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02.一話で終わる異世界生活
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「……なんだこれ」
目を開けると、冬樹勇の目の前には異世界が広がっていた。
中世ヨーロッパ風の町並み。
そこを闊歩する剣士や魔法使い。
華やかな装飾の馬車が転がる音に、着飾った淑女たち。その笑い声。屋台のような店に、久しぶりに嗅いだ土の匂い。
都会とは違う、アナログな喧騒が辺りを占めている。
「おい、邪魔だ。どけよ」
道の真ん中に立っていた勇は、商人風の男に注意され、速やかに道の端に退いた。
――――何が起きたんだっけ。
記憶を巡らし、つい先ほど交通事故にあったことを思い出す。
そうだ。車に轢かれたんだ。
横断歩道で信号が青になるのを待っていたところ、勇は誰かに背中を押された。
車道に出た勇の側には、すでに車が迫っていた。逃げる暇なく、車にぶつかった。
それ以降の記憶はない。
その状況から鑑みて、無事で済んだとは思えない。つまり、死んだのだろう。
なぜ異世界に飛ばされたのかはわからないが、アニメなんかを見る限り最近ではこういうことも珍しくはないらしい。
しかし、よりにもよって『事故死』か。
その3文字を思い浮かべて、勇は顔を歪ませる。それは2年前に死んだ母と、全く同じ死に方だったからだ。
勇の母の死は、余りにも突然だった。
それまでの母は元気すぎるほどだったのに、トラックにはねられた母は、驚くほど簡単に亡くなったのである。
母は、家族の中心だった。その中心を失った勇と父は、母の葬儀の後、その現実を受け止めることができずにしばらく互いに塞ぎ込んでいた。
そんな中で、勇を一生懸命に励ましてくれたのが桜井結菜だった。
結菜は、落ち込んでいる勇に対して、常に優しくしてくれた。
何があっても、必ずそばにいてくれて、彼女はいつも勇の味方になってくれていた。
元々、結菜のことが好きだった勇は、より彼女のことが好きになった。
彼女のおかげで勇は少しずつ元気を取り戻し、ようやく立ち直ろうとしていた。
しかし、そんな勇を更にどん底に突き落としたのが、勇の父だった。
勇の父は、いわゆる主夫というものだった。
勇の母が生きていた頃は、母は外で働き、父は家で家事を勤しんでいたが、母が亡くなった今、今度は父がなんとか生計を立てなければならない。
そして、父が選んだ職業は、勇の予想の範疇を大きく超えたものだった。
「なあ、勇。父さんな、ユーツーバーになろうと思うんだ」
母が死んでから2週間が経った頃、父は突然そんな事を言い始めた。
ユーツーバー。いわゆる、動画配信業者。
それを父がやるのだという。
血迷ってる。それ以外の言葉は出てこなかった。勇は本気で父を説得した。
しかし、父は全く聞く耳を持たなかったのである。
「お前だって、いつまでもニートの父親なんてイヤだろ? でも、それも今日で終わりだ。明日からは胸を張って、『僕の父さんは動画配信者だ』って自慢していいんだぞ?」
嫌だった。胸を張れるわけがなかった。
そんな父、恥でしかない。
勇は本気で家を出ようかとも考えた。
しかし、この父を監視してないと、次になにをしでかすかわからないのもまた事実。結局、勇は父を見捨てられなかったのである。
――――どうせ、ろくに稼げずに終わるだろう。
そうなったら、今度はちゃんと働き口を探すはずだ。勇はそう考えたが、甘かった。
父の配信業は、思いのほかうまくいってしまったのである。
なんなら母が働いていた頃よりも勇は贅沢ができていた。そうなった現在、勇は父の配信業に対して何も言うことができなくなっていた。
そして最近、父が自分のことを、動画のネタに使おうとしている動きがあるように、勇は感じていた。
それだけは、本気で嫌だった。勇は日に日に家に帰りたくなくなっていた。
