桃太郎のエロ旅道中記

角野総和

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【 鯉子が研究に目覚めた理由 】

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「そもそも、お嬢様の鯉子殿がどうしてそんな研究に手を出したのか」

犬山の疑問は皆の心を代弁していた。


そうなのだ。雉谷以外は皆、どうして鯉子がそんなものに興味を持ったのかがわからず首を傾げていた。

もしも鯉子が男だったらわかる。

100歩譲って鯉子が年嵩の未亡人だったらまだわかる。


が、鯉子は裕福な家のお嬢様。ピチピチとは言い難い22歳だが、一応若い女の子。いや、研究を始めたのが10年前だと言うならピチピチ通り越して若すぎる。12歳でオナホはないだろう。


一同が固唾をのんで鯉子の返事を待っていると、雉谷との交流でいっそ落ち着いたのか、ゆっくりと返事をしてくれた。






「あれは……私が12、いえ11だったかしら。お父さまやお母さま、それにタネも覚えているでしょう?鍛冶屋の菊蔵きくぞうさんの事を……」

悲しそうに眼を伏せた鯉子の口から菊蔵なる名前が出た。もちろん桃太郎たちは初めて聞く名だが、浦島家の皆は知っているらしく一様に顔色を悪くしながら互いの顔を見合わせる。

「鯉子。でも……あの人は……」
「そうだぞ。鯉子が悪いんじゃない。あれは菊蔵の自業自得で……」

乙や太之助が言葉に詰まりながら言えば、鯉子はゆっくり首を振る。

「いいえ。違うんです。私がこの事に興味を持ったのは確かに菊蔵さんが原因です。でも、お父様やお母さまが思っているのとは……多分違う……。だって………」





10年と少し前、鯉子は11歳の頃だ。

村の外れにある寺の池で鯉子は鰻を釣っていた。タネから貰った魚のすり身を餌にして、のんびりグダグダ寝っ転がりながら今夜のおかずが針にかかるのを待っていた。

と、池の奥、半鐘櫓の側の植え込みがガサガサッと音を立てて揺れ、ややして男がひとり飛び出してきた。
ぼさぼさの髪と汚い髭面で、あちこちほつれた藍色の着物を着た男は、よくよく見れば近くの鍛冶屋だった。いや、正確には鍛冶屋の息子―-----鯉子より15歳年上の鍛冶屋の菊蔵だった。


ビックリしたものの、見知った顔だった事に安堵した鯉子が声をかけようと立ち上がったその時だ。菊蔵はいきなり着物を開いた。両手で襟をしっかりつかみ、ガバリと一気に御開帳。

現れたのは、裸。

肌着どころかパンツすら穿いていない、丸裸。

ぺったんこの胸と腹。それはいい。だが、腹の下に真っ黒なモジャ毛が生えて、その下から棒が1本突き出している。


アレハナニ?


確か、太之助と一緒にお風呂にはいった時に同じものを見た記憶があるが、あんな棒じゃなかった。もっとヘロンとしてウサギの耳みたいに垂れていた。

びっくりして鯉子が固まっていると、菊蔵は不気味に笑いながらゆっくりゆっくり鯉子に近づいてくる。まるで、「ホラホラ、もっとよ~~く見るんだよ」と言わんばかりに、1歩1歩腰を突き出しながら歩いてくる。

その姿はとても不気味で、何故か鯉子は逃げたくなった。

そして、逃げた。悲鳴をあげながら。



鯉子の悲鳴は寺の本堂にも届いたらしく、すぐに住職や小僧が駆けてきた。
駆けてきた鯉子といまだぼうっと立っている着物全開の菊蔵を見比べて、すぐさま事態を把握すると数人が菊蔵を捕え、警備に引き渡した。



