侯爵家の清純美少女?いいえ、腹黒ドS大魔王ですが何か?

阿華羽

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 学園長にして、王弟である「イリス」様は、穏やかに口を開いた。
 国王陛下によく似た、癖のある茶髪と、澄んだ青い瞳の彼は、その雰囲気から、場の空気を穏やかにしてくれる。  
 
「話しを割ってすまないが、姪であるエリオットは、私も可愛いからね…。幸せになってもらいたいのさ。………と言う事で、提案があるんだけど、聞いてくれるかい?」

 和かに言葉を紡ぐ学園長…。
 だが、その空気が一転した。

「エリオット様がそこまでお嫌なら、アイリッド様の廃嫡を取り止められたらいいではないですか!」

 忘れてた。

 この場にいた王族方と、私と父は、「そういえば居たんだ」と、思い出した。
 唯一、存在を認識していたであろう、アイリッド殿下も、あまりの唐突さに驚いていた。

 例により、空気が読めない男爵令嬢である。

 いや、今の流れ分からなかったかなぁ?
 今、正に、解決策を学園長…いや、王弟殿下が言われようとしてたのに、何で首つっこんでくるのさぁ。

 思わず、エリオット様を抱く腕が、彼女からズリ落ちそうになった。
 彼女も一気に涙が引っ込んだ様だ。

「メリッサ!お前はこれ以上喋るな!」

 慌てて男爵が、彼女の口を塞ぎにかかった。
 だが、メリッサ嬢はそれを振り解くと、高らかに言い放った。

「何故悩まれますの?此れが一番の解決作ですわ!廃嫡など止めるべきです!だいたい、今回の事だって、そこのシルビア様が一番の原因ではないですか!紛らわしい格好をし、アイリッド様を惑わせたのが原因でしょ?アイリッド様は悪くありませんわ!」

 おーーーーい。
 今なんて言ったの?

 メリッサ嬢は、言いたい事を言い切ると、さも自分が正しい事を言ったのだと、満足そうな表情だった。

「メリッサ!サフィール家の事を知らぬお前が何を言っているのだ!それ以上口を開くな!我が家を潰したいのか!」

 それに対し、まだまともだった男爵が、陛下に向かい、またもスライディング土下座をかましていた。

 だが、空気も立場も読めないのは娘ばかりではなかった。

「あなた!なぜその様な態度をとるのですか?メリッサが言った言葉が正論ですわ!確かに先程の私は言い過ぎましたが、メリッサの言う通り、シルビア様にも原因はありますでしょう?」

 この母娘は終わってるなぁ…。

 因みに、渦中の一人であるアイリッド殿下は、既に現実を見たらしく、カタカタと震えだしていた。
 そう、殿下は見てしまったのだ。

 静かに怒る父にして国王を。

 国王陛下は、若かりし頃、近隣諸国から「死神」と恐れられるほどの騎士だったと父から聞いている。
 その覇気は凄まじく、私の父でさえ、それには震え上がったそうだ。

「もうよい」

 陛下は深く息を吐くと、目の前の茶番に対し、地面を揺らす様な圧を纏う声を放たれた。

 終わったな。

 陛下を除き、男爵家の母娘以外の面々は、一瞬にして悟った。
 男爵など、スライディング土下座をした大勢のままカタカタと震え始めていた。

「そちらの話はよく分かった。もうよい、これ以上の茶番劇に付き合いきれぬ………男爵」
「はっっはい!」
「その方には二つの選択種を与える」

 お家取り壊しか、悪ければ極刑か…。
 きっと、男爵の脳内には自分達が斬首台に上がる光景がグルグルしているのだろう。
 今にも泣きそうになっている。

「この場にて、家の取り壊しか、その母娘を手放すかを決めよ!」

 あらーー。
 これは、男爵一択しかないかなぁ?

「も、、申し訳ございませんでした!直ぐに妻とは離縁し、娘も民として落とします故、何卒取り壊しだけはご容赦くださいませ!」

 まぁ、そうなるよね?領民だっているし。

「何故!お父様!」
「あなた!」
「えぇい!黙れ!もう夫でも父でもないわ!」

 と、すったもんだなやり取りが始まり、面倒になってきたところで、男爵一家?は、陛下の護衛に連れ出されて行った。

 嵐の様な母娘だったな……。

 と、空気が落ち着いた中。

 王弟殿下は、やや疲れ気味に話しを戻された。

「疲れたな……まぁ、いい。それより先程の話しだが…」

 それから殿下は解決作を話し始めた。

 王弟殿下の考えた解決作とは、私に二つの姓を名乗らせれば良いと言う事だった。
 それだけ聞いたら意味が分からないが、まず私を王族に婿入りさせ、王女の伴侶としつつ、いずれサフィール家の家督も継ぐと言う、前代未聞の案だった。

 ようは、掛け持ちである。

 戸籍上は王族とし、サフィール家の仕事を主として生活する。
 私自身は、普段サフィールの名で生活したら良い。
 そして、いずれ生まれて来るであろう二人の子供に次のサフィール家の家督を継がせる。

 と言う感じだった。

 これはまた…。

 突拍子もない案だが、私達が一緒になれる案は、確かにこれしかない。

「まぁ、二人が良いなら私はいいと思うが、レイナードはどうだ?」
「私は依存はありません。息子が家督を継ぎ、家が続くなら、何ら問題はありませんから」

 何やら親同士は話がまとまった様だ。
 それなら此方は問題ない。

「陛下と父上がよろしいなら…かまいません」
「私も、シルビアがそれで大丈夫なら」

 そうして、次期国王はエリオット王女となり、私達の婚約が続く事がこの場にて決定された。




 その後、アイリッド殿下は、めでたくメリッサ嬢と縁を切り、遠望にある王家所有の屋敷に移動する事となった。
 私も一応、別れの挨拶をしに城に上がったのだが、その時のアイリッド殿下は何やら悟りを開いた僧侶の様になっていたのが印象的だった。

 人間変われば変わるものだ。

「後一年か…長いなぁ」

 アイリッド殿下の乗る馬車を見送ると、私はボソリと呟いた。

「あら?でも、卒業と同時に結婚でしょ?家督を継ぐのはまだまだ先だけど、今から式の準備に各国への手配。一年以内にやる事は山積みよ?それに、シルビアは将来宰相を目指すんでしょ?勉強だってしないとだし、一年なんてあっという間だわ」

 隣に立つ愛しい婚約者殿。

「そうだね、エリー」
「っつ……!シルビア、いきなり愛称は反則よ!」

 笑顔で返すと、顔を赤めながら反らす彼女に、私はクスリと笑う。
 本当に、真っ黒な「」とは真反対だね?
 純粋な君をこれからもずっと愛してるよ。

 ずっと「オレ」と言う「鳥籠」に囲ってあげる。

 絶対に逃さないから覚悟してね?

 その容姿とは裏腹に、実は純粋で可愛い次期王様。
 「私」は彼女に向かい、満面の笑みで微笑んだ。

「ちょっとシルビィ!その天使の様な笑顔は卑怯よ!可愛すぎて腹がたつわ!」
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