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18. 上書き

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 ロウシェさんの膝の上で抱きしめられながら、たくさん唇を重ねた。神気の交換じゃなくてキスな、と教えられた。

「恋人になったからには、これからたくさんキスしてもいいか?」

 甘い声と眼差しに、頷くしかなかった。ロウシェさんと口を合わせるのは気持ち良くて好きだから、拒否するつもりはなかったけど、直球で聞かれると恥ずかしかった。
 どのくらいの時間貪られていたのかはわからないけど、唇が離れる頃には息が上がって、体に力が入らなくなっていた。下着の中で勃起した性器が窮屈だった。服を脱がされて、ベッドの上に優しく押し倒される。
 呼吸を整える間もなく、同じく服を脱いだロウシェさんが覆いかぶさって来る。

「ドニ、エルカンにどこを触られた?」

 触られたと言っても、口に出すのもためらうくらいに少しだ。ロウシェさんの好きに触って欲しい。けど彼はエルカンさんの痕跡を上書きしないと気が済まないようで、僕が口を開くのをじっと待っていた。

「わ、脇腹を撫でられて……ンっ」
「こうか?」

 下から上へと、手のひらが脇腹を撫でる。それだけでくすぐったいような快感が走った。

「…首と鎖骨のところ、を…口でチュッて…」

 次は?と促されて、その場所を指でそっと触る。他の人にどこをどうされたかを好きな人に話すなんて、とてつもなく恥ずかしくて声が震えてしまう。手をそっとはずされて、首に熱い息を感じた。肌に口づけられる音がやけに近く聞こえる。

「あぅっ…」

 優しく食まれるだけだったのに、少し強めに肌を吸われて声が出た。反射的に肩をすくめてしまうも、気にしないようだった。ついには吸うだけじゃなくて舐められたりもした。

「後は?」

 満足した様子のロウシェさんが、僕の頭を撫でながら見下ろしてくる。唇を舐める仕草がとてもいやらしく見えた。今までこんなことはされなかったから、戸惑いと快感が入り混じって呼吸が乱れる。触られたところから熱が発生して、体の中を侵食されているような感覚がした。
 これ以上は何もされてないという意味で、頭を左右に振った。

「…ドニ、怖いのは分かる。酷なことをさせてるってのも。けど、エルカンに触られたまま放置ってのは、俺が嫌なんだ」

 ロウシェさんの顔が苦痛に歪む。そこで彼が勘違いしてることを知って、羞恥が一気に吹き飛んだ。

「ちが、違うんです…!エルカンさんにされたのは、それだけで…!」
「えっ?」
「ロウシェさんがすぐに来てくれたので…、あの、エルカンさんのことを庇ってるとか…強がってるわけでもなくて…本当に…」

 目を見開いて固まる眷属のことを見れなくて、視線があちこちにさまよう。言い終えた後の沈黙が重々しい。何か言わなくちゃ、と言葉を探していると、大きなため息が聞こえて肩がびくついた。

「はー……マジか」

 目の前の体が覆いかぶさってきて、ぎゅっと抱きしめられた。頬に柔らかな髪が触れる。

「良かった…、むしろこれ以上何かされてたら腸煮えくり返るとこだった」
「んっ」

 ロウシェさんに唇を啄まれる。本当に安心したらしく、雰囲気が柔らかくなって、うっすらと笑みも浮かんでいた。口を合わせるだけのキスが心地良くて、緊張でこわばった体から力が抜けていく。
 離れた唇が今度は胸に落ちた。

「…ぁ、うぅ…っ」
「ドニ、俺のことを考えながら一人でしてたって言ってたけど、どんな風にしたんだ?」
「…ぅ、え…っ!?」

 想定していなかった質問を突然ぶつけられて、僕は目を見開いた。口角を吊り上げたロウシェさんが、こっちを見ながら肌に口づけている。吸われたところがほんのりと赤くなっていた。

