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第23話 答え
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Side ルフラン
ボーっとする頭が、仄かな水音を感じてゆっくりと覚醒していきます。
下半身が水に浸かったまま見上げる先は高く、ひたすらに暗い濃厚な黒。
全身を支配する倦怠感、その上に重ねられた激痛。
その原因を作った、少し前の出来事を思い出して私はガバッと起き上がります。
「アリシアさ……ッ!?」
全身の骨が複雑な音を鳴らしました。
刃物がゆっくりと体内をかき混ぜるような、どうしようもない痛みに眉根を寄せます。
しかし、その痛みを噛みしめながらも私の脳裏には手を伸ばした先にいたアリシアさんの顔が浮かんでいました。
「私は……っ」
私はなんなんでしょうか?
いくつか思い浮かぶ言葉があります。
戦いの中に興奮を見いだす戦闘狂。
中学、高校と、取り組んだ種目にて全国レベルとなった一流プレイヤー。
だが、その肩書きがこの世界では何になる?
所詮は、亡霊。
この世界を生きる人たちの現実を、ゲームという娯楽のために消費する遊び人。
好きな時に世界から逃げられる自分勝手で自己満足な挑戦者。
存在しないはずの、魂のない、色のない、亡霊。
そんな亡霊を逃がすために。
あの人は……アリシアさんは…………。
「ふざけないで、くださいよ……ッ!」
私は地面に向かって握った拳を振ろ下ろしました。
血を噴きだした右手の痛みも、所詮は仮初、幻覚、その事実がたまらなく悔しい。
なぜ、助けたんですか?
私は貴女の現実を消費してまで助けるような存在ではありません。
どうして、どうして……。
「あ、あの……」
そこで、後ろから控えめな声をかけられました。
振り向くと、声の印象通りの大人しそうな茶髪の少女が怯えた目でこちらを覗いています。
「もしかして、グフゥに攫われた方ですか?」
「は、はい……」
思いついた可能性を口にしてみると、彼女は控えめに首を縦に振りました。
「ルフランです。グフゥに攫われた人を助ける依頼を請けた冒険者です」
「あの、わたしはエリアです」
エリアさん……その名前はもしかして。
「ロゼちゃんのお姉さんですか?」
「い、妹を知っているのですか!?」
「はい。私の依頼主が彼女ですので」
妹の名前を聞いたエリアさんは驚いたように目を見開きました。
それを見て、私の心が急速に冷えていくのを感じます。
囚われの身でありながら妹を憂う姉。
姉を心配し、身一つでギルドへと乗り出した妹。
彼女たちもこの世界を生きている。
生きるだけの理由を、大切なもののために行動するための心の燃料を持っている。
私にとっての、それはなんだ?
「あの、怪我を……」
エリアさんは私の怪我を見て、沈痛な表情を見せます。
それからゆっくりと私の身体に手を添えて、小さく何かを呟きました。
「少しだけ、回復魔法が使えるので……」
彼女の手から出た淡い光が私の中に流れ込み、消費し尽くされていたHPバーが回復していきます。
エリアさんの腕前がいいのか、そう時間がかからないうちに私の中の痛みが消えていきました。
「ありがとうございます」
「いえ……」
「囚われているのは貴女だけですか?」
「その、まだ、何人かあっちに捕まってて……」
控えめに指さした先は、さらに奥まった通路の先。
彼女たちの救出こそが、私とアリシアさんの本来の目的でしたね。
「案内してもらえますか?」
きっと、この世界での最後の仕事となるでしょう。
そんな確信を抱きながら、私はエリアさんにお願いしました。
***
囚われていると言っても、別に縛られているわけでも牢屋に入れられているわけでもありませんでした。
石壁に囲まれた部屋には何人かの女性が。
私の存在を認めると、訝しそうな目を向けてきます。
そのうちの一人が私に尋ねました。
「あんたは?」
「冒険者です。貴女たちを救出する依頼を請けました」
それを聞いて、彼女たちの目に期待の色が宿りました。
「ってことは、あれかい? 上にいた化け物を倒したってことかい?」
上にいた化け物とは、あの魔人のことでしょう。
その存在を思い出すだけで、胸がちくりとしました。
「いえ、仲間がまだ戦っていると思います。私だけ事故でこちらに……」
「……? 詳しいことはわからないがとりあえずあたしたちを助けてくれるってことでいいんだろ?」
私の歯切れの悪い回答をそこそこに解釈して、ウィードの女性は続けます。
「あたしも一応冒険者なんだが、ありゃ駄目だ。化け物過ぎる。命があっただけでもよかったさ。あんたはプレイヤーだろ? いいよな、死なねぇんだからあの化け物とも気軽に戦えるんだろ?」
「――ッ!!」
彼女にとっては何気なく口にした常識なのかもしれません。
きっと戦っている仲間というのもプレイヤーだと思っているのでしょう。
でも、違う。
私の仲間は、彼女は、アリシアさんは……ウィードです。
この世界を生きる人間。
やり直しの効かない『今』を精一杯に生きる気高い魂を持った生命。
そんな彼女を、私は、見殺しに……?
