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13. 脱却
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想いを確かめ合った俺たちは、ユテの次のヒートを指折り心待ちにしながら、爛れた日々を送った。
暇さえあればキスを交わし、互いにくっついている。俺は買い物について行くようになったし、家のことも手伝うようになった。どこに行くにも何をするにも二人一緒だ。……さすがに便所の時は別だけどな。
それくらいに、一分一秒すら離れているのが惜しい。
ムラムラしたら即ベッドに行って、欲求が治まるまで寝食そっちのけでヤリまくる。理性は全く仕事をしていなくて、本能のままに盛る俺たちはまさしく動物だった。
けど、それがどうした。誰が外聞なんか気にする?当事者の俺もユテも気にしない。ヤリたいからヤッてる。大事なのは俺たちの気持ちだ。
ヤリまくりで唯一困ったのは、洗濯が追いつかないことだ。シーツを交換するそばから汚してしまい、乾燥が間に合わねえ。
かと言ってそれで止まるはずもなく、ならばと家の至る所でヤるようになった。台所や風呂、テーブルの上……。
まるで十八年間の空白を埋めるように、お互いを求め合った。
朝、目が覚めると腕の中は空っぽだった。いるはずの存在がいるべき場所にいないことに気づき、俺は飛び起きた。
ユテの姿はすぐに見つかった。家中を満たす良い香りの発生源にいることが分かったからだ。
俺のシャツだけを着て台所で作業する後ろ姿を、壁にもたれかかって眺める。むきだしの腿や足がやけに旨そうに見える。
それが空腹からくるものか、性欲からくるものか判別はつかず、俺はユテに近づいた。
「ユテ、一人にするなんてひでえじゃねえか……」
後ろから青年を抱きしめ、肩に顎を乗せる。寝起きだからか、口から出た声は思った以上に低く掠れて、恨みがましい響きを含んでいた。
ユテは小さく笑いながらおはようと言って、頭を俺に軽く擦りつけた。
「ごめん。でもお腹がすいて我慢できなかったんだ。ぐっすり寝てたから起こすのも可哀想だったし、そのうちいい匂いで起きてくるかなって。たまにはこんな朝もいいでしょう?」
そう言う間も、ユテの手は休みなく動いている。コーヒーを淹れる無駄のない手際の良さは、飽きることなくずっと見ていられる。
「ああ…確かにいい匂いだ」
「へへ、でしょ。今日はいつもと違って、この間店の人に教えてもらった淹れ方にしてみたんだ。豆は一緒なのに、香り方が全然違うね」
鼻から大きく息を吸ってコーヒーの芳香を体内に取りこんだユテは、満足そうに息を吐いた。表情は見えないが、声からはしゃいでいるのが伝わってくる。興奮する様が可愛くて、不満に思っていたことが一気にどうでもよくなった。代わりに変なスイッチが入る。
体格差から俺のシャツはユテには大きすぎて、肩が露出するほどに襟ぐりがずり落ちている。細い首筋に鼻下を押しつけて滑らせて匂いをかぐ。
「コーヒーもいい匂いだが、俺が言ってるのはそっちじゃねえ。……わかるだろ?」
「ン……」
俺にとってユテ以上にいい匂いはこの世に存在しない。
柔い肌を食むように口づけ、裾から手を忍びこませる。細くくびれた腰を撫でると、下腹部に熱が走った。
……この腰を両手で掴んでガンガン突くとたまんねえんだよなあ。ユテもいい声で啼くし。
肌の滑らかさを楽しんでいると手が右脇腹にかかり、一瞬ギクリとした。改めて撫でても事実は変わらない。まっさらな肌があるだけだ。
「そこ…やっぱり気になる?」
悟られないようにしたつもりだったが、ユテは気づいたようだった。振り返り、顔を覗きこまれる。
「まあ…な。リュキテとユテは違うから、傷跡なんかなくて当たり前だがそれはそれで変な感じがしちまう」
「リュキテの体のままで傷跡残ってた方がよかった?」
問いに対して肯定も否定もできず、俺は言葉を失ってしまった。何と答えていいのかわからず、低いうめき声が歯の隙間からもれる。
完全に静止した俺に、ユテは対面になるようにくるりと回って体勢を変えた。
「僕は無くて良かったって思ってるよ。だってもし派手な傷跡が残ってたら、見たり触ったりする度にシグが気に病むのがわかるもん。いつまでもシグが苦しむ姿を見るのは嫌だ」
爪先立ちになったユテに唇を啄まれ、柔らかなそれに応える。拗ねるような声だった。
……確かに、ユテとしても体に大きな傷跡があるのもいい気分はしねえか。それに俺がいちいち反応する度に否応なしにあの時のことを思い出して嫌な気持ちになるだろうしな。
悪かった、と謝罪のハグをしようとしたが、ユテは腕の中からするりと抜け出してテーブルに食事を配膳した。
「シグ、ご飯にしよ。料理が冷めちゃう」
謝罪のキスから始めてベッドにもう一度なだれ込む予定を見込んでいた俺の腕は、虚しく空を切った。肩透かしを食らったが手玉に取られた感じがして、これはこれで悪くなかった。……ユテ限定だけどな。
対面に座り、朝食に手をつける。ユテが出来に自信をのぞかせていたコーヒーを飲めば、豊潤な匂いと味が全身に染み渡るような感覚がする。
「うめえ」
文句なしに美味いそれは、俺好みの濃い目に淹れられていた。俺の好みまで既に承知してるって、本当に出来た番だ。
いい加減なもので、さっきまで性欲にまみれていたはずの体は今や食欲に支配されていた。わんぱくな子供なみにモリモリ食っていた俺は、ふとユテの視線に気づいて手を止めた。
「シグ、何か気づかない?」
マグを両手に持つユテは満足そうな笑みを浮かべている。漠然とした問いに咀嚼が止まった。料理のことを聞かれているのかと思ったが、ユテの眼差しは真っ直ぐ俺に向けられている。
寝癖か?それとも髭に食べ物がくっついてるとか?
