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希理子、初出動する!
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月が細く薄くなってきた。暦では明日が新月になっている。魔物が出るなら一両日中だろう。
いよいよ来たかと思うと胸の奥がざわざわして落ち着かない。
魔物って言うけれど、どんな感じなんだろう。怖いのかな?それとも気持ち悪い?あたしで勝てるんだろうか。もし、もしも……魔物にやられちゃったら?
ううん。いくら何でもおじいちゃんが可愛い孫にそんな事を強制する筈ない。
でも……本当に?あの爺だよ。大丈夫?不安になってきた。
あぁ……こんな事ならダメもとで、いや、もとはなし、ダメダメで黄田君に告白しとけばよかったかなぁ。
いやいや、待て待て、早まるな。死ぬと決まったわけじゃなし。そんなに気を回して、わざわざしなくていい失恋までしなくてもよくない?うん。そうそう。死なない死なない、大丈夫。
魔物と対決して、その後も変わらない日々を送れるから。
夜空を見上げながら気持ちを落ち着ける希理子だった。
と、バタバタと廊下を駆ける音がして、祖父が部屋に駆け込んできた。
「出動じゃ、希理子よ」
「うげっ」
まだ心の準備ができてないってば。
睨み付けたけれど、左之助はどこ吹く風で。
「うげっとは何じゃ、うげっとは。ここは軽快に「了解」と叫ぶんじゃ」
知るかいっ!
どうやら本当の本当に出動要請らしい。
「じいちゃん、ボケてなかったのね」
左之助の運転する車で目的地、魔物出現場所に急行した。
「まぁ……潮の満ち引きってた時点で想像はついてたけど……やっぱこうなるのね」
どす黒い夜の海を見つめながら希理子は呟いた。
海に着いた時にはもちろん左之助も一緒に魔物退治に来てくれると思っていた希理子だったが、車から放り出されて初めて現実を知った。どうやら魔物退治には己ひとりで行くらしい。
文句を言っても仕方がないから渋々浜辺に向かって歩き出した。その途中、思わず口から出たのがさっきの呟きだったというわけだ。
チャプリ、チャプリと足元で波が跳ねる。
これが真夏の昼間、しかも黄田君と一緒なら幸せなのに……。
あ、もちろん黄田君と2人っきりだなんて贅沢は言いません。ってか、そんな事態になったら緊張でお腹が痛くなりそうだし一言も喋れないだろう。
「いや、嬉し死ぬかも」
でもでもしかし、想像するのは個人の自由。己の脳内で妄想して楽しむ位、誰にも迷惑はかけないから。
万が一、億が一、黄田君のタイプが人とずれている可能性があったり、直前に何かショックな事があって、茫然自失状態に陥っているかもしれない。そんなありえない状況なら黄田君が希理子と付き合う事もあるかもしれない。
こんな海辺の砂浜で、しかも夕暮れ時、肩を並べた男女がゆっくりと散歩をする。2人の間に会話はない。でも大丈夫。中身のない会話より、目の前で水平線に沈む夕日の方が何倍も雰囲気を盛り上げるから。
「……綺麗だね」
「……うん」
ぎゅっと手を握り合う2人。
いつしか2人の距離は縮まって、どちらからともなく顔を寄せ合うのだった。
「って、きゃ~~~っ!ダメダメ、ダメ~~~ッ!恥ずか死ぬ」
鼻血拭きそうだわ。
ううん。こんな不埒な事を想像するのもいけないわ。何てたって黄田君は学校のアイドル。対して希理子は平々凡々、目立たない地味子。こんな2人がイチャイチャ、ムチュムチュだなんて、世界に、ありとあらゆる万物に失礼だわ。黄田君が穢れてしまう。
