魔女のおやつ 〜もふもふな異世界で恋をしてお菓子を作る〜

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第一章 リコプリン編

33 謎の招待状

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「招待状?」

 マニはレオから、謎のカードを受け取った。
 レオも同じカードを手に持っている。

「ええ。今朝の見守りの際に、リコさんから受け取りました。マニさんにも渡してほしいって」

 カードには「招待状」という文字の下に、不可解な絵が描かれている。

「この真っ黒な屋根の、犬小屋みたいな絵は何なの?」

 マニの疑問に、レオもカードの絵を見直す。

「これがリコさんの言う、プリンという物のようです」
「へ? これ食べ物なの? 建物かと思った」
「建物……確かに」

 リコが仕事に行っている間に、2人はカードを手に、農園で立ち話をしている。

 マニは綿のようなポップコーンを思い出した。

「まぁ、あれも珍奇な見た目だったもんね。犬小屋がプリンでも、おかしくないわ」
「苦節一ヶ月にして、とうとうプリンが完成したんですね」
「完成するまで門外不出とか言って、全然味見させてくれなかったもんね。リコのそういうとこ、頑固だよね~」
「ええ。リコさんのひた向きで頑張り屋なところ……凄いです」

 マニはニヤニヤしてレオの遠い瞳を覗き込み、レオは我に返って目を逸らした。

「ミーシャにもカードを渡してほしいと頼まれたので、アレキ様の城に行ってきます。では、また夜に」

 颯爽と黒猫は高い枝に飛び乗り、姿を消した。
 マニは見上げて、一人で笑っている。

「” 好き “って言葉を” 凄い “に言い換えてるの、バレバレだから!」


 * * * *


 金ピカ城で、アレキは駄々をこねていた。

「え~、俺には招待状無いの!?」

 なんでなんでと騒ぐ大人を放って、レオはミーシャにカードを渡した。ミーシャはふわ~、と瞳を輝かせて、カードに魅入っている。

「ミーシャにもプリンを食べて欲しいそうです。夜になったら迎えに来ますから、一緒にリコさんのお宅に行きましょう」

 ミーシャは何度も頷いて、カードを大事に胸に抱えた。

「それでは失礼します」

 さっさと帰ろうとするレオを、アレキは引き止めた。

「なんだよぉ、来てすぐに! たまには俺の相手をしろよぉ!」

 手にボードゲームを持っている。

「駄目ですよ。これから役場で集会があるので」
「何の集会よ? 町内会のおじいちゃんじゃあるまいし、集会すんなよ!」

 無茶苦茶なイチャモンに、レオは溜息を吐いた。

「王都の周辺の町に強盗が出没して、治安が悪化しているんです。犯人が能力者のようなので、能力者を集めてパトロール隊を作るそうです」

 アレキは眉を顰めた。

「俺様は呼ばれないの?」
「師匠は力を使えないでしょう」

 ふーんだ、と拗ねるアレキを置いて、レオは役場に向かった。


 * * * *


 役場にて。

「仕事中にすまないね」

 オリヴィエ村長がレオを出迎え、案内されて役場の会議室に入ると、中には数名の男たちが集まっていた。
 既に話し合いが始まっている。

「被害者は4名。全員が肋骨や大腿骨などを粉砕骨折して重症だ。当初は能力者の単独犯だったが、途中から共犯者2人が加わり3人組になった事で、ターゲットを民家から店舗に変更したようだ。無人有人構わず押し入り、居合わせた者に重症を負わせて盗む手口……行動がエスカレートしている」

 説明している眼鏡の男は、資料を机の上に投げ置いた。

「被害者の証言では覆面をした男3名で、年齢は不詳。犯人のうち一人に掌を向けられた瞬間に衝撃音がし、骨が砕けていたそうだ」

 椅子に座っている顎髭の男が唸った。

「衝撃波か。物理攻撃の中でも破壊力と速攻性があって、危険な能力だな」

 レオはドアの前で立ったまま、黙って会話を聞いている。
 プリンの招待状から一転、物騒な集会だった。

 顎髭男はパシン、と両拳を叩き合わせた。

「ま、俺の剛力なら、骨が砕けるだけじゃ済まないけどな」

 力自慢を冷めた目で見下ろす眼鏡の男は、細面の顔を横に振った。

「遠隔攻撃でなければ、衝撃波に対処するのは難しいでしょう」

 それとなしに、指先の静電気を見せつける。どうやら電気使いらしい。
 能力者たちは互いに優位性を誇示しようと、会議室は張り詰めた空気になっていた。

 眼鏡男は、オリヴィエ村長とレオを振り返った。

「で、オリヴィエ殿。そちらの未成年は?」

 レオが自己紹介する前に、村長がレオの肩を押さえて先に紹介した。

「この子はレオ。宮廷専属の配達員で、王都周辺を担当している。主に不審者の報告をしてもらうつもりだ」
「なるほど。報告頼むよ、少年君」

 眼鏡男はただの顔合わせに興味を失って、大人同士のマウンティングの輪に戻っていった。


 役場の外で、オリヴィエ村長はレオを見送りに出る。

「まったく。能力者が集まると能力自慢だ」

 うんざりとして、レオを見下ろした。

「君の能力は珍しいから、下手に力を披露して内輪の出張り合いに巻き込まれないでくれ」

 レオは笑って頷いた。

「僕の能力は戦闘用ではなく、物を運ぶ配達用ですから。泥棒の穴と言う人もいますが……」

 村長はフッと笑う。

「泥棒の穴とは、アレキサンダーらしい表現だな。異次元の扉の能力は稀有だ。私は君以外に出会った事がないよ」

 レオははにかんで優美な挨拶をすると、黒猫に乗って去っていった。


 黒猫の視点から、町は俯瞰で見下ろせる。
 だが一瞬の景色の中で、特に暗い路地や物陰を見渡すのは難しい。夜は特に困難だ。

「強盗が光ってれば、上空からすぐにわかるんだけどね」

 レオの独り言に、黒猫が「ンニャッ」と答えた。
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