《Imaginaire Candrillon》【イマジネイフ・サンドリヨン】〜ゲーム世界で本気の闘いを〜

六海刻羽

文字の大きさ
8 / 28

第8話 チャイナ師匠

しおりを挟む
Side ルフラン

 アリシアさんに教えてもらった場所は王都に隣接する森の中。
 ダンジョンではないのでマップモデリングの必要もなく迷うことはありません。
 ただ辺りを見渡せば、鬱蒼うっそうとした木々が生い茂る弱肉強食の緑の世界。
 魔物がいるかはわかりませんが警戒して損はないでしょう。

「……あれですかね?」

 一際高く茂った草をかきわけると、そこは辺りが岩壁に囲まれた小空間。
 涼やかな風の調べ、煌めく泉と一本の巨大な木――そして、素朴な小屋が建っています。
 アリシアさんの話では、あそこに【魔法拳士マキドナス】の師範代、アルメディア氏が住んでいるのだとか。
 足踏みしていても仕方がありません。
 私は草から身体を出して小屋へと向かおうとしたところ――。

「おやおや。こんなところに来客かい?」
「――ッ!?」

 響いたのは女性の声。
 次いで、脳内に響き渡る野性的な警鐘。
 振り向き、視界で捕えたのは、すでに私の頭へ足を振り下ろしている襲撃者。
 刹那に廻る選択肢。
 防御? 迎撃? 反撃?――否、その全てが不可能です。

「クッ!」

 私が選んだ行動は全力の横っ飛び、つまりは回避でした。
 正直に言って避けられたのは奇跡に近いです。

「ほう、いまのを避けるのかい」

 私がすぐさま姿勢を正している内に襲撃者は面白そうに口笛を吹きました。
 そこにいたのは、緑の髪を結い上げ、背中を大胆に開いたみやびな柄の衣服を着た美女。
 カンフー映画とかに出てくるチャイナ的な人物です。

「随分と蛮族的な挨拶ですね、生まれはどちらで?」
「戦いの星。アタシはそこで生まれてそこで死ぬつもりでいる」

 チャイナ美女は脚を折り曲げ、歌舞伎の見栄のようなポーズを取ってきます。
 やっべぇですよ、完全に戦闘態勢ですよ。

「…………強いですね」

 リアルでの中学や高校の部活でも、全国大会まで行けば強い奴とはそれなりに巡り合います。
 そういった人物は独特の空気を持っていました。
 戦うまでもなく、出逢った瞬間に強さが、ヤバさが伝わる。
 目の前のチャイナ美女が纏う空気もそれに近いものを感じました。

「それで、君はこんなところに何の用かな?」
「できればそれを先に聞いてほしかったですね。私は聖樹騎士団副団長、アリシアさんの紹介で【魔法拳士マキドナス】の師範代であるアルメディアさんに会いに来ました」
「あら」

 それを聞いて、チャイナ美女は構えを解きました。

「シアちゃんの紹介かい。なら悪いことをしたねぇ」

 今までのことがまるでなかったかのようににこやかな笑みを浮かべてきました。
 瞬間、風が吹いたかと思うとチャイナ美女は目の前に…何それ?
 いつ接近されたのかと思うほどに、それこそ彼我の距離は吐息が届くまで。
 黒頭巾と対峙した時とはまた次元が違う緊迫。
 気合や根性では到底埋めることのできない力の差を否応もなく理解させられます。
 おそらく、この人こそが――。

