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番外編:歩みはゆっくりと

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「ん、ンぅ…── …っ!」

 びくびくと震える体と絡ませた舌が硬直する様子に、ドニがイッたことを知る。お尻の中に埋めた指を、痙攣する襞がきつく締め付けてくる。
 唇を離して体を起こし、恋人を見下ろす。激しい口づけと絶頂で乱れた呼吸を整えようと、胸が大きく上下している。伏せられた睫毛には涙の粒がつき、唇はどちらのものかわからない唾液で濡れていた。褐色の肌に精液が飛び散って、何とも言えずエロい。

「…ぁ、ひぅ…っ」

 彼の精液を舌で舐め取ると、びくりと腹が波打つ。体液と言えど、神気を多く含んだそれは甘く濃い。
 ついでに、下腹や内腿にも口づけてキスマークを残した。敏感な体は些細な刺激でも拾ってしまうのか、指を埋めている中がきゅうと締まる。
 体を重ねる時はいつもつけている。それに前のが薄くなっても上書きするように痕を残しているからか、彼の下肢にはたくさんの鬱血痕が散らばっていた。
 以前は首筋うなじなど見えやすいところにキスマークを残していたのだが、皆にからかわれて恥ずかしいと渋られるようになってしまった。他の奴等を牽制できないのは不満だが、思う存分キスマークをつけられてこれはこれで楽しい。
 自分だけがキスマークをつけることを許された部分。酷く淫猥に見えて、妙にムラムラしてしまう。

「…ドニ、こっち」
「んぅ…っ」

 尻の中からゆっくりと指を抜く。それだけでも感じてしまうのか、またドニは体を小さく震わせた。どこもかしこも敏感で、可愛い。
 恋人の体を起こし、膝の上に抱き上げる。迷うことなく首元に両腕を回して抱きついてくる彼に応えるように、抱きしめ返す。隙間なく触れ合う肌が心地いい。
 恋人になってしばらく経つが、毎日が多幸感でいっぱいだ。恋人になることを望んでいたが、片思いの期間が長かったせいで、こうしてドニと一緒にいられることが今でも夢のようだ。寝食を共にして、セックスをして、同じだけの愛情を返してもらっている。
 愛してもらえて嬉しい、自分も大好きだ、と涙ながらに言われたことはまだ記憶に新しい。健気で可愛い姿はしっかり瞼の裏に焼き付いて離れない。今思い返してもなお、歓喜で全身が震える。
 だけど欲深いもので、願いが達成されると次の願いが発生していた。

「なあドニ…、お願いがあるんだけど」

 丸く可愛い尻の割れ目にいきり立った熱の塊を擦りつけると、小さく喘ぐのが聞こえた。閉じられていた瞼が開き、黄味の濃い琥珀色の瞳が現れる。熱に浮かされた目はとろりと蕩けて、目尻は赤く染まっている。扇情的な表情に、屹立が更に硬度を増したのが分かった。

「…おねがい、ですか…?」
「うん。嫌?」
「…や、じゃなぃ、…です…。ろぅ、しぇさんが…喜ぶこと、なんでもしたぃ、…です」

 内容も聞かずにすぐさま頭を振って否定する素直なドニに嬉しく思うも、同時に内心苦笑する。無垢で素直なところもたまらなく可愛くて大事にしたいと思うのに、少し意地悪もしたくなってしまう。
 酷い奴だな、俺も。ドニの柔らかな唇を何度も啄みながら、自嘲した。

「俺の名前、呼び捨てで呼んで欲しい」
「え…?」
「できれば敬語もなしがいい」
「…あの、でも…っ」
「抵抗があるのは分かってる。ずっと敬語なのもドニらしくてすげー可愛いけど、恋人になってから結構経つだろ?敬語だと距離があるように感じて、少し寂しいんだよ」
「…あぅ…っ」