その後の事は大人が処理したから鯉子は詳しく知らないが、菊蔵はどこか遠くへ送られてしまい、鍛冶屋も村に居辛くなったのだろう。どこかへ引っ越してしまった。

菊蔵だけでなく村に1軒しかなかった鍛冶屋がいなくなったのが自分のせいかもしれないと心配になった鯉子が詳しい話を聞こうにもタネも乙も口を濁して教えてくれない。
だが、注意して聞き耳を立てていれば噂話は子供の耳にも届いてくる。


「それにしても鍛冶屋も気の毒になぁ。何も村から出ていかんでも」
「仕方がないわよ。息子があんな事をしでかしたんだから」
「だがなぁ……菊蔵もかわいそうな奴なんだ。あんな性悪女に関わっちまったばっかりによぉ」
「ああ、あの女ね。確かに別嬪だったわね。あの顔と体に騙されたのは菊蔵さんだけじゃないからねぇ」
「本当に。男を喰い物にする蜘蛛みたいな女だったよ」
「被害が金だけの奴はまだいいさ。菊蔵みたいに薬でおかしくされちまったらもぉ……救いようがないもんな。色と薬じゃ身を持ち崩さない方がおかしいさ」
「見せた相手が鯉子嬢ちゃんじゃなきゃあなぁ。ま、場所も悪かったわな」
「バカ言ってんじゃないよ。嬢ちゃんにゃいい迷惑じだよ。オボコい子供があんなもん見せられて」
「確かになぁ……。すっかり色狂いになっちまったから見さかいが無かったんだろうぜ」


どうやら菊蔵はどっかの女の人が原因で、少々頭がおかしくなっていたらしい。それであんな変な事をしたから捕まった?


又別の日には違う話も聞いた。


「菊蔵の奴、例の女に盛られた薬で頭だけじゃなく体の方もバカんなってたらしいぜ。何でも四六時中高ぶりが治まらないし、出しても出しても大きいまんまだとか。堪んねぇな」
「ああ、俺も聞いた。自分で擦って出してたらしいが段々刺激が足りなくなったんだってさ」
「でもなぁ、あんなんなっちまったら相手してくれる女なんかいねぇだろ」
「隣町の娼館に行きゃ何とかなったんじゃねぇか?あぁ、でもダメか。詰めっぱなしじゃ金がつづかねえな」
「相手がいねえ、自分でもダメってなりゃ、なぁ……」


今度の話はよくわからなかったが、菊蔵の体についての事らしい。


大きい?と言えばあの棒みたいなやつだろうか?

疑問に思った鯉子は、こっそり調べる事にした。
幸い方法はある。

鯉子には4つ上の兄がいる。が、今は都の大きな学校に通う為、親戚宅に住み込んでいて留守だ。だから兄の部屋に行ってみれば何かわかるかもしれない。


タネが台所にいる隙をみて兄の部屋に忍び込み、兄がいつも宝物を隠す秘密の場所を探ってみた。
出てきたのは厳重に梱包された大きな包み。中を開けば鯉子が見た事もない絵草子が入っていた。

それは、捲っても捲っても裸の男女が抱き合っている絵が描かれていて、しかも、絵の男の腹には菊蔵と同じ天を向く大きな棒が生えている。
これだ、と思い鯉子は絵草子を自分の部屋に持ち帰った。

そこで知った男女の閨事。

ストンと何かが落ちた。

あぁ。菊蔵はこれがしたかったんだ。薬のせいでこれをしなくちゃいられない体になっていたんだ。
だから、あんなふうに大きくなった棒を持て余していたんだ。

かわいそうに。





「だから……もしも菊蔵さんが自分ひとりであれを処理できていたら、家の方ともども村から出て行かずにすんだんじゃないかって思ったの……」

ポツポツと鯉子が話していく。
話が長くなったから、おバカな桃太郎には難し過ぎてよくわからないが、他の面々も微妙な顔つきで聞いている。特に乙と太之助は全く理解できないと言う顔だ。


