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第3話「リセットできない恋を君と」
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「ユウマ、もう怖がらなくていい」
喧騒が嘘のように静まり返った放課後の教室で、リオネルの声だけが朝露に溶けるように柔らかく、でも驚くほど真剣に響いた。
俺――悠真は、まだ半信半疑のまま、彼の碧い瞳を見つめ返すことしかできない。
ここはゲームの世界で、彼はデータでできた存在のはずだ。なのに、どうして心臓はこんなにも速く、激しく脈打つんだろう。
「でも、俺……ただのモブだし。根暗で、コミュ障で……。どうして、俺なんか……」
現実の自分を卑下する言葉が、勝手に口からこぼれる。そうだ、俺は本来、誰からも注目されず、物語の背景に溶けて消えるはずの存在なんだ。
「君は特別だからだ」
リオネルは、俺のネガティブな呟きを遮るように、ぐっと強く手を握った。その手のひらの熱が、じわりと俺の心にまで伝わってくる。
「この世界に君が現れたのは、ゲームのバグでも、偶然でもない。僕が、ずっと君を探していたからだ。君が、僕の運命だからだよ」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
こんなにも真っ直ぐに「お前が必要だ」なんて言われたこと、生まれてこの方一度もなかった。ゲームのヒロインですら、もっと段階を踏んで告白されていたぞ。なんだこの超展開。
だけど――嬉しい。途方もなく、嬉しい。
現実では誰も見向きもしなかった俺を、この世界の王子様は、見つけてくれた。
――その時、感動的な雰囲気をぶち壊すように、ミリアが俺たちの周りをぴょんぴょんと飛び回った。
「ふむ、ようやく主人公らしくなってきましたわね。さて、感動のシーンの途中ですが、バグの真相について解説のお時間です」
「空気読めよ!」
「シンプルに申し上げますわ。ユウマさん、あなた、現実世界で寝落ちする直前、こちらのゲームサーバーに意図せず干渉したようですわね?」
「え、なにそれ?ハッキングとか、そんな大層なことしてないぞ!?」
「あなたの『王子に会いたい』という強すぎる思念と、寝落ち寸前の無防備な精神状態、そして偶然発生したサーバーのラグが奇跡的なシンクロを起こした結果……あなたの意識データが、こちらの世界にリンクしてしまった、と。つまり――」
ミリアはそこでわざとらしくタメを作り、ビシッと俺を指さした。
「あなたのリアルでの残念な恋愛運の反動がバグを引き起こし、『この世界でこそは幸せな恋愛を!』という無意識の願望が、王子様の好感度パラメータを強制的にMAXにしたのですわ!」
「なんだその身も蓋もない説明は!!俺の恋愛運が残念だったのが原因ってことかよ!」
「要するに、あなたはゲーム世界においても、現実世界から持ち込んだ魂のレベルで――王子に愛される運命だった、ということですわね。おめでとうございます」
……バグじゃなくて、俺が、本当に選ばれたってこと……?
呆然とする俺の頬に、リオネルの指がそっと触れた。
「そうだよ。僕が君に惹かれたのは、プログラムなんかじゃない。君を守ることも、こうして甘やかすことも、全部僕自身の意思だ。君だから、そうしたいんだ」
――そこへ、息を切らせたノアが「はぁ……はぁ……殿下!」と教室に駆け込んできた。
「またですか!殿下の感情パラメータが振り切れて、観測サーバーが火を噴きそうです!……でも、まあ……」
ノアは俺とリオネルの様子を交互に見ると、困ったように笑った。
「なんだか、すごく楽しそうですね。殿下のあんなお顔、初めて見ました」
いつの間にかそばに来ていたレオンも、俺の肩をぽんと叩く。
「悠真さん、これ以上この天然王子に振り回されても、心は持ちそうですか?」
「はは……振り回されすぎて、もう逆にこれが普通な気がしてきました!」
俺が自嘲気味に笑うと、リオネルは「それが愛の証拠だね」と満面の笑みで、俺の体をふわりと抱き寄せた。
「もう絶対に君を離さない。このゲームの世界でも、君がいた現実の世界でも、僕はずっと君のそばにいる」
ミリアも小さな拍手をしながら「ふふ、なんだかんだでハッピーエンドですわね。イベントお疲れ様でした」なんて言っている。
「いや、だから勝手にお疲れ様とか言うな!!」
俺がツッコミを入れた、その瞬間だった。
リオネルの腕の中、世界がキラキラとした光の粒に包まれ、ぐにゃりと揺らめいた。
「ユウマ、また会おう。必ず、迎えに行くから」
遠ざかっていく王子の声。胸の中に残る、確かな温もりと、ドキドキという生命の音。そして確かに選ばれた。という、どうしようもないほどの幸福感。
次に目を開けたとき、俺は自分の部屋の、硬い床の上で目を覚ました。
頬にカーペットの跡がついている。
夢……だったのか?