希理子はすでに本来の目的を忘れている。
ひとりでうふうふ悶えていたら、ザッパ!と派手な波音を立てて、希理子の目の前に見た事もない生物が飛び出てきた。
「どひゃっ!」
そいつは体調3メートル位ある大きな大きな水クラゲだった。体は透明で大きな傘部分と複数の足がある。
希理子は急いで情報を伝えるべく、左之助とのホットラインをオンにした。
「ちょっとっ!じーちゃんっ!!何か出たんだけどっ!!!」
不気味過ぎて直視したくないのを我慢して、敵の形状をつぶさに報告する。左之助から帰ってきた返事は、全くありがたくない内容で。
「そいつは恐らくジェリースライムじゃな。まぁ、見たまんまクラゲと思って対峙すればええ。あ、ただし、見てわかる通りそいつの体は殆どが水分じゃ。でもって足に見える触手から体内の水分を飛ばしてくるから気ぃつけろ。中身は強力な分解液じゃ」
「うぎゃ~~~、さぁいあく~~~」
一般的女子・ど真ん中の希理子は人並みにヌメヌメした生き物が嫌いだ。特に毛の無い生き物。魚や貝など、海の生き物も水族館で見る分には平気だがこれはいかん。
目の前のクラゲもどきはウニョウニョ、グニョグニョ、複数本ある足を動かしながら希理子に近づいている。生き作りのイカ刺しかって言いたくなる動きと、下半身の動きに伴いデカい頭部分がブルンブルン揺れているのも気色が悪い。
「異様にでかいし」
できるなら、いや、絶対に近づきたくない生き物ベスト10に入っている。
「このまま逃げたら怒られるのかなぁ」
できないとわかっていても、ついついユーターンしたくなる希理子だった。
「この何ちゃらスティック、もっと長きゃ良かったのに」
いつまでも魔物を眺めてはいられない。突っ立っていれば奴のペースで近づかれる。それは何だか不利な気がするから、やはり自分から向かっていかねばならんだろう。
「う~~……為せば成る。成さねばならぬ、何事も。女は度胸。やってやれない事はない」
思いつく限りの自身を鼓舞する呪文を唱え、覚悟を決めた。景気付けにとっておきの魔法の言葉を叫びながら、魔物に向かって駆けだした。
「やり遂げたら狙ってたオゾックのワンピース、じいちゃんのカードで買ってやる~!にまんはっせんえ~~~~~んんん~~~~っっっ!!!」
ホットラインの向こうから悲鳴が聞こえたが、そんな事知らん。
いよいよ来たかと思うと胸の奥がざわざわして落ち着かない。
魔物って言うけれど、どんな感じなんだろう。怖いのかな?それとも気持ち悪い?あたしで勝てるんだろうか。もし、もしも……魔物にやられちゃったら?
ううん。いくら何でもおじいちゃんが可愛い孫にそんな事を強制する筈ない。
でも……本当に?あの爺だよ。大丈夫?不安になってきた。
あぁ……こんな事ならダメもとで、いや、もとはなし、ダメダメで黄田君に告白しとけばよかったかなぁ。
いやいや、待て待て、早まるな。死ぬと決まったわけじゃなし。そんなに気を回して、わざわざしなくていい失恋までしなくてもよくない?うん。そうそう。死なない死なない、大丈夫。
魔物と対決して、その後も変わらない日々を送れるから。
夜空を見上げながら気持ちを落ち着ける希理子だった。
と、バタバタと廊下を駆ける音がして、祖父が部屋に駆け込んできた。
「出動じゃ、希理子よ」
「うげっ」
まだ心の準備ができてないってば。
睨み付けたけれど、左之助はどこ吹く風で。
「うげっとは何じゃ、うげっとは。ここは軽快に「了解」と叫ぶんじゃ」
知るかいっ!
