『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの

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記憶の魔法騎士 ― 再会の鼓動

アーヴィン・クロードが屋敷に足を踏み入れた瞬間、リオナは広間の窓辺で息を潜めた。  

黒髪をきっちり撫でつけ、軍服に身を包んだ高身長の男。琥珀色の瞳は穏やかだが、戦場を潜り抜けたαの威圧感が微かに漂う。十年前の記憶が重なる。
あの日、傷ついた幼い自分を優しく抱き上げてくれた。  

「セイクリッド公爵、護衛任務の確認に来ました。結婚式当日の警備計画を」  

低く落ち着いた声。
エルド公爵が立ち上がり、握手を交わす。リオナは従順なΩの仮面を保ち静かに頭を下げた。
だが、心臓の鼓動が速まるのを止められない。前世で、この男は自分を救おうとして死んだ。アーヴィンの未来を変えたい。それが、二度目の人生の最初の選択だ。  

「リオナ、挨拶をしろ」  

父の声に、リオナは一歩進み出た。青灰色の瞳を上げ、アーヴィンと視線を合わせる。  

「王国騎士アーヴィン団長、お越しいただき感謝します。私はリオナ・セイクリッドです」  

一瞬、アーヴィンの瞳が揺れた。まるで、遠い記憶を覗き込むように。  

「……リオナ殿か。随分と立派に成長されたな」  

その言葉に、リオナの胸が締め付けられる。十年前の出会いを、彼は覚えているだろうか?いや、流石に忘れているだろう。だが、アーヴィンの視線は優しく、どこか懐かしげだった。

***

護衛確認の打ち合わせは広間で進んだ。リオナは隣室でノエルと共に待機を命じられるが、扉の隙間から会話を盗み聞きした。エルドが結婚式の豪華さを自慢し、アーヴィンが淡々と警備配置を提案する。  

「花嫁の保護を最優先に。万一の魔法暴走に備え、私が直々に守ります」  

アーヴィンの言葉に、リオナは唇を噛んだ。
前世では、その「保護」がアルトの裏切りで無駄になった。国家反逆の魔法暴走で、アーヴィンは命を落としたのだ。  

ノエルが小声で囁いた。

「リオナ様、アーヴィン団長って本当にカッコいいですよね。αのフェロモンが漂ってて、βの俺でもドキドキしますよ」  

「……そうか」  

リオナは曖昧に答えつつ、心の中で呟いた。
前世で守られた俺が、今度は、団長を守る側になる。

打ち合わせが終わり、アーヴィンが広間を出る。ノエルに促され、リオナは別れの挨拶へ。廊下で鉢合わせた瞬間、アーヴィンが足を止めた。  

「リオナ殿、少しお時間をいただけるか?」  

予想外の言葉にリオナはびっくりしたが頷き、庭園へ案内した。薔薇のアーチの下、二人きりになった。  

「十年ぶりだな。あの時、街で傷を負っていた少年が、こんなに立派になって」  

アーヴィンの言葉に、リオナの瞳が見開いた。
彼は、覚えていてくれた。治癒魔法の温かな光、優しい手。唯一、自分を道具として見なかったα。  

「……覚えています。あの時の恩、忘れていません」  

リオナの声がわずかに震える。アーヴィンは穏やかに微笑んだ。  

「成長した姿を見て、驚いたよ。あの傷だらけの少年が、こんなに美しいΩに。だが……どこか、昔と違う眼差しだ」  

鋭い観察力。リオナは平静を装うが、心がざわつく。

――この人は、いつも俺を見てくれる。前世では気づけなかった温もり。本物の愛の予感が、胸を満たす。  

「団長は変わりませんね。いつも、弱者を守る騎士です」  

アーヴィンの琥珀の瞳が深まる。  

「弱者か……いや、君は強いよ、リオナ殿。Ωとして生きるのは、容易くないだろう?」  

その言葉が痛みを抉る。貴族社会で男Ωは希少な道具。繁殖価値しか見られない存在。

だがアーヴィンは違った。αのフェロモンが微かに漂う空気の中で、初めて「人間」として見られている実感が胸を満たす。  

「団長は……どうして分かるんですか?誰も俺を、そう見てくれなかったのに」  

声が震えた。十年前の記憶と、今の温もりが重なる。  
アーヴィンは静かに微笑み、薔薇の花びらを指先で払った。  

「戦場で多くの命を見てきた。強さとは、体ではない。君の瞳に宿る光だ。それが、十年経っても変わらない」  

騎士団長の言葉に、リオナの胸が熱くなる。本物の愛とは、こんな穏やかな強さなのかもしれない。  

「……ありがとうございます。でも、俺はもう誰かの道具にはなりません」  

無意識に零れた本音。アーヴィンの表情がわずかに変わる。驚きと、理解の光。  

「その覚悟、気に入った。結婚式の護衛、任せておけ」  

アーヴィンは軽く肩を叩き、去っていった。残されたリオナは、触れた肩の温もりを確かめる。

だが、心に影が差す。結婚式まであと一週間。この出会いが、再び悲劇を呼ぶのか。それとも――  

夕暮れの庭園で、白銀の髪が風に揺れた。新しい鼓動が、二度目の人生を加速させる。  

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