ぼんやりとした頭でパソコンの画面を見ると、そこには見慣れた『セレスティア・ハート』のタイトル画面が映し出されている。
でも、いつもと違う点が一つだけあった。
画面の右下に、見慣れない小さなアイコンが増えている。クリックすると、デフォルメされたリオネル王子の満面の笑顔がポップアップした。
【ユウマ、また会おうね。君を愛しているよ】
「……うわぁ、戻ってきてもやっぱり王子に愛されてる……」
思わず笑いながら、熱くなった胸の中心をぎゅっと押さえる。
現実とゲームの境界なんて、もうどうでもよかった。
あれが夢でも、ただのバグでも構わない。
俺は彼に選ばれて、彼の腕の中で、確かに幸せだったのだから。
――こうして、根暗で人見知りなモブだった俺の日常は、王子の甘すぎる溺愛の記憶と共に、新しい色を帯びて回り始めた。
バグ?偶然?それとも運命?
答えなんてどれでもいい。リオネルの愛が、確かにここに、俺の心にあるのだから。
喧騒が嘘のように静まり返った放課後の教室で、リオネルの声だけが朝露に溶けるように柔らかく、でも驚くほど真剣に響いた。
俺――悠真は、まだ半信半疑のまま、彼の碧い瞳を見つめ返すことしかできない。
ここはゲームの世界で、彼はデータでできた存在のはずだ。なのに、どうして心臓はこんなにも速く、激しく脈打つんだろう。
「でも、俺……ただのモブだし。根暗で、コミュ障で……。どうして、俺なんか……」
現実の自分を卑下する言葉が、勝手に口からこぼれる。そうだ、俺は本来、誰からも注目されず、物語の背景に溶けて消えるはずの存在なんだ。
「君は特別だからだ」
リオネルは、俺のネガティブな呟きを遮るように、ぐっと強く手を握った。その手のひらの熱が、じわりと俺の心にまで伝わってくる。
「この世界に君が現れたのは、ゲームのバグでも、偶然でもない。僕が、ずっと君を探していたからだ。君が、僕の運命だからだよ」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
こんなにも真っ直ぐに「お前が必要だ」なんて言われたこと、生まれてこの方一度もなかった。ゲームのヒロインですら、もっと段階を踏んで告白されていたぞ。なんだこの超展開。
だけど――嬉しい。途方もなく、嬉しい。
現実では誰も見向きもしなかった俺を、この世界の王子様は、見つけてくれた。
――その時、感動的な雰囲気をぶち壊すように、ミリアが俺たちの周りをぴょんぴょんと飛び回った。
「ふむ、ようやく主人公らしくなってきましたわね。さて、感動のシーンの途中ですが、バグの真相について解説のお時間です」
「空気読めよ!」
「シンプルに申し上げますわ。ユウマさん、あなた、現実世界で寝落ちする直前、こちらのゲームサーバーに意図せず干渉したようですわね?」
「え、なにそれ?ハッキングとか、そんな大層なことしてないぞ!?」
「あなたの『王子に会いたい』という強すぎる思念と、寝落ち寸前の無防備な精神状態、そして偶然発生したサーバーのラグが奇跡的なシンクロを起こした結果……あなたの意識データが、こちらの世界にリンクしてしまった、と。つまり――」
ミリアはそこでわざとらしくタメを作り、ビシッと俺を指さした。
「あなたのリアルでの残念な恋愛運の反動がバグを引き起こし、『この世界でこそは幸せな恋愛を!』という無意識の願望が、王子様の好感度パラメータを強制的にMAXにしたのですわ!」
「なんだその身も蓋もない説明は!!俺の恋愛運が残念だったのが原因ってことかよ!」
「要するに、あなたはゲーム世界においても、現実世界から持ち込んだ魂のレベルで――王子に愛される運命だった、ということですわね。おめでとうございます」
……バグじゃなくて、俺が、本当に選ばれたってこと……?