そんな中、勇に残されたオアシスは桜井結菜、彼女一人だけだった。
勇はもう一度、彼女に会いたかった。
せっかく告白したのに。
やっと付き合うことができたのに。
その矢先に、こんなことになるなんて。
――――何とかして、現実世界に帰らないと。
そう思うと、勇の足は自然に動きはじめる。
勇は異世界の街を歩き、適当な酒場に入った。当然、酒を飲む気はない。未成年だし、飲みたいとも思わない。
目的は、情報だ。
酒場の奥に進み、カウンターに立っている体格のガッチリしたマスターに話しかけてみた。
「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
マスターはニカッと笑う。
「おう! なんだい!?」
「あの……元の世界というか、別の世界に行く方法ってご存知ではありませんか?」
「……別の世界ねぇ。要するに、転移魔法に詳しい奴を知りたいってことかい?」
なかなか理解が早い。
勇にとっては助かることだった。
「ええ。魔法でそれが叶うなら、まあ、そういうことになります」
「そういう魔法はあるらしいぜ。ただ、世界を越えるような転移魔法になると、そんじょそこらの魔法使いじゃ無理だろうな。おそらく、魔王に聞いたほうが早い」
「魔王ですか」
「ああ。遠く離れた城に一人で住んでる」
勇がマスターが話していると、後ろから2人の女性に声をかけられた。
「なあ、あんた。魔王のところに行く気なのか?」
振り向けば、銀色の鎧を装備した、長い金髪の女性がそこに立っていた。彼女の後ろには黒いローブを着た、魔法使いらしき黒髪の女もいる。
「私は剣士のオリビアだ。この娘は黒魔道士のイザベラ。もし魔王のところに行く気なら、私たちと一緒に行かないか?」
「えっ。いいんですか?」
「ああ。もちろんだよ。仲間は多い方がいいだろ?」
土地勘のない勇には渡りに船だった。
いくつかの会話を彼女らと交わし、勇と彼女たちは魔王の城へと向かう冒険の旅に出ることになった。
それから5年。勇は様々な経験を積み、強くなった。
様々な魔法も使えるようになり、数々のスキルも習得した。
その強さから勇は、周囲から勇者と呼ばれるようになっていた。
その旅の間も勇は、自分の本来の目的を忘れることはなかった。
――――結菜に会いたい。
ただ、その感情だけが勇を突き動かしていた。
そしてようやく、勇たちは魔王城へとたどり着いたのだった。
「すいませーん。魔王さんいませんかー?」
50階もある魔王の城。その頂上には、大きな部屋があった。豪華絢爛な金銀の調度品。キラキラ輝く巨大なガラスのシャンデリア。
部屋の奥に、大きな椅子が仰々しく置いてあり、そこに一人の女性が座っていた。
彼女の頭には、2本の大きな角が生えていた。大きなマント、スリットの入った黒のワンピース。顔には白い仮面を着けていた。
どうやら、彼女が魔王のようだ。
勇たちは、彼女に寄って話しかける。
「すいません、魔王さんですよね? ちょっと転移魔法についてお話したいんですけど」
魔王はゆっくりと立ち上がって、言った。
「ククク……。ついに来たか、勇者よ。積年の恨み、ここで晴らしてやる!」
「え……積年の恨みって……え?」
どうやら話が通じていないようだ。
勇は、剣士と魔法使いに顔を向け、首を傾げる。
彼女たちも、意味がわからないという顔をしていた。勇は再び、魔王に顔を向ける。
「いや。なんか勘違いしてませんか? 僕たち恨み買うような事してませんよ」
魔王は「ふざけるな!」と怒鳴った。勇はビクリと身体を強ばらせる。
「お前たち勇者は千年前に我らを滅ぼそうとしたのだ! それを忘れたと言うのか!?」
「千年前って……」
千年前に、自分がこの世界に生きてるわけがない。どう考えても人違いだった。
魔王は困惑している勇たちの様子に構わず、剣を振り上げ向かってくる。
勇も剣を構えないわけにはいかなかった。