「アタシこそが【魔法拳士マキドナス】の師範代、アルメディア・トロワだよ。いきなり襲いかかって悪かったね。話は小屋で聞こうか」

 屈託なく笑いながら頭を撫でられます。
 見た瞬間に勝てないと思ったのは初めての経験かもしれません。

 この世界の底の知れなさを垣間見て。
 その上で私の表情に張り付けられたのは、笑顔でした。

「まったく、この世界は目指す場所が高すぎて困りますね」

 呟いて、私は目の前のチャイナ美女をいつか辿り着くための目標に設定しました。

 ***

 こと、と置かれたお茶は何やら毒々しい色と毒々しい匂いを発していました。
 なんだこれ、と私が訝しい目でアルメディアさんに説明を求める視線を送ると。

「粗茶だ」
「……粗末な茶という点では外れていませんね」

 鼻孔をくすぐるどころか殴り掛かってくる暴力的な匂いに思わず鼻を押さえます。
 この匂いは昔、友人がシンガポールで買ってきたドリアンチョコレートの匂いですよ。

「茶葉はなにを?」
「トロワ家秘伝の生薬だ。元気が出るぞ」

 できれば秘伝のままであって欲しかったものです。
 しかし私はこれからこの人を師範する身、多少の無理難題は受け入れるべきでしょう。
 意を決して茶器をあおります。

 ―――――かはっ。

 どろりとした半液状の物質が舌の上を蹂躙しました。
 想像を絶する苦みに体裁など忘れて私はそこらを転げまわります。

「あはははっ! 本当に飲むとは思わなかったよ! 苦いだろう、それ! アタシも飲めないんだ!」
「なっ……なら、なぜ、こんなものを……?」
「面白そうだったから」
「良い趣味してますねぇ、こんちくしょう!」

 差し出された水をひったくるように奪って口の中を洗浄しました。
 うあうあ、まだ苦みが舌にこびりついていますよ。

「それで、シアちゃんの紹介って言ってたけどアタシに何の用だい?」
「この状況で本題を切り出す自由さには見習うべきところがありますね」

 半眼で皮肉を言いながら私はアリシアさんに書いて貰った推薦状を渡します。
 なんだか最近、自由過ぎる人にしか会っていないような気がしますよ。

 アルメディアさんは差し出した文書に目を通します。
 そのタイミングで彼女の頭の上のカーソルが黄色から青色に変わりました。

「ルフランくんだね。君は【魔法拳士マキドナス】になりたいと」
「貴女を師範することに迷いが生まれてきましたけど、そういうことです」
「悪かったって。こんな森の中に人が来るなんて珍しいからついね」

 両手を合わせて首を可愛く傾ける姿には、その美貌と相まって心が揺れてしまいます。
 あれですね、アルメディアさんを簡潔に説明すると『一人暮らしのマンションで隣に住んでいたら最高的なお姉さん』といったところでしょう。
 ……伝わりますかね、これ?

「シアちゃんが推薦してくるってことはそこそこの逸材なんだろう。ちょうどアタシも才能のある弟子を取りたかったところだ。でも、それだけじゃ弟子にするのはまだ早い」
「といいますと?」
「アタシの試練を受けてもらう」

 瞬間。

 空気が凍り付きました。
 窓の外では多くの鳥が野性的な危機を感じて飛び立ちます。
 テーブルに置かれたティーセットがカタカタと揺れ始めました。
 私もまるで心臓を掴まれたかと錯覚するほどの息苦しさを覚えて、脂汗が湧き出ます。

「ほう、これで逃げないとは大したもんだ」

 なんてことないように言うアルメディアさんから立ち昇る闘気。
 これもまたきっと、彼女の言う試練の一つなのでしょう。
 私は思い出したかのように深く息を吸ってから宣言しました。

「試練、受けさせて頂きます」
「よく言った。久しぶりに見所のある子がきたね」

 アルメディアさんは小屋の扉を開けて外に出ます。
 ついて来い、ということでしょうか?
 私はアルメディアさんの後を追って泉近くの平地に到着します。

「試練はアタシとの決闘だ。一発でもアタシに攻撃を当てられたら合格にしようか」

 言って、再び先ほどと同じようなおぞましい闘気を発します。
 泉のほとりで寝ていた猫が悲鳴を上げて逃げていきました。

「手加減はしない。死ぬ気で挑んできなさい」

 恐らく、リアルも含めて私の人生最大の強敵。
 恐怖と怖気を、そして、それを超える高揚感を感じながら私は眼鏡を直します。
 憧れとなったその高みを目指すため、私は試練を挑み始めました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...