「ひぅっ…」

 腹から胸元へと上がってきた手に、乳首を摘ままれた。指先で転がされたり、押し潰されたりしている。

「ここ、自分でいじったりした?」

 刺激を受けてどんどん硬くなっていく乳首が、まるで弾力を楽しむみたいに遊ばれている。弄られる度に快感が電気のように下半身に向かって行く。もれそうになる声をこらえながら、頭を振って否定する。

「ドニの乳首、めちゃくちゃ感度良いのにな。もったいねえ」
「…あ、ア…ッ!」

 乳首がロウシェさんの口の中へと消えていった。見えないけれど、温かく湿った舌に包みこまれているのがわかる。赤い舌先でちろちろと舐められる度に、ぐにゅぐにゅと形を変える乳首があまりにも卑猥すぎて自分の体とは思えなかった。舐められていない方も、指で触られている。
 執拗に舐められたり吸われたりして、解放される頃には少しひりひりしていた。ぷくっと膨らんだ乳首が唾液に濡れて、すごくいやらしい。
 みぞおちや下腹、ロウシェさんの唇がどんどん下に向かって行く。一番敏感なところに熱い息を感じて、ぞくぞくとしたものが背中を走った。

「ここは、したよな?」
「…ん、ンん…」
「チンコ扱くだけで満足できたか?尻はしてねえの?」
「や、ぁ…っ」

 勃起した性器だけじゃなく、お尻の穴も撫でられた。ただ触られただけなのに、体がびくびくと反応してしまう。

「俺が教えた通りに気持ち良くできたか?こうやって尿道のとこ擦りながら、扱いて…」
「…ひ、あ…ァ、あ…っ!」

 見てみ、と言われて自分の性器に視線を落とす。僕が出した先走りを指に絡めて扱かれる度に、はしたない音が響く。刺激の強すぎる光景に思わず手で目を覆ったけど、すぐにはずされてしまった。しかも両手首を掴まれて、身動きがとれなくなってしまう。

「ゃ…っ、ロ、シェさ…!」
「目、そらすな。ドニの、俺の手の中でひくついてんのわかるか?少し扱くだけでも先走りがあふれてきて、うまそう」

 耳元で囁かれる声は熱を孕んでいて、その熱で思考が鈍くなっていく。彼の言う通り、性器はひくひくと震えて、ロウシェさんの手が動く度に先端から先走りが噴水のように湧き出ていた。
 さっきから恥ずかしいことばかりされて、聞かれて、言われている。羞恥の限界を迎えていっぱいいっぱいで、どうしていいのかわからなくて、感情が大波のようにあふれてきた。

「ドニ!?どこか痛かったか?」

 途端にロウシェさんの焦る声が聞こえる。泣きじゃくりながら、頭を振って否定する。手首を掴まれていた拘束が解けて、優しく涙を拭われる。

「…ろ、しぇさ…の、いじ、わる…っ。はずかし、こと…いっぱい…!」

 しゃくりあげながら、何とか言葉を紡ぐ。

「意地悪だと俺のこと嫌いになる?」

 不安そうな声。優しく頭を撫でられながら、また首を振る。
 そんなことで嫌いになるはずがない。ロウシェさんの意地悪なところも、嫌いなわけでも嫌なわけでもない。どきどきして、むしろ好きだったりする。

「でも、…きゅうにたくさん、っされ、たら…ど、して…ぃいか…わか、な…っ」

 いい年して子供みたいに泣いて、みっともない言い分だと頭の片隅にいる、理性的な自分の呟きが聞こえるような気がした。引かれてしまったら、どうしよう。

「はー…可愛い。底なしに可愛い」

 前髪をかき上げるように額を撫でられて、たくさん口づけられる。唇が目尻に落ちて、涙を吸われる。

「…ごめん。俺をオカズにオナニーしてたって想像したら可愛くてたまらなくて、つい調子に乗った」
「あき、れて…なぃ、…ですか…?」
「ないない。むしろ余計に興奮した」