互いの剣が、激しい音をたててぶつかり合う。その時、勇の剣が魔王の仮面に当たった。仮面が割れ、床に落ち、魔王の顔が露わになる。
大きな目。形のいい眉。
すっと通った美しい鼻。小さな口。
勇はその顔を見て、目を見開いた。
「母さん……!?」
目の前にいるのは、2年前に死んだ母だった。勇はその顔を見て、息を飲む。
――――そうか。母さんも事故で死んで、ここに飛ばされたのか。
しかし、なぜ母はこんなところで魔王を気取っているのだろうか。勇には理解できない。
母が勇から離れ、再び剣を振りあげてこちらに向かってくる。
「やめてよ! 母さん!」
勇は、攻撃を受け止めることしかできなかった。なぜこうなったのか、理由もわからぬまま母を傷つけることはできない。
何度か母の攻撃を受け止めると、彼女は疲れたのか、肩で息をしながら椅子へと戻った。
「はあ……はあ……。ククク、なるほどねぇ。たしかにあんたは強い。私は、あんたに勝つことはできないみたいだよ」
ようやく諦めたのか。
そう思った勇は、ほっと胸を撫で下ろした。
しかし、彼女の目は戦いを諦めた者の目ではなかった。
「……こうなったら、奥の手を使うしかないみたいだねぇ」
「なに……!?」
母はそう言うと、何やら呪文を唱え始めた。
今まで聞いたことのない呪文だった。
独特の言語。何か、恐ろしいことが起きる気配がある。
「……なんだこれ!?」
勇が違和感を覚えて自分の指を見ると、その指先は消え始めていた。
後ろの剣士と魔法使いも同様だった。魔王の方を見れば、彼女も足先から消え始めている。
「母さん! なんだよ、これ!?」
「ククク……。これは、お前がさっき聞きたがっていた転移魔法だよ! 死なばもろとも! さあ、異界の扉は開かれた!」
母は笑い声を上げながら、真っ先にその姿を消した。
勇の腕も消えた。
胴体も徐々に消え始めている。
後ろを振り返るが、剣士と魔法使いの姿はすでになかった。
母はなぜ、魔王としてここにいたのか。
わけもわからぬまま、勇もやがて、魔王の言う異世界の彼方へと消えてしまった。
目を開けると、冬樹勇の目の前には異世界が広がっていた。
中世ヨーロッパ風の町並み。
そこを闊歩する剣士や魔法使い。
華やかな装飾の馬車が転がる音に、着飾った淑女たち。その笑い声。屋台のような店に、久しぶりに嗅いだ土の匂い。
都会とは違う、アナログな喧騒が辺りを占めている。
「おい、邪魔だ。どけよ」
道の真ん中に立っていた勇は、商人風の男に注意され、速やかに道の端に退いた。
――――何が起きたんだっけ。
記憶を巡らし、つい先ほど交通事故にあったことを思い出す。
そうだ。車に轢かれたんだ。
横断歩道で信号が青になるのを待っていたところ、勇は誰かに背中を押された。
車道に出た勇の側には、すでに車が迫っていた。逃げる暇なく、車にぶつかった。
それ以降の記憶はない。
その状況から鑑みて、無事で済んだとは思えない。つまり、死んだのだろう。
なぜ異世界に飛ばされたのかはわからないが、アニメなんかを見る限り最近ではこういうことも珍しくはないらしい。
しかし、よりにもよって『事故死』か。
その3文字を思い浮かべて、勇は顔を歪ませる。それは2年前に死んだ母と、全く同じ死に方だったからだ。
勇の母の死は、余りにも突然だった。
それまでの母は元気すぎるほどだったのに、トラックにはねられた母は、驚くほど簡単に亡くなったのである。
母は、家族の中心だった。その中心を失った勇と父は、母の葬儀の後、その現実を受け止めることができずにしばらく互いに塞ぎ込んでいた。
そんな中で、勇を一生懸命に励ましてくれたのが桜井結菜だった。
結菜は、落ち込んでいる勇に対して、常に優しくしてくれた。
何があっても、必ずそばにいてくれて、彼女はいつも勇の味方になってくれていた。
元々、結菜のことが好きだった勇は、より彼女のことが好きになった。
彼女のおかげで勇は少しずつ元気を取り戻し、ようやく立ち直ろうとしていた。