「ルフラン、さん……?」
私が表情を強張らせたのを心配してくれたのでしょう。
隣にいたエリアさんが声をかけてきます。
「大丈夫です」
大丈夫じゃない。
心の中で鎌首をもたれる自分を無視して私は答えました。
それと同時に、小さな物音が聞こえてきます。
音の方に視線を向けると、まだ10歳にも満たないであろう少女が怯えたような目を座っていました。
こんな小さい子も攫われていたんですね。
「ぁ、ぁ…………」
何かを言いたげに口を動かしながらも、漏れ出るのは意味のない声の欠片のみ。
これはいったいどういうことでしょう。
「その子は、呪いを受けて……」
エリアさんが説明してくれました。
回復魔法では解くことのできない状態異常『呪い』。
その効果は多岐にわたり、それを解くには専用のアイテムか神官の『祓い』の魔法が必要なのだとか。
この少女が受けた呪いは声を奪う呪い。
私は何かないものかと、淡い期待でストレージにあるアイテム一覧を眺めます。
期待薄の検索は、しかし――。
【ハッピーキャンディ:聖樹の樹液を固めたキャンディ。あらゆる状態異常を無効化する】
それは私のはじめてのクエスト報酬。
アリシアさんがくれた、感謝の結晶。
彼女の残した一粒種は、私という媒介を通して王国の民の救いとなりました。
やはり彼女の生きる道は尊く、眩しく、迷わないからこそ、結果がついてくる。
それなら、私は何だ?
決まっている。
いつまでたっても正解を見つけられない霧の中で彷徨っている迷い子です。
「……こちらをどうぞ」
私はキャンディを少女に渡しました。
不思議そうな顔をした彼女でしたが、意を決して飴玉を口に放ります。
効果はすぐに現れたらしく、驚いたように目を剥きながら自分の声に喜びを示しました。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
屈託のない感謝は、ですがこの時ばかりは私の胸を締め付けます。
その笑顔の矛先は本来であれば私ではない。
彼女の呪いを解いたアイテムも、私がここに来れたのも、その功績は全てアリシアさんのもの。
そんな私の悲痛な感情が顔に出てたのか、少女は心配そうに私の顔を覗きました。
「どうしたの、お兄ちゃん。どこか痛いの?」
「そういうわけでは……ただ、少しだけ悲しいことを思い出してしまって」
「悲しいこと?」
「私を助けるために、仲間が犠牲になってしまったことです」
それは愚痴にもなっていない、意味不明な懺悔だったのかもしれません。
どうしようもない醜態を、どこかで誰かに否定されたかった。
そんな黒い感情の漏れ出しに、目の前の少女はただ――。
「じゃあ、その人に『ありがとう』って言わなきゃだね!」
「…………」
返ってきたのは、どこまでも純粋な答え。
誰もが知っている単純な正解。
難しい事情など知らない子供が出した無邪気な感想。
それを聞いて、私の中で燻っていた問いが何かを見つけようと足掻き始めたのを感じます。
しかし――。
「それは、できません」
「なんで?」
なんで、と言われましても。
そこで少女は「あ」と何かに気付いたように申し訳なさそうな顔をしました。
「もしかして、助けてくれたその人って……」
「いえ、その人は生きていますよ」
アリシアさんとはまだパーティを組んだままです。
彼女のHPバーは少しですが、確かにまだ残っていました。
「その人はまだ、戦っているみたいです」
彼女のHPバーが再び削れたのを見て、私は言いました。
もはや赤く染まり出したそのゲージに、心臓が絞られるような痛みを感じながら。
ですが。
「じゃあ今度はお兄ちゃんがその人を助ける番だね!」
どこまでも純粋な答えが、再び示されます。
純粋だからこそ、生まれた迷いに私は思考の中へと潜りました。
今度は、私が……?
