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2章 覚悟の高3編

いい加減にしろ

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 困惑している僕たちなどそっちのけで、八千代は電話で事の経緯を朔に話した。本当にザックリ『結人の洗浄を猪瀬に見せるかって話出てんだけど、お前の意見は?』と。舌打ちの後に、一言『待ってろ』と言って電話は切られたらしい。
 十数分後、朔が凄い剣幕で怒りながらやって来た。まぁ、こうなるのは目に見えてたよね。


「お前ら何考えてんだ。どうしてそういう話になるんだよ。結人はおもちゃじゃねぇんだぞ。最近こういうの多すぎんだろ。マジでいい加減にしろよ」

「いや、俺らもびっくりしてんだよね。まさか、場野が言い出すとは思わないじゃん?」

 啓吾が言うと、りっくんと冬真、猪瀬くんも頷いた。それはもう、この場に居た全員が八千代の発案に驚いたんだ。けれど朔は、そんなもの信じられないという顔をしている。
 僕も一緒に説明をして、なんとか半信半疑というところまで持ち込めた。はたして、八千代が何を思って言い出したのか、朔は聞く耳を持ってくれるだろうか。

「コイツらがくっつきゃ結人が狙われねぇつったんお前だろうが。その第一関門が洗浄だっつぅから手解きしてやろうって話だろ。話進まねぇし、俺がやりゃぁ必要最低限しか見せねぇでやれるしな」

「必要最低限って、動画とか探せよ。結人でやって見せる必要はねぇだろ」

「動画な。んなもん提案済みだわ。けど、生で見んのとは違ぇだろってよ。そりゃそうだわ。それは俺も始めてやった時思ったからな。わからなくもねぇんだよ」

 八千代がそんな事を思っていたなんて知らなかった。初めての時から、随分とスムーズにシてくれていたと思うのだが。
 八千代の胸の内を聞いても朔の怒りは収まらず、暫く八千代との押し問答が続いた。


「あのさ、俺の所為で揉めんの申し訳ないんだけど。つぅかお前らマジで怖いって。····ホントにもういいよ。俺が諦めたら済むハナシだろ?」

「お前が諦めたら、神谷がまた結人を狙うだろ。諦めんな。自力で頑張れ」

「朔、もうちょっと猪瀬くんに寄り添ってあげて? 本当に今日ずっと可哀想なんだよ····」

「そうなのか。けど、だからって結人を使って見本見せるなんて許可できねぇ。結人だって嫌だろ?」

「そりゃ恥ずかしくて死んじゃいそうだけどさ····。猪瀬くんが不安だって言うんだもん」

 猪瀬くん曰く、道具の使い方は分かるが実際にやった感じを知りたいんだとか。そりゃお手本が欲しいよね。で、そのお手本って僕しか居ないんだよね。

「ハァ····。どうすんだよ。こんなん堂々巡りだぞ。つかなんで俺と朔が揉めなきゃなんねぇんだよ」

 八千代は疲れたと言って、自分のコーヒーと僕のココアのおかわりを入れに行った。啓吾が全員分入れると言って後に続く。

 啓吾は皆にコーヒーを配り、八千代は僕にココアをくれた。そして、少し冷静になって話を再開する。

「あのね····えっとね、全部はやっぱり恥ずかしいから嫌なんだけどね、仕上げだけなら····見せても··いいかなって思うの····。ダメかな?」

「は? 仕上げってどこ? 解すトコ? あんなぐでぐでの可愛いゆいぴ、もう誰にも見せたくないんだけど。まぁ、どの段階でも見せたくないけどね」

「駿哉まで結人のこと抱きたいとか言い出しても困るしなぁ」

 りっくんと啓吾は朔寄りの意見らしい。それは僕だって同じだけど、このままじゃ全く話が進まないじゃないか。ならば、どこかで誰かが折れなくてはいけない。となれば、状況的に僕だろう。
 それに、冬真を好きだと言っている猪瀬くんが、僕を抱きたいとは言わないと思うのだけれど····。

「じゃぁどうするの? この話、振り出しに戻すの? ここまで話しといて戻れないでしょ。僕、頑張れるよ。それで猪瀬くんが勇気出せるなら、そのお手伝いができるんなら、僕だって勇気出すもん」

 僕は、決意を拳に込めて握る。その両拳に手を添え、そっと下ろしながら朔が言う。

「勇気の出しどころ間違えてるぞ。なんで猪瀬の為にお前がそこまでしなきゃなんねぇんだ?」

 ついに、僕にまで苛つきを隠せなくなったようだ。その冷たい口振りに、少しめげそうになってしまった。けれど、僕にだって思うところはあるのだ。

「だって、猪瀬くんは友達だもん。僕にできる事があるなら、してあげたいなって思ったんだ」

「普通の友達はそこまでしないけどねぇ。まぁ、結人にしかできない事だよなぁ····。結人はホントにいいの?」

「大丈夫だよ! だって僕、ふわふわしだしたらワケわかんなくなるし、あんまり憶えてないもん」

「ゆいぴ、それは得意げに言う事じゃないでしょ····。え、て言うかそんなに憶えてないの?」

「気持ちよかったなぁとかカッコよかったなぁとか、インパクトのある事は断片的に覚えてるよ。でも、順番とかよく憶えてない····。あと、何されてるのかよくわかんない····」