しかし、そんな勇を更にどん底に突き落としたのが、勇の父だった。
勇の父は、いわゆる主夫というものだった。
勇の母が生きていた頃は、母は外で働き、父は家で家事を勤しんでいたが、母が亡くなった今、今度は父がなんとか生計を立てなければならない。
そして、父が選んだ職業は、勇の予想の範疇を大きく超えたものだった。
「なあ、勇。父さんな、ユーツーバーになろうと思うんだ」
母が死んでから2週間が経った頃、父は突然そんな事を言い始めた。
ユーツーバー。いわゆる、動画配信業者。
それを父がやるのだという。
血迷ってる。それ以外の言葉は出てこなかった。勇は本気で父を説得した。
しかし、父は全く聞く耳を持たなかったのである。
「お前だって、いつまでもニートの父親なんてイヤだろ? でも、それも今日で終わりだ。明日からは胸を張って、『僕の父さんは動画配信者だ』って自慢していいんだぞ?」
嫌だった。胸を張れるわけがなかった。
そんな父、恥でしかない。
勇は本気で家を出ようかとも考えた。
しかし、この父を監視してないと、次になにをしでかすかわからないのもまた事実。結局、勇は父を見捨てられなかったのである。
――――どうせ、ろくに稼げずに終わるだろう。
そうなったら、今度はちゃんと働き口を探すはずだ。勇はそう考えたが、甘かった。
父の配信業は、思いのほかうまくいってしまったのである。
なんなら母が働いていた頃よりも勇は贅沢ができていた。そうなった現在、勇は父の配信業に対して何も言うことができなくなっていた。
そして最近、父が自分のことを、動画のネタに使おうとしている動きがあるように、勇は感じていた。
それだけは、本気で嫌だった。勇は日に日に家に帰りたくなくなっていた。
そんな中、勇に残されたオアシスは桜井結菜、彼女一人だけだった。
勇はもう一度、彼女に会いたかった。
せっかく告白したのに。
やっと付き合うことができたのに。
その矢先に、こんなことになるなんて。
――――何とかして、現実世界に帰らないと。
そう思うと、勇の足は自然に動きはじめる。
勇は異世界の街を歩き、適当な酒場に入った。当然、酒を飲む気はない。未成年だし、飲みたいとも思わない。
目的は、情報だ。
酒場の奥に進み、カウンターに立っている体格のガッチリしたマスターに話しかけてみた。
「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
マスターはニカッと笑う。
「おう! なんだい!?」
「あの……元の世界というか、別の世界に行く方法ってご存知ではありませんか?」
「……別の世界ねぇ。要するに、転移魔法に詳しい奴を知りたいってことかい?」
なかなか理解が早い。
勇にとっては助かることだった。
「ええ。魔法でそれが叶うなら、まあ、そういうことになります」
「そういう魔法はあるらしいぜ。ただ、世界を越えるような転移魔法になると、そんじょそこらの魔法使いじゃ無理だろうな。おそらく、魔王に聞いたほうが早い」
「魔王ですか」
「ああ。遠く離れた城に一人で住んでる」
勇がマスターが話していると、後ろから2人の女性に声をかけられた。
「なあ、あんた。魔王のところに行く気なのか?」
振り向けば、銀色の鎧を装備した、長い金髪の女性がそこに立っていた。彼女の後ろには黒いローブを着た、魔法使いらしき黒髪の女もいる。
「私は剣士のオリビアだ。この娘は黒魔道士のイザベラ。もし魔王のところに行く気なら、私たちと一緒に行かないか?」
「えっ。いいんですか?」
「ああ。もちろんだよ。仲間は多い方がいいだろ?」
土地勘のない勇には渡りに船だった。
いくつかの会話を彼女らと交わし、勇と彼女たちは魔王の城へと向かう冒険の旅に出ることになった。
それから5年。勇は様々な経験を積み、強くなった。
様々な魔法も使えるようになり、数々のスキルも習得した。
その強さから勇は、周囲から勇者と呼ばれるようになっていた。
