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3章 希う大学生編
八千代の傷
しおりを挟む腰が抜けた僕を、りっくんがお姫様抱っこで部屋まで運んでくれる。部屋までの道中、中居さんの視線が痛い。凄く心配されてるんだもん。
それを躱そうとりっくんが、華麗に『キスしたら腰抜かしちゃって♡』ってウインクを飛ばしまくる。こっちのほうが妬けちゃうよ。
「りっくん、僕以外にウインクしたらヤだ····」
「え····んぁ゙ーっっ♡ 可愛ぃぃっ!!」
歩きながら僕に顔を埋めるりっくん。まったく、前を見て歩いてほしいものだ。
啓吾は少し後ろをついて来ている。やはり不機嫌そうだな。怒っていると言うよりは、拗ねていると言った感じだ。
部屋に戻ると、朔がうつ伏せに倒した八千代に跨っていた。どういう状況なのだろう。朔は眉間に皺を寄せ、八千代の腕を後ろで締め固めている。
その前に、上影組が座っていた。朔と八千代を、海老名くんと倉重くんが宥めているみたいだ。
「あっ! やーっと戻ってきたぁ」
両手を後ろについて、ダレた様子で座っていた窪くんが言う。
「場野くん超怖いんだけど! 瀬古くんが押さえててくんなきゃ、結人くん探しにいくつって暴れるんだもん。宥めんの苦労したんだよ~」
「宥めてんのは海老名と倉重だろ、バカ照。そんな事より、結人くんの気持ちを考えろ」
窪くんはハッとして、またやってしまったと顔に浮かべて謝ってくれた。空気を悪くしたのは僕なのに、気を遣わせてしまって申し訳ないんだけどな。
そして、朔は八千代に『暴れんなよ』と言って解き放った。
「ってぇな。テメェ加減できねぇの自覚しろよ」
八千代は自分の肩を押さえ、動くのを確認するように回しながら言う。
「お前が暴れて言うこと聞かねぇからだろ」
「結人探しに行くつっただけだろうが。ぁんで止められにゃなんねぇんだよ」
「冷静さを欠いた状態じゃ、纏まる話も纏まらなくなると判断したんだろう。瀬古くんの判断が正しいと思うよ」
永峰くんが、八千代に物怖じせずキリッと言い放つ。が、八千代はさらに高圧的に返す。
「あ? 俺ァ冷静だわ──ってぇ」
朔が八千代の後ろ頭を叩く。
「どこが冷静なんだ。つぅかその失礼な態度やめろ。んで、さっさと結人迎えに行け」
朔が言うと、八千代がぎこちなくこちらを盗み見る。僕はまだ、りっくんに抱えられたまま。啓吾はブスッと入り口で腕組みをして壁に寄りかかっている。
僕は、八千代から視線をパッと外し、りっくんの胸に顔を埋め隠す。
八千代は、ゆっくりと歩み寄ってきて、小さな足音を鳴らして立ち止まる。なにやら戸惑っている様だ。言葉が出るまでに時間を要している。
僕が、りっくんの浴衣を握ってぷるぷるしていると、八千代が小さな溜め息を吐いて、ゆっくり静かに言葉を掛けてきた。僕の髪をそっと指で攫い、熱くなっている耳に髪を掛けるんだ。指先しか触れてないのに、えっちすぎるよ····。
そして、りっくんの腕の中なのに、耳元へ唇を寄せ狡い声で話す。
「結人、悪かった。お前にまたなんかあったらって思ったら止まんねぇの、分かんだろ? 傷つけたかったわけじゃねぇのも」
これは、反省しているつもりなのだろうか。素直じゃないと言うか、上からと言うか、なんだか釈然としない。が、どうでも良くなるくらいイイ声で言うんだ。本当に狡い。
僕は、反応に困り言葉を返せず、めちゃくちゃ怒っていて許さないから! みたいな態度になってしまっている。
どうしよう。怒っていないが、まだ許しきれていない。それを上手く伝えられるかな。
浴衣を握る手を緩めた時、八千代はさらに甘い声で僕を呼んだ。
「結人、お前に無視されんの辛ぇんだけど。····なぁ、俺んトコ来いよ」
僕は、りっくんに小さな声で『ごめんね』と呟いた。りっくんが『いいよ、行っといで』と言ってくれたのを聞いて、バッと八千代の方を向き両手を伸ばす。
八千代は僕を受け止めて、りっくんから奪うように抱えてくれた。僕は、ガバッと八千代の首に抱きつく。
「八千代、ひっぱたいてごめんねっ。心配させてるのは僕なのに、何言われたって仕方ないのに····嫌いならないでぇ··、もう叩いたりしないから··ごめ゙んな゙しゃいぃ」
許していないはずだったのに、文句のひとつでも言ってやろうと思っていたのに、僕は真っ先に謝っていた。必死に縋りつき、八千代を引き止めるようにキツく抱き締める。
「なんでお前が謝んだよ。お前はなんも悪くねぇだろ」
