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第三章 幽閉塔の姫君編
18 真珠のお姫様
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南の島に、また夜がやって来た。
美しい星空に、涼しい風。砂浜には魔獣の遺体が転がったままだが、ビーチには平和が戻っていた。
「姫。新しいベッドをご用意しましたよ」
「ベッド?」
レオが右手を翳すと、異次元の扉から巨大な二枚貝が現れた。淡いピンクと白の、ふっくらとした綺麗な貝だ。
レオが貝に手を掛けて開けると、中にはふわふわのお布団が敷かれている。貝の内側は虹色に輝いて眩しいほどだった。
「わあ~、綺麗! 人魚姫のベッドみたい!」
レベッカ姫は瞳を輝かせて貝の中に入り、丸まって布団に寝転がった。
「では姫様。ごゆっくりおやすみなさい」
レオは貝の蓋を閉じた。蝶番が噛み合って、姫は貝殻の中に閉じこもってしまった。
「レオ。真っ暗だわ。蓋を開けて頂戴」
姫は貝の中からノックをするが、レオの返事は無い。
自分で蓋を押し上げようとしても、ビクとも動かなかった。
「ちょっと、レオ? 開けてってば!」
姫はドンドンと蓋を叩くが、やはり返事は無い。
やがて姫は癇癪を起こして、貝の中で暴れ出した。
「レオ! 私を閉じ込めて、どういうつもり!? この無礼者!!」
レオは貝の蓋の上に座って、無言で夜空を見上げていた。
貝は厳重に、ロープでグルグル巻きにされている。
(姫様、ごめんなさい。だけどこれは姫様を思っての行為ですから、王族への反逆とはなりません)
自分の胸に手を当てて、平常な心音を確かめている。
(オルタの契約術の抜け穴だ。王族の為の正義なのと信じれば、心拍は止まらない。心臓に留めを刺すのは、己の心理なんだ)
異次元の扉から弓矢を出すと、いつでも周囲に射てるように手元に置いて、脳内で宣言した。
(さぁ。ここからは、姫様と僕の我慢レースですよ)
* * * *
部屋は朝日が満ちて、輝いている。
リコはゆっくりと目覚めた。
マニとミーシャはすでに起きて、リビングにいるようだ。
リコが着替えてリビングに行くと、豪華な朝ごはんが並んでいる。リコの好物ばかりだ。
「リコ、おっはよ~! 昨日は楽しかったね!」
「今日はアレキ様が、仕事場まで馬車で送ってくれるって」
「お。リコちゃん。今朝は一段と、お肌ツルツルだな」
次々と掛けられる言葉に、リコは笑顔になる。
みんなが家族のように自分を心配して支えてくれているのが、心に染みるようだった。レオは未だ帰らないが、夢でエリーナに会えたおかげで、リコは強い勇気を得ていた。
朝食を食べて、アレキに鳥類研究所まで送ってもらい、リコは馬車を降りた。馬車の窓から、マニとミーシャが顔を出している。
「帰りもあたしとミーシャで、迎えに来るからね!」
「リコ。計画通りにね」
リコは頷いて、マニの農園に向かう馬車に大きく手を振った。
元気に出勤して、卵のお仕事に集中しているうちに、あっという間に夕方になっていた。
帰り支度をして外に出ると、約束通り、マニとミーシャが待っていた。
「おかえり、リコ~!」
「お仕事お疲れさま!」
三人娘は徒歩で、夕陽色の森の中を町に向かって歩き出した。
「あの後、農園まで送ってくれたアレキ師匠が、うちの父ちゃんに挨拶してさ。急に変な人が来たから、父ちゃんビビっちゃったよ」
「アレキ様は顔だけ見るとハンサムなんだけど、雰囲気と会話がアレだよね……」
マニとミーシャの会話に、リコは噴き出して笑っている。
三人が楽しく笑いながら歩いているうちに後方から気配がして、三人は立ち止まった。
「やっぱり……」
リコが後ろを振り返り、マニとミーシャも振り返る。