 固く隆起した先端を穴にあてがう。腰を落として飲みこもうとするのを避け、丸みのある柔らかな尻に擦りつけた。
 どうして、と言わんばかりの困惑した様子で、ドニがこちらを見る。目は涙で潤み、今にも泣き出してしまいそうだった。焦らして可哀想だと思いつつも、困った顔すら可愛くてたまらない。

「ドニ、敬語は止めなくていいから、せめて名前はさん付けなしで呼んでくれないか?」

 ドニが安心できるよう、笑いかける。自分の提案を今すぐ撤回して、どろどろに甘やかしてやりたい。体に染みついた習慣をすぐになくすのは難しいだろうと思う。分かってはいるけれども名前を敬称なしで呼んでほしい。
 ドニはうろうろと視線をさまよわせたが、逃げられないと悟ったのか、はくはくと口を動かした。

「ろ…ロウ、…ロウシェ、…」
「うん。ドニ、もう一回」
「…ロ、ウシェ…」

 名前を呼ばれる度に唇に口づける。たどたどしく、躊躇いがちに名前を呼ばれるのがとても心地良い。初々しさがたまらなく可愛くて、にやけてしまう。きっとだらしのない酷い顔になってるだろう。
 何度かのやりとりを繰り返した後、俺は屹立をドニの中に挿入した。すっかりぬかるんで柔らかくなっていた中は、すんなりと俺を受け入れた。途端に熱い肉襞が絡みついてくる。その気持ち良さに思わず吐息が漏れた。

「は…中、すげ…」

 ドニは挿入だけで軽く達したらしい。声もなく、目を閉じ唇を噛みしめて小さく震えている。下唇を指でなぞり、噛むのを止めさせる。悩まし気な吐息が口から漏れ、薄く開いた目からは大粒の涙が流れた。

「ドニ、ありがとうな。名前呼んでもらえて、嬉しい」
「…あッ…!ん、ンっ…」

 快感に背中を反らせる体を抱きしめ、下から突き上げる。ぎゅうと縋りついてくる恋人が愛おしい。中を貫く度に耳元で聞こえる艶めかしい喘ぎ声に、興奮がかき立てられる。

「…はっ、あ、あう、ぅ…っ!」
「ドニ…名前、もっと呼んでくれ」

 ドニの体を揺さぶり、何度も奥まで貫く。最奥まで突き入れると、時間をかけて慣らした肉襞がちゅうと吸いついてくる。抜こうとすると離したくないとでも言わんばかりに、きつく締め付けてきた。

「…ぁっ、ろ、しぇ…んっ」

 上下に跳ねる程に激しく貫かれながらも、おぼつかない様子で名前を呼ぼうとする健気さが心底愛おしい。彼の一挙一動、全てがこっちのツボを突いてくる。頭の中は、ドニのことでいっぱいだ。
 可愛い。世界で一番可愛い。愛おしい。エロい。大切にしたい。もっと気持ち良くしてやりたい。好きだ。愛している。

「…はぁ、ロウシェ…僕、もう、もぅ…っ!」
「ん、俺も」

 中が収縮を繰り返し始めて、ドニがイきそうなのを知る。あと一押し、とばかりに彼の弱いところめがけて突く。声にならない嬌声を上げながら、ドニは果てた。きつい締め付けに耐え切れず、俺もドニの中に射精する。

「…んン、ふ…ぅぅ…っ!」

 顔を真っ赤に染め、眉根を寄せてぎゅっと目を閉じた目からは大粒の涙が頬を伝う。中に出されるのも気持ちいいのか、体を小さく震わせている。
 残滓すら余さず注ぎこもうとゆるりと腰を動かしながら、穴の開きそうな程にじっとドニを見つめる。中を擦る度に聞こえる小さな喘ぎ声にすら煽られてしまう。
 可愛い。俺の恋人が可愛い過ぎる。いくらでも見ていられる。ドニのことが可愛くてたまらなくて、いつか好きすぎるあまり狂って死んでしまうんじゃないか、俺。
 そんな思いが頭をよぎる。だが、それはそれで本望かもしれないと同時に思う。
 やがて、脱力したドニが寄りかかって来る。それすら幸せの重みだった。その体を抱き寄せれば、一切の隙間なく肌が密着する。

