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抜け毛製造機と言われ
しおりを挟む「あなたは抜け毛製造機なの?」
妻から放たれた言葉は、僕の心を抉り貫いた。
「何なんだよ急に。喧嘩売ってんのかよ····」
気弱な僕には、強く言い返すことなどできない。
「喧嘩、ねぇ····。そんなんじゃないわ。ただのクレームよ」
妻の冷ややかな目に耐えきれず反論してしまった。
「俺だって製造したくてしてるんじゃないさ。勝手に····その······オートなんだよ」
瞬時に顔を伏せる妻。持ち直したのか、再び冷ややかな目をこちらに向ける。
「あなたが入ったお風呂にはプカプカプカプカ毛が浮いてんのよ! 大事なんでしょ!? 大事にしなさいよ!」
先程までの冷静な責めではなくなった。しかし、キレられるのは致し方ない。処理しなかった僕が悪いのだから。
「この上なく大事にしてるけど! フルオートなんだから仕方ないだろ!?」
またも妻は首が折れそうな勢いで俯く。肩の震えを抑えきれなくなってきている。このままいけば、今日は勝てるかもしれない。
「せめて掬ってから出なさいよ。ゴミが浮いてたら取る。子供でもできるわよ」
「それは····ごめん。あれでも頑張って掬ってるんだよ」
「······可哀想に。もう老眼なの?」
僕はまだ三十代後半。髪にやれなかった生命力を目に費やしたと言っても過言ではないほど、目は健若そのものだ。
「目は若々しく健康だよ! 現に君のこめかみに増えたまだ薄いシミだってよく見えてr──」
強烈なビンタを喰らった。
これは自業自得か。けれど、そんなにも毛が残っていたのだろうか。
「それ、本当に僕の毛かい?」
「間違いないわ。私にこんな縮れ毛は存在しない。それにあなたと私しか居ないじゃないの。ついに呆けたの?」
「なるほど。呆けてないよ。ちょっとしたジョークじゃないか。って、あれ? 毛髪じゃないの?」
「それもあるわ。毎日数本は浮いてるの。本当に気持ち悪い。たとえ自分の毛であっても抜ければゴミ。それすなわち敵なのよ!」
「ぅぐっ······」
これはもう言い返せない。
毛髪······待てよ。
「君のこのパーマのかかった髪は縮れ毛じゃないのかい?」
「違うわ」
即答で断言。これは手強い。
「そうなのかい。こんな事を言い合っても仕方ないんじゃないかな」
「そうね。不毛だわ」
「対処法案は?」
「一緒に入りましょう」
「それは良い案だ。採用しよう」
「それじゃ、呼んだら入ってきてね」
こうして、無事浮遊毛問題は解決し、さらに仲を深めることができた。
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