どうやら本当の本当に出動要請らしい。
「じいちゃん、ボケてなかったのね」
左之助の運転する車で目的地、魔物出現場所に急行した。
「まぁ……潮の満ち引きってた時点で想像はついてたけど……やっぱこうなるのね」
どす黒い夜の海を見つめながら希理子は呟いた。
海に着いた時にはもちろん左之助も一緒に魔物退治に来てくれると思っていた希理子だったが、車から放り出されて初めて現実を知った。どうやら魔物退治には己ひとりで行くらしい。
文句を言っても仕方がないから渋々浜辺に向かって歩き出した。その途中、思わず口から出たのがさっきの呟きだったというわけだ。
チャプリ、チャプリと足元で波が跳ねる。
これが真夏の昼間、しかも黄田君と一緒なら幸せなのに……。
あ、もちろん黄田君と2人っきりだなんて贅沢は言いません。ってか、そんな事態になったら緊張でお腹が痛くなりそうだし一言も喋れないだろう。
「いや、嬉し死ぬかも」
でもでもしかし、想像するのは個人の自由。己の脳内で妄想して楽しむ位、誰にも迷惑はかけないから。
万が一、億が一、黄田君のタイプが人とずれている可能性があったり、直前に何かショックな事があって、茫然自失状態に陥っているかもしれない。そんなありえない状況なら黄田君が希理子と付き合う事もあるかもしれない。
こんな海辺の砂浜で、しかも夕暮れ時、肩を並べた男女がゆっくりと散歩をする。2人の間に会話はない。でも大丈夫。中身のない会話より、目の前で水平線に沈む夕日の方が何倍も雰囲気を盛り上げるから。
「……綺麗だね」
「……うん」
ぎゅっと手を握り合う2人。
いつしか2人の距離は縮まって、どちらからともなく顔を寄せ合うのだった。
「って、きゃ~~~っ!ダメダメ、ダメ~~~ッ!恥ずか死ぬ」
鼻血拭きそうだわ。
ううん。こんな不埒な事を想像するのもいけないわ。何てたって黄田君は学校のアイドル。対して希理子は平々凡々、目立たない地味子。こんな2人がイチャイチャ、ムチュムチュだなんて、世界に、ありとあらゆる万物に失礼だわ。黄田君が穢れてしまう。
希理子はすでに本来の目的を忘れている。
ひとりでうふうふ悶えていたら、ザッパ!と派手な波音を立てて、希理子の目の前に見た事もない生物が飛び出てきた。
「どひゃっ!」
そいつは体調3メートル位ある大きな大きな水クラゲだった。体は透明で大きな傘部分と複数の足がある。
希理子は急いで情報を伝えるべく、左之助とのホットラインをオンにした。
「ちょっとっ!じーちゃんっ!!何か出たんだけどっ!!!」
不気味過ぎて直視したくないのを我慢して、敵の形状をつぶさに報告する。左之助から帰ってきた返事は、全くありがたくない内容で。
「そいつは恐らくジェリースライムじゃな。まぁ、見たまんまクラゲと思って対峙すればええ。あ、ただし、見てわかる通りそいつの体は殆どが水分じゃ。でもって足に見える触手から体内の水分を飛ばしてくるから気ぃつけろ。中身は強力な分解液じゃ」
「うぎゃ~~~、さぁいあく~~~」
一般的女子・ど真ん中の希理子は人並みにヌメヌメした生き物が嫌いだ。特に毛の無い生き物。魚や貝など、海の生き物も水族館で見る分には平気だがこれはいかん。
目の前のクラゲもどきはウニョウニョ、グニョグニョ、複数本ある足を動かしながら希理子に近づいている。生き作りのイカ刺しかって言いたくなる動きと、下半身の動きに伴いデカい頭部分がブルンブルン揺れているのも気色が悪い。
「異様にでかいし」
できるなら、いや、絶対に近づきたくない生き物ベスト10に入っている。
「このまま逃げたら怒られるのかなぁ」
できないとわかっていても、ついついユーターンしたくなる希理子だった。
「この何ちゃらスティック、もっと長きゃ良かったのに」
いつまでも魔物を眺めてはいられない。突っ立っていれば奴のペースで近づかれる。それは何だか不利な気がするから、やはり自分から向かっていかねばならんだろう。
「う~~……為せば成る。成さねばならぬ、何事も。女は度胸。やってやれない事はない」
思いつく限りの自身を鼓舞する呪文を唱え、覚悟を決めた。景気付けにとっておきの魔法の言葉を叫びながら、魔物に向かって駆けだした。
「やり遂げたら狙ってたオゾックのワンピース、じいちゃんのカードで買ってやる~!にまんはっせんえ~~~~~んんん~~~~っっっ!!!」
ホットラインの向こうから悲鳴が聞こえたが、そんな事知らん。
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