思い当たることがありすぎて答えが出せず、俺は降参した。
「そのコーヒー、お酒入ってないんだよ」
茶目っ気のある悪戯な微笑みに、俺は目を丸くしてマグの中身に視線を落とした。もう一口飲む。
確かに酒の匂いも風味もない。純粋な豆の旨味と爽やかな苦味を感じるだけだ。
「今日だけじゃなくて、この数日はずっと入れてないんだ。いつ苦情を言われるか待ってたんだけど、まさか全然気づいてないとは思わなかったな」
鈴を転がすような声でユテは笑った。
自分のことながら驚きを隠せない。浴びるほどに摂取するのが普通で依存気味だったのに、ここ最近酒瓶に手が伸びていないことは自分でも気づいていた。ユテが作ってくれる、風味付けに少量の酒が入った飲み物で十分に気が紛れていたからだ。……と思っていたが、俺の勘違いだったのか。
「目の下のクマも薄くなって、顔色も健康的になって、もっとかっこよくなった」
こんなにも早くアルコール依存から脱却できるとは思わなかった。体の急激な変化に戸惑いを感じつつも、嬉しい誤算だ。おまけにユテの嬉しそうな顔を見れたならなおのこと。
「ユテのおかげだな。ユテの愛情を一身に浴びたことで悪いところが全部治っちまったんだ」
「冗談って分かっててもそう言ってもらえるの嬉しい」
俺の軽口に頬を赤く染めて笑うユテは、見惚れるくらいに美しかった。
暇さえあればキスを交わし、互いにくっついている。俺は買い物について行くようになったし、家のことも手伝うようになった。どこに行くにも何をするにも二人一緒だ。……さすがに便所の時は別だけどな。
それくらいに、一分一秒すら離れているのが惜しい。
ムラムラしたら即ベッドに行って、欲求が治まるまで寝食そっちのけでヤリまくる。理性は全く仕事をしていなくて、本能のままに盛る俺たちはまさしく動物だった。
けど、それがどうした。誰が外聞なんか気にする?当事者の俺もユテも気にしない。ヤリたいからヤッてる。大事なのは俺たちの気持ちだ。
ヤリまくりで唯一困ったのは、洗濯が追いつかないことだ。シーツを交換するそばから汚してしまい、乾燥が間に合わねえ。
かと言ってそれで止まるはずもなく、ならばと家の至る所でヤるようになった。台所や風呂、テーブルの上……。
まるで十八年間の空白を埋めるように、お互いを求め合った。
朝、目が覚めると腕の中は空っぽだった。いるはずの存在がいるべき場所にいないことに気づき、俺は飛び起きた。
ユテの姿はすぐに見つかった。家中を満たす良い香りの発生源にいることが分かったからだ。
俺のシャツだけを着て台所で作業する後ろ姿を、壁にもたれかかって眺める。むきだしの腿や足がやけに旨そうに見える。
それが空腹からくるものか、性欲からくるものか判別はつかず、俺はユテに近づいた。
「ユテ、一人にするなんてひでえじゃねえか……」
後ろから青年を抱きしめ、肩に顎を乗せる。寝起きだからか、口から出た声は思った以上に低く掠れて、恨みがましい響きを含んでいた。
ユテは小さく笑いながらおはようと言って、頭を俺に軽く擦りつけた。
「ごめん。でもお腹がすいて我慢できなかったんだ。ぐっすり寝てたから起こすのも可哀想だったし、そのうちいい匂いで起きてくるかなって。たまにはこんな朝もいいでしょう?」
そう言う間も、ユテの手は休みなく動いている。コーヒーを淹れる無駄のない手際の良さは、飽きることなくずっと見ていられる。
「ああ…確かにいい匂いだ」
「へへ、でしょ。今日はいつもと違って、この間店の人に教えてもらった淹れ方にしてみたんだ。豆は一緒なのに、香り方が全然違うね」
鼻から大きく息を吸ってコーヒーの芳香を体内に取りこんだユテは、満足そうに息を吐いた。表情は見えないが、声からはしゃいでいるのが伝わってくる。興奮する様が可愛くて、不満に思っていたことが一気にどうでもよくなった。代わりに変なスイッチが入る。
体格差から俺のシャツはユテには大きすぎて、肩が露出するほどに襟ぐりがずり落ちている。細い首筋に鼻下を押しつけて滑らせて匂いをかぐ。
