ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

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3章 希う大学生編

八千代の許嫁


 啓吾がミアさんに現状を説明する。面倒臭そうに淡々と。それでいて、盛大に惚気を含めて語ってくれるものだから、おかげで僕は耳まで熱くなっているのだ。
 それを黙って聞いていたミアさんだったが、顔を真っ赤にして怒りで震えている。なんだか可哀想になってきた。
 僕としては、八千代とミアさんの関係について聞きたいのだが、一旦お預けを食らう事にした。


「私と結婚する話はどうなるのよ。反故にしてタダで済むと思ってるの? パパが黙ってないわよ」

「あ? テメェの親父がなんだってんだよ」

「星川財閥がアンタんトコの組をどれだけ世話してたと思ってるの? うちが支えてなかったら今頃どうなってたか」

 もしかして、政略結婚ってやつなのかな。凄いや、ドラマみたいな展開だ。

「世話になってねぇし、テメェんトコがなくてもうちは困んねぇわ。だいたいうちと関わってる財閥なんかロクなもんじゃねぇ。んな後暗いうしろぐれぇトコと関係持つわけねぇだろ」

「後暗くなんてないわよ! 私たちの結婚を条件として、うちがあの施設の建設に多額の融資をしたんじゃないの。パパが··私の為に····」

 最後、よく聞き取れなかったけど、ゴニョゴニョと何かを言った気がする。なんだろう、聞き逃しちゃいけなかったと、直感が鼓動をはやらせるんだ。
 けれど、それと同じくらい気になる言葉が耳に残っていた。

「「あの施設····?」」

 僕と啓吾は声を揃える。それは、秘密基地的な、アジトみたいな何かだろうか。
 そんな、バカみたいな頭の中を見透かされたのだろう。八千代が僕を見て、呆れたように大きな溜め息を吐いた。

「テメェんトコからアレの融資受けてねぇぞ。お前ンとこの親父が気に食わねぇから要らねぇつって、俺の親父に突っぱねられてんだろ。そんでもお前の親父がゴネて、一方的に許嫁だなんだつってんだってな。なぁ、桜華」

 何処から現れたのだろう、いつの間にか八千代の背後に桜華さんが立っていた。

「アンタねぇ、散々アタシの連絡無視しといて急に呼び出すとか、ふざっけんじゃないわよ! あ、結人くん、啓吾くん、お久しぶりね。お家どう? 慣れた? そうだ、お誘いありがとう。八千代からふてぶてしいメッセージ貰ったわ。お祝いたっくさん持っていくから覚悟しててね♡」

 突然の登場に、ぎっしり詰め込まれた挨拶。どれに返事をすればいいのか分からない。戸惑った僕は、挨拶すら返せずに固まってしまった。

「一気に喋ってんじゃねぇよ。これだからババァは──」

 ババァと言った瞬間、桜華さんの平手が八千代の頭を直撃した。折れたかと思うくらいの勢いで傾く頭。八千代の髪が乱れる。

「っってぇな! ぁにすんだよ!?」

「誰がババァですって? アンタそれよりミアちゃん放置してんじゃないわよ。びっくりしてるじゃないの」

 それはおそらく、桜華さんの勢いに驚いているのだと思う。僕と啓吾は顔を見合わせたが、口を挟む隙などなかった。

「あ? お前、コイツ知ってんのか」

「アンタねぇ····。この間、電話で話したの聞いてなかったの? はぁ····。あのね、アンタが小さい頃よくうちに来てたのよ、ミアちゃん。まぁ、アンタが素っ気ないからミアちゃん怖がっちゃって遊べてなかったけど」

「ンなもん知るわけねぇだろ。こないだ送ってきた資料データしか見てねぇわ。つぅか写真ぐらい貼っとけや」

 本当にこの姉弟2人は、物凄い勢いで会話が進むんだから。全くついていけないや。

「ねぇ、ごめんね、話がよく分かんない····」

「何その子。頭悪いの?」

 ミアさんに言われ、話についていけない自分が途端に情けなくなった。思わず、言葉に詰まり俯いてしまう。

「おし、帰んぞ。これ以上コイツが喋ったら手ぇ出そうだわ」

 そう言って、八千代が勢いよく立ち上がる。が、それを桜華さんが阻む。八千代の肩を押さえ込み、『決着つけていきなさい』と言って力ずくで座らせてしまった。
 桜華さんは、椅子を持ってきてミアさんと八千代の間に座る。そして、粛々と話をまとめてくれた。八千代がキレる前に、ちゃっちゃと話を終わらせたかったのだろう。

 話と言っても、概ね八千代が言っていた通りだった。
 先日アメリカから帰ってきたミアさんが、八千代との結婚話を進めようと、八千代の実家に連絡をしてきたのが始まりだったらしい 。一方的に話して、まったく話を聞かないまま電話を切ってしまったので、八千代の現状を知らないまま突撃してきたのだとか。

