運命の番を殺した英雄

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後日談:シグルドは気になるお年頃

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「ユテ、ちょっといいか」

 とある日、朝食を終えシェルターに行く支度をしていた俺は、寝室の続き部屋のクローゼットにいるであろうユテに声をかけた。
 クライゼル家の屋敷で暮らすようになってだいぶ経つが、いまだに慣れない。異常な存在感を放つ天蓋付きのベッドに負けない広い寝室。ちなみにベッドは俺が二回半も寝返りできるくらいにはでかい。足がベッドから飛び出すこともない。
 それだけで一部屋扱いのクローゼットに、俺がゆうに足を伸ばせる大きさの浴槽のある浴室付き。
 正直、寝室だけで俺が住んでたあばら家より広い。
 引っ越してきた初日にユテに案内してもらったが、途中からの記憶がすっぽり抜けている。何に使うのかよく分からない部屋がたくさんあって、貴族ってのはやべえな、って思ったことだけ覚えてる。
 そういや、軍の要職に就いてた時は王城に頻繁に出入りしなきゃならなくて、嫌だったんだよな。同じような見た目の部屋がずらっと並んで、無駄に何もかも大きくて広くて、実用性に欠ける。金持ちが考えることは訳分かんねえな、って自分には一生縁遠いものだと思ってたってのに、まさか自分が貴族になるとは人生分かんねえもんだよなあ…。
 なんて物思いにひたっていると、ユテが小走りでクローゼットから姿を現した。着替えの最中だったらしく、むき出しの足が目に入る。
 健康的で瑞々しい腿の内側に、赤い斑点が見え隠れしている。俺が最近つけた痕だ。
 いや、エッロ……。
 皮膚の薄い、柔いところだからか、口づけると反応がいいんだよな。ユテの感度がいいってのもあるが。腿から上、最も敏感な箇所に向けて唇を滑らせると、背中のけぞらせながら甘い声で啼いて──……。

「シグ。シーグ?」

 顔の前で手を振られて我に返る。気づけばユテが目の前にいた。

「大丈夫?ぼーっとしてたみたいだけど」
「ああ、ユテが可愛すぎて見惚れてた」

 本心のままに伝えれば、頬に赤みが差した。
 出会った頃は額が丸出しになるくらいに短かった髪も少し伸びて雰囲気が少し変わった。鳥の雛みたいだった前の髪型は額にキスしやすくて良かった。前髪の伸びた今も幼さは残るものの、貴族の当主として振る舞う場では前髪を後ろに流して凛々しくなる。
 そのギャップがたまらなくイイ。不謹慎にムラムラしちまう。
 ……ダメだ、また脱線しちまった。

「なあユテ、毎日料理を作らなくてもいいんだぞ」

 着替えに戻ろうとするユテを引き止めて本題に入ると、きょとんとした反応が返ってきた。元々大きなレモン色の目がさらに見開かれて、今にもこぼれ落ちそうになっている。
 クライゼル家には専属の料理人がいるが、俺ら二人の食事は全てユテが担っている。
 ユテは一般寄りだと言っていたが、俺からすれば専属料理人の作る料理は文句なしにうまいが馴染みがないせいか、あまり食が進まない。カトラリーがずらっと並べられるのも辟易する。どれから使うだの、作法だのなんだの……飯くらい好きに食わせろよ、と思わずにはいられない。
 そんな俺を気遣ってか、小さな厨房を増設してユテ自ら腕をふるってくれている。番の作るうまい手料理を毎日食えてこの上なく幸せなんだが──……。

「もしかして、飽きちゃった…?」
「違えよ、その逆。どれもこれも美味すぎる。けど最近はユテも当主の仕事も忙しくなってきたし、毎日作るのも大変だろ?」

 悲しそうに眉尻を垂らすユテに即座に否定する。
 理由を聞かれるとは思っていたが、予想外の反応に今度はこっちが目を見開く番だった。
 日中は各自取っているから、共に食事するのは朝晩ではあるが、ユテも自分の役目をこなしながら家事もするのは大変なはずだ。
 ちなみに、俺の中にユテの手料理を残すっていう選択肢はない。最愛の番が自分のために作ってくれたモンだ。残すなんてもったいないこと出来るか。
 いい年こいたおっさんが面倒だからって格式から逃げて、あげくに番に気を遣わせるなんてみっともねえしな。名ばかりとは言え一応陛下からも爵位をもらったんだし、ユテに見合うよう上流階級の生活にも慣れなきゃいけねえだろ。
 ……と説明したものの、ユテの表情は晴れずに曇ったままだった。