 ひとつひとつ聞くわけでもないし、僕からはよく見えないし見る余裕もない。何か凄く気持ち良い事をされているという認識でしかなかった。
 そういう知識が、未だに乏しい理由のひとつだ。啓吾がさせたがる事と、お仕置の時りっくんにネチネチと教えられた事くらいしか知らない。

「やっぱ結人が1番やべぇな。改めて不安になってくんだけど····」

 啓吾が言うと、りっくんと八千代が声を揃えて言った。

「「それな····」」

「結人、憶えてないからってシていいって事にはなんねぇんだぞ? 極力、俺らがお前を他人の目に触れさせたくないってわかってるか?」

 朔がとても心配そうに言う。まるで、小さな子に話すかのように。どうやら、苛立ちよりも心配が勝ったようだ。

「わ、わかってるよ。だからね、冬真には見せないもん。猪瀬くんにだけだよ?」

「んぁー····わかってねぇな。結人に悪気はないんだろうけどさ。そうじゃねぇんだよな····」

 皆一様に肩を落とす。それを、猪瀬くんは心配そうに、冬真は面白がって見ている。
 僕が何か思い違いをしているのは間違いなさそうだ。けれど、何がダメなのかまではわからない。また呆れさせてしまっているのだろうか。


 誰も何も教えてくれないまま、皆は諦めて猪瀬くんにだけ見せて教える事を許可した。啓吾が『話が進まない』と言って朔を説得し、八千代が絶対にフザケない事を条件に朔が折れた。そして、いつも通り担がれ八千代と浴室に向かう。
 準備ができたら猪瀬くんを呼び、道具の使い方や手順、注意点などを教えていく。猪瀬くんは真剣に聞いているが、それよりも僕が気になるらしい。

「うはぁ····。マジでエロいのな。つぅか皆が可愛いつってたのわかるわ。なぁ武居、ケツ弄られて気持ちイイの? 洗浄とかキツくない?」

「初めは····しんどいけど、皆がね、上手にシてくれるから気持ちぃよ。えへへ。でもねぇ、初めて八千代に洗浄された時はね、死ぬかと思った」

「まぁ、お前にとっちゃ急だったしな。慣れりゃちょっとはマシになんじゃねぇ? まぁ、結人が異様に強ぇから言えんだけどな。俺ら結人以外知らねぇから、そこは何とも言えねぇわ」

 八千代から丁寧に手解きを受けた猪瀬くんは、ビビりながらも挑戦してみると言っていた。どうやら、蕩けている僕を見て怖さは軽減されたらしい。八千代の狙い通りだ。
 けれど、僕たちにはこれ以上してあげられる事はない。あとは、ささやかながら応援することしかできないのだ。

 蕩けている僕は暫く、八千代の部屋に隔離された。そして、落ち着いてから啓吾の部屋に戻る。
 猪瀬くんからお礼を言われ、途端に恥ずかしさが込み上げた。これは、暫く目を合わせられないかもしれない。

「で、ヤんの?」

 啓吾がストレートに聞く。もう少し、オブラートに包めないものだろうか。

「駿が準備できんなら俺はいいよ。勃つかわかんないけど」

「が、頑張るよ····」

「今更かもしれねぇけど、無理してヤるもんじゃなくねぇか? 恋愛って、気持ちのモンだろ?」

 本当に今更な事を朔が言った。僕もずっと思っていた事だ。けれど、それは僕と朔だけのようで、他の皆は身体の相性次第というのもアリだと言う。
 それをひとつの手段としてではなく、今や最終目標のように思っているのではないだろうか。僕と朔は、皆の貞操観念が心配になって言った。

「俺らが結人とシといて言えた事じゃねぇけどな、もう少し恋愛として猪瀬の気持ちを優先してやったほうがいいんじゃないか?」

「そうだよ。皆、えっちできればどうにかなると思ってない?」

 皆は『ならないの?』とでも言いたげな顔をしている。

「ハァ····。これ以上は猪瀬と神谷の問題だから、俺らは関わんねぇぞ。だからもう帰れ。あとは、上手くいって結人が狙われなくなるのを祈ってる」

 そう言って、朔は猪瀬くんと冬真を追い出すように帰らせた。これから始まるのは、朔のお説教なのだろう。
 僕たちは、腕を組んで仁王立ちする朔の前に、綺麗に並んで座らされた。

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