迷うということは、もしかして私はまだ、何かをあきらめていないということですか?
では、それはいったい?
「私はどうすればいいと思いますか?」
どうしようもない問いを目の前の少女に投げました。
未来の行動とは自分の選択の結果です。
それを誰かに委ねるなど、運命の神が鼻で笑うかもしれません。
でも、それでも、今だけは。
答えが欲しい――。
「助けてくれてありがとうって、今度はお兄ちゃんがその人を助けてあげればいいんだよ!」
返された答えは、やっぱりどこまでも単純で。
だからこそ、逃げ場のない感情が私の中に溢れてきました。
「――――」
なんというか笑えて来ますね。
きっと答えはとっくに私の中にあったはずです。
それを認められず受け入れず、拒んでいたのは私自身だったのでしょう。
いまはただ、自分で答えを見つけられない迷い子かもしれません。
それでも、まだ自分の中に燻る何かがあるのなら。
この時ばかりは応えて見せろと、理知が叫びました。
頭に浮かぶアリシアさんの姿。
天然で、正義感が強くて、どこか抜けていて。
美しくて、気高くて、時折みせる女の子らしい一面が可愛くて。
そして、そんな彼女を助けない理由が自分の中にはどこにもないことに今更ながら気付きました。
「……行きたいところができました」
どうしようもなく手遅れだと知りながら。
それでも私はどうしようもなく望みます。
彼女を、アリシアさんを、助けたいと。
「少しだけ待っててくれますか?」
答えを教えてくれた女の子を頭を撫でながら、私は微笑みました。
今度は自分を嘲るような安い笑みではなく、私らしい不敵な笑みを浮かべながら。
「がんばってね!」
「はい」
決意を宿した私は上層に向かって走り出しました。
横目で見たエリアさんがどこか安心したような顔をしています。
他の囚われた女性たちは、状況についていけず目を回していました。
すみません、全てが終わったら今度は『二人で』助けに戻ります。
だから今は、守りたいと思うあの人の下へ――。
ボーっとする頭が、仄かな水音を感じてゆっくりと覚醒していきます。
下半身が水に浸かったまま見上げる先は高く、ひたすらに暗い濃厚な黒。
全身を支配する倦怠感、その上に重ねられた激痛。
その原因を作った、少し前の出来事を思い出して私はガバッと起き上がります。
「アリシアさ……ッ!?」
全身の骨が複雑な音を鳴らしました。
刃物がゆっくりと体内をかき混ぜるような、どうしようもない痛みに眉根を寄せます。
しかし、その痛みを噛みしめながらも私の脳裏には手を伸ばした先にいたアリシアさんの顔が浮かんでいました。
「私は……っ」
私はなんなんでしょうか?
いくつか思い浮かぶ言葉があります。
戦いの中に興奮を見いだす戦闘狂。
中学、高校と、取り組んだ種目にて全国レベルとなった一流プレイヤー。
だが、その肩書きがこの世界では何になる?
所詮は、亡霊。
この世界を生きる人たちの現実を、ゲームという娯楽のために消費する遊び人。
好きな時に世界から逃げられる自分勝手で自己満足な挑戦者。
存在しないはずの、魂のない、色のない、亡霊。
そんな亡霊を逃がすために。
あの人は……アリシアさんは…………。
「ふざけないで、くださいよ……ッ!」
私は地面に向かって握った拳を振ろ下ろしました。
血を噴きだした右手の痛みも、所詮は仮初、幻覚、その事実がたまらなく悔しい。
なぜ、助けたんですか?
