返していた。

 先輩は表情を変えないまま、また元通り机に向き直ると、溜息をつくような声で「もう寝ろ」と言った。

「……はい。おやすみなさい」

 ……最後の最後で気まずい雰囲気になってしまった。そう思いながら僕はベッドに向かい、頭からブランケットをかぶった。

 先輩が椅子を引いて立つ音がし、部屋の照明が落とされた。昨日と同じ流れだった。

(……やっぱり、先輩は普通にいい人だったのかな)

 相変わらず先輩の臭いがするブランケットにくるまりながら、僕はそう思った。

 ほとんど喋らずに過ごした昨日とは違い、今夜は僕から話しかけたこともあってそれなりに話が弾んだ。

 それでも先輩は最後まであのつっけんどんな態度だったし、僕に手を出してくることもなかった。

 僕にはそれが、先輩がロリコンなどではなかったという何よりの証拠であるように思われた。

(……朝になったら、この家を出よう)

 そう思って、僕は目をつぶった。

 ……明日に目を覚ましたとき、今朝のように先輩はもういないかも知れない。そのときは感謝の気持ちをこめて書置きを残してゆこう。

 本当はちゃんと先輩に言葉でお礼が言いたい。けど、照れくさいし上手く言えるかわからない。

 たった二晩過ごしただけだけれど、先輩とも明日でお別れだと思うと、なんだか少し寂しかった。

 僕があの先輩相手に別れるのが寂しいだなんて……。

 そんなことをつらつらと考えながら、僕はゆっくりと眠りの淵へ落ちていった――

* * *

「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」

 ――暗闇の中に荒い息づかいが聞こえた。

 その音でぼんやりと目を覚ました僕は、半分まどろんだまま薄目をあけた。

(え……)

 鼻先が触れ合うほど間近に、先輩の顔があった。

 僕の顔をじっと見つめていた先輩は、やがて荒い息をつきながら僕のみぞおちのあたりに手を伸ばした。

(あ……)

 シャツのボタンがひとつ、またひとつと外されてゆくのがわかった。

 ゆっくりと時間をかけてすべてのボタンを外してしまうと、先輩は僕のシャツの前を大きく開いた。

 ひやりとした夜気が肩のあたりからおへその下までを撫でた。それで、裸になった上半身が先輩の視線にさらされたのがわかった。

(……先輩が……僕をイタズラしにきた)

 そう思ってすぐ、トランクスが僕の脚から引き抜かれた。ほとんど抵抗もなしに、脱がされたことに気がつかないほどの手際で簡単に脱がされてしまった。

 ――先輩が僕にこのトランクスを貸し与えたのは、こうして脱がせるためだったのだろうかと思った。

「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」
 
 上から荒い息づかいが聞こえた。先輩の息づかいだった。

 けれどもさっきよりは遠い。少し離れたところに顔があるのだ。

 そう思って……もう何も身に着けていない僕の身体を、先輩が凝視しているのだとわかった。

(……からかったからかな)

 暗闇の中、何もつけていない身体に先輩の視線が突き刺さるのを感じながら、こうなってしまったのは僕が先輩をからかったからだろうかと思った。

 自分は男の子だと言ってみたり、先輩と一緒のベッドで寝てもいいと言ってみたり……そんなことを言ってからかっていたから、先輩はその気になってしまったのだろうか――

「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」

「……ぅん」

 大きな身体が覆いかぶさってくる感覚に続いて首筋に生じたなまめかしい感触に、僕はつい小さなあえぎ声をもらした。

 もぞもぞと肌の上を這いまわる先輩の唇の感触は首筋からゆっくりと降りてゆき、やがてやわらかな膨らみの先端にある小さなつぼみにたどり着いた。

「……ぁ……ぁぁ……」

「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ」

 乳首にたどり着くと、先輩はたがが外れたように激しくそこにしゃぶりついた。音を立てて吸い上げ、ベロベロと舐めまわし、愛おしむように頬を擦りつけてきたりもした。

 右の胸から左の胸へ。顔全体で淡い膨らみのやわらかさを味わうように……かと思えばまた乳首に戻って飢えたけもののようにそこにむしゃぶりつく。

 両手で僕の肩を押さえつけ、荒い息をつきながら先輩は狂ったように僕のおっぱいを貪った。

「……ぁっ……ぁ……ぁぁ……」

 先輩の執拗な愛撫に、僕は声をおさえることができなかった。

 誰にも触れさせたことがなかったそこを、大人の男が欲情にまかせて好きなように貪っていることを思うと、身体の芯が痺れたようになって動けない。

 不安と恐怖に押し潰されそうで、自分がもう目を覚ましていることをはっきり口にできないまま、身を固くして寝ているフリを続けることしかできない。

(……そうだよね……ボクの方から誘ったようなもんだよね)

 先輩の顔が下におりてきた。おっぱいからお腹へ……鼻息荒くおへそのあたりに顔を擦りつけ、そこからまたゆっくりと下へおりてくる。

 そして、先輩の頭は僕の股間の上で止まった。

 そのまま動かない。……先輩の顔は、僕の股間の上で止まったまま、いつまでも動かない。

(……先輩は悪くない……だってボクが誘惑したんだから)

