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6怒りの鉄槌
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頭を抱えた陛下は、ボソリと口を開いた。
「お前は何を考えているのだ」
その言葉に、アイリッド殿下がビクリと体を震わせた。
今頃気付いたのだろうか?
今日の特別な日に、別の意味で特別な事をしてしまった愚かさに。
「ちっ……父上、私は」
殿下が恐る恐る口を開いたその時。
ドンドンドン!
この空気をぶち壊すかのごとき、大きな音が鳴り響いた。
原因は単純。部屋のドアが勢いよく叩かれていたのだ。
「………私が」
あ、これダメなやつだ。
今にも殺しに行くとばかりな父が、ドアを開けに向かった。
そして開かれたドアの向こう。
父の殺人的殺気に当てられ、ある夫婦が石化していた。
「お父様!お母様!」
そう、二人を見て声を上げたのは、メリッサ男爵令嬢だった。
<あれが両親か…。確か母親は元は妾だったな>
貴族が妾を持つのはよくある話しだ。
聞くところには、本妻は二年前に事故で他界し、妾が後妻としてメリッサを連れ収まったそうだ。
まぁ、どうでもいい話しだが。
とりあえず、この娘にしてこの親と言うのは理解した。
「へっ陛下!此度は娘が誠に!」
凄まじい殺気の父により、エトランテ男爵夫妻は部屋に通された。
そして、部屋に入るなり、男爵はスライディング土下座を決め、頭を床に擦り付けた。
<実際にコレ…する人いるんだ…>
そんな中、何故か真っ先に口を開いたのは、何と男爵令嬢であるメリッサだった。
「陛下!この場をお借りしまして、お許しを得とうございます!どうかアイリッド殿下と私の結婚をお認めください!」
本日二度目。
空いた口が塞がらないとは正にこの事だった。
今?今それ言うの?
空気読もうよ!
実際、「私」という弊害は無くなったんでしょ?
直談判するなら話し終わってからにしてよ…。
「なっ…なななななな!何を言ってるんだメリッサ!」
まぁ、父親は少しは空気読めたらしい。
でも。
「あなた、いいではありませんか!メリッサが幸せになれるのですよ?婚約者と言っていた者は、ただの女装好きな変態だと分かりましたし、アイリッド殿下との結婚には何ら妨げるものはないではないですか!」
ん……?
今、この人なんつったかな?
「なっ、お前も口を慎みなさい!しかも侯爵家の跡取り殿に向かって、へっっ変態だと!」
そう、それそれ。
こっちは好きで女装してるんじゃないっつーの!
「お前は、サフィール家の事を知らんだろうが!」
「あら!そう言われましても、女装癖がある方を変態と言って何が悪っっ…!」
その瞬間。
エトランテ夫人の首元にキラリと光る物があった。
「死にますか?」
今にも殺しそうな父がそこにいた。
父は魔法で創り出した「氷の剣」の切先を夫人の首元に当て、背後から殺気を放っていた。
それに対し、夫人の顔色がどんどん失われていく。
男爵自身は知っているのだろう。
我が家で男子がどの様な扱い方をされているのか。
そして父は、誰よりも私を気にかけている。
婿に入った父は、母よりサフィール家の真実を聞かされ、「自分の子供は死んでも守る」と母に誓ったそうだ。
私には上に姉が三人いるが、私を含め、四人とも両親に溺愛されている。
特に私は希少な男子という事も合わさり、両親だけでなく、姉達からもかなり大切にされてきた。
父は身内に対する侮辱は決して許さない。
そう言う訳で、現在の父の行動も理解でき、反対の立場なら同じ事をしていたであろう私は、止めるつもりもない。
「……さっ宰相!待て!その剣を収めてくれ!」
だが、勇者はいるもので、止めに入ったのは、案の定バカ王子こと、アイリッド殿下だった。
だが、それは火に油を注ぐ様なもので…。
「今しがた、此方の夫人がおっしゃった言葉の意味が分かりかねますが?我が息子を変態だとか…。他家の事情も知らぬ無能者が何をほざくのか…。まさか、殿下まで我が家の事情を知らぬと言われますまいな?」
そこでバカ勇者…じゃない、アイリッド殿下は撃沈された。
全くと言って無知ではなかったらしい。
「これと双子なんて…吐き気がするわ」
冷めた目で傍観していると、紅茶を口にしながら、ボソリと横から聞こえてきた。
<あー。…………心中お察しするよ>
「まぁ、待てレイナード、剣を収めよ。この様な者のために手を汚す事はない」
そこに入ってきたのは国王陛下だった。
先程からのやり取りで、陛下自身、かなりお疲れのご様子だった。
そして、真っ直ぐにアイリッド殿下とメリッサ嬢に視線を向けると、静かな声色で口を開かれた。
「アイリッド、お前の王太子としての地位を剥奪する。廃嫡とし、王位継承権はないものとする。そこなメリッサ嬢の元へ婿にでも入るがよい」
うん、結婚は出来るんだね。
まぁ、良かったじゃないか?ただ、メリッサ嬢の元に「婿」と言う事は、男爵位に落とされたって事だよね?
さて、殿下達はどう出るかな?