「…僕、料理するの好きだし、自分のアルファに奉仕したいのはオメガの性質だから、全然苦じゃないよ。シグがおいしそうに食べてくれるのを見るのが日々の楽しみなくらい。……僕に気を遣わなくていいから、嫌になったのならはっきりそう言ってほしい……」

 どこか拗ねたように下唇を噛んで俯く番の目に光るものが見えて、俺は慌てふためきながら否定した。華奢な肩に手を置いて顔を覗き込むが、全く響いていないようで表情が変わらない。拗ねた顔も可愛いが、誤解させたままではいられない。

「……分かった、白状する。みっともねー理由だけど笑うなよ?それと、さっき伝えたことも決して嘘じゃないってことは理解してくれ」

 目の前の頭がようやく縦に振れるのを視認すると、口からクソデカため息が漏れた。

「食い過ぎちまうんだよ…。ユテの料理が美味すぎて」
「??」

 ユテが目を瞬かせながら首を傾げる。頭上に大量の疑問符が浮かんでいるのが見える気がした。
 そこで俺はシャツをめくりあげて腹部を露わにした。ユテの視線が俺の腹に移動する。

「今はかろうじてキープしてるけどな。腹が出る日もそう遠くねえ。実際既にぷにってるしな」

 腹肉を指でつまんで見せる。昔は皮膚を掴むことすら困難だったってのに…老いってのは残酷なもんだ。
 ユテは俺の腹部をあちこち触り、最終的に同じように腹肉を細い指でつまんだ。そうかな?、と小さな呟きが聞こえる。

「勿論体型を維持するために、隙を見つけては鍛錬してる。けど加齢でどんどん代謝が落ちてくってのにドカ食いを続けてみろ。あっという間に酒樽のような腹の完成だ。どうすんだ?ユテ、俺の割れた腹にチンコ擦り付けるの好きなのに、出来なくなったら困るだろ?」
「またおじさんみたいなこと言ってる」
「みたい、じゃなくて立派におっさんなんだよ」

 眉根をぐっと寄せて不満顔で見上げてくるユテに脱力する。俺が自分をおっさん呼ばわりするのが気に食わないらしい。シグとの精神的な距離を感じるから嫌、だとか言っていたが、よく分からねえ。
 俺がおっさんなのは変えられねえ事実だろ、とは思うがユテが悲しむのが分かっているから、なるべく口に出さないようにはしている。

「うん、僕、シグのここに自分の擦りつけるの好き…。雁首の出っ張ったとこが腹筋に引っかかるの、すごく気持ちいいんだ。……でも、料理するのも止めたくない。……だから」
「だから?」

 妙なところで言葉を切ったのが気になって、オウム返しに聞き返す。俺の腹を撫でていたユテが両腕が体に巻きつく。爪先立ちなのか、顔の距離がいつもよりも近い。

「お腹が出ないように、今以上に鍛錬を頑張ってくれる…?」

 胸板に頬を押しつけるように顔を傾け、健康的に引き締まった生足を意味ありげに絡めてくる。潤んだ瞳にはよく知った熱と挑発的な光が宿っていた。


 *************


「うわっ、シ、シグルドさん、何してるんですか…!?」

 シェルターの運営で俺の補佐を務める若者、ジェイドが俺の部屋に入室するなり短い悲鳴を上げた。一瞥すると、壁に張り付いた状態で得体のしれないものを見るかのような顔で俺を見下ろしている。

「…なにって、腕立て伏せに決まってるだろ。まさか知らねえわけねえよな?」
「いや、それくらい知ってますよ。俺が聞きたいのは、ここで腕立て伏せしてる理由です」
「…お前、番いたっけ」
「いえ、まだ独り身っす。可愛いお嫁さん絶賛募集中。あの、会話中くらい止まってくれません?」