 ロウシェさんの下半身を見ると、性器は萎えるどころか腹部にくっつくくらいに反り返っていた。血管の浮いたそれは、いつ見ても大きい。後でそれを自分の中に入れてもらえるのだと思うと、思わず生唾を飲みこんだ。嚥下する音がびっくりするくらいに大きく鳴って、思わずロウシェさんを見た。
 聞こえてませんようにと願ったけど、にやついた笑みを浮かべた表情を見て、羞恥で全身が燃えるように熱くなった。

「ドニのエッチ」
「ご、ごめんなさい…っ。そんなつもりじゃ…!」
「冗談だよ。少しからかっただけだ。つうか期待してくれてるみたいで嬉しい」
「…ん、ふぁ…」

 くつくつと喉を鳴らしながら、ロウシェさんが唇を合わせてくる。甘い唾液、もっと欲しい…。意地悪されたことも忘れて、口の中に入ってくる舌に自分から吸いついた。

「虐めて泣かせたお詫びに、ドニの言うこと何でも聞く」
「えっ…?い、いいです…!」
「遠慮しなくていいって」
「そんな…。僕、遠慮なんてしてないです…!」

 虐めて泣かせただなんて大げさだと思って、胸の前で両手を振る。決して遠慮しているわけでもなく、本当に気にしてない。むしろこんなことですぐ泣いてしまう僕の方が謝らないといけない気がする。
 だけど頭を撫でられながら、蕩けるような甘い笑みを浮かべられると何も言えなくなった。元から顔が整ってるなとは思ってたけど、好きだって自覚した途端どんどん格好良く見えてくる。じっと見つめられている今も、胸がどきどきしてしまって、見つめ返すことができない。

「いいから。俺が可愛いドニの言うことを聞いて、甘やかしたいんだよ」
「…ぁぅ…」

 泉の水のように透明度のある瞳が、顔を覗きこんで来る。耳の輪郭をなぞるように撫でられ、耳たぶをふにゅふにゅと揉まれた。
 また、可愛いって言われた。今夜だけで何回言われたんだろう。何度言われても慣れなくて、可愛いと耳にする度に心臓がきゅうと疼くような感覚がした。

「…あの、…ぎゅって、抱きつきたいです…」

 言った瞬間、ロウシェさんの目が点になった。

「もっと我が儘言っていいんだぞ?」
「えっ。えと、じゃあ、ロウシェさんのを受け入れてる時、さっきみたいに抱きしめて欲しいです」
「…そんなことでいいのか?」

 ロウシェさんは物足りなさそうだった。彼の言葉と表情に困ってしまう。だって、どんな我が儘を言えばいいのかわからない。自分の想いを受け入れてもらえて、それだけで幸せなのに。これ以上何を望めばいいんだろう?

「…?それが、いいです。前にぎゅって抱きしめられながらされたの、すごく安心できて…」

 目の前では、ロウシェさんががっくりとうなだれていた。彼が望む答えじゃなかったんだ。どんどん不安になっていく気持ちを抑えようと、胸の前で両手を握りこむ。

「あの…だめですか?」
「全然駄目じゃない。まさかそんな可愛い要望が来るとは思わなくて驚いただけだ」

 柔らかな笑みを浮かべて僕を見下ろすロウシェさんの眼差しが優しくて、嬉しいのと同時にくすぐったくも感じる。彼のことが好きだと言う気持ちが際限なくあふれでてくる。

「…スも…」
「ん?」
「キスも、いっぱいしてください」

 顔の横に置かれた腕に触れて、頬擦りする。我が儘を言えって言われるけど、実際に欲望を口に出すのは少し恥ずかしかった。無意識に声が小さくなってしまう。

「お安い御用だ」

 ロウシェさんが嬉しそうに笑う。近づいてくる唇に身を任せて、目を閉じた。
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