「ちっ…父上!私を追い出すおつもりですか!」
「お前は何を考えているのだ」
その言葉に、アイリッド殿下がビクリと体を震わせた。
今頃気付いたのだろうか?
今日の特別な日に、別の意味で特別な事をしてしまった愚かさに。
「ちっ……父上、私は」
殿下が恐る恐る口を開いたその時。
ドンドンドン!
この空気をぶち壊すかのごとき、大きな音が鳴り響いた。
原因は単純。部屋のドアが勢いよく叩かれていたのだ。
「………私が」
あ、これダメなやつだ。
今にも殺しに行くとばかりな父が、ドアを開けに向かった。
そして開かれたドアの向こう。
父の殺人的殺気に当てられ、ある夫婦が石化していた。
「お父様!お母様!」
そう、二人を見て声を上げたのは、メリッサ男爵令嬢だった。
<あれが両親か…。確か母親は元は妾だったな>
貴族が妾を持つのはよくある話しだ。
聞くところには、本妻は二年前に事故で他界し、妾が後妻としてメリッサを連れ収まったそうだ。
まぁ、どうでもいい話しだが。
とりあえず、この娘にしてこの親と言うのは理解した。
「へっ陛下!此度は娘が誠に!」
凄まじい殺気の父により、エトランテ男爵夫妻は部屋に通された。
そして、部屋に入るなり、男爵はスライディング土下座を決め、頭を床に擦り付けた。
<実際にコレ…する人いるんだ…>
そんな中、何故か真っ先に口を開いたのは、何と男爵令嬢であるメリッサだった。
「陛下!この場をお借りしまして、お許しを得とうございます!どうかアイリッド殿下と私の結婚をお認めください!」
本日二度目。
空いた口が塞がらないとは正にこの事だった。
今?今それ言うの?
空気読もうよ!
実際、「私」という弊害は無くなったんでしょ?
直談判するなら話し終わってからにしてよ…。
「なっ…なななななな!何を言ってるんだメリッサ!」
まぁ、父親は少しは空気読めたらしい。
でも。
「あなた、いいではありませんか!メリッサが幸せになれるのですよ?婚約者と言っていた者は、ただの女装好きな変態だと分かりましたし、アイリッド殿下との結婚には何ら妨げるものはないではないですか!」
ん……?
今、この人なんつったかな?
「なっ、お前も口を慎みなさい!しかも侯爵家の跡取り殿に向かって、へっっ変態だと!」
そう、それそれ。
こっちは好きで女装してるんじゃないっつーの!
「お前は、サフィール家の事を知らんだろうが!」
「あら!そう言われましても、女装癖がある方を変態と言って何が悪っっ…!」
その瞬間。
エトランテ夫人の首元にキラリと光る物があった。
「死にますか?」
今にも殺しそうな父がそこにいた。
父は魔法で創り出した「氷の剣」の切先を夫人の首元に当て、背後から殺気を放っていた。
それに対し、夫人の顔色がどんどん失われていく。
男爵自身は知っているのだろう。
我が家で男子がどの様な扱い方をされているのか。
そして父は、誰よりも私を気にかけている。
婿に入った父は、母よりサフィール家の真実を聞かされ、「自分の子供は死んでも守る」と母に誓ったそうだ。
私には上に姉が三人いるが、私を含め、四人とも両親に溺愛されている。
特に私は希少な男子という事も合わさり、両親だけでなく、姉達からもかなり大切にされてきた。
父は身内に対する侮辱は決して許さない。
そう言う訳で、現在の父の行動も理解でき、反対の立場なら同じ事をしていたであろう私は、止めるつもりもない。
「……さっ宰相!待て!その剣を収めてくれ!」
だが、勇者はいるもので、止めに入ったのは、案の定バカ王子こと、アイリッド殿下だった。
だが、それは火に油を注ぐ様なもので…。
「今しがた、此方の夫人がおっしゃった言葉の意味が分かりかねますが?我が息子を変態だとか…。他家の事情も知らぬ無能者が何をほざくのか…。まさか、殿下まで我が家の事情を知らぬと言われますまいな?」
そこでバカ勇者…じゃない、アイリッド殿下は撃沈された。
全くと言って無知ではなかったらしい。
「これと双子なんて…吐き気がするわ」
冷めた目で傍観していると、紅茶を口にしながら、ボソリと横から聞こえてきた。
<あー。…………心中お察しするよ>
「まぁ、待てレイナード、剣を収めよ。この様な者のために手を汚す事はない」
そこに入ってきたのは国王陛下だった。
先程からのやり取りで、陛下自身、かなりお疲れのご様子だった。
そして、真っ直ぐにアイリッド殿下とメリッサ嬢に視線を向けると、静かな声色で口を開かれた。
「アイリッド、お前の王太子としての地位を剥奪する。廃嫡とし、王位継承権はないものとする。そこなメリッサ嬢の元へ婿にでも入るがよい」
うん、結婚は出来るんだね。
まぁ、良かったじゃないか?ただ、メリッサ嬢の元に「婿」と言う事は、男爵位に落とされたって事だよね?
さて、殿下達はどう出るかな?
「ちっ…父上!私を追い出すおつもりですか!」
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