 随分せっかちな性格のようで、その上人の話を聞かないときた。なんて厄介なんだ····。
 ミアさんは、父親が勝手に進めた話である事を認めたが、全て分かった上で来たのだと言った。そうまでしてでも、八千代と結婚したいのだろう。
 多分、ミアさんは八千代が好きなんだよね。そんな気がする。

 それよりも、徐々に桜華さんの口調がキツくなっているのだが。もしかすると、八千代より機嫌が悪いのかもしれない。
 僕たちの現状が、嘘や冗談でない事も改めて説明してくれた桜華さん。一通りの事実確認を終えると、一息ついた桜華さんの纏う空気が変わった。
 から、に切り替わったような感じだ。少し怖いのは八千代で慣れたはずだった。けれど、八千代のそれとはまた違う雰囲気に驚きを隠せない。

「····とまぁ、経緯はこんな感じね。あのね、ミアちゃん。貴女、もう少し落ち着いて行動なさいな。こんな事して恥をかくのは貴女なのよ?」

「だ、だって··こうでもしないと話が進まないってばぁやが····」

「あぁ、あの人まだ生きてたの? 本当、昔から星川家の得になる事しか考えてないんだから。で、まんまと乗せられたわけね」

 桜華さんは、天井を仰いでうんざりした顔を見せる。その顔が、あまりにも八千代に似ていたので思わず笑ってしまった。

「あら結人くん、なーにが面白いのかしら?」

「ぅあっ、すみません····。桜華さんが八千代にそっくりだったから、つい····」

 僕は、慌てて言い訳をする。
 すると、八千代が『似てねぇわ』と言ってふわっと笑った。啓吾も加勢して『めっちゃ似てた』と言うと、不機嫌になる八千代。
 僕が今、妬いて癇癪を起こさずにいられるのは、きっと漸く得た環境のおかげだろう。もしもまだ一緒に暮らしていなかったら、また不安に駆られて河豚ふぐの様に頬を膨らませていたはずだ。

 僕たちのやり取りを、黙って見ていた····と言うよりも、睨んでいたミアさん。本格的に、八千代の奪取にかかる。

「アナタ達の関係は理解したわ。けど、私には関係ない。八千代は必ず私が貰うわ」

 冷静になったミアさんは、突如として冷たい雰囲気を纏った。けれど、そんなミアさんにひるんだのは僕だけだった。
 少し身を乗り出し、僕が使っていたパンケーキのナイフを向ける八千代。再び『八千代』と呼んだ、ミアさんの眼球スレスレで止めた。なんて危ない事をするんだ。

「八千代、何してるの!? 危ないでしょ!」

「あ? 殺されてねぇだけマシだろ」

「バカな事言わないの! ミアさん、大丈夫?」

 僕は八千代の袖を掴み、腕を下げさせた。
 桜華さんが止めないところを見るに、八千代の味方なのだろう。啓吾も何も言わない。それなら尚更、僕がちゃんと止めなくちゃ。

 流石に怯えた様子のミアさん。僕の言葉に答える余裕もなく、呆然と八千代を見つめている。少し涙を浮かべた瞳の所為か、とてもか弱く見えて愛らしいんだけどな。

「ねぇミアさん、本当に八千代が好きなの?」

 ぶわっと頬を赤らめる。なんだ普通の女の子じゃないか。って、なんだかこの感覚、前にもどこかで感じたことがある気がするぞ。

「す····好きだって言ったら、どうだって言うのよ」

「ちゃんと僕からお断りします」

「は?」

 ミアさんは、僕が何を言っているのか分からないという顔をする。そりゃそうだろう。けれど、僕なりの理由があるんだ。
 恋心もなく、政略結婚だとか小さい頃の約束だとか言われてしまったら、それはもう八千代が断るしかない。けれど、単に八千代に恋をしていて、それで僕から奪おうと言うのなら、嫁である僕にも断る権利がある。

「八千代は僕のものだから。絶対に渡さない」

 鋭い目で僕を睨みつけるミアさんに、怖気付かずしゃんとして言い放った。

「何よ、欲張りね。アナタ、他に3人も恋人が居るんでしょ? いいじゃない、1人くらい手放したって。どうせ、全員の事をいい加減に好きだから、誰か1人に決められないんでしょ」

 この言葉に痛む心は、もう皆に優しく封じてもらった。今の僕は、胸を張って自信たっぷりにこう言える。

「そう··思うわれても仕方ないと思う。けど、誰に何を言われたって、皆は僕のモノで僕は皆のモノなんだ。信じてもらえないだろうけど、僕は皆をそれぞれに愛してるから。他の誰かが居るから八千代が要らないだなんて、僕の想いはそういうのじゃないんだ。そんないい加減な気持ちで、ここまで来たわけじゃないんだよ。だからね、僕は誰一人手放す気はないです」

 滔々とうとうと述べた僕の所信。ちゃんと説明できていただろうか。ちゃんと伝わっているだろうか。
 黙って聞いていたミアさんだったが、とっても不満そうだ。それに、この表情かおは見た事があるぞ。
 あの、諦めの悪い真尋と同じような表情かおをしている。なんだか嫌な予感がするなぁ····。

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