「鯉子?あんたが噂で菊蔵の事情を聞いたのはわかったよ。でも、どうしてそれがあんなとんでもない研究と結びつくんだい?あたしにゃ全くわからないよ」

乙が言えば、太之助もうんうんと頷いている。

「ああ、もちろん今の内容に至ったのは何年も後よ。初めはお兄ちゃんの持ってた本を理解するだけでも大変だったもの。少しずつ少しずつ文献を集めていったのよ。で、ある時今の道具に関する文献を見つけたの。あれを見つけた時思ったわ。これがあったら菊蔵さんはあんな変な事をしなかったのにって。そう思ったら、どうしてもそれを作らずにいられないと思ったの。菊蔵さんの為に」
「だからっ、何で、どうしてあんたが菊蔵の為になんて考えるんだい」

じれったそうに乙が叫ぶ。

「だって……菊蔵さんや鍛冶屋さんが村を出たのは私が叫んだのが原因だもの。それに……私、菊蔵さんが初恋だったの。あ、違うわよ。あんなものを見て好きになったわけじゃないからね」

いくら鯉子でも勃起チ〇コを見てホレたと思って欲しくない。そこは誤解のないように説明したい。

「お父さん、覚えてない?私が7つか8つの頃、迷子になったの」



その日、鯉子は注文に行くという太之助にくっ付いて鍛冶屋に行ったのだが、父の話が長くてすぐに退屈してしまった。
仕方なく店の外に出て、拾った木切れで絵を描いて遊んでいたが、それもすぐに飽きてきた。

普段から勝手にあちこち出歩くなと言いきかされていた鯉子だが、その時は退屈さですっかり教えを忘れていたのか、ついふらふらと裏山に入ってしまう。

ちょっとだけ、振り返って鍛冶屋が見える場所までしか行かないから。

そう思っていたのに、数分歩いた鯉子が振り向けば、既に鍛冶屋は影も形も無くなっていた。


迷子である。

たちまち心細くなった。
子供の足で数分歩いた場所なのだ。じっと待っていれば太之助が探しに来てくれただろう。しかし子供の鯉子にそんな分別はない。パニックになって、泣きながら闇雲に駆け出してしまう。

鍛冶屋と反対方向へ。


迷子の追い打ち、大悪化だ。

気がつけば鯉子は道から外れた山の中にいた。周りは薄暗くなってきたしお腹も減った。気力も体力も尽きた鯉子は側にあった木の根にペタンと座り込んで動けなくなってしまった。


心細さで涙は止まらない。

泣けば益々お腹が空く。

悲しくなって更に泣く。




どの位経っただろう。

子供らしい悲観さで 『自分はこのまま死んでしまうんだ』と鯉子が諦めかけた時だ。側の林がガサッと揺れて、中から見た事のないお兄さんが飛び出してきた。

「見つけた!よかったぁ」

彼は鯉子を見るなり叫び、嬉しそうににっこり笑った。そして動けない鯉子を軽々背負い、鍛冶屋に、太之助の元に連れ帰ってくれた。





「あれが、菊蔵さんとの初対面なの」


あの時、茂みをかき分けてさっそうと現れた菊蔵は、歩けない鯉子を背負ってくれた温かい背中は、鯉子の救世主――――乙女の窮地に駆け付けるヒーロー――――だった。うっとりしないわけがない。




「あの時、菊蔵さんに助けてもらったのに私……びっくりして悲鳴をあげちゃったから。だから菊蔵さんの為に何か……もちろん私がこんな研究をしたって菊蔵さんに届かないのはわかってるの。でも、それでも……それにね、今じゃ半分意地かもね。1度始めたのに何の成果も残さないまま終われないわ。そう思ったら止め時がなくなっちゃったのよね。あはは」


しんみりしたのに、何だか最後の最後でちょっとだけずっこけた鯉子の告白だった。しかしそこに便乗するのが雉谷で。

「だったら!だったら是非、俺と共に制作しよう。2人で力を合わせれば、まだ誰も見た事のない物が作り出せる筈だ」

ガシッと手を握って熱く誘う雉谷は、普段の無口で愛想の無い彼と全くの別人だった。










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