「piyo-piyo」~たまきさんとたまごのストーリー

卯月ゆう

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第2章 食育の素晴らしさ

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(梨央side)

 少しずつ夏の暑さが顔を出してくる時期になった。
 僕は仕事をしながらちょっと隠れて、インターネットで「piyo-piyo」と検索をかけてみた。まず見つかったのはSNSの投稿だった。

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20xx年5月2日 guru-megri_dayo さんの投稿

こんにちわ!
piyo-piyoっていうお店でランチしてきたよ
ぴよ!

ふわふわのオムライスが美味しかった(≧▽≦)

Comment for iPhone
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 はて? 期待していたお店のSNSやWebページは見つからず、僕が会社の飲み会で店舗を探すときに使う予約サイトにも載っていなかった。
 その時、同僚に声をかけられた。そのままノートパソコンを閉じてしまい、それ以来忘れてしまった。

 ・・・

 今日の「piyo-piyo」には客が一人いるようだった。
 僕が店内に入ると、マスターは「好きな席に座ってね」と一言だけ告げた。
 ふうん、と何気なく客の様子を見てみる。私服の女子高生だろうか、長めのおさげ髪を揺らしてマスターと話している。
 ふたりはスマートフォンを見ながら何か話していた。<インスタ>というキーワードが聞こえたような気がした。
 やがて、その客は会計を済ませて行ってしまった。

 マスターはテーブルの上に僕の注文したメニューを並べた。そのままキッチンに戻ることなくテーブル席の正面に座ってきた。彼女の様子をちらりと見ると、軽くため息をついていた。
「ごめんなさい、うるさかったですか」
「先ほどのお客さんのことですか?
まあ珍しいこともあるもんだなあって眺めていました。
いつもバラードばかりを発表する歌手がたまにアップテンポになる、みたいな印象を受けましたけどね」
 よく分からない表現ですね、と彼女は首を傾げる。
「まあ、うるさかったのでしょう。
ご迷惑をおかけしました」
 そう言って、テーブルの上で丁寧に手をついて頭を下げてきた。
 なぜ謝っているのか分からないので、とりあえず手で制した。どうしたのですかと伺ってみると、答えはつまるところシンプルだった。
「あの子は私の妹なんです」
 へえ、なるほど。
「今年から大学生になった子で、私より少しばかり背が高いです。
今日は大学の都合で休みらしくて、三連休だからと東京に遊びに来ています」
 まず背の高さに着目するのか。マスターは悔しいです、と言わんばかりに頬を膨らませていた。あまり聞かないであげよう。
「私なんかと違って、音楽などにも造詣の深い子です。
先ほどのあなたのコメントではありませんが、アマチュアバンドをやっているとか」
 バラードの作詞するんですよ、と少しばかり自慢気に言った。
 兄弟姉妹ではお互いに自慢するのだろうか、なんて感心していると彼女は少しばかり顔を曇らせた。
「ただ、ちょっと気になるところが......」

 ・・・

 ここだけの話ですが、とマスターは少し顔を近づけてきた。
「あの子は流行りものにどんどん乗っていくタイプで......。
スマートフォンは出たばかりの機種をすぐに買いましたし、今はインスタなんとか?っていう名前のSNSにはまっているとか。
さっきは注文したスフレのケーキをきちんと画角まで計算して撮影してて......。
早く食べないといけないのに、ですよ」
 そこまで一息に告げて、不満を吐き出すようにため息をついた。
 余談ではあるが、スフレとは卵黄とメレンゲにクリームソースを混ぜてふわりとした食感を持たせた料理だ。
 この「piyo-piyo」にある数少ないデザートのメニューで、ここではレモンとブランデーを入れて大人の味をイメージしているとか。
 各々の食材の水分量や混ぜ具合が大きく作用して仕上がり具合に影響をもたらすので、職人の腕が証明されるようなケーキでもある。
 ふうん、そこまで心配になるなんて。なんか事件性のあることを憂いているのだろうか。
「いえいえ、SNSのトラブルになることはないと思っているのですが。
私が好きじゃないんですよ」
 なるほど。僕は朝の話題を思い出して、マスターに話してみた。
「そういえば、ここのお店のSNSってないんですね」
「ええ。
私が疎いというのもありますが。
なんていうかお店のことを安売りしているような気がしていましてねえ。
仮にテレビ取材が来たらお断りしようかと思っています。
現に少しずつではありますが、お客様が増えていますので、そのような方々に満足して頂ければ嬉しいんですよ」
 まるで隠れ家のような店なんだと思った。みんなのお母さんなどと表現したら怒られるだろうか。

 あ、そうだ。と彼女は両手を合わせて語りだした。
「梨央さん、ニュース見ましたか?
写真撮ったあとのタピオカミルクティーがその場に置かれたままになっているとか。
私、そういうのを見るとげんなりしてしまいます」
「たしかに、それは共感しますねえ」
「そうでしょう。
私はたまにボランティアでゴミ拾いをしていますが......。
いや、してもしなくても悪い行為だと思うハズです」

 僕が見たニュースはこんなものだった。
 SNSにはまる世代の心理というのは、出来事をその場で共有すること。自分と同じ楽しさを、喜怒哀楽を感じている人がいる、そんな相手を情報の網という世界の中で探し出したい。ただ、その裏では清掃業者が悲鳴を上げていて、公害にもつながりかねない状況になっている。
 僕はふと、彼女に気になることを聞いてみた。
「マスター、もしかしてですけど。
SNSに上がるような料理とか、好きじゃないですよね」
「うーん。
このお店に行ったみたいな投稿自体は悪くはないと思います、楽しみのひとつですから。
でも、下手に着飾るようなお料理っていうのはちょっと。
食べ物で遊んでいるみたいで......」
 たぶん、彼女は食材が派手に盛り付けられている料理も好きじゃないような気がした。タワーになっている天丼とか、こぼれんばかりと具材が乗っている寿司とか、想像したくもないのだろうな。考えていることが伝わったのだろうか、お寿司は一口で頂くものですよ、と注意された。
 そして閉めの台詞を語ってくれる。
「趣味や投稿を悪いとは言いません。
映えるのは楽しいのかもしれないけれど、もう少し考えて欲しいなって思います。
だから、買ったならそれなりの責任が、感謝のしるしが生まれるものですよね」
 そして、窓の外を見ながらつぶやいた。
「ごく当たり前の料理をおいしく食べている人の嬉しい顔。
それが何よりも映えるんですよ」
 それがマスターとしての願いです、そう語る彼女は少し照れているようだった。図らずも、その表情に少しときめいてしまう自分がいた。
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