 僕の股間を、先輩が食い入るように見つめているのがわかった。

 目を向けなくても、ひりつくような先輩の視線が脚のつけ根にじっと注がれているのを皮膚感覚として感じた。

 あそこが濡れはじめているのがわかる……けれども何のために濡れているのかわからない。

 大きなペニスが膣内に突き入れられたとき傷つかないようにするための生理的な防衛反応なのか……それとも先輩のそれが自分の中にもぐりこんでくることを心のどこかで期待しているからなのか……わからなかった。

(……先輩はボクと……セックスしたいんだよね……だったら、ボクはあげなきゃ……)

 先輩は僕の股間を凝視したまま動かなかった。

 ちりちりとやけつくようなその視線にお腹の奥が疼きはじめるのを感じながら、もう覚悟を決めなければならないと思った。

 そのとき、先輩の手が僕の両脚をつかんで左右に大きく押し開いた。

 荒い息づかいがゆっくりと降りてきた。

 先輩の頭が僕の脚の間にねじこまれるように下へ下へとさがってきて、やがてぬめっとした温かいものが僕のあそこに触れた。

「……ぁ……んっ……ぁぁ……」

 最初は遠慮がちにペロッ、ペロッとクリトリスのあたりを舐めていた先輩の舌は、すぐ味をしめたようにベロベロと淫唇をくまなく舐めまわしはじめた。

 先輩は両腕で僕の両脚をしっかりと抱え込み、その間に頭を突っ込むようにして僕のあそこをねぶりまわした。

 だから僕が身をよじっても脚に力を入れても先輩の頭は僕の股間から離れず、まだ男を迎え入れたことがない僕のあそこを執拗に貪り続けた。

(……ちゃんと舐めて濡らしてくれてる……でも……やっぱり痛いんだろうな……)

 僕の手はいつの間にか先輩の髪をつかみ、その頭を股間から押し戻そうといっぱいに力をこめていた。

 心では先輩にすべてあげようと決意してはいても、まだ男を受け入れるだけの成熟を果たしていない身体は、先輩の大きなペニスによって純潔が破られることを本能的に拒んでいる……。

 そう思ったとき、先輩の頭が僕のあそこから離れた。

 カチャカチャと先輩が気ぜわしくベルトを外す音を聞きながら、いよいよだと思った。

 そこを至っても僕はまだ寝たフリを続けていた。

 ……身体が小さく震えている。両脚は左右に開かれたままで、その間にはうすい繊細な膜がついた女性器が可愛らしく口を開いているのだろう。

 その未成熟な女性器は、これからはじめて男を迎え入れる。限界まで勃起した大人のペニスが膣内なかに入ってきて、その過程で処女膜を破られるのだ。

 苦痛はそのあとも続くのだろうし、最後はきっと膣内なかに出されるのだろう。

 だがそれよりも、僕は先輩の大きなペニスによって初体験ロストバージンを迎える、その瞬間の痛みが怖かった。

(……どんなに痛くたって……ガマンしなきゃ……先輩がしたいなら……ガマンして受け入れなきゃ)

「……ハァッ! ……ハァッ! ……ハァッ! ……ハァッ!」

 ひときわ荒い息づかいがおこって、それが近づいてきた。

 大きく開いたままの脚の間に、堅く大きなものの先端が触れた。

 先輩のペニスがゆっくりと僕の膣内なかに入りこんでくる――

「……痛くしないで」

 ついに堪えきれず、唇から声がもれた。

「……はじめてだから……痛くしないで」

 消え入るような声で呟いた僕の頬を、ひと筋の涙が伝い落ちていった。

 ――と、先輩の身体が僕から離れた。

「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

 傍らでさっきまでのものより激しい息づかいがおこり、やがて動物的なうめき声とともに僕の身体に何かが降りかかった。

 ……先輩の精液だ。

 僕がそう考えた直後、立て続けにティッシュが抜き取られる音がし、先輩が荒い息をそのままに僕の胸から股間にかけてそのティッシュで無造作に拭った。

 そのあと剥き出しのままの僕の身体に乱暴にブランケットをかぶせ、自分は足早にベッドを離れた。

「……」

 暗闇の中に目を開いた。

 寝袋に身を包み、こちらに背を向けて肩を震わせる先輩の姿が目に入った。

 ……泣いているのだろうか。

 しゃくりあげるように背中を震わせる先輩を見つめながら、最後までしてくれてもよかったのに……と、まだ震えが治まらない身体で、僕はそう思った。


――――――――――――――――

NAME:マコト

舌:5
唇:7
首筋:4→6
乳首:8→10
脇の下:9
背中:4
へそ:1→2
クリトリス:7→8
陰唇:2→4
Gスポット:0
ポルチオ:0
太腿:3→5
足首:1
足裏:9
足指:2

クリトリス・オーガズム ×
Gスポット・オーガズム ×
ポルチオ・オーガズム ×

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