78 / 80
突然の訪問者 ③
しおりを挟むあの後、大急ぎで愛美と真紀子、ちょっと考えたけどやっぱり関係者だから弥生にも電話して三波の家に集まってもらった。スライムと顔を合わせる為に。
ヤツの言い分はこうだった。
スライムは『アダルガナリア大迷宮』という迷宮で冒険者を相手にしているモンスターだった。
彼は普通のスライムと違い、知性があり、意志があるユニークモンスターだ。レベルもかなりのもので、50階層の番人を務めていたらしい。
(まぁ、三波にはそれがどの位凄いのかよくわからないけれど)
だが、ある時油断していたせいで冒険者に深手を負わされ、体の一部を削り取られてしまった。剣士の巨大な剣で抉られた傷は、いくらでも修復可能な体だけでなく、存在を維持するコアである核の部分にも傷をつけた。とはいえ、幸いにも傷は核表面に亀裂のような傷をつけただけだったので、はしばらく休めば再生は可能だったため、迷宮の外にあるモンスターの慰安所で眠りについたそうだ。
ゆっくりゆっくり、時間と共に体は癒され元に戻っていく。
どの位眠っていたのかよく覚えていない。だが、気がつけば体は癒え、欠けた部分もすっかり修復されていた。
これで又迷宮に戻って冒険者の相手ができると思い、喜んだ。
だが、帰ってみれば迷宮がなくなっていた。
彼が眠っている間に別世界から現れた勇者なるものによって攻略され、アダルガナリアのマスターは消滅。よって、迷宮自体も消えていた。
いくら迷宮モンスターとはいえ、こうなれば自由だ。彼が何処に行こうがお咎め無し。
だが、迷宮で生まれ育った彼に行く所は無かった。
ならば、自分を産んだ迷宮を攻略した勇者を探そうと思い立った。
何をしようと言うんじゃない。いくら迷宮生まれとはいえ、勇者に怨みも何も全くない。ただ、何となく顔が見たかっただけなのだ。顔を見て、ふ~ん、コイツが迷宮を攻略したんだなぁと思いたかっただけだ。そしてちょっと話しがしてみたかった。
その思いであちこち渡り歩き、召喚された別世界の勇者が王宮から異世界に帰還すると聞き込んだ。王宮に急いだスライムは、地下の聖堂へ潜り込んだ。
そこは酔いそうな程の魔力に溢れ返り、大勢の人間でごった返していた。その間をぬいながら、魔方陣の近くへ急いだものの、関係者でないスライムが簡単に近づける場所ではない。
やきもきしている間に何度か帰還陣が光り、何人かの勇者が別世界へ渡ってしまった。
気がつけば帰還の列に並んでいる勇者はひとり。
彼を逃がせばスライムが勇者に会える機会は二度とない。
思いきるならここしかない。
走った。正確には這ったのだが、スライムとしては帰還陣に向けて走った。最後の勇者に走り寄った。
待ってくれ。怪しい者じゃない。只、聞いてみたかったのだ。どうしてこの世界に来たのか。どうしてスライムの生まれた迷宮を消滅させたのか。
どうして、どうして。どうして。どうして。
《後はアルジ殿も知っておろ。わしの体が魔法陣の端に掛かった時、術が発動した。よって、アルジ殿はわしの体の一部と共に帰還した。
おかげでわしは又欠損スライムに逆戻りじゃ。動けなくなったところを居合わせた兵士どもに取り押さえられたわい。まぁ、幸い変わり者の魔術師がわしの身柄を引き取ってくれたがな。
尤も、界渡りした体の一部がアルジ殿に取り込まれるとは思わんかったがなぁ。
だが、そのおかげじゃろな。本来なら核を持たないスライムなぞ簡単に消滅する。なのにヤツはかなり長く生き延びた。ひとえにアルジ殿の体内にある微量の魔力を貰っていたのじゃろうな。界渡りをした名残の魔力が血脈に残っておっただろうから。
アルジ殿がコナミと名づけて可愛がってくれたあいつは、離れていてもわしの一部じゃ。根っこの部分で繋がっておった。あやつが知る事はわしも知る。あやつが経験した事はわしも感じる。こちらの世界の色んな事が感覚として伝わってきて、とても楽しかった。
だがの、いつまで経っても消滅せんコナミを、陣を描いた術師が気にし始めた。界渡りしたスライム。核が無いのに生き続けるスライム。
魔術でも剣技でも体術でも何でも、極めようとする人間の知識欲は底知れない。時には常軌を逸する程だ。。
アルジ殿を界渡りさせた術師も然り、じゃ。
何時までも消滅せんコナミをアルジ殿ごと元の世界に呼び戻そうと王家に訴え始めた。勿論、スライムの研究だとは言わんぞ。世界を守る結界にひずみが生じたとか何とか、適当な言い訳をでっち上げおったわ。
腐れ野朗じゃが、王宮お抱えの術師じゃ。信用がある分皆を騙しやすかったんじゃ。
元の世界にアルジ殿とコナミが戻れば一生飼い殺しの研究材料にされる事は間違いない。いくら何でもそれは酷い仕打ちと思ったんじゃ。
第一なぁ、コナミはわしの一部じゃからな。幸せに生活しておるならそのまま続けさせてやりたかったんじゃ》
ヤバイ。ここまで聞いただけで女3人はウルウルだ。三波もちょっとばかし鼻の奥がツンとしている。
え~~話やないか。
「で?それでスライムちゃんがこっちに来たの?でもどうやって来たの?」
真紀子が先をそくす。
《ああ。わしらモンスターじゃとて、そう捨てたもんじゃないぞ。界渡りをこなす術師位存在するわ。
わしは伝手を辿って別の迷宮のマスターに界渡りを頼んだんじゃ。王宮の面子より先にアルジ殿の元へたどり着きたかったからな。
じゃがっ、じゃ。あのクソボケ術師がああぁぁぁっっっ!わしの中から感じるコナミの思念を座標に界渡りの陣を組めと言ったのに、何をどう間違えたのかてんで頓珍漢な場所に送りおったわっ!
おかげでアルジ殿の元へたどり着くのに6の月程も掛かってしもうた。ったくぅ~~~。わしにいらん苦労をかけおって。今度会うたら目にモノみせてくれようぞ》
スライムは思い出し怒りに染まったのか、燃えるような赤に変色した。表面も刺々しい。
だけど、今のスライムの話が本当なら三波の所に異世界から誰かやって来るのだろうか?そうしたら又、あの別の世界に連行されて、しかも今度は人体実験の材料にされる?勘弁してくれ~~~って気持ちでいっぱいになった。
そこの部分をもう少し詳しく聞かねば、おちおち生活できないじゃないか。
《いやいや。王宮の術師がピンポイントでアルジ殿の元へ来るのは難しいと思うのじゃ。何故なら座標になるわしが姿をくらましたからの。座標が決定できるわしらでもかなりズレこんだんじゃ。座標なしで界渡りなぞ、ムチャもええとこじゃ。まともな考えの持ち主なら絶対にせんじゃろう。安心せぇ》
その後も、なんだかんだ言いながらスライムの話を聞いて安心した三波たち4人だったが、彼が次に発した言葉を聞いて驚愕した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる