平凡な世界にさよならを

こたつにみかん

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第一章 平凡な世界の中で

第二話 思考

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 結局その後も放課まで岡崎と話すことはなかった。

 部活が終わってから話そうと思っていたが一緒に入ってきていたはずなのに更衣室に岡崎の姿はなかった。

(あいつ、どんだけ着替えるのはやいんだよ!)

と、思いながら仕方ないので帰ることにした。

 裏門の方が駅に近いので、いつものように俺はそっちに向かった。門に着くとそこには人が立っていた。岡崎だった。

「さぁ、答えを聞きかせてくれ。」

やはり、いつもとは違う雰囲気だった。

「なんで、更衣室で待たんかったん?」

俺は尋ねた。

すると岡崎は

「他の人に聞かれたくなかったんだ。」

そんな大事なことか?

俺は疑問に思った。

「他の人にも同じ質問してたんじゃないの?」

岡崎は少し驚いた顔をしていた。

「誰から聞いた?」

「委員長。」

俺は答えた。

どうやら本当のようだ。

岡崎は「はぁぁ」とため息をついて「あの子か~」と独り言を言っていた。

「まぁ、いい。んで、答えは?」

再び尋ねられた答えを俺は答えた。

「俺は、この世界に平和なんてないと思う。確かに、俺らが住んでるこの町だけで見たらそれは平和なんかもしれへんけど、世界全体で見たら戦争やテロがあちこちで起こってる。たとえ、戦争がなくなったとしても殺人とか強盗やとか貧困問題は一生なくならへん。今日生きるか死ぬかの瀬戸際の人に平和ですねなんて、俺は絶対言われへん。それでも、平和が何っていうのを、あえて言うのならそれは、安心して、笑って明日を迎えれる世界のことやと思う。」

答えを言い終えた俺は、岡崎の顔を見た。その顔にはうっすらと嬉しそうな笑みが浮かんでいた。そして、岡崎は言った。

「成績平凡、運動能力平凡、クラスでの立ち居ちもそこそこ、そんな人の答えがこれとは。」

「悪かったな。平凡で。」

俺は少し怒った言い方で言った。

すると

「いや、おもしろい答えだ。正直、予想以上だった。」

岡崎は嬉しそうに答えた。

「は?今の答えがか?」

俺は驚いていた。こんな答えは誰でも思いつくと思っていたからだ。

「あぁ、確かに俺は他のやつらにも同じ質問をしたが、ほとんどのやつが戦争がない世界だとかわからないだとかこの世界ことやとか何もおもしろくもない答えばかりだった。」

その答えに俺は「へ~」といいながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「お前ってさ、たまに雰囲気変わるけど、クラスで見せてるあれは演技なん?」

岡崎は驚いていたがすぐにいつもの明るい雰囲気に戻り、

「あれ?ばれてた?演技には自信あってんけどな~。鋭いな君は。」

「まぁ、他の人は気付いてないみたいやったけど。何のために変えてんの?」

「そら、明るい方がみんなも親しみやすいし、仲良くなれるやんか。まぁ、君は全然心を開いてくれなかったけどな。」

「いや、お前が馴れ馴れしすぎて逆に怪しかったんや。と言うか、お前は何者なんや?」

俺がそう言うと、岡崎の雰囲気はまた暗い方になり、

「君にはまだ言えない。ただ、君はおもしろい力を持っている。あまり自分を過小評価しすぎないことをすすめるよ。」

気付けば、もう駅に着いていた。

「まだ質問があるのなら、また明日の朝早く来てすればいい。じゃあね~」

とそそくさと自分の乗る電車の方へ行ってしまった。

(まだまだあるに決まってるやろ!)

そう思いながら、俺は家に帰って寝るまで今日の出来事について考えていた。

そして朝に感じたあの違和感がわかった。

『俺、朝のこの風景を見るのが好きなんだ。この平和な風景を見るのが。』

そう、それはまるで、普段自分は危険な風景しか見ていない、そういうふうに言っているようにしか聞こえなかったのだ。

そして、あの質問の本当の意味。

それに、俺が持っているおもしろい力というのも気になる。

(あーもー。いったい何なんだよ!)

考えれば考えるほどわからなくなってきた。

そういえば、あいつは他の人の答えを言うとき、ほとんどがおもしろくもない答えを言ったと言っていた。

つまりそれは、他にも岡崎がおもしろいと思う答えを言ったやつがいるということだ。

(いったい、誰が・・・)

1人思い当たる人がいた。

(そうか!あの子か。あの子ならあり得るかもしれない。)

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