ぎゅっと抱き締めて、優しく額にキスをしながら宥めてくれる。怒っていないのは分かっている。嫌われないのも分かっている。けれど、不安は拭えないんだもの。
そっと離れ、八千代の頬を指で撫でる。赤くもなんともなっていない。結構、思い切りぶったはずなんだけどな。
「痛くない?」
「だいじょ──····痛ぇ」
「むぅ····嘘つき」
「痛ぇわ。お前からくらった初めてのビンタだからよぅ、色んなトコが痛かったン忘れねぇようにしねぇとな。··っはぁぁぁ····、お前に嫌われたンかと思って焦ったわ」
また強く抱き締めて、八千代は僕の首筋に頬を擦り寄せる。
ほっぺしか叩いていないのに、どうしてあちこち痛むのだろう。そんなに響いたという事なのだろうか。
「「「「甘ぁ~····」」」」
僕たちの仲直りを見て、上影組が見事にハモる。そうだ、居たのを忘れていた。なんだか恥ずかしいや。
驚かせて心配を掛けた事を謝ると、元はと言えば窪くんの爆弾発言の所為なのだからと、3人は笑って許してくれた。
窪くんは、軽率な発言だったと再度謝罪してくれて、僕たちが仲直りできた事をとても喜んでくれた。やっぱり、根はいい人なんだよね。
八千代は少し不満そうだったが、僕は『もういいよ』と言って許した。決して悪気があったワケじゃないのだから、これ以上責めようがないんだもの。
りっくんと海老名くんが、気を取り直して夜の街に遊びに行こうと提案する。仲直りもできた事だし、まだ少し重苦しい雰囲気を変えようとしているのだろう。
上影組が一旦部屋に戻り、僕たちも出掛ける準備をする。八千代に浴衣を直してもらいながら、頭に過ぎっていた事を聞いてみる。
「ねぇ八千代、違ってたらごめんね。千鶴さんに襲われた時の事、引き摺ってる?」
「··っ、いや····」
「絶対引き摺ってんじゃん。全部セリフに出てんだよ。だいったいさぁ、ゆいぴが俺らに似てるから抵抗できないとか分かりきった事じゃん」
「····え?」
「似てなくても抵抗できねぇんだし。ちょい悪化する程度じゃん」
「え?」
「そんな今更な事で妬いてんのか。フッ、みみっちいのは成長しねぇな」
「ねぇ待って。皆、僕の認識酷くない?」
「反論は?」
啓吾に言われ、僕は言葉を返せず黙る。だって、反論の余地なんてないんだもの。
「啓吾、ゆいぴ責めるようなのやめろよな。つぅかなんで啓吾まで機嫌悪くなってんの?」
そうだ、僕もそれが気になっていた。
「えー? あー··っとさ、結人が脱走してる間、場野と色々話しててさ。結人がチョロいのって、どう考えても俺らの所為じゃん? 大事なのに自分たちで危うくしてんだなって思ったら、なんかほら····モヤモヤしてさ」
「なんだ、八つ当たりか。結人に謝れ」
「うん。ごめんな、結人。さっき腰砕いた時もさ、俺らのなのに他でもあんな顔また見せたりすんのかなって思ったらイラッとしちゃってさ····」
なんてこった、だ。流石に勝手だとは思うけど、要するに愛されてるんだよね? 僕があまりにもチョロ過ぎるのがいけないのに、僕は悪くないのかな。なんだかややこしい。ちょっと分かんなくなってきちゃった。
僕が難しい顔をしていると、りっくんが助け舟を出してくれる。
「ゆいぴはそのままでいいんだよ。バカ2人が勝手な事ばっか言ってさ。こんなに可愛くえっちに成長したゆいぴがえっちじゃなくなったらどうすんのさ」
「いや莉久、そうじゃねぇだろ。そう躾たクセに妬いて結人を傷つけたのがダメなんだろ」
「そう、それ。ホント勝手すぎ。場野も啓吾も独占欲剥き出しすぎなんだよ。もっとここぞって時に爆発させろっつぅの。ゆいぴを傷つけるなんて、1番有り得ないからね」
八千代と啓吾は、バツが悪そうに黙りこくってしまった。僕は、慌ててりっくんを宥める。
「折角の旅行だしさ、もう揉めるのやめようよ。りっくんが怒ってくれるのは嬉しいんだけどね、僕にも原因がないわけじゃないんだし、2人とも謝ってくれたから····ね? 楽しみにしてた夜遊びだよ! 早く遊技場行こ?」
僕はりっくんの手をとって言った。りっくんは、やれやれって顔で手を握り返すと、可愛く唇を尖らせ『もう、仕方ないなぁ』と言ってお小言を終えた。
りっくんが、僕を思って言ってくれているのはよく分かっている。だからこそ、ここでりっくんに嫌な役回りをさせたくないんだ。皆も僕の気持ちを察したのか、大人しく夜の街を目指した。
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