 ジェイドの発言を無視して腕立てを続ける。視界の端で彼が呆れた表情で目を回しているのが見えた。

「俺は今、番から愛を試されてんだよ」
「はあ」
「お前も伴侶ができたら分かる。最愛に抱きつかれて潤んだ目で上目遣いにお願い、なんてされてみろ。多少無茶なことでも絶対に叶えてやるって気になるんだよ」
「ユテさんに見事に転がされちゃってるんっすね」
「まあな。けど悪くねえし、実際楽しいぜ?プレイみたいなもんだ。夜には立場が逆転して、俺が転がしてる側だしな」
「ちょっ、急に下ネタぶっこんで来ないでくださいよ。セクハラっすよそれ」
「……まあ、なんだ。とにかく俺はアルファとしての矜持を保たなきゃならねえ。ユテへの愛を証明するためにな」
「へえ~。俺ベータなんでよく分かんないっすけど、アルファもアルファで大変なんっすねえ。あ、書類置いておくんで目を通しといてください」

 明らかな棒読みの受け答えをしたジェイドは手に持っていた書類の束を机に置くと、そそくさと退室した。
 ジェイドの奴、俺のことが面倒くさくなって逃げたな……。
 飲みこみは早いし、よく気がつくし、処理速度も精度も申し分なく、補佐としては日々助けられている。だが、雇用主の俺を舐めている態度がところどころ見られる。
 砕けた口調なのはいい。堅苦しいのは苦手だし、そもそも俺が口汚いから都合がいい。やることやってうまいことサボってるのも別に気にならねえ。ずっと張りつめられてても困るし、俺も同じくサボるタイプだから人のことをとやかく言えねえ。……ただし、サボる場所が俺の部屋でなけりゃなあ。
 この間なんか、俺のいない夜間に盛大に飲み食いしたらしい痕跡が部屋中に残っていた。なのにアイツは自分じゃない、ネズミの仕業じゃないっすかと堂々とのたまった。豪快な寝癖と口元についた食べカスを指摘するとようやく観念しやがったが。
 立ち上がり、ジェイドが置いて行った書類を手に取る。それに目を通しながら、今度は空気椅子を行った。


 そんな訳で、番の期待に応えるべくこれまで以上に鍛錬に力を入れた俺は、体を引き締めることに成功している。しかも副次効果として、前よりもずっと体力がついた。
 おかげで夜もすこぶる元気だ。

「あぅ……シグ、もぅ一回……?」

 俺のイチモツは、二回射精してもなお硬さを失わず、ユテの中で元気に脈打っている。対して何度イッたか分からないユテは、快感で蕩けた目で俺を見上げている。
 しっとりと汗ばんだ体は上気してほんのりと赤く染まり、至るところに俺がつけたキスマークが点在している。乳首がつんと尖って存在を主張する胸板は、乱れる呼吸の度に上下に動いている。
 ユテが俺のを根元まで咥えこんだ下半身は隙間なく密着して、絶景この上ない。互いの腹はユテが放った精液で汚れている。中を貫きながら、ユテの可愛いチンコを思う存分、俺の腹筋で扱いてやった結果だ。
 尋常じゃない艶かしさと色気を纏う自分のオメガに、欲望が下腹に集まっていく。

「ああ。鍛錬を頑張ったら、体力だけじゃなく精力まで底なしになっちまった。ユテへの愛の賜物だ。責任取って受け止めてくれるだろ?」

 我ながら、すげえ悪い笑みを浮かべていると思う。自分の手で番がとろとろになってくれるなんて、アルファとしてこれ以上に嬉しいことはないからな。ついニヤついちまう。

「ん……取る。がんばる…たくさん、しよ…」

 ユテは俺を真っ直ぐに見つめながら小さく、だがしっかりと頷く。ベッドに突いた俺の手に細い指が絡む。
 ねだるように、甘えるように。

「…俺の番、本当に最高」

 ユテの手を持ち上げて、唇を寄せる。口付けるのはもちろん、食んだり、口に含んで甘噛みしながら、俺は腰を動かした。


 結果として、子供が生まれてから俺の食事量は適正になった。俺に似た大食らいの子供たちが何度もおかわりをしてユテを喜ばせているからだ。
 ユテは変わらず思う存分に料理の腕をふるえて、俺は鍛錬を以前の量に戻すことができて、双方にとって好都合になった。

「シグ、最近ちゃんと食べれてる?子供たちすごく食べるから…。もうちょっと作る量増やそうかな…」
「食ってる!十分食ってるから!今のままで頼む!」

 真面目に思い悩む番に、俺はこんこんと言い聞かせる羽目になったのだった。
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