その旅の間も勇は、自分の本来の目的を忘れることはなかった。
――――結菜に会いたい。
ただ、その感情だけが勇を突き動かしていた。
そしてようやく、勇たちは魔王城へとたどり着いたのだった。
「すいませーん。魔王さんいませんかー?」
50階もある魔王の城。その頂上には、大きな部屋があった。豪華絢爛な金銀の調度品。キラキラ輝く巨大なガラスのシャンデリア。
部屋の奥に、大きな椅子が仰々しく置いてあり、そこに一人の女性が座っていた。
彼女の頭には、2本の大きな角が生えていた。大きなマント、スリットの入った黒のワンピース。顔には白い仮面を着けていた。
どうやら、彼女が魔王のようだ。
勇たちは、彼女に寄って話しかける。
「すいません、魔王さんですよね? ちょっと転移魔法についてお話したいんですけど」
魔王はゆっくりと立ち上がって、言った。
「ククク……。ついに来たか、勇者よ。積年の恨み、ここで晴らしてやる!」
「え……積年の恨みって……え?」
どうやら話が通じていないようだ。
勇は、剣士と魔法使いに顔を向け、首を傾げる。
彼女たちも、意味がわからないという顔をしていた。勇は再び、魔王に顔を向ける。
「いや。なんか勘違いしてませんか? 僕たち恨み買うような事してませんよ」
魔王は「ふざけるな!」と怒鳴った。勇はビクリと身体を強ばらせる。
「お前たち勇者は千年前に我らを滅ぼそうとしたのだ! それを忘れたと言うのか!?」
「千年前って……」
千年前に、自分がこの世界に生きてるわけがない。どう考えても人違いだった。
魔王は困惑している勇たちの様子に構わず、剣を振り上げ向かってくる。
勇も剣を構えないわけにはいかなかった。
互いの剣が、激しい音をたててぶつかり合う。その時、勇の剣が魔王の仮面に当たった。仮面が割れ、床に落ち、魔王の顔が露わになる。
大きな目。形のいい眉。
すっと通った美しい鼻。小さな口。
勇はその顔を見て、目を見開いた。
「母さん……!?」
目の前にいるのは、2年前に死んだ母だった。勇はその顔を見て、息を飲む。
――――そうか。母さんも事故で死んで、ここに飛ばされたのか。
しかし、なぜ母はこんなところで魔王を気取っているのだろうか。勇には理解できない。
母が勇から離れ、再び剣を振りあげてこちらに向かってくる。
「やめてよ! 母さん!」
勇は、攻撃を受け止めることしかできなかった。なぜこうなったのか、理由もわからぬまま母を傷つけることはできない。
何度か母の攻撃を受け止めると、彼女は疲れたのか、肩で息をしながら椅子へと戻った。
「はあ……はあ……。ククク、なるほどねぇ。たしかにあんたは強い。私は、あんたに勝つことはできないみたいだよ」
ようやく諦めたのか。
そう思った勇は、ほっと胸を撫で下ろした。
しかし、彼女の目は戦いを諦めた者の目ではなかった。
「……こうなったら、奥の手を使うしかないみたいだねぇ」
「なに……!?」
母はそう言うと、何やら呪文を唱え始めた。
今まで聞いたことのない呪文だった。
独特の言語。何か、恐ろしいことが起きる気配がある。
「……なんだこれ!?」
勇が違和感を覚えて自分の指を見ると、その指先は消え始めていた。
後ろの剣士と魔法使いも同様だった。魔王の方を見れば、彼女も足先から消え始めている。
「母さん! なんだよ、これ!?」
「ククク……。これは、お前がさっき聞きたがっていた転移魔法だよ! 死なばもろとも! さあ、異界の扉は開かれた!」
母は笑い声を上げながら、真っ先にその姿を消した。
勇の腕も消えた。
胴体も徐々に消え始めている。
後ろを振り返るが、剣士と魔法使いの姿はすでになかった。
母はなぜ、魔王としてここにいたのか。
わけもわからぬまま、勇もやがて、魔王の言う異世界の彼方へと消えてしまった。
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