侯爵家の清純美少女?いいえ、腹黒ドS大魔王ですが何か?

阿華羽

文字の大きさ
6 / 29

6怒りの鉄槌

しおりを挟む
 頭を抱えた陛下は、ボソリと口を開いた。

「お前は何を考えているのだ」

 その言葉に、アイリッド殿下がビクリと体を震わせた。
 今頃気付いたのだろうか?
 今日の特別な日に、別の意味で特別な事をしてしまった愚かさに。

「ちっ……父上、私は」

 殿下が恐る恐る口を開いたその時。

 ドンドンドン!

 この空気をぶち壊すかのごとき、大きな音が鳴り響いた。
 原因は単純。部屋のドアが勢いよく叩かれていたのだ。

「………私が」

 あ、これダメなやつだ。

 今にも殺しに行くとばかりな父が、ドアを開けに向かった。
 そして開かれたドアの向こう。
 父の殺人的殺気に当てられ、ある夫婦が石化していた。

「お父様!お母様!」

 そう、二人を見て声を上げたのは、メリッサ男爵令嬢だった。

<あれが両親か…。確か母親は元は妾だったな>

 貴族が妾を持つのはよくある話しだ。
 聞くところには、本妻は二年前に事故で他界し、妾が後妻としてメリッサを連れ収まったそうだ。

 まぁ、どうでもいい話しだが。

 とりあえず、この娘にしてこの親と言うのは理解した。

「へっ陛下!此度は娘が誠に!」

 凄まじい殺気の父により、エトランテ男爵夫妻は部屋に通された。
 そして、部屋に入るなり、男爵はスライディング土下座を決め、頭を床に擦り付けた。

<実際にコレ…する人いるんだ…>

 そんな中、何故か真っ先に口を開いたのは、何と男爵令嬢であるメリッサだった。

「陛下!この場をお借りしまして、お許しを得とうございます!どうかアイリッド殿下と私の結婚をお認めください!」

 本日二度目。
 空いた口が塞がらないとは正にこの事だった。

 今?今それ言うの?
 空気読もうよ!
 実際、「私」という弊害は無くなったんでしょ?
 直談判するなら話し終わってからにしてよ…。

「なっ…なななななな!何を言ってるんだメリッサ!」

 まぁ、父親は少しは空気読めたらしい。
でも。

「あなた、いいではありませんか!メリッサが幸せになれるのですよ?婚約者と言っていた者は、ただのだと分かりましたし、アイリッド殿下との結婚には何ら妨げるものはないではないですか!」

 ん……?

 今、この人なんつったかな?

「なっ、お前も口を慎みなさい!しかも侯爵家の跡取り殿に向かって、へっっ変態だと!」

 そう、それそれ。
 こっちは好きで女装してるんじゃないっつーの!

「お前は、サフィール家の事を知らんだろうが!」
「あら!そう言われましても、女装癖がある方を変態と言って何が悪っっ…!」

 その瞬間。

 エトランテ夫人の首元にキラリと光る物があった。

「死にますか?」

 今にも殺しそうな父がそこにいた。
 父は魔法で創り出した「氷の剣」の切先を夫人の首元に当て、背後から殺気を放っていた。
 それに対し、夫人の顔色がどんどん失われていく。

 男爵自身は知っているのだろう。
 我が家で男子がどの様な扱い方をされているのか。

 そして父は、誰よりも私を気にかけている。

 婿に入った父は、母よりサフィール家の真実を聞かされ、「自分の子供は死んでも守る」と母に誓ったそうだ。
 私には上に姉が三人いるが、私を含め、四人とも両親に溺愛されている。
 特に私は希少な男子という事も合わさり、両親だけでなく、姉達からもかなり大切にされてきた。

 父は身内に対する侮辱は決して許さない。

 そう言う訳で、現在の父の行動も理解でき、反対の立場なら同じ事をしていたであろう私は、止めるつもりもない。

「……さっ宰相!待て!その剣を収めてくれ!」

 だが、勇者はいるもので、止めに入ったのは、案の定バカ王子こと、アイリッド殿下だった。
 だが、それは火に油を注ぐ様なもので…。

「今しがた、此方の夫人がおっしゃった言葉の意味が分かりかねますが?我が息子を変態だとか…。他家の事情も知らぬ無能者が何をほざくのか…。まさか、殿下まで我が家の事情を知らぬと言われますまいな?」

 そこでバカ勇者…じゃない、アイリッド殿下は撃沈された。
 全くと言って無知ではなかったらしい。

「これと双子なんて…吐き気がするわ」

 冷めた目で傍観していると、紅茶を口にしながら、ボソリと横から聞こえてきた。

<あー。…………心中お察しするよ>

「まぁ、待てレイナード、剣を収めよ。この様な者のために手を汚す事はない」

 そこに入ってきたのは国王陛下だった。
 先程からのやり取りで、陛下自身、かなりお疲れのご様子だった。

 そして、真っ直ぐにアイリッド殿下とメリッサ嬢に視線を向けると、静かな声色で口を開かれた。

「アイリッド、お前の王太子としての地位を剥奪する。廃嫡とし、王位継承権はないものとする。そこなメリッサ嬢の元へ婿にでも入るがよい」

 うん、結婚は出来るんだね。
 まぁ、良かったじゃないか?ただ、メリッサ嬢の元に「婿」と言う事は、男爵位に落とされたって事だよね?

 さて、殿下達はどう出るかな?

「ちっ…父上!私を追い出すおつもりですか!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...