私は貴女の現実を消費してまで助けるような存在ではありません。
どうして、どうして……。
「あ、あの……」
そこで、後ろから控えめな声をかけられました。
振り向くと、声の印象通りの大人しそうな茶髪の少女が怯えた目でこちらを覗いています。
「もしかして、グフゥに攫われた方ですか?」
「は、はい……」
思いついた可能性を口にしてみると、彼女は控えめに首を縦に振りました。
「ルフランです。グフゥに攫われた人を助ける依頼を請けた冒険者です」
「あの、わたしはエリアです」
エリアさん……その名前はもしかして。
「ロゼちゃんのお姉さんですか?」
「い、妹を知っているのですか!?」
「はい。私の依頼主が彼女ですので」
妹の名前を聞いたエリアさんは驚いたように目を見開きました。
それを見て、私の心が急速に冷えていくのを感じます。
囚われの身でありながら妹を憂う姉。
姉を心配し、身一つでギルドへと乗り出した妹。
彼女たちもこの世界を生きている。
生きるだけの理由を、大切なもののために行動するための心の燃料を持っている。
私にとっての、それはなんだ?
「あの、怪我を……」
エリアさんは私の怪我を見て、沈痛な表情を見せます。
それからゆっくりと私の身体に手を添えて、小さく何かを呟きました。
「少しだけ、回復魔法が使えるので……」
彼女の手から出た淡い光が私の中に流れ込み、消費し尽くされていたHPバーが回復していきます。
エリアさんの腕前がいいのか、そう時間がかからないうちに私の中の痛みが消えていきました。
「ありがとうございます」
「いえ……」
「囚われているのは貴女だけですか?」
「その、まだ、何人かあっちに捕まってて……」
控えめに指さした先は、さらに奥まった通路の先。
彼女たちの救出こそが、私とアリシアさんの本来の目的でしたね。
「案内してもらえますか?」
きっと、この世界での最後の仕事となるでしょう。
そんな確信を抱きながら、私はエリアさんにお願いしました。
***
囚われていると言っても、別に縛られているわけでも牢屋に入れられているわけでもありませんでした。
石壁に囲まれた部屋には何人かの女性が。
私の存在を認めると、訝しそうな目を向けてきます。
そのうちの一人が私に尋ねました。
「あんたは?」
「冒険者です。貴女たちを救出する依頼を請けました」
それを聞いて、彼女たちの目に期待の色が宿りました。
「ってことは、あれかい? 上にいた化け物を倒したってことかい?」
上にいた化け物とは、あの魔人のことでしょう。
その存在を思い出すだけで、胸がちくりとしました。
「いえ、仲間がまだ戦っていると思います。私だけ事故でこちらに……」
「……? 詳しいことはわからないがとりあえずあたしたちを助けてくれるってことでいいんだろ?」
私の歯切れの悪い回答をそこそこに解釈して、ウィードの女性は続けます。
「あたしも一応冒険者なんだが、ありゃ駄目だ。化け物過ぎる。命があっただけでもよかったさ。あんたはプレイヤーだろ? いいよな、死なねぇんだからあの化け物とも気軽に戦えるんだろ?」
「――ッ!!」
彼女にとっては何気なく口にした常識なのかもしれません。
きっと戦っている仲間というのもプレイヤーだと思っているのでしょう。
でも、違う。
私の仲間は、彼女は、アリシアさんは……ウィードです。
この世界を生きる人間。
やり直しの効かない『今』を精一杯に生きる気高い魂を持った生命。
そんな彼女を、私は、見殺しに……?
「ルフラン、さん……?」
私が表情を強張らせたのを心配してくれたのでしょう。
隣にいたエリアさんが声をかけてきます。
「大丈夫です」
大丈夫じゃない。
心の中で鎌首をもたれる自分を無視して私は答えました。
それと同時に、小さな物音が聞こえてきます。
音の方に視線を向けると、まだ10歳にも満たないであろう少女が怯えたような目を座っていました。
こんな小さい子も攫われていたんですね。
「ぁ、ぁ…………」
何かを言いたげに口を動かしながらも、漏れ出るのは意味のない声の欠片のみ。
これはいったいどういうことでしょう。
「その子は、呪いを受けて……」
エリアさんが説明してくれました。
回復魔法では解くことのできない状態異常『呪い』。
その効果は多岐にわたり、それを解くには専用のアイテムか神官の『祓い』の魔法が必要なのだとか。
この少女が受けた呪いは声を奪う呪い。
私は何かないものかと、淡い期待でストレージにあるアイテム一覧を眺めます。
期待薄の検索は、しかし――。
【ハッピーキャンディ:聖樹の樹液を固めたキャンディ。あらゆる状態異常を無効化する】
それは私のはじめてのクエスト報酬。
アリシアさんがくれた、感謝の結晶。
彼女の残した一粒種は、私という媒介を通して王国の民の救いとなりました。
やはり彼女の生きる道は尊く、眩しく、迷わないからこそ、結果がついてくる。
それなら、私は何だ?
