誰より君を、強く、深く愛してる

なの

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第5話 「もう、逃げなくてもいいのかもしれない」(翼視点)

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薄暗い部屋に、カーテンの隙間から淡い光が差し込んでいた。

それに気づいた瞬間、すぐ隣にある温もりに思わず深く息を吐いた。

柔らかな吐息。優しく回された腕。胸元に感じる穏やかな鼓動。
……夢じゃないんだ、と実感するまでに少し時間がかかった。

昨夜の記憶が、霞のようにゆっくりと蘇ってくる。
途切れ途切れの感触、何度も呼ばれた名前。優しくて、でも熱を帯びた言葉。身体の奥に残る名残が、それが現実だったことを証明していた。

「……俺、ほんとに……こういうの、久しぶりで」

声が掠れていた。
自分でも驚くくらい、かすかで頼りない。
けれど、それを聞いた蒼佑さんは、そっと俺の指先を握ってくれた。

「知ってる。だから……無理させたかな、って」

その言葉に、また心が揺れた。責めるどころか、俺のことばかり気にかけてくれる人。
そう思っただけで、胸の奥にじんわりとした熱が広がった。

でも、安心している自分がいた。怖かったはずのものに、今は少しずつ慣れていけそうな気がする。
この人になら、預けてもいいかもしれない。そう思えることが、まだ少し怖くて、でも、嬉しかった。

「……逃げても、追いかけてきますか?」

自分でも、なぜそんな言葉が口をついたのかわからなかった。
けれど、その問いに蒼佑さんは少しも迷わず答えた。

「当たり前だろ。どこにいようが、すぐに見つけるよ。……絶対に離さない」

その強さが、怖いはずなのに。
俺は、そっとその胸元に顔を埋めていた。

「……うん。わかった」

そう答えると、抱きしめる腕の力が、ほんの少しだけ強くなった。
静かに射し込む朝の光が、不思議なほどあたたかく感じた。

今なら、信じられる。
この人の温もりを、きっともう……怖がらなくていいんだって。


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