「ドニ、可愛い」
「…ぁ、んン…っ!」

 汗ばんだ体を抱きしめながら、耳に息を吹き込むように囁く。彼の短い襟足を指で弄くりながら、うなじを撫でた。
 イッたことで全身性感帯となっているのか、触れる度に腕の中の体が小さく跳ねた。精を飛ばしてもなお硬度を保ったイチモツに、蕩けた襞がちゅうと吸いついてきてたまらない。恋人の愛らしい反応に、先程射精したばかりの欲望がもう復活していた。

「ドニ…もう一回、いいか?」

 俺の肩に寄りかかって乱れた呼吸を整えていたドニがゆっくりと顔を上げる。涙の膜が張った琥珀色の瞳が、ゆっくりと瞬きを繰り返しながらこっちをじっと見つめてくる。快感にとろけた表情に僅かに開いた唇が艶めかしい。瑞々しくふっくらとしていて、まるで果実のようだ。貪りついて、堪能したくなるのをぐっと堪える。

「…はい…、いっぱぃ、したい…です」

 従順に頷く姿に、もう我慢の限界だった。理性は簡単に焼き切れて、欲望のままに目の前の唇にむしゃぶりつく。強引な口づけにも関わらず、ドニが嫌がる様子はなかった。むしろ首に腕を絡めて、俺の舌遣いに応えようとしている。
 これで冷静になれなんて、到底無理だ。いちいち煽られて、興奮のしっぱなしで股間が痛い。
 神気をたっぷりと含んだ甘い唾液を貪りながら、恋人の体を優しくベッドの上に横たわらせた。


 ************


 何度目かも分からない精をドニの中に注ぎ込んだ後、細く長く息を吐きながら、ゆっくりと体を起こした。汗で額にはりついた前髪をかき上げ、ドニの様子を窺う。
 両手は力なくベッドの上に投げ出され、目を閉じて乱れた呼吸を整えている。顔は真っ赤で目は涙で潤み、言葉にしがたい妙な色気を感じた。
 あれだけドニの体を好き勝手貪ったにも関わらず、なおも性的興奮を覚える自分はまるで獣の様だなと自嘲が漏れる。

「…は、ぅ…」
「…ドニ、おいで」

 ドニの中から未だ半勃ちの性器をゆっくりと抜いて、横たわった体を膝の上に抱き上げる。途端に首元にぎゅっと抱きついてくる存在が愛おしくてたまらない。風を操り、汗にまみれて濡れた体を乾かす。

「ドニ、無理させてごめんな。水飲むか?咽喉、乾いたろ」

 腕を伸ばし、細長い容器を手に取る。辺り一帯に咲く花の朝露から採取した朝露だ。飲むとほんのり花の香りがしてとてもおいしい。

「…ん、飲む…」

 腕の中から聞こえてきた小さな声に、俺は固まった。目を見開き硬直する俺に気づかず、ドニは朝露の水をゆっくりと嚥下した。おいしい、と満足そうに息を吐いている。

「…ロウシェさん…?どうかしました…?」

 声をかけられて我に返る。
 さっきは敬語が抜けていたのに、もう元に戻っちまったか。一瞬砕けた口調を話したことは、本人は気づいてないらしい。完全に無意識の行動だったようだ。不思議そうに首を傾げて、可愛い。

「いや、何でもない。体を清めに泉に行くか」

 苦笑いを浮かべながら、柔らかな唇に自分のそれを押しつける。
 元の丁寧な口調に戻って残念に思うも、彼が一瞬でも気を緩めてくれたことが嬉しい。この先もずっと一緒にいるんだ。ドニが少しずつ変わっていくのを見るのも楽しみだと思った。
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