決まっている。
いつまでたっても正解を見つけられない霧の中で彷徨っている迷い子です。
「……こちらをどうぞ」
私はキャンディを少女に渡しました。
不思議そうな顔をした彼女でしたが、意を決して飴玉を口に放ります。
効果はすぐに現れたらしく、驚いたように目を剥きながら自分の声に喜びを示しました。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
屈託のない感謝は、ですがこの時ばかりは私の胸を締め付けます。
その笑顔の矛先は本来であれば私ではない。
彼女の呪いを解いたアイテムも、私がここに来れたのも、その功績は全てアリシアさんのもの。
そんな私の悲痛な感情が顔に出てたのか、少女は心配そうに私の顔を覗きました。
「どうしたの、お兄ちゃん。どこか痛いの?」
「そういうわけでは……ただ、少しだけ悲しいことを思い出してしまって」
「悲しいこと?」
「私を助けるために、仲間が犠牲になってしまったことです」
それは愚痴にもなっていない、意味不明な懺悔だったのかもしれません。
どうしようもない醜態を、どこかで誰かに否定されたかった。
そんな黒い感情の漏れ出しに、目の前の少女はただ――。
「じゃあ、その人に『ありがとう』って言わなきゃだね!」
「…………」
返ってきたのは、どこまでも純粋な答え。
誰もが知っている単純な正解。
難しい事情など知らない子供が出した無邪気な感想。
それを聞いて、私の中で燻っていた問いが何かを見つけようと足掻き始めたのを感じます。
しかし――。
「それは、できません」
「なんで?」
なんで、と言われましても。
そこで少女は「あ」と何かに気付いたように申し訳なさそうな顔をしました。
「もしかして、助けてくれたその人って……」
「いえ、その人は生きていますよ」
アリシアさんとはまだパーティを組んだままです。
彼女のHPバーは少しですが、確かにまだ残っていました。
「その人はまだ、戦っているみたいです」
彼女のHPバーが再び削れたのを見て、私は言いました。
もはや赤く染まり出したそのゲージに、心臓が絞られるような痛みを感じながら。
ですが。
「じゃあ今度はお兄ちゃんがその人を助ける番だね!」
どこまでも純粋な答えが、再び示されます。
純粋だからこそ、生まれた迷いに私は思考の中へと潜りました。
今度は、私が……?
迷うということは、もしかして私はまだ、何かをあきらめていないということですか?
では、それはいったい?
「私はどうすればいいと思いますか?」
どうしようもない問いを目の前の少女に投げました。
未来の行動とは自分の選択の結果です。
それを誰かに委ねるなど、運命の神が鼻で笑うかもしれません。
でも、それでも、今だけは。
答えが欲しい――。
「助けてくれてありがとうって、今度はお兄ちゃんがその人を助けてあげればいいんだよ!」
返された答えは、やっぱりどこまでも単純で。
だからこそ、逃げ場のない感情が私の中に溢れてきました。
「――――」
なんというか笑えて来ますね。
きっと答えはとっくに私の中にあったはずです。
それを認められず受け入れず、拒んでいたのは私自身だったのでしょう。
いまはただ、自分で答えを見つけられない迷い子かもしれません。
それでも、まだ自分の中に燻る何かがあるのなら。
この時ばかりは応えて見せろと、理知が叫びました。
頭に浮かぶアリシアさんの姿。
天然で、正義感が強くて、どこか抜けていて。
美しくて、気高くて、時折みせる女の子らしい一面が可愛くて。
そして、そんな彼女を助けない理由が自分の中にはどこにもないことに今更ながら気付きました。
「……行きたいところができました」
どうしようもなく手遅れだと知りながら。
それでも私はどうしようもなく望みます。
彼女を、アリシアさんを、助けたいと。
「少しだけ待っててくれますか?」
答えを教えてくれた女の子を頭を撫でながら、私は微笑みました。
今度は自分を嘲るような安い笑みではなく、私らしい不敵な笑みを浮かべながら。
「がんばってね!」
「はい」
決意を宿した私は上層に向かって走り出しました。
横目で見たエリアさんがどこか安心したような顔をしています。
他の囚われた女性たちは、状況についていけず目を回していました。
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