【完結】破滅フラグしかない悪役令息、気づけば最強魔法騎士の恋人になっていた

なの

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第四章:運命の逆転

第31話:愛の告白

あの運命の逆転劇から、一月が過ぎた。

王都はすっかり落ち着きを取り戻し、人々の顔にも明るい笑顔が戻っていた。

廃嫡されたレナードの代わりに、聡明な第二王子が新たな王太子として立つことが決まり、国は新しい時代へと歩みを進めようとしている。

***

そして、俺の日常もまた、劇的に変わった。

ヴェルディア公爵家は、国王から直々に謝罪を受け、俺の勘当は解かれた。
父も、これまでのことを悔いているようで、今すぐにでも公爵家に戻り次期当主としての教育を受けるようにと、再三にわたって言ってくる。
だが、俺はその申し出を、今は保留にしてもらっていた。

「――今はまだ、シリル団長の元で、一騎士として学びたいことがあります」

表向きはそう父に伝えたが、本当の理由は違う。
ただ、一日でも長く、この人のそばにいたかったのだ。

公爵家の次期当主となれば、騎士団に籍を置き続けることは難しいだろう。シリルの隣で剣を振るう、このかけがえのない時間を、まだ手放したくはなかった。

幸い、国王陛下も今回の事件における俺の功績を認め、「アシュトンの好きにさせよ」と、父に伝えてくれたらしい。

こうして俺は、ヴェルディア公爵家の次期当主という立場でありながら、特例として騎士団に所属し続けるという、奇妙な身分のまま
、ただの「アシュトン」として、仲間たちと笑い合える日々を送っていた。
全ての呪縛から解き放たれ、俺は本当の意味での「自由」を手に入れたのだ。

その日の夕暮れ時、俺は一人、騎士団の訓練場で剣を振っていた。

もう、誰かに追われる恐怖はない。ただ純粋に、強くなりたい。愛する人の隣に、対等なパートナーとして立つために。
振るう剣の一筋一筋に、過去の自分との決別と、未来への決意を込める。
汗が流れ、呼吸が乱れる。それでも、俺は剣を振るうのをやめなかった。

「……いい太刀筋になったな」

背後から、聞き慣れた低い声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは、訓練着姿のシリルだった。いつからそこにいたのだろう、彼は腕を組み、面白そうに俺を見つめている。

「シリル。見ていたのですか」

「ああ。以前とは、比べ物にならんほど、剣に迷いがなくなった。まるで、別人だ」

彼はそう言って、俺の隣に立つと、同じように夕日に染まる空を見上げた。
彼の視線の先には、燃えるような夕焼けが広がっている。
ただ、それだけの時間。でも、その穏やかな沈黙が、今の俺には何よりも心地よかった。

「……今夜、少し付き合え」

不意に、シリルが言った。

「見せたいものがある」

その夜、彼に連れられてやってきたのは、王城の最上階にある、古い展望台だった。
かつては星を観測するために使われていたというその場所は、今はほとんど使われておらず、訪れる者もいない。円形のその場所は、まるで世界から切り離された、俺たち二人だけの空間のようだった。

眼下には、宝石を散りばめたように輝く、美しい王都の夜景が広がっている。
そして、頭上には、手が届きそうなほどの、満天の星。無数の星々が、ダイヤモンドダストのようにきらめき、天の川が淡い光の帯となって夜空を横切っていた。

「……綺麗」

思わず、感嘆の息が漏れる。
こんなにも美しい星空を、俺は生まれて初めて見たかもしれない。

「ああ。お前に、これを見せたかった」

シリルは、俺の隣に立ち、同じように星空を見上げていた。
その完璧な横顔は、星の光を浴びて、神々しいまでに美しく、そしてどこか儚げに見えた。
俺は、ただ黙って、彼の隣にいる幸福を噛しめていた。この時間が、永遠に続けばいいのに、と柄にもなく願ってしまう。

やがて、シリルはゆっくりと、俺の方に向き直った。
その銀色の瞳が、星の光を反射して、いつになく真剣な光を宿している。
俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「アシュトン」

彼の声が、静かな夜に響く。
それは、騎士団長として命令を下す時の、厳しく張りのある声とは違う。
低く、優しく、そして少しだけ、緊張を孕んだ声だった。

「お前と出会ってから、俺は多くのことを知った」

彼は、ゆっくりと、言葉を紡いでいく。

「俺は、ずっと一人で生きてきた。誰かを頼ることも、誰かに頼られることも知らなかった。強さだけが、俺を支える唯一の信条だった。だが、お前と出会って、俺は変わった」

彼の言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。

「お前を守りたい、と思った。お前が理不尽に傷つけられるのが、自分のこと以上に許せなかった。
お前が笑えば俺も嬉しかった。
お前が泣けば、胸が張り裂けそうになった。……お前を失うかもしれないと思った時、俺は初めて、本当の恐怖を知った」

彼の視線が、熱を帯びていく。
その熱に、俺の体温も上がっていくのが分かった。

「そして……誰かを、どうしようもなく愛おしいと思う、この気持ちも、お前が教えてくれた」

彼は、俺の前に一歩、踏み出した。
その大きな手で、俺の頬を、そっと包み込む。

「俺は、お前を愛している」

それは、今まで聞いたどんな言葉よりも、ストレートで、そして誠実な告白だった。
世界中の星の輝きを集めても、彼のこの一言には敵わないだろう。
その言葉は、俺の魂の最も深い場所にまで届き、温かい光で満たしていった。

「俺は、お前をただ守るだけの庇護者でいたいわけではない。
お前の剣となり盾となり、そして……お前の唯一無二の伴侶として、これからの生涯を、共に歩んでほしい」

彼は、俺の前に跪くと、その大きな手で、俺の手をそっと取った。
その瞳は、ただひたすらに、俺だけを見つめている。

「俺と、生きてはくれないだろうか」

その瞬間、俺の目から、熱い涙が止めどなく溢れ出した。

ああ、俺は、この言葉を待っていたのかもしれない。
この人にこう言ってもらうために、俺はここに生まれてきたのかもしれない。
孤独だった前世も、破滅するはずだったこの人生も、全てはこの瞬間のためにあったのだと、そう思えた。

「……はい」

涙で声がうまく出ない。それでも、俺は必死に言葉を紡いだ。

「はいっ……!喜んで……!俺も、あなたを愛しています、シリル。あなたのいない人生なんて、もう考えられない……!」

俺の答えを聞いた彼の顔が、安堵と、そしてこの上ない喜びに、ぱっと華やいだ。
彼はゆっくりと立ち上がると、俺をその腕の中に、優しく、しかし二度と離さないという強い意志を込めて、力強く抱きしめた。

「ありがとう、アシュトン。……愛している」

「俺も、です」

俺たちは、互いの想いを確かめ合うように、ゆっくりと唇を重ねた。
それは、以前のような激しいものではない。
ただ、ひたすらに優しく、そして愛おしさに満ちた、甘い、甘いキスだった。
角度を変え、何度も、何度も、互いの存在を確かめる。

満天の星が、祝福するように、俺たち二人を照らしている。
もう、破滅の運命など、どこにもない。
俺たちの未来は、この星空のように、どこまでも明るく、そして幸せに輝いているのだから。


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