「コーヒーもいい匂いだが、俺が言ってるのはそっちじゃねえ。……わかるだろ?」
「ン……」
俺にとってユテ以上にいい匂いはこの世に存在しない。
柔い肌を食むように口づけ、裾から手を忍びこませる。細くくびれた腰を撫でると、下腹部に熱が走った。
……この腰を両手で掴んでガンガン突くとたまんねえんだよなあ。ユテもいい声で啼くし。
肌の滑らかさを楽しんでいると手が右脇腹にかかり、一瞬ギクリとした。改めて撫でても事実は変わらない。まっさらな肌があるだけだ。
「そこ…やっぱり気になる?」
悟られないようにしたつもりだったが、ユテは気づいたようだった。振り返り、顔を覗きこまれる。
「まあ…な。リュキテとユテは違うから、傷跡なんかなくて当たり前だがそれはそれで変な感じがしちまう」
「リュキテの体のままで傷跡残ってた方がよかった?」
問いに対して肯定も否定もできず、俺は言葉を失ってしまった。何と答えていいのかわからず、低いうめき声が歯の隙間からもれる。
完全に静止した俺に、ユテは対面になるようにくるりと回って体勢を変えた。
「僕は無くて良かったって思ってるよ。だってもし派手な傷跡が残ってたら、見たり触ったりする度にシグが気に病むのがわかるもん。いつまでもシグが苦しむ姿を見るのは嫌だ」
爪先立ちになったユテに唇を啄まれ、柔らかなそれに応える。拗ねるような声だった。
……確かに、ユテとしても体に大きな傷跡があるのもいい気分はしねえか。それに俺がいちいち反応する度に否応なしにあの時のことを思い出して嫌な気持ちになるだろうしな。
悪かった、と謝罪のハグをしようとしたが、ユテは腕の中からするりと抜け出してテーブルに食事を配膳した。
「シグ、ご飯にしよ。料理が冷めちゃう」
謝罪のキスから始めてベッドにもう一度なだれ込む予定を見込んでいた俺の腕は、虚しく空を切った。肩透かしを食らったが手玉に取られた感じがして、これはこれで悪くなかった。……ユテ限定だけどな。
対面に座り、朝食に手をつける。ユテが出来に自信をのぞかせていたコーヒーを飲めば、豊潤な匂いと味が全身に染み渡るような感覚がする。
「うめえ」
文句なしに美味いそれは、俺好みの濃い目に淹れられていた。俺の好みまで既に承知してるって、本当に出来た番だ。
いい加減なもので、さっきまで性欲にまみれていたはずの体は今や食欲に支配されていた。わんぱくな子供なみにモリモリ食っていた俺は、ふとユテの視線に気づいて手を止めた。
「シグ、何か気づかない?」
マグを両手に持つユテは満足そうな笑みを浮かべている。漠然とした問いに咀嚼が止まった。料理のことを聞かれているのかと思ったが、ユテの眼差しは真っ直ぐ俺に向けられている。
寝癖か?それとも髭に食べ物がくっついてるとか?
思い当たることがありすぎて答えが出せず、俺は降参した。
「そのコーヒー、お酒入ってないんだよ」
茶目っ気のある悪戯な微笑みに、俺は目を丸くしてマグの中身に視線を落とした。もう一口飲む。
確かに酒の匂いも風味もない。純粋な豆の旨味と爽やかな苦味を感じるだけだ。
「今日だけじゃなくて、この数日はずっと入れてないんだ。いつ苦情を言われるか待ってたんだけど、まさか全然気づいてないとは思わなかったな」
鈴を転がすような声でユテは笑った。
自分のことながら驚きを隠せない。浴びるほどに摂取するのが普通で依存気味だったのに、ここ最近酒瓶に手が伸びていないことは自分でも気づいていた。ユテが作ってくれる、風味付けに少量の酒が入った飲み物で十分に気が紛れていたからだ。……と思っていたが、俺の勘違いだったのか。
「目の下のクマも薄くなって、顔色も健康的になって、もっとかっこよくなった」
こんなにも早くアルコール依存から脱却できるとは思わなかった。体の急激な変化に戸惑いを感じつつも、嬉しい誤算だ。おまけにユテの嬉しそうな顔を見れたならなおのこと。
「ユテのおかげだな。ユテの愛情を一身に浴びたことで悪いところが全部治っちまったんだ」
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