少し離れた距離に、美しい銀髪の男性……ユーリが一人で立っていた。
「ユーリさん。現れると思ってました」
美しい星空に、涼しい風。砂浜には魔獣の遺体が転がったままだが、ビーチには平和が戻っていた。
「姫。新しいベッドをご用意しましたよ」
「ベッド?」
レオが右手を翳すと、異次元の扉から巨大な二枚貝が現れた。淡いピンクと白の、ふっくらとした綺麗な貝だ。
レオが貝に手を掛けて開けると、中にはふわふわのお布団が敷かれている。貝の内側は虹色に輝いて眩しいほどだった。
「わあ~、綺麗! 人魚姫のベッドみたい!」
レベッカ姫は瞳を輝かせて貝の中に入り、丸まって布団に寝転がった。
「では姫様。ごゆっくりおやすみなさい」
レオは貝の蓋を閉じた。蝶番が噛み合って、姫は貝殻の中に閉じこもってしまった。
「レオ。真っ暗だわ。蓋を開けて頂戴」
姫は貝の中からノックをするが、レオの返事は無い。
自分で蓋を押し上げようとしても、ビクとも動かなかった。
「ちょっと、レオ? 開けてってば!」
姫はドンドンと蓋を叩くが、やはり返事は無い。
やがて姫は癇癪を起こして、貝の中で暴れ出した。
「レオ! 私を閉じ込めて、どういうつもり!? この無礼者!!」
レオは貝の蓋の上に座って、無言で夜空を見上げていた。
貝は厳重に、ロープでグルグル巻きにされている。
(姫様、ごめんなさい。だけどこれは姫様を思っての行為ですから、王族への反逆とはなりません)
自分の胸に手を当てて、平常な心音を確かめている。
(オルタの契約術の抜け穴だ。王族の為の正義なのと信じれば、心拍は止まらない。心臓に留めを刺すのは、己の心理なんだ)
異次元の扉から弓矢を出すと、いつでも周囲に射てるように手元に置いて、脳内で宣言した。
(さぁ。ここからは、姫様と僕の我慢レースですよ)
* * * *
部屋は朝日が満ちて、輝いている。
リコはゆっくりと目覚めた。
マニとミーシャはすでに起きて、リビングにいるようだ。
リコが着替えてリビングに行くと、豪華な朝ごはんが並んでいる。リコの好物ばかりだ。
「リコ、おっはよ~! 昨日は楽しかったね!」
「今日はアレキ様が、仕事場まで馬車で送ってくれるって」
「お。リコちゃん。今朝は一段と、お肌ツルツルだな」
次々と掛けられる言葉に、リコは笑顔になる。
みんなが家族のように自分を心配して支えてくれているのが、心に染みるようだった。レオは未だ帰らないが、夢でエリーナに会えたおかげで、リコは強い勇気を得ていた。
朝食を食べて、アレキに鳥類研究所まで送ってもらい、リコは馬車を降りた。馬車の窓から、マニとミーシャが顔を出している。
「帰りもあたしとミーシャで、迎えに来るからね!」
「リコ。計画通りにね」
リコは頷いて、マニの農園に向かう馬車に大きく手を振った。
元気に出勤して、卵のお仕事に集中しているうちに、あっという間に夕方になっていた。
帰り支度をして外に出ると、約束通り、マニとミーシャが待っていた。
「おかえり、リコ~!」
「お仕事お疲れさま!」
三人娘は徒歩で、夕陽色の森の中を町に向かって歩き出した。
「あの後、農園まで送ってくれたアレキ師匠が、うちの父ちゃんに挨拶してさ。急に変な人が来たから、父ちゃんビビっちゃったよ」
「アレキ様は顔だけ見るとハンサムなんだけど、雰囲気と会話がアレだよね……」
マニとミーシャの会話に、リコは噴き出して笑っている。
三人が楽しく笑いながら歩いているうちに後方から気配がして、三人は立ち止まった。
「やっぱり……」
リコが後ろを振り返り、マニとミーシャも振り返る。
少し離れた距離に、美しい銀髪の男性……ユーリが一人で立っていた。
「ユーリさん。現れると思ってました」
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