呆然とする俺の頬に、リオネルの指がそっと触れた。
「そうだよ。僕が君に惹かれたのは、プログラムなんかじゃない。君を守ることも、こうして甘やかすことも、全部僕自身の意思だ。君だから、そうしたいんだ」
――そこへ、息を切らせたノアが「はぁ……はぁ……殿下!」と教室に駆け込んできた。
「またですか!殿下の感情パラメータが振り切れて、観測サーバーが火を噴きそうです!……でも、まあ……」
ノアは俺とリオネルの様子を交互に見ると、困ったように笑った。
「なんだか、すごく楽しそうですね。殿下のあんなお顔、初めて見ました」
いつの間にかそばに来ていたレオンも、俺の肩をぽんと叩く。
「悠真さん、これ以上この天然王子に振り回されても、心は持ちそうですか?」
「はは……振り回されすぎて、もう逆にこれが普通な気がしてきました!」
俺が自嘲気味に笑うと、リオネルは「それが愛の証拠だね」と満面の笑みで、俺の体をふわりと抱き寄せた。
「もう絶対に君を離さない。このゲームの世界でも、君がいた現実の世界でも、僕はずっと君のそばにいる」
ミリアも小さな拍手をしながら「ふふ、なんだかんだでハッピーエンドですわね。イベントお疲れ様でした」なんて言っている。
「いや、だから勝手にお疲れ様とか言うな!!」
俺がツッコミを入れた、その瞬間だった。
リオネルの腕の中、世界がキラキラとした光の粒に包まれ、ぐにゃりと揺らめいた。
「ユウマ、また会おう。必ず、迎えに行くから」
遠ざかっていく王子の声。胸の中に残る、確かな温もりと、ドキドキという生命の音。そして確かに選ばれた。という、どうしようもないほどの幸福感。
次に目を開けたとき、俺は自分の部屋の、硬い床の上で目を覚ました。
頬にカーペットの跡がついている。
夢……だったのか?
ぼんやりとした頭でパソコンの画面を見ると、そこには見慣れた『セレスティア・ハート』のタイトル画面が映し出されている。
でも、いつもと違う点が一つだけあった。
画面の右下に、見慣れない小さなアイコンが増えている。クリックすると、デフォルメされたリオネル王子の満面の笑顔がポップアップした。
【ユウマ、また会おうね。君を愛しているよ】
「……うわぁ、戻ってきてもやっぱり王子に愛されてる……」
思わず笑いながら、熱くなった胸の中心をぎゅっと押さえる。
現実とゲームの境界なんて、もうどうでもよかった。
あれが夢でも、ただのバグでも構わない。
俺は彼に選ばれて、彼の腕の中で、確かに幸せだったのだから。
――こうして、根暗で人見知りなモブだった俺の日常は、王子の甘すぎる溺愛の記憶と共に、新しい色を帯びて回り始めた。
バグ?偶然?それとも運命?
答えなんてどれでもいい。リオネルの愛が、確